曽和 利光(そわ・としみつ)
2013/04/16
イントロダクション
こんにちは。組織人事コンサルタントの曽和利光です。
今回は、当初の採用目標に届かなさそうなピンチに陥った際に、なんとかリカバリーする方法をいくつかご紹介したいと思います。
新卒採用は、長期間にわたる活動ですので、採用目標にぴったり合わせるのは、実はかなり至難の業であるといえます。活動の初期には、最終的に望ましい人がどのぐらいの人数来るのかが分からないので、本来なら採用すべき人を落としてしまったり、逆に、初期に合格を出し過ぎて、本当は採りたいのに残席がなくて採用できない人が出てしまったり、というのはよくあることです。
これを防ぐためには、各選考プロセスにおける数字や率の設計をすることが重要です。
例えば、採用活動全期を通じて、1回あたりの面接の合格率が40%程度と想定する場合、4月の初旬であれば50%、中旬なら40%、下旬なら30%というように目安を設定し、最終的に平均として40%を維持できているかどうかをモニタリングする、ということです。このように目安を設定しておけば、落とし過ぎたり、採用し過ぎたりすることがなく、計画通りに活動を進めることができます。
しかし、そのような上手なモニタリングができなかったり、想定外の環境要因などでアクシデントが生じたりして、「このまま行くと採用目標数に到達できなくなりそうだ」となった場合には、どうすればよいでしょうか。
最悪なのは、「自社の人材要件に合致していないのに採用する」ことです。採用自体が目的ではないのですから、会社にとっても本人にとっても何もよいことはありません。私は、採用責任者時代には「いい人を落としてもよいから、要件に合致していない人を採用するな!」と言っていたぐらいです。これだけは、絶対にやってはいけないことです。
では、なんとかリカバリーして採用目標を達成するためには、基準を下げるという以外に、一体どのような方法があるでしょうか。今回は、以下の4つの方法について、それぞれご説明します。
時期を選んで呼べば、
来なかった人もやって来る
1.プレエントリー者に対するアプローチ
一番、お勧めなのは、プレエントリーをしたままで、説明会や本選考に進まなかった人たちへのアプローチです。
採用担当者の皆さんによくある思い込みのひとつに「説明会や本選考に来なかった人は、志望度が低く入社見込みが薄いので、ターゲットにすべきでない」というものがあります。
もちろん、既に説明会に参加したり、本選考を受験したりした人たちよりは、志望度は低いかもしれません。しかし、まったくエントリーもしなかった人たちよりは、少なくとも自分の個人情報を預けるプレエントリーをしているわけですから、少なからず自社に興味を持ってもらえているはずです。まったくプレエントリーもしない層よりは、確実に志望度が高いといえます。
実際、説明会などに来ない理由は、「もう興味がなくなった」と回避していることは少なく、単純に「他の会社と日程が重なった」「授業やゼミなどで行けない」「気付いたときには満席だった」程度のつまらない理由であることがほとんどです。
そのような「プレエントリーまま者」は、時期を選んで呼び込むことで、接触しやすいのです。その時期とは、ずばり「大手の採用選考ピーク直後」です。
現在の新卒採用状況においては、周知の通り、日本経団連の採用選考に関する指針の関係で、多くの大手企業≒人気企業が4月1日から採用活動を一斉にスタートさせます(当時:2014年卒)。しかし、大手企業の内定率はどこも1%〜数%前後とかなりの狭き門です。
これは、とりもなおさず、4月の採用選考ピークが終わっても、自社の人材要件に合致している学生がまだまだ残っている可能性が高いということです。環境によって、また、年によって異なると思いますが、近年では合致している層であっても、4月末時点での内定率が半分にも満たないことは珍しくありません。ここを狙うのです。
来てもらう方法にはコツがあります。まず、「いきなり『選考』に来てもらう」方がよいということです。この時期に再度、母集団形成をする際に、何も考えず、「まずは説明会から」と、説明会を最初のステップとして呼び込む会社が結構あります。しかし、採用選考のピーク後の学生、すなわち何度も不合格を経験した学生の視点に立てば、説明会のようなまどろっこしいプロセスは省いて、とにかく合格しそうな会社に時間を使いたいというのが本音だと推測できます。
「いきなり選考」なんて学生が引くのでは……と思うかもしれませんが、逆です。むしろ、「いきなり選考」する方が、学生に歓迎される場合が多いと思います。
どうしても説明会をしたい場合は「説明選考会」として、選考と同時に開催するという手もあります。いずれにせよ、選考をいきなり受けることに対して、この時期の学生は躊躇がなくなってきていますので、臆せず呼び込んでください。会社情報のインプットは、選考が進んで、絞られた学生に対して集中的に行えばよいのです。
もうひとつのコツは、「できるだけ電話で案内する」ということです。時期の関係で、呼び込みやすくなったとはいえ、メールやWEB上の広報(「PULL」型の呼び込み)では来なかった「前例」のある人たちです。再び「PULL」型の呼び込みをして、ひたすら待つだけでは、またもや来てくれないかもしれません。ですから、電話など「PUSH」型の呼び込みをするべきです。本当に些細なことですが、これだけのことで、来ない人が来たりするものです。
また、「採用目標に満たないかもしれない」という切羽詰まったタイミングで、できるだけ合格可能性の高い層を集中的に呼び込みたいのであれば、なおさら電話が有効です。電話であれば、誰から順番に呼び込むのか、どの日程に呼び込むのかなどは、すべて「こちら側」の手にあります。「時は金なり」ではありませんが、新卒採用には時期がありますので、一刻を争います。自社の人材要件に合致している層にはできる限り前倒しで会わないと、彼らはどんどん採用市場から消えていきます。そういう意味でも、電話はとても有効です。
2.辞退者に対するアプローチ
次にお勧めなのは、選考途中で辞退した人に対するアプローチです。以前、某社に在籍していたときに調べてみたのですが、SPIの結果などを見てみると、自社の受検者のうち、最も自社の人材要件に合致していたのは「辞退者」でした。場合によっては、内定者よりも高いこともありました。考えてみれば、まだ選考途中であるにもかかわらず自社を蹴って他社の選考に賭ける人たちなのですから、そういう結果が出てもおかしくありません。ぜひ、ここにもアプローチしてみましょう。
辞退者には、「途中辞退者」と「内定辞退者」がありますが、ターゲットとすべきは「途中辞退者」です。「内定辞退者」は一定以上の情報インプットを行った上で辞退をした方なので、再度、自社に入社を希望するというのは望み薄です。しかし、「途中辞退者」はそうではありません。選考途中での辞退は、もちろん志望度の低さを表してはいるものの、辞退理由は「プレエントリーまま者」と似ていて、「他社と選考日程が被った」「忙しくてこれ以上時間がつくれない」という気軽な、あくまでも他社との比較の上での相対的なものであって、「いろいろ考えたがこの会社には行きたくない」という絶対的なものではない場合があります。
彼らについても、「プレエントリーまま者」同様に、できれば電話など「PUSH」型でアプローチすることで、時期を選べば再度選考に戻ってきてくれる可能性があります。途中辞退者は、精査してみると、全体の受験者のうち、3割〜4割にも達する可能性のある大きな母集団です。学生は、一度選考を辞退してしまったら再度受験をすることができるなどとは考えていないので、放っておいて相手からアプローチが来ることはほとんどありません。しかし、こちらからアプローチすれば(他社で内定受諾していなければ)、意外に来てくれるものです。
内定辞退者については、先に述べたように望み薄です。私の経験では、「迷っている人」であれば、翻意してもらえる可能性はありますが、迷っていなければほとんど可能性はありません。
しかし、この内定辞退者についても、アプローチの方法はあります。それは、「内定辞退者の周囲でまだ内定を得ていない、よい学生」を教えてもらうということです。「そこまでやるのか」と思われるかもしれませんが、一度は内定を出したほどの学生です。採用担当者とリレーションができているのであれば、十分に可能な方法です。しかも、内定を辞退した側も、一度は志望した会社であるということと、辞退をしたという引け目もあって、頼めば快く紹介してくれる人は意外にたくさんいます。
「プレエントリーまま者」も「辞退者」にも、共通する点は、「そこまで来ているのに、途中で離脱していった人」というところです。まったくの白地マーケットに手を出す前に、まずは「そこまで来ていた」人に再び声をかけてみるという、至極、自然なアプローチであると思います。私が採用のお手伝いをしている会社でも、「プレエントリーまま者」に対して、大手企業の採用ピークが過ぎた時期に電話呼び込みをやって、500名程度のターゲットリストから100名以上を「いきなり選考」に呼び込んで、そこから数名の内定者を獲得できたというケースもあります。これは、特別なケースではありません。
それでもダメなら、
覚悟して仕切りなおす
3.内定者からの再母集団形成
1、2の方法がもし不発に終わった場合(ちゃんとやれば一定の効果はあるはずですが)は、覚悟をして、もう一度母集団を新しくつくり直す必要があります。「そこまで来ていた」人ではなく、これまでまったく手つかずだった「白地」に手を出すわけです。
しかし、「白地」といっても、優先順位があります。採用活動初期と同じようなことをしている時間の余裕はあまりない中、できるだけ効果的によい人を探し出す必要があります。それが、「内定者」を通じての母集団形成です。
「類は友を呼ぶ」といわれますが、よい人の周囲にはよい人が集まります。自社に志向や能力などの特性が合っている「内定者」のまわりには、内定者になる可能性の高い人が多いはずです。私の採用経験においても、内定者の中で、そもそも友人関係であった人たちなどがいた例は、枚挙に暇がありません。
しかも、内定者の知人は、今まさに就職活動をしているホットな方々です。時期を逃さずにアプローチすれば、効果的に採用が可能となりますし、「紹介」によるアプローチは、既に事前スクリーニングが済んでいる状況(場合によっては数年にわたる年月でのスクリーニングというかなり信頼のおけるもの)ですので、ジャッジの確度も高いものです。
内定者から母集団形成を行う、すなわち内定者からの紹介を募る手順は、以下のような流れになります。
まず、この手法はまったくポピュラーではないため、内定者が驚かないように、状況説明や意識付けが必要です。背景説明なく、単に紹介を頼むのでは、「この会社は人気がないんだなあ」「そんなに困っているのか」と思われるのがオチです。このようなことを思われてしまっては、せっかく内定受諾している人にも逃げられてしまうかもしれません。
そうではなく、「採用にとても力を入れているので、可能なかぎりの努力をして精鋭を集めたい」「よい人のまわりにはよい人がいる。だから君に紹介してもらいたい」「社員になるということは、自社によい人を連れてくるのもひとつの使命。採用は最重要な経営事項だから、全社を挙げて取り組むべきものだ」という説明を行うことで、「紹介」という行為に、より積極的でポジティブな意味を持ってもらうことが必要です。これは単にリスクヘッジという意味だけでなく、「本気」になってもらえなければ、人を紹介するという責任の重い仕事を引き受ける気にはならないということです。
意識付けができたら、具体的にどんな人を求めているのか、という説明をします。ただし、採用担当者レベルでの「求める人物像」理解は望むべくもありませんので、あまり対象を精緻に限定しすぎるのではなく、「君が一緒に働きたいと思うような人なら」「この会社にいそうな人なら」「内定者に似たような人がいるなら」程度にとどめておくべきでしょう。
紹介をしてもらったら、「必ず」会います。紹介して連れてきてもらった候補者なのですから、紹介者の顔をつぶすようなことをしてはなりません。できれば、選考回数を少なくしたり、上位選考から進めたりするなど、何かしらの選考上のメリットを提供できればさらによいと思います。会い方も、あからさまに「ジャッジ」をするような会い方ではなく、より「相互評価の場」であることを意識して、学生側からも評価されているという思いを忘れずに、できるだけフラットでフランクな場を演出するのがよいでしょう。
4.ナビでの再母集団形成
ここまでの手法がすべて不発、もしくは工数などの関係で実施不可能という場合は、リクナビを使ってすみやかに母集団形成を行うことになります。具体的には、WEB−DMを出したり、メルマガやバナーなどの広告を出したりということです。
ナビでの再母集団形成については、営業担当の方に相談するのがベストです。新商品やサービスがその都度あったりしますので、ここでは詳細は述べません。
基本的な考え方としては、時期が遅れるにつれ、既に内定してしまっている人が増えていくため、「マスに対する何らかの施策で再母集団形成をすることは難しくなる」ということを念頭に置いておいた方がよいでしょう。言い換えれば、より明確なターゲティングを行ったプロモーションをしないと効果が薄いということです。
時期が遅れても効果的なターゲットの例は、公務員試験や司法試験、会計士試験、大学院入試などからの進路変更組などです。地方に行くほど、就職活動の時期がややのんびりしていることも多いため、主戦場を地方に移していくこともひとつのアイデアです。このようなターゲティングをしっかりして、効果的なプロモーションを行ってください。
以上、予定の採用目標に到達しなさそうなときの対処方法について、いくつかの施策をご説明いたしました。すべてにおいていえるのは、「時期は迫っている」ということです。時間が過ぎれば過ぎるほど、望ましい人材層は採用シーンから消えていきます。ですから、何をするにしても、時期を逃さずに、まずいと思ったら早目に決断をしていくことが大切です。くれぐれも、「目をつぶって採用する」などという不幸なことがないように……。
- 曽和 利光(そわ・としみつ)
- 1995年(株)リクルートに新卒入社
、人事部配属。
以降、一貫して人事関連業務に従事。採用・教育・組織開発などの人事実務や、クライアント企業への組織人事コンサルティングを担当。リクルート退社後、インターネット生保、不動産デベロッパーの2社の人事部門責任者を経て、2011年10月、(株)人材研究所を設立。現在は、人事や採用に関するコンサルティングとアウトソーシングの事業を展開中。
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