
曽和 利光(そわ・としみつ)
2019/10/29

イントロダクション
こんにちは。組織人事コンサルタントの曽和利光です。今回は徐々に実施する企業が増加しているオンラインでの採用活動について考えてみたいと思います。オンラインでの採用活動とはリアルな場ではなくインターネット上でできるだけ採用活動を完結させるという様々な試みのことです。
なかなか進まなかった「オンライン採用」
このネット全盛時代に今更感もありますが、こと採用に関しては、リクナビ登場以来、採用活動の最初のプロセスである「エントリー受付」や、会社説明会や選考の「予約」、諸連絡事項の「通知」はオンライン化されて久しいですが、それらを除けば、採用のコアな部分である「情報提供」や「選考」については、最近になるまでなかなかオンライン化は進んでいませんでした。
それは採用担当者、特に責任者クラスの方々が、「やはり採用活動は大事なものだから、リアルな接点を持って顔を合わせて行わなければ」という考えが強かったからだと思います。私もアラフィフの昭和世代ですので、気持ちはわかります。「とりあえず会う」ことの重要性は私自身も採用メンバー達に言い続けてきました。
「リアルでないといけない」という上から目線
しかし、学生と企業がリアルな場で接することはとても重要というのは、考えてみれば企業視点が過ぎたかもしれません。学生からすれば、学業や課外活動を休んで、体を空けて参加しなければなりませんし、遠方に住んでいる人は交通費もばかになりません。それなのに、「いいからとりあえず来てほしい」というのはなかなかの上から目線です。
実際に、この数年で学生の就職活動量は徐々に減ってきています。会社説明会やエントリーシートの提出は10社ちょっと、面接や適性検査を受けるのは10社に満たないという調査もあります。背景には、求人倍率の高騰により学生に有利な「売り手市場」になっていることや、文部科学省や大学が昔よりも学業重視を強く打ち出していることなどがあります。
「リアル」=「最善」という仮説の崩壊
また、リアルが最善の策でオンラインは次善の策というのは本当のところどうかという疑問も出てきています。例えば、神戸大学の服部泰宏先生の著書『採用学』に端を発して話題になった「面接の曖昧さ」などが象徴的です。リアルな場でのフリートーク面接は選考の精度(妥当性)がとても低い可能性があることが採用選考手法の研究から明らかになったという話です。これを解決するために、オンラインでログをきちんと取りながら面接をして、複数の人で評価をする方が精度が高まるのではないかと期待されています。
他にもいろいろありますが、要は採用活動において、場合によっては「リアル」=「最善」ではないのではないかということが徐々にわかってきたということです。つまり、次善の策として仕方なくオンライン採用を取り入れるのではなく、採用力を強化する方法としてもオンライン化が注目され始めているのです。
オンラインでの情報提供について
情報提供の代表施策、会社説明会
それでは、なかなかオンライン化されてこなかった「情報提供」と「選考」について、一つずつその可能性を考えてみます。まずは「情報提供」です。採用活動における情報提供とは、代表的なものは会社説明会です。多くの企業が採用プロセスの最初に会社説明会を設定して、そこに来ることから自社への就職活動が始まるとしています。
これまでも、採用ホームページ上などで動画による説明がなかったわけではありませんが、リアルな説明会同等に置くところはあまりありませんでした。動画を見てくれればリアルな説明会に参加しなくてもOKとはしていなかったということです。
会社説明会をオンライン化するとどうなるか
しかし、最近、リアルな会社説明会を全廃して、オンラインでの動画による説明会「のみ」にするような企業も出てきました。代表的なものは、サイバーエージェント社の「サイブラリー」です。同社は年間100回以上も実施していたリアルな会社説明会をやめて、代わりにネット上での動画やテキストでの情報提供にしたとのことです。その結果、当然がなら、リアル場での説明会よりも多くの学生に情報提供できたことに加え、これまでリアルな場に参加しにくかった遠方の地方学生や、学業や課外活動に忙しく頑張っていたような学生が採用プロセスに乗ってくれたようです。
参加しやすくすると参加者が増えるのは当たり前
ある意味、当然の結果とも言えます。都心での会社説明会に参加するには、交通費も必要ですし、スーツも着なくてはいけません。数時間じっと座ってひたすら前を向いていなければなりません。ところがオンラインでの会社説明会ではこれらすべて必要ありません。寝ながらスマホで見てもいいですし、時間も夜遅くでも朝早くでも好きにできます。交通費もいりません。世界中どこからでもアクセスできます。特に、デジタルネイティブ、ソーシャルネイティブである最近の学生なら、動画での情報提供を受けることにも慣れており、「動画だからよくわからない」ともなりません。これだけメリットがあれば、参加者が増え、しかも引く手数多で忙しい優秀層が増えても当然です。
オンラインでの選考について
選考の代表施策、面接
次に「選考」について考えてみます。既に適性検査などはオンラインで実施される場合も増えていますが、面接についてはまだまだ実施している会社は多くありません。これをオンライン化してみるというのは3つの段階があります。最初の段階は、Skypeなどのアプリケーションを用いて「リモート」で実施するというものです。次の段階は、質問もオンライン上、回答もオンライン上という「録画面接」というものです。
「リモート面接」の効能
リモート面接を導入すれば、遠隔地の学生も時間やお金の負担がなく面接を受けることができます。昔と違って最近は回線の速度も十分になってきていることもあり、鮮明な画像や音声で、リアルな面接とそれほど遜色ない面接を行うことも可能です。社会人の側も、日頃のビジネスシーンでリモート会議などを行うことも増えているため、リモート面接に対する違和感がどんどんなくなってきていると思います。昔は「PCの画面では雰囲気が伝わらない」みたいなことを言う人もいましたが、今では少数派でしょう。
「録画面接」の効能
録画面接はリモート面接をさらに進化させたものと言えます。質問する側も事前に質問するべきことを録画しておき、それを見て応募者が回答を自撮りして録画したものをネット上にアップします。そして、そのアップされた動画を採用担当者が見て評価を行うということです。録画を取り入れることで、質問と回答と評価がそれぞれ好きな時間でできるので、空間だけではなく時間も関係なくなり、面接の日程調整というものがなくなります。また、録画をしておけば、何人でも評価に参加できるために、より多くの人の意見を取り入れることができ、面接の精度向上にもつながります。
オンライン化のデメリットは
さて、今回は「オンライン採用」の可能性について考えてみました。まだまだ研究途上の領域もありますが、様々な会社がオンライン採用を可能とするサービスを開発・提供するようになってきていますので、採用担当者の皆様は是非情報収集を行って検討してみていただければと思います。
最後に「オンライン採用」にデメリットはあるのかということですが、私は実はあまり思いつきません。しいて言うならば「ライブの迫力に勝るものはない」ということぐらいでしょうか。音楽を聴いたりスポーツの試合を観たりするのも、会場に行くと格別の印象を受けます。しかし、人は演劇のようなライブでなくても映画で十分感動しますし、LINEなどのメッセージのやり取りで心を伝えることもできます。
つまりオンラインでも何かを伝えたり判断したりするのはやり方によっては十分可能ということです。ただ、オンラインにはオンラインの作法や工夫があると思います。そういうオンラインでのリテラシーをどれだけ早く身に付けることができるかが、これからの採用における一つの競争となるのではないでしょうか。
- 曽和 利光(そわ・としみつ)
- 1995年(株)リクルートに新卒入社
、人事部配属。
以降、一貫して人事関連業務に従事。採用・教育・組織開発などの人事実務や、クライアント企業への組織人事コンサルティングを担当。リクルート退社後、インターネット生保、不動産デベロッパーの2社の人事部門責任者を経て、2011年10月、(株)人材研究所を設立。現在は、人事や採用に関するコンサルティングとアウトソーシングの事業を展開中。

「採用活動の教科書・応用編」
でよく読まれている記事
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます
おすすめの記事
お電話でのお問合わせ
0120-599-422
受付時間 9:00〜18:00(土日祝祭日を除く)
※電話内容については、正確を期すため録音しております。
-