2013/07/16

採用のプロが持つ、3つの視点と「枠組み」―採用担当者のキャリアを考える~その1―

辻 太一朗(つじ・たいちろう)
(株)リクルート人事部を経て、1999年(株)アイジャストを設立。
2006年(株)リンクアンドモチベーションと資本統合、同社取締役に就任。
2010年(株)グロウス アイ設立、大学教育と企業の人材採用の連携支援を手掛ける。
また同年に(株)大学成績センター、翌11年にはNPO法人DSS (大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる会) を設立。
採用に関わる多くのステークホルダーを理解しつつ、採用・就職の"次の一手"を具体的に示すことに強みを持つ。

イントロダクション

こんにちは。採用ナビゲーター・辻太一朗です。

このコラムを読んでいただいている方の中には、入社1年目から3年目くらいの若手の方もいらっしゃるでしょう。その中で、「人事がやりたくて入社しました」という方は、それほど多くないのではないでしょうか。「ビジネスの最前線で活躍してみたい!」と思って入社したものの、組織の判断で、人事の採用担当として配属された方も多いと思います。

人事、中でも採用担当者としてのキャリアは、今後のビジネスパーソンとしての経歴の中で、どのように生かすことができるのでしょうか? 自分自身が描くキャリアパスの中で、何を目的として、採用担当者としての経験を積めばよいのでしょう? こうした観点からお話を進めていきたいと思います。

私自身、若いころは、自分のキャリアについて正直、悩みました。しかし、振り返ってみると、採用担当者として、他の職種では到底できないような数々の貴重な経験を積むことができ、それがこれまでの自分の仕事に生きていると実感しています。

せっかく人事にいて、採用担当者として仕事をしているのですから、ここでしか得られない「武器」を入手できるチャンスととらえましょう。どんな「武器」を入手することができ、人事以外の仕事でどのように生かせるのか。それを、これからのシリーズでお伝えできればと考えています。

短時間の話で「ひと」を見極めるスキルが武器になる

例えば、「この人材はぜひ自社にとって必要だ!」と思って次の選考へ上げた学生が、無事内定を取ってくれるとうれしいですよね。そうして採用した学生が、入社後に活躍している話を聞けば、さらにうれしいと思います。しかし、新卒採用では、面接やセミナーなど、限られた時間と書類だけで選考を進める判断をしなければなりません。

一般的に、役職者が行う人事評価は、その社員の普段の行動や業績を見ながら評価します。仕事の内容に人物を重ねて、総合的に評価しているわけです。

ところが、新卒採用は大きく異なります。相手は学生ですから実務経験や知識があるわけもなく、入社後にどのように活躍するのか分からない中で判断しなければなりません。しかも、わずかな時間の中で、その人の本質を見極めなければなりません。

企業にはさまざまな部署がありますが、話だけで「ひと」の本質を見極める経験を積めるのは、採用担当だけだと思います。私自身も、採用担当者として「この人はどのような『ひと』なのだろう」と深く、そして幅広く見てきた経験が、その後の仕事のいろいろな局面で生きていると実感しています。

では、どのようなことを心掛ければ、「ひと」を見極められるのでしょうか。そしてそれは、あなたのキャリアの上で、どのように役立つ「武器」となり得るのでしょう。

次章では、「ひと」を見極める3つの視点について考えてみましょう。


学生を見極めるための3つの視点

「ひと」を見極めるための3つの視点を、以下にまとめてみました。皆さんも、採用現場での実感を踏まえながら、お読みいただければと思います。

■多面的に見る視点

「面接ではよいと思っていたのに、入社後は印象が違った」ということはありませんか? 面接では、ほんのわずかな時間で、その「ひと」の一側面しか見ることができません。しかし、面接以外の接点を持つことも、採用担当者であれば可能でしょう。

例えば、セミナーや選考途中の面談、内定後の懇親会など、いろいろな場を設定することで、その学生の多様な面が見えてくると思います。「面接ではああいう話をしていたけれど、こういう面もある『ひと』なんだ」と、面接のときとは別な面を見て、気付くことができるのは、採用担当者だけです。

面接シーンと面接以外のシーンの違い、内定を出す前と出した後の違い、そして、入社前と入社後の違いを、しっかりと観察・把握することが大切になってきます。そして、「何がどう違うのか」「それはなぜ違って見えるのか」を考えてみましょう。

例えば、「面接のときは素直な『ひと』のように思えたけれど、内定後に見てみると、実はそうでもなかった」ということがあるかもしれません。ここで重要なのは、「面接のときはなぜ素直だと思ったのか」「内定後、どのような場面でそうではないと感じたのか」という部分です。

自分自身の要因で感じ方が変わったのか、その学生の言動が変化したのか。ひょっとしたら、その学生には変化がないものの、見ている「場面」で、感じ方が変わったのかもしれません。状況が異なるから見えてきたことなのか、そうではないのか。このあたりを、深く考えてみることが大切です。

こうしたことを深く考えることで、面接で見えること、見えないこと、学生がごまかしやすいこと、ごまかせないことなど、多面的に人を見る視点が養われていきます。

面接の前後、内定の前後、そして入社前後の一連の変化を見ることができるのは、採用担当者だけです。そのメリットを大いに生かしましょう。

■原因・事実をベースに見る視点

「人に認められたい」と人一倍、強く思っている学生がいたとします。なぜ、その学生はそう思うようになったのでしょう。生まれついての性格かもしれませんし、これまでの経験による何かしらの要因があるのかもしれません。例えば友人など、まわりの人たちと常に比較されて育ってきた環境が、その原因になっているのかもしれません。

「信頼されたい」という強い欲求がある学生は、なぜ、そう思うようになったのか。面接のときに、「人当たりがいい」「スムーズにコミュニケーションがとれる」という感想を持った学生は、なぜそう思わせることができるのか。そこには必ず、何かしらの原因があるはずです。

このような、本人の言動・性格を裏付けるようなエビデンスを面接などで聞き出し、理解することも「『ひと』を見極める視点」としては重要だと思います。

「この人には、過去にこういうことがあったから、こういう面があるんだな」「A君とB君は似ている面があるけれども、こうなった原因がそれぞれ違うんだな」など、事実と、それにひもづく原因を考えていくことで、その人物をさらに深掘りし、その人の周囲を取り巻く環境や物事に対する考え方などを理解することができます。

このように、人が育ち、変わっていく理由と実例を知ることができたり、人をより深く理解するための視点を養えたりするのも、採用担当の醍醐味ではないでしょうか。

■説明できる視点

上記の2つの視点にプラスして、人を見て理解すると同時に、「彼は○○な人だ」と周囲に説明できるような視点、表現方法も重要でしょう。

他人に分かるように説明できないということは、自分自身でも、ボヤっとした理解しかできていないということです。つまり、「他人に説明できるように考える」という視点が、人の理解を明瞭にし、より深めていくことにつながっていくのです。これは、今後、人事評価を行うような場合にも、表現方法を豊かにするスキルにつながっていきます。

他にも、内定者の配属先を決定する際、「なぜ、この部署への配属がよいと判断したのか」を、きちんと配属先の責任者へ説明できれば、納得感が違ってきますよね。

この視点や表現方法が十分に養われれば、すでに活躍している社員や仕事への評価・理解と組み合わせて、例えば、「彼は○○さんと同じような学生時代の経験があって、考え方もこういう部分が近いので、将来的に、ここの部署で活躍できるのではないか」といった説明もできるようになるでしょう。

こうした視点、説明の表現方法も、採用担当者だから磨くことができるスキルだと思うのです。

さらに俯瞰して「人物を見る枠組み」を持とう

せっかく今、人事・採用担当という立場にいるのであれば、前述のような視点を持つようにするとともに、可能であれば、さらに、自分なりの「人物を見る枠組み」をつくり上げてみてはいかがでしょうか。

その自分なりの「枠組み」を使って、「自社に合うタイプの人物像は、こういう人ではないか」と、明確に説明できるようになれば、人事のプロフェッショナルとして、活躍の場が広がっていくかもしれません。

私自身の「人物を見る枠組み」の話をすると、内面的な部分よりも、その人の表情や言動などに注意を払うようにしています。

さらに、どのような仕事でも、やはり、そのアウトプットこそが仕事を評価する上で大きな比重を担っていると思っていますので、「きちんとアウトプットできる力」を重要視します。

加えて、仕事とは、ある程度の期間、真摯に取り組み続ければ成果が出るようになってくるものですが、そのためには、「仕事への興味・関心が持続すること」が必要です。そこで、「仕事内容に対する興味・関心の強さ」も見るようにしています。

あくまでも私個人の「ひと」を見る見方ですが、「アウトプットの力」をベースにし、その上で「仕事への興味・関心」の有無、強さを判断することが、「枠組み」となっているのです。

こうした自分自身に納得感のある「枠組み」をつくったことで、その後は、ある人物を理解したり、その人物をいろいろな人に説明したりする上で、私自身のスキルが格段に向上したように感じています。

前述の3つの視点に加え、こうした「人物の枠組み」という考え方、認識・思考のフレームを持つことで、採用活動をはじめとして、皆さんの仕事の幅も大きく広がっていくのではないかと思います。

皆さんのキャリア形成のご参考になればうれしい限りです。

 

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