学生からの認知がない企業の戦い方―ファーストタッチの壁を越えるには―

2020年卒学生の動きを見てみると、インターンシップへの意識がさらに高まり、活動は昨年より早めに熱を帯びそうです。その一方で、早くも採用担当者の方から、(インターンシップの)エントリー者の確保に苦しんでいるという声も聞きました。そこで今回は、学生からの認知が無い企業がどのような戦略を立てるべきか、考えてみたいと思います。

イントロダクション

皆さん、こんにちは。 採用・育成コンサルタントの小宮健実です。

 

大型台風と内定式がニアミスしたことも記憶に新しいところですが、皆さんの企業ではどのような影響があったでしょうか。

 

自然現象はまったくこちらの都合通りにはいかないものですが、年末は大きな心配事が起きないといいですね。

 

そして自然現象とは異なり、採用活動ではできる限り意図的に成果を狙い、計画を立てて実行することが大切です。少しずつ知識と情報を積み重ねて戦略化し、設計の質を向上させていきましょう。

 

さて、2020年卒学生の動きを見てみると、インターンシップへの意識がさらに高まり、活動は昨年より早めに熱を帯びそうです。その一方で、早くも採用担当者の方から、(インターンシップの)エントリー者の確保に苦しんでいるという声も聞きました。

 

担当者の方によると、やはり学生からの認知度の低さが一番の問題だということでした。 それはもちろんその企業にとってインターンシップだけでなく、採用活動全体を見据えて取り組んでいくべき課題だと言えます。ただ最近ではどうやら「後で挽回する」ことが難しくなっているようなのです。

 

そこで今回は、学生からの認知が無い企業がどのような戦略を立てるべきか、考えてみたいと思います。

押さえておくべき2つの傾向

2019年卒学生の就職活動では、一人あたりのエントリー社数が減少し、序盤から企業を絞り込んでいる傾向がうかがえました。その結果、今年は多くの企業が母集団形成に苦戦したようです。

 

また、学生が就職活動で接触した企業の傾向としては、3月以前のインターンシップや業界・企業研究などで知った企業の割合が増え、逆に3月1日以降の就職活動で知った企業の割合が減少しています。この傾向は今後もインターンシップを軸に強まっていくでしょう。

 

もう一つ押さえておくべき傾向は、学生が受け取っている大量のダイレクトメールについてです。 大雑把にイメージしてもらうならば、就職活動を始めたあなたの元に、郵送物が10通、Eメールが150通、ナビのアカウント宛に150通のメールが届きます。

 

学生は、それらの大量のダイレクトメールのうち、郵送は6割、Eメールは半分の5割、ナビに来たメールは3割程度に目を通します。それ以外はいわゆる「未読スルー」になります。

 

では、これらの数字を学生から認知度の無い企業の立場で読み解いていきましょう。

ファーストタッチの壁

一人あたりのエントリー社数の減少が、認知度の無い企業にとって好ましい傾向ではないことは明白でしょう。学生が少しでも広い視野を持ち、たくさんの企業を知ろうとしてくれないと、「自社を見つけてくれる」可能性が高まりません。

 

また、3月以前のインターンシップや業界・企業研究などで知った企業が就職活動の中心になりつつあることも、認知度の無い企業にとってあまり好ましい傾向とは言えません。

 

学生がインターンシップや業界・企業研究で接触する企業はほんの数社に限られるので、あまり「お試し」が機能しません。よって認知度の無い企業が広く知ってもらえる効果はあまり望めないのです。

 

そしてそのまま3月以降も認知を得られないままでいたら、ダイレクトメールの「未読スルー」組に入ってしまう可能性がますます否めなくなってしまいます。

 

このように、現在の就職活動は、狭い視野から始まる企業探しが後半まで継続する傾向があり、認知度が低い企業にとっては不利になりがちです。 言い換えれば、学生との接点作りがより難しくなっていると言えるでしょう。

 

つまり、認知度が低い企業は学生との早期の接点作り、特に「ファーストタッチ(最初の接点)の壁をいかに越えるか」ということを考えなくてはいけないのです。

 

では、具体的にファーストタッチの壁を越える方法についてお話ししたいと思います。

ファーストタッチの
壁を越えるには

自動的にコミュニケーションが成立する場を作り出す

ファーストタッチの壁を確実に越えるには、学生と自動的(学生から見ると強制的)にコミュニケーションできる機会を利用することが有効です。

 

例えば、OB・OGが自分の母校に赴き、ゼミの教員に頼んで自社の説明をさせてもらうような機会をもらえたら、その場にいる学生全員と(自社の話を聞きたいか聞きたくないかに拘わらず)自動的にコミュニケーションを取ることができます。

 

同様に、自社が産学連携のような活動に参画していたり、CSRの一環で学生活動を支援していたりすれば、そのような機会を利用することで、その場にいる学生と自動的にコミュニケーションできます。無ければそのような場を作ることも検討できるでしょう。

 

外部イベントの利用

もしも業界説明会のような場に参画できれば、業界に対する好奇心を利用して、学生と自動的にコミュニケーションをとることができます。ただし、学生から見て結局個社の説明会に見えるようだとその効果は得られないので、説明会の仕立てには注意が必要です。

 

他にも、学生向けに開かれている就活イベントの中には、いわゆるお見合い型のイベントがあります。そうした場では認知度の低さが学生の参加者数に影響しないように工夫されているような企画もあり、確実にある程度の人数の学生と、自動的にコミュニケーションをとることができます。

 

ダイレクトリクルーティングの利用

スカウト型など、ダイレクトリクルーティング型のサービスを利用することも、選択肢の一つとして考えられるでしょう。ばらばらと誰にでも送られているダイレクトメールよりも、スカウトの連絡は確実な開封(未読スルーされない)が期待できるからです。

 

もちろん、それでも既読スルーやお断りは起こり得るので、認知度の無さという弱点を消し去ってくれるものではありません。ただ相手から興味を持たれるということについて、多くの学生は好意的で、それをきっかけに自社に興味を持ってもらえる可能性を期待することができます。

 

自動的ではないコミュニケーション

逆に、学内企業説明会、合同企業説明会、各種ダイレクトメール、自社説明会などは認知度の低さによって簡単に「未読スルー」が起こるので、自動的ではないコミュニケーションだと言えます。

 

来期の採用活動は、この傾向がさらに強まることが予想されるので、これらの施策を中心に攻めていくならば、「未読スルー」を織り込み、歩留まりの悪さを実施数でカバーするなどの対策を考える必要があります。

 

私が思うには、いずれ現在の揺り戻しで、学生がもっと幅広く企業研究をするように促す動きが出てくると思います。ただ来期を含めしばらくは、現状を踏まえた活動計画を立てる必要があるでしょう。

ファーストタッチの
壁を越えたら

ファーストタッチの壁を越えたならば、次に必要なことは「キープインタッチ(連絡を取り合い続けること)」です。

 

学生がキープインタッチする企業の数が減っている中、「まず知ってもらう」という壁を越えたとしても、今後こちらから送付するメールがずっと未読スルーされないと決定した訳ではありません。

 

キープインタッチの手立てとしては、「どんな方法が確実にコミュニケーションを取り続けられるか」を、その時の状況から考えなくてはいけません

 

例えば、未読スルーや既読スルーの可能性がそれなりに高いメールよりも、電話のほうが相手とコミュニケーションできる可能性は高いと思われます。

 

他にもLINEのメッセージ開封率は極めて高いことがわかっており、LINEに未読メッセージを残したままにしているユーザーは極めて少ないと言われています。

 

学生をグループ化して接触していく方法もあるかもしれません。ゼミなどがファーストタッチの場合などは特に、「仲の良い仲間と一緒に」というアプローチが有効に機能することがあるかもしれません。

 

いずれにせよ、私はキープインタッチの質が今シーズンの採用の成否に大きく影響すると考えており、今までのように、次回の案内をメールで送る程度のことでは、その目的を果たし切れないと思っています。

 

どのような手立てでキープインタッチを実現するのか、ファーストタッチの前にしっかりと考え準備しておきましょう。

 

ここまで、学生に認知の無い企業の戦い方として、ファーストタッチの壁の乗り越え方とキープインタッチについてお話ししてきました。ぜひ採用活動の設計に生かしていただければと思います。

 

ではまた1か月後にお会いしましょう。 今後ともよろしくお願いいたします。

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小宮 健実(こみや・たけみ)
小宮 健実(こみや・たけみ)
1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。

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