
辻 太一朗(つじ・たいちろう)
2013/10/01

イントロダクション
こんにちは。採用ナビゲーター・辻太一朗です。
今回は、あらためて、採用担当が自社の採用活動と自分自身のキャリアを考える上で、大切な視点についてお話ししたいと思っています。
例えば、今年の新入社員について考えてみましょう。その新入社員が、どんどん成長していく姿を見るのは、採用担当としてとてもうれしいことですよね。でも、それだけでなく、新入社員が入ったことで、その部署や組織が活性化したり、後輩ができたことで先輩社員の意識が変わったりするようなことも、会社にとってはとても大切なことです。
採用活動というのは、組織や会社に直接影響を与えることができる仕事であり、同時に、採用担当者というのは、組織について深く学ぶことができる立場なのです。
そして、今のうちから組織のあり方について、さまざまな実務を通して学び、考えられるということは、ビジネスパーソンとしての自分自身のキャリアにとって、とても重要なことなのです。
次章では、組織の問題を考える上での3つのアプローチについて、お話ししましょう。
組織を考えるための
3つのアプローチ
組織について考えてみるときに、以下の3つのアプローチを用いると、論点が整理しやすくなると思います。
1.「部門」について考える
2.「採用」について考える
3.「採用活動」について考える
1.「部門」について考える
採用活動を考えはじめるとき、まず、「求める人物像」を設定していくと思います。「会社としてはこんな人材を採用したい」「こんな人材ならウチで活躍できるだろう」というような基準で決めていくと思いますが、さらに細かく考えてみることも重要ではないかと思います。
その視点のひとつとして、部門の業務内容や特質などが挙げられるでしょう。営業や総務、経理など、それぞれ業務も異なり、求められる資質や適性が異なるかもしれません。
会社としては「求める人物像」を設定しますが、部門に必要な人材とはどんな人なのでしょう? その部門をもっとよくするために、どんな人材がいればよいのでしょうか。
せっかく採用したものの、部門に配属されてから、うまくいかない場合もあると思います。そのときは、「なぜうまくいかないのか」「うまくいく場合と何が違うのか」を考えなければなりません。その原因も、部門によって違いがあるはずです。
「部門としての課題はどこにあるのか」「人的な要因で課題を解決するためには、どういう社員を新しく入れればよいのか」「人員を追加するよりも、部門内のモチベーションを上げることに注力した方がよいのではないか」「今いる人員の役割分担は適正なのか」など、採用担当者という立場でも、ひとつの部門のために、いろいろと考えることができるでしょう。
2.「採用」について考える
部門についての違いが分かったところで、次は、採用そのものについて考えてみましょう。「なぜ新卒社員を採用するのか」ということです。
「中途採用ではいけないのか」「新卒採用をするメリットは何か」「その採用はなぜ正社員なのか」「契約社員や派遣社員、アルバイトでの採用ではいけないのか」。そういった前提や条件を乗り越え、「あえて新卒の正社員採用を行う意味とは何か」を、あらかじめきちんと考えておくことが、最終的な採用成功につながっていくはずです。これが、ふたつ目のアプローチです。
3.「採用活動」について考える
3番目のアプローチは、採用活動そのものについての視点です。採用活動は、組織をよくするために行うものです。「なぜ今、新卒社員を採用しようとしているのか」を、採用活動の計画全体を俯瞰しながら考えてみましょう。社員や部門、組織に対して、採用担当者という立場から、どのような影響を与えていけばよいのでしょうか。もしくは、「組織全体で、どのように採用というものを考えてもらえばよいのか」を考えてみることが大切だと思います。
上記の3つは、実は、私が採用担当者をしていたときに、組織の問題を考える上で心がけていた視点です。
まず、組織について考える際に、それぞれの部門の特徴をしっかりととらえるようにしていました。次に、「なぜ新卒社員の採用が必要なのか」「他の方法はないのか」「採用とは自社にとってどのような意味や意義があるのか」「採用以外の方法は何があるのか」について考えていました。そして最後に、採用活動を行う上で、「部門の皆によい影響を与えられることとは何か」について熟考していました。
このようなアプローチで考えてみると、採用という観点から、組織のあるべき姿が徐々に見えてくるようになると思います。
そして、こういう、実務を通じて組織を考えるという経験は、「採用担当者のキャリア」という点から見ても、今後の幅を広げることにつながり、後のさまざまな仕事に生かされるようになると思います。
採用担当者だからできる、
リーダー社員とのすりあわせ
ここまでお話ししたアプローチのように、組織を見て、俯瞰的に物事を考えられるように、すぐなれるかというと、なかなか難しいことでしょう。こうしたアプローチで物事を考えられるようになるためには、まず、社内のいろいろな人に話を聞いてみることが大切です。
自分では経験していないこと、できていないことについても、実際に体験した人の話を聞くことで現状を知り、その部門を含めた採用について、考えることができるようになります。
そのとき、どんな社員と話せばよいのでしょうか。部門を率いる立場である部門長やリーダークラスの方なら、当然、自分の部署について正確に把握しているでしょう。部門が抱えている問題や「求める人物像」、新入社員に期待していることなどについて、詳しく語ってくれると思います。その部門のメンバーが採用活動を手伝ってくれているのであれば、「その活動によって、部門はどのように変化するか、どう変化してほしいと思っているか」を、部門長やリーダーという視点から聞いてみるものよいかもしれません。
さらに、面接者として協力してくれる社員の人たち、セミナーやイベントなどで協力してくれる人たちにも、現場で感じていることや部門の採用について思っていることを、積極的に聞いてみましょう。
企業規模によって違うかもしれませんが、会社にはいろいろな役割を担う部門や人がいます。それぞれの部門・部署の置かれた状況によって、人材に対する考え方、組織の運営方法、採用における期待についても、それぞれ異なっていることでしょう。
採用担当者という立場だからこそ、社内のいろいろな部署の人と話ができ、組織や人材についての考え方を、より深く聞くことができます。
こうして、さまざまな部門の人たちに話を聞くことによって、各部門の特徴を比較したり、それぞれに最適な採用活動を考えたりすることもできるようになるのではないでしょうか。
採用担当者は組織運営を
「疑似体験」できる
皆さんも経験があるかと思いますが、面接では、一人の学生しか見ずに判断することは難しいですよね。多くの学生と接する中で、それぞれの学生の特性や「どの部門に合っているのか」を比較検討して、はじめて判断できるようになるものだと思います。
同様に、前章でお話ししたアプローチについても、さまざまな部門のリーダーと数多く接することで、それぞれの部門の特徴や違いを把握しやすくなると思います。
ただし、リーダーの方々と、「ただ話す」ことが重要なのではありません。あくまでも、採用担当者の皆さんが、深く自分たちの組織を知ることが目的なのですから、話を聞く際には、以下のような姿勢が欠かせないと思います。
当事者のつもりで話を聞くこと
ただ単に話を聞くのではなく、常に「自分ならどうするか」という当事者意識を持ちながら、話を聞くことが重要だと思います。
組織の課題や人と組織についての深い話が出た場合、「自分ならこうするな」「もしかしたら、こういうことではないのか」といった意識を持って話を聞くようにすることで、より、話の内容を深掘りすることができます。
仮説を立ててみること
例えば、ある部門の責任者に話を聞く場合、「この部門はこういう仕事をするところだから、即戦力が求められるだろう。新卒よりも中途採用の方がよいのではないか」「中途採用よりも、部門の将来ビジョンに照らして、新卒採用に踏み切った方がいいのでは?」といった仮説を、自分なりに立ててから、対話に臨むことが重要だと思います。
なぜなら、こういった仮説を持って打ち合わせに臨んだ経験は、それが「疑似体験」につながるからです。ただ話を聞くだけではなく、自分の分析、仮説を踏まえた上で話を聞いて、仮説の当否を検証したり、その修正をしたり、聞いた内容を組み合わせて考えることで、その部門での経験を積んでいなくても「分かる」ことが増えていくのです。
「仮説を立てる→話をする→内容を組み合わせて考える」を繰り返す経験が、さまざまな部門、組織を考える上で、きっと役に立つはずです。
俯瞰してみる
部門の責任者の話というのは、あくまでも、その部門のリーダーという観点から見た話です。しかし、皆さんは採用担当者としての観点から、会社のこと、学生のこと、人材について、それぞれに知っていること、分かっていることがあるでしょう。
社内のいろいろな人に話を聞くとき、「この組織の問題は、人材の問題なのか」「この課題を解決する方法は新卒採用なのか」など、さまざまな問題を、部門とは違う見方で俯瞰できると思います。
もちろん、部門のリーダーが話される内容は正しいはずですが、それを、異なる角度・視点から見ることができるのも採用担当者という立場ならではだと思います。
こうした3つの姿勢を持って、いろいろな社員に話を聞くことで、組織運営の「疑似体験」ができます。例えば将来、自分の組織の問題解決を考えるような立場になったときのための準備にもつながることでしょう。
皆さんの中には、将来は人事から他部門へ異動する方もいるでしょう。組織のリーダーとして運営を任される立場になる方もいらっしゃると思います。
採用担当者の立場で、組織の問題を考えるという「疑似体験」をして、俯瞰する視点を養っておけば、「上長が求めているものは何か」「リーダーに求められる考え方」「お客様が自社に期待していること」など、組織とそれ取り巻く状況の問題把握度、その改善策への理解度は格段に深く、速くなることでしょう。
少しでも、皆さんのキャリア形成のご参考になればうれしい限りです。
- 辻 太一朗(つじ・たいちろう)
- (株)リクルート人事部を経て、1999年(株)アイジャストを設立。
2006年(株)リンクアンドモチベーションと資本統合、同社取締役に就任。
2010年(株)グロウス アイ設立、大学教育と企業の人材採用の連携支援を手掛ける。
また同年に(株)大学成績センター、翌11年にはNPO法人DSS (大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる会) を設立。
採用に関わる多くのステークホルダーを理解しつつ、採用・就職の"次の一手"を具体的に示すことに強みを持つ。

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