あなたのキャリアに影響するかもしれない、これからの採用担当者に求められる力とは―学生の就職活動の新しい変化に対応するために―

今年の採用活動の特徴は、企業の採用戦略が過渡期にあることだと言えます。どのような戦略にあっても、採用担当者と学生の関係構築の質が、採用活動の成否に大きく関わっているということです。今回のコラムは、採用担当者にとって獲得が絶対必須となった関係構築力についてお話ししていきたいと思います。

イントロダクション

皆さん、年末年始はいかがお過ごしでしたでしょうか。
今年もよろしくお願いいたします。採用・育成コンサルタントの小宮健実です。

採用活動は序盤戦を終え、中盤戦に入るといったところでしょうか。 状況を静観していた企業も動き出し、それに連れ学生の動きも活性化します。まさにここからが本番ですね。

今年の採用活動の特徴は、企業の採用戦略が過渡期にあることだと言えます。

その内容はご存じの通り、採用ブランドを向上し、エントリー(母集団)の拡充によって優秀者を獲得しようという戦略と、数は少なくとも早期から学生と関係構築を行い、その延長線上で採用活動を行っていこうとする戦略が混在していることです。

それらは当然学生の活動にも影響をもたらしています。インターンシップに参加した学生と、そうではない学生との活動状況は大きな開きがあり、2極化という表現が用いられることもあります。

さて、そのような状況に適切に対応していくことはとても難しいようにも見えますが、明確なこともあります。いずれの戦略にあっても、採用担当者と学生の関係構築の質が、採用活動の成否に大きく関わっているということです。

しかもここにおけるポイントは、企業としての戦略というよりも、採用担当者個々人が発揮する関係構築力が重要になっているという点です。

今後は、採用担当者個人が高い関係構築力を備えているのは当然で、その質の高さが採用活動の成否に直接影響を与えるという認識がますます高まるでしょう。

そこで今回のコラムは、採用担当者にとって獲得が絶対必須となった関係構築力についてお話ししていきたいと思います。

 

関係構築が戦略の中心に

ここ数年、関係構築の質が採用活動の成否に大きく影響していると述べましたが、もちろん今までも採用担当者に関係構築力は求められていました。

ただ、すべての企業の採用担当者に関係構築力が必須だったかというと、そうではありませんでした。

特に大手企業を中心とした学生から認知度の高い企業では、担当者個々人に関係構築力が必須だったわけではありません。採用ブランドの高さが学生と企業を結び付け、学生と関係を構築する必要性を代替してくれたからです。

それ故、戦略的な採用広報の構築力や、質の高い運用力があれば、採用活動を成功裏に終えることができました。

一方、中小企業ではどうかと言うと、採用担当者個人の関係構築力の強さで、採用ブランドの低さを補っていた企業は実際に少なくありません。

ただ、今まで多くの中小企業では、採用担当者個人の関係構築力を高めることよりも、どうにかして自社の認知度を高めて採用ブランドを向上するということを戦略の中心に据えていました。

もちろん自社の採用ブランドを上げることは継続的な課題です。
ただしこれからは、大企業も中小企業も、第一に採用担当者の関係構築力を高めることを重視するようになると考えています。それは、変化している学生の就職活動に対応する必要があるからです。

 

関係構築が遅い企業は敗北する

今、学生はインターンシップに参加した時に得た、もしくは参加した友人の様子を見ていた感覚の延長線上で就職活動を進めるようになっています。

それはどういった感覚かというと、インターンシップに参加した学生にとっては「自分はインターンシップ先の企業とつながっている」という感覚であり、参加した友人の様子を見ていた学生にとっては、「自分もインターンシップに参加した友人のように、どこかの企業とつながらなくては」という感覚です。

今までの就職活動では、学生はエントリーや説明会の時期を気にしていました。その波に乗り遅れず、きちんとスケジュールを管理していることが、お手本となる就職活動でした。

ところが、今は違います。インターンシップに参加して2社、3社の企業と強くつながっている学生が、順調に就職活動を進めている学生とみなされます。エントリーや(何ら社員との関係構築がない)説明会に参加しても、企業から自分の顔と名前を認識されない状況では自分の就職活動はたいして前進していないと考えるようになっています。

つまり、学生は社員との関係構築を目指して、就職活動を進めるようになっているのです。

今でも、選考が進まないと学生の名前と顔を認識していない企業がたくさんあると思いますが、そのように学生との関係構築をなかなか行わない企業は、学生のニーズに応えていないことを意味します。当然そのような企業は、今後は「学生から選ばれにくい企業」になっていきます。

これは、大手企業であっても同じです。学生と関係構築ができない企業は、早期から関係構築をしている企業と応募者の取り合いになった場合には、高い確率で敗北することになります。

では、関係構築の具体的な中身とは、どのようなものでしょうか。

 

関係を構築するとは

関係構築を行う場は、インターンシップ以外にもたくさん考えられると思います。今回は場の作り方ではなく、その場で必要なコミュニケーションの内容について説明したいと思います。

まず、関係構築がなされていない状態と、関係構築がなされている状態では、以下のような違いがあります。

関係構築がなされていない状態 関係構築がなされている状態
●「セミナー参加者」「ES提出者」「Aランク大生」など学生を集団でしか認識していない
●集団向け情報発信、名前だけ別に挿入した共通文章などで情報発信(連絡)をしている
●学生と会話をしていても、話している相手の顔や名前を認識していない
●受験側と採用側という立場の違いから緊張感が生じる
●キャリア相談のような個人的な会話は起こらない
●個人として学生を認識しており、普段どのようなことをしている学生か知っている
●個人に向けて作成された情報を発信(連絡)している
●よく学生を名前で呼び、自分も名前で呼ばれる
●相手に目線を合わせており、お互いに親近感が生まれている
●キャリアについてアドバイスを求められたり、相談されたりすることがある

 

このような状態は、もちろんコミュニケーションの成果なのですが、今までの採用活動の一般的なコミュニケーションのスタイルでは、なかなかこのような状態に至ることはありません。

むしろ採用活動に最低限必要な情報のやり取り以上のコミュニケーションには消極的な企業も多いことと思います。

ただ、関係構築とは、採用活動において企業の文脈だけではなく、学生個々人の文脈を企業が受容し、尊重することに他なりません。その経過においては、今まで以上に個人的な情報をやり取りすることになることが多いと心得たほうが良いと思います。

 

コミュニケーションのポイント

では以下にコミュニケーションのポイントを示したいと思います。

・自分のことを話す

学生個人と関係構築をするのであれば、採用担当者が自分自身のことについてまず十分に話す必要があります。あなたが何者か知ることによって、初めて学生は心を開くことができるからです。
例えば、学生の想像を助けるように、学生時代からの自分の話をすると良いでしょう。あなたが学生時代から今に至るまでにした体験を(履歴書のようにではなく)ひとつの物語のように話す機会を持つことがおすすめです。

なお、武勇伝ばかり語ったり、笑いを取りに行ってしまったりすると、記憶には残っても、結果的に共感が醸成されないことが多いためお勧めしません。

・継続的に日常的な話を聴く

学生はたくさんのことを採用担当者に話しているように感じますが、実際には、採用活動に関わる質問や、(PRとしての)学生時代に力を入れて取り組んでいること、志望動機など極めて限定的なことしか話していないのが普通です。
もちろん、そうした際にも出生地に関することや家族のことなど、いわゆる聞いてはいけない質問をこちらからしないといったことは留意しておく必要があります。

(厚生労働省「公正な採用選考の基本」https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/saiyo1.htm)

 

関係構築力の向上

話を聴く際には、「受容と共感」を心がけます。話の内容が共感しづらいものであっても、目の前にいる学生が伝えてくるものは、すぐに否定したりせずにいったん受け取り(受容)、理解に努める(共感)こと、このプロセスが関係構築には必須です。

特に、学生と採用担当者という立場の違いから、話を聴く(話してもらう)という行為は思ったより簡単ではありません。

立場的に、聞いた話に対してすぐにその場で納得性のある言葉を返したい、悩んでいることに対して即座に解を授けたい、という衝動に駆られることが多いでしょう。しかし、解を授けることも、最終的に自社への入社を説得することも、先に関係構築がなされていなければ何ら影響力はありません。実際のところ、学生は「何を言われたか」よりも、「誰に言われたか」のほうが大きなインパクトを受けるのです。

もしも、話す・聴くという行為についてスキルアップを望むならば、研修に参加することも意義があると思います。

特に聴くことについては、傾聴講座など、多くの学びの場があります。

さらに意欲があれば、キャリアカウンセラーなどの資格は、取得に時間はかかりますが、生涯のキャリアを通じて役に立つことがあると思います。

コラム中、今後は企業が採用戦略の主軸として、採用担当者に高い関係構築力を求めるようになると書きました。このように採用担当者個人のスキルが注目され重きが置かれることにより、今後、採用という職種はさらに専門職として認識されていくと思います。

つまり採用は戦略立案力、運用管理力、関係構築力、能力の見極め力など、高度な専門性を備えた人がつくべき職種として認識が高まり、プロフェッショナル化が進むと思います。採用力の高い企業には、必ず採用力の高い担当者がいるというようになるでしょう。

採用の未来に強い興味を持っている方は、ぜひ自身のスキルアップにも目を向けていくと良いのではないでしょうか。

ではまた1カ月後にお会いしましょう。
今後ともよろしくお願いいたします。

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小宮 健実(こみや・たけみ)
小宮 健実(こみや・たけみ)
1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。

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