曽和 利光(そわ・としみつ)
2013/05/21
イントロダクション
こんにちは。組織人事コンサルタントの曽和利光です。
せっかく一生懸命頑張って採用を決めたかわいい内定者たちが、ある日突然陥ってしまう「内定ブルー」(=内定者が、本当にこれでよかったのだろうかと悩みだすこと)。今回は、この問題への対処方法についてお話ししたいと思います。
内定者が「内定ブルー」になると、それだけで、採用担当者は「信じていたのに」と裏切られた感を持つこともあります。しかし、その必要はありません。人生の選択という大事を果たした人たち全員が「必ず通らねばならないもの」といえるからです。
「内定ブルー」は一過性の風邪のようなもので、こじらせると大事に至りますが、適切に対処すれば、いつかは治るものです。
どんなに強い志望動機で入社を決意した学生でも、「内定ブルー」にかかる可能性はあります。はじめての就職という人生の大きな選択において、どこか1社に絞るということ自体が、とてつもなく精神的な負荷の大きな決断だからです。1社に絞るということは、その他の選択肢を捨てるということです。「生きられたかもしれない別の人生」という可能性を完全に捨ててしまうことは、誰にとっても辛いことです。
ましてや、第1志望に合格することができずに、第2志望、第3志望として入社を決意した学生さんにとっては、「本当にここでよかったのだろうか」と鬱々した気持ちになってしまう「内定ブルー」は、避けられないことかもしれません。
新卒採用担当の皆さんは、「内定ブルー」に立腹したり、狼狽したりすることなく、鷹揚な気持ちで落ち着いて対処していただきたいと思います。
「内定ブルー」は「他を捨てた悲しみ」
「内定ブルー」は、表面的には「決めた1社への迷い」に見えても、本質的には、先にも述べたように「他の選択肢(生きられた可能性のある別の人生)を捨てることに対する悲しみ(ブルー)」です。自社への疑念ではなく、他社への未練ということです。
そうでない場合は、単にそもそも入社意思が固まっていなかっただけで、本稿のテーマとは対処方法が異なります。もし、自社への疑念(ネック)が晴れていないのであれば、その解消のため、自社の情報を適切にインプットする必要があります。
入社意思が固まっているかどうかの判断は難しいですが、一番の見極めポイントは、就職活動をあっさりとやめたかどうかです。「御社が第1志望ですが、一応すべて見てから決めます」というのは、まだ意志が固まっていない可能性があります。
会社や仕事に関する情報提供は充分にしており、内定者自身もよく考えて意思決定したにもかかわらず起こる「内定ブルー」に対処するには、すなわち「他の選択肢を捨てたという事実」を受容してもらうには、どうすればよいでしょうか。
「内定ブルー」は感情的なもの
「内定ブルー」は、至極感情的なものであり、具体的な迷いというよりは、彼らの心の中に湧き上がってくる漠然とした不安です。ある意味、特別な理由もないのに、不安になるのです(本当は、他の可能性を捨てたからなのですが)。しかし、人間は、そういう漠然とした不安になかなか対峙できません。大抵の場合、たまたま目についたものごとを「不安の根拠」とすることで、自分の中に突如生じた正体不明の不安に説明をつけることで、安心を得ようとするのです。
したがって、「内定ブルー」の学生の訴える疑念や不安をそのまま鵜呑みにして、それに対抗するために何か具体的な情報やデータを出したり論理的に説得したりというような、表面的に見えているものへの対症療法的なアプローチは、あまり効果がないかもしれません。
議論をしても相手は変わらない
そのような「内定ブルー」を真正面から受け取ってしまって、事実や論理で説得しようとすると逆効果でさえあると思います。たまたま目の前にあったからやり玉に挙げた、入社への不安要因を、既成事実化してしまう可能性もあります。「これだけ必死に人事の人が説得してくるのは、やっぱりいろいろ問題があるのかな」ということにもなりかねません。
むしろ、極端な話、「大丈夫さ、そんなことで不安に思っていたのかぁ」と、受け流すぐらいがちょうどよい対応かもしれません(前述のように、そもそも入社意思が固まっていなかった場合は別)。
「内定ブルー」になった人と、議論をして、それに勝ったからといって、相手は変わらないのです。「北風と太陽」の物語の比喩を借りるなら、「北風」が旅人のコートを強風で脱がそうとしたような、強引に押し切ろうとする姿勢では、対処することができません。
「内定ブルー」に対処するための
内定者フォローの流れ
彼らを安心させるにはどうすればよいのか。ベストな「太陽」戦術と何なのか。
私は、他の内定者との「つながり」(インフォーマルネットワーク)の構築が、最も有効なのではないかと思います。
もともと、「内定ブルー」の不安は、ある意味根拠の無いこともあります(他を捨てるということは、ひとつを選ぶ以上避けがたいものですし、そもそも自分で選んだわけですから)。表面的な疑惑をつぶしても、また別のものをやり玉に挙げるだけで、きりがありません(緊急避難的には対症療法が必要な場合もあります)。彼らに、その不安に対抗できる勇気やパワーを得ることができるような「安全地帯」をつくってあげることが、最も効果的な方法ではないかと思うのです。
人は人との「つながり」や「ふれあい」において、最も安心を感じるものです。勇気を持って、不安を振り切って同じ会社を選んだ「同志」である他の内定者との強い絆が生まれれば、それは自分の中に生じた「内定ブルー」に対抗する力となることでしょう。
内定者の「つながり」をつくるといっても、何の戦略もなく、集めてイベントをすればよいというものではありません。いくつかの工夫がありますので、ステップに分けて説明します。
Step1:似た者同士のマッチング
「内定ブルー」の人は、隙あらば、自分の不安の犯人捜しをします。最初から一気に内定者全員を集めてしまうのではなく、できれば小分けにして集めます。その際のポイントは、「似た者同士」で集めるということです。
最近流行りの「多様性」「ダイバシティ」は、組織開発の観点からはとても大切なことですが、裏を返せば「価値観の異なる人が近くにいる」ともいえます。「いろいろな人がいる」ことが魅力になるのは「内定ブルー」が落ち着いてからのことで、まだそんな余裕はありません。
まずは、「似た者同士」で仲良くなってもらい、各自が「つながり」の「起点」をつくれるようにします。自分と似た人が同じ内定者の中にいると思えば、安心感が高まります。
Step2:志望動機の共有
「似た者同士」の会(飲み会でも何らかのグループワークでも)での最適なコンテンツは「志望動機の共有」です。例えば、「来期の採用のために、皆さんがどうして当社を選んでくれたのかを聞かせてください」という大義名分であれば、内定者同士が志望動機を共有するのはごく自然なことといえます。
人は、自分と似ていて親近感を感じている人の意見を、とても尊重します。「あの人はああいう理由でこの会社を選んだのか」という情報を、シャワーのように浴びることで、自分の志望動機に加えて、新しい入社理由が補強されます。
また、自分の志望動機を、親近感の湧いている人の前で開陳することで、「自分の言ったことについては責任を持とうとする」という「一貫性」の心理も、補強要因です。
Step3:「ファン」や「ハブ」の活用
「似た者同士」による小規模な安全地帯ができたら、次はいよいよ全体を集めてのフォローです。ただし、全体を集める場合でも、バラバラな集団として集めるのではなく、きちんとグルーピングを考えて、小集団がいくつか集まっているという構造をつくる方が無難です。
全体を集めたイベント内でのグルーピングのポイントは、自社への志望度の高かった「ファン」内定者と、人と人とのつながりの「ハブ」となるような「ハブ」内定者を、各小集団に入れておくことです。そうすることで、「ファン」によって、各小集団内の「志望のテンション」が保たれ、「ハブ」によって各小集団間のネットワークが生まれることになり、最終的には、強い絆を持った内定者の「つながり」=インフォーマルネットワークが生まれることとなります。
このようなことをやっておくことで、誰にでも発生する「内定ブルー」の発生率を最小レベルに抑える素地となるはずです。
計画的に「定期的な接触」を
行えるようにする
最後のポイントは、「定期的な接触」です。いろいろな会社でお見受けするのは、とにかく「内定出し当初が肝心である」と、何でもかんでも前倒しでイベントを行ってしまうことです。しかし、「内定ブルー」は、誰に、いつ生じるか分かりません。ですから、入社までの間に、内定者たちに定期的に接触できるように、年間のイベントスケジュールをきちんと設計することが必要です。
「最初が肝心」は一理あるのですが、やりすぎてしまうと、「方法」が無くなります。
内定者に接触する方法は、内定式だけでなく、来期の採用への協力依頼、配属に関する説明会や面談、入社手続きや入社書類の提出、内定者アルバイト、入社前のビジネスマナーなどの研修、社員総会や忘年会など社内のイベントへの参加など、探せば結構見つかるものです。これらのイベント(ネタ)を、時期が偏らないようにスケジューリングします。
こうすることで、誰かが「内定ブルー」になっていないかどうかの早期発見が可能となるのです。早期発見、早期治療が基本です。
以上、今回は、誰にでも起こる「内定ブルー」への対処方法について、いろいろ述べてきました。しかし、第一には「採用担当者が内定者を信じる」ことがベースです。採用担当者が「内定ブルー」に対して狼狽したり、立腹したりしては、内定者も「信頼されていなかった」「相談して損した」「分かりあえていなかった」と思うことでしょう。
採用担当者の皆さんは、必ず起こる「内定ブルー」への共感的理解ができるように、ぜひ今から、心の準備を始めておいてください。
- 曽和 利光(そわ・としみつ)
- 1995年(株)リクルートに新卒入社
、人事部配属。
以降、一貫して人事関連業務に従事。採用・教育・組織開発などの人事実務や、クライアント企業への組織人事コンサルティングを担当。リクルート退社後、インターネット生保、不動産デベロッパーの2社の人事部門責任者を経て、2011年10月、(株)人材研究所を設立。現在は、人事や採用に関するコンサルティングとアウトソーシングの事業を展開中。
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