採用における「成功」とは何か―採用活動の教科書・応用編―

経営者などから、今年の採用はうまくいっているのか、報告を求められている方もいらっしゃるでしょう。今回は、そもそも、採用における「成功」とはどんなことか、採用担当者が目指すべき採用活動の「ゴール」について、考えてみたいと思います。

イントロダクション

こんにちは。組織人事コンサルタントの曽和利光です。

選考活動ピークも落ち着き、そろそろ採用状況も見えてきたという会社も多いかと思われます。経営者や人事役員などからも、今年の採用はうまくいっているのかどうか、報告を求められ始める時期にもなってきていることでしょう。

しかし、そもそも、採用がうまくいった、採用が成功したとは、どのようなことをもっていえるのでしょうか。今回は、採用における「成功」とはどんなことか。別のいい方をすれば、採用担当者が目指すべき採用活動の「ゴール」について、考えてみたいと思います。

まず、経営層や事業からオーダーされた採用目標人数に到達しているかどうかが、最も明確で分かりやすい、成否を分けるポイントであると思います。特に業態によっては、社員数と売上がかなり連動しているという場合も多く、採用目標人数の未達は、即売上の減少、売上目標の未達につながり、経営問題としては死活レベルです。ですから、採用担当者が採用目標人数を追うのは当然のことでしょう。

一方で、採用目標人数に到達していれば、それで採用は成功だという採用担当者はほとんどいないのではないでしょうか。人数だけではなく質、すなわち採用できた人材のレベル感や、求める人物像とのフィット感なども、採用成功を判断する重要なポイントであることは言うまでもありません。

ただ、この採用の「質」を評価することは、実は容易ではありません。

では、採用の「質」とはどのようなことから判断していくべきなのでしょうか。

採用の「質」も「数字」で検討できる

意外に思われるかもしれませんが、私は、採用の「質」は、採用活動の重要指標から分かることが多いと考えています。どこまで行っても数字には表れない「質」ももちろんあると思うのですが、たいていはどこかの数字に表れています。以下に、重要なふたつの指標に関して述べてみたいと思います。

まず、私が「質」を判断するのに最初に見る指標は、「途中辞退率」です。「途中辞退率」とは、採用活動のプロセス全体を通して、途中でこちらから不合格にしたのではなく、学生の側から辞退をされた人数(1次選考から内定まですべて)を、受験者数で割ったものです。この率が低ければ、採用がうまくいっていた(持てるポテンシャルを最大発揮した)可能性が高く、高ければ本来採用できていたはずの自社にとって望ましい人材を取り逃がす「もったいない」採用活動であった可能性が高いです。

このテーマを考えるときには、イソップ童話の『すっぱいブドウ』の話(狐が頑張って飛び上がっても取れなかったブドウについて「あのブドウはきっとすっぱい」と捨て台詞を吐く話)をいつも思い出します。

辞退した学生は「自社に合わない人であり、受けてくれても落としていた可能性が高い」と、採用担当者としては思いたくなるものです。ですが、自社を辞退する人とは、「自社以上の採用ブランドの企業から引く手あまた」であることも多いのです。

「途中辞退率」は、採用活動のスピード(学生が受験してから内定にいたるまでの時間)の関数です。いきなり自社の採用ブランド(学生にとっての人気度)を上げることは難しいため、改善しやすいのは、相手が辞退する暇がないうちに選考をしていくということです(もちろん、採用ブランドの向上は、お金をかけて採用広報のコンテンツを向上させたり、時間をかけて採用担当者のトレーニングなどを行ったりすれば、不可能ではありませんし、地道に継続していくべきです)。

次に、多くの採用担当者が重視している「内定辞退率」について述べます。こちらについては、ほとんどの採用担当者や経営者が「内定辞退率が高い」=「採用不成功」ととらえているのですが、私には異論があります。「内定辞退率」を下げることは、実は簡単です。自社の「ファン」(志望度が高い学生)に目をつけて、そこから採用をするような活動をすればよいのです。

しかし、本当は、「自社に入りたい学生」ではなく、「自社の仕事ができる学生」を採用するべきではないでしょうか。もちろん、「ファン」がダメというわけではなく、ロイヤリティの高い社員は必要ですし、重要です。一方で、「非ファン」とは「自社に合わない学生」ではなく「高嶺の花」であり、本来は果敢にアプローチし、動機づけて「ファンにする」のが採用の理想です。

ですから、単純に内定辞退率が低いことを喜んではならず、採用において「チャレンジしていないのでは?」という疑問を持つべきなのです。チャレンジすれば、失敗する確率(内定辞退率)も高くなります。しかし、それは本当に悪いことなのでしょうか。私は、「求める人材にリーチできている証拠。成功まであと一息」と思うようにしています。

自社の「ファン」ばかり採用している企業の採用活動に見られる数字の典型は、ナビエントリーから、説明会参加や初期選考参加などへの導入率が低く、採用活動の初期段階の歩留まりが低いことが挙げられます。初期に「非ファン」を取り逃していれば、「ファン」ばかり残ったその後のプロセスの辞退率が低いのは至極当然です。

「採用競合」と「多様性」も要チェック

さて、ふたつの「辞退率」によって、ある程度、採用活動の成否が分かるということをご説明しました。この数字による予測を検証する、定性的な要因が「採用競合のレベル」です。つまり、どのような企業と競り合い、勝ったり負けたりしたのか(採用=勝負ではありませんが、ここでは言葉を選ばずに、分かりやすくいきます)ということです。自社にとって望ましい人材にリーチできているかどうかは、「自社の受験者が他にどこを受けているか」ということで、ある程度分かります。

同業種ばかり受けているとすれば、自社の所属する業界への「業界志望者」に「しか」リーチできていないことの証拠です。異業種が多くなれば、自社は業種以外の側面でも学生から評価をされているということです。自社よりも従業員数等の規模が大きい企業が多くなれば、それらの企業と伍する力量や実績を認められているということですし、急成長ベンチャーが多いのであれば、成長性を感じてもらっているということです。

最後の「質」を測るポイントは、パーソナリティ面です。新卒採用は中途採用と比べるとポテンシャル採用(顕在的な能力や実績よりも、潜在的な能力や学習可能性を重視した採用)の側面が強いため、入社後の育成によってなんとでもなるということで、入社後に変化しにくい「資質」以外は、入社時に細かく評価されないことも多いようです。

しかし、実際には、若いといっても20歳を超えた人の性格は、なかなか変わるものではありません。ですから、特定のパーソナリティで「なくてはならない」ということがなかったとしても、新卒採用の内定者の中でも、一定のパーソナリティの多様性は実現しておかねばならないと思います。組織の変化対応力は、所属する人間の多様性に左右されます。

パーソナリティは、SPIをはじめとした適性検査によって、ある程度可視化しておくことで、その多様性(や一様性)を判定することができます。


以上、採用の成否を検討する、いくつかの方法について説明しました。もっとも、今回述べたのは、あくまで「採用時点」における成否にすぎず、本当の「採用成功」とは、採用した人が5年後10年後に、機嫌よく働いてくれ、成果を上げてくれているということを指すのでしょう。それについては、私もたかだが20年の経験の中でしかものをいうことができず、あまり確固たる法則を指し示すことはできません。実際、過去に研究した事例では、面接時の評価と5年後の業績にはあまり相関がないという悲しい結果が出たこともあります(ただ、それは面接などの選考に選別能力がないことを指すわけではありません)。

このように、採用の成否は、曖昧模糊としたものであるため、それにあぐらをかいて、検証を怠ってしまうこともあるかもしれません。しかし、いくら不可知なものでも、可能な限り努力をして、今回述べたような方法などを用いて検証をすべきだと思います。というのも、一度採用のレベルが下がってしまえば、再び上げることは大変難しいからです。

レベルが高いことを「明確に」「立証」することが難しいということは、レベルが低いことも「隠せる」ということです。特に、新卒採用は、下手をすると経営層から見てもブラックボックスです。採用担当者しか、実感として「成功したかどうか」は分からないものです。だからこそ、採用担当者は自分の中に厳しい基準を置いて、妥協することなく自社にとってよい人材を追い求める姿勢が必要なのではないでしょうか。

まじめな採用担当者ほど、「動機づけ」はほとんどが「論理的説得」と同義になっています。しかし、論理的説得で動機づけできるのは、自社の採用ブランドで十分採れる人だけです。そこに、採用担当者の介在価値は、あまりありません。採用で会社を成長させるためにも、ぜひ採用担当者が本稿のような動機づけの「戦闘力」を身に付けていただければと思います。

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曽和 利光(そわ・としみつ)
曽和 利光(そわ・としみつ)
1995年(株)リクルートに新卒入社 、人事部配属。
以降、一貫して人事関連業務に従事。採用・教育・組織開発などの人事実務や、クライアント企業への組織人事コンサルティングを担当。リクルート退社後、インターネット生保、不動産デベロッパーの2社の人事部門責任者を経て、2011年10月、(株)人材研究所を設立。現在は、人事や採用に関するコンサルティングとアウトソーシングの事業を展開中。

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