曽和 利光(そわ・としみつ)
2018/10/24
イントロダクション
こんにちは。組織人事コンサルタントの曽和利光です。採用を担当されているところで、何らかの「求める人物像」を設定しない会社はないと思います。多くの「求める人物像」には、「目標達成意欲の高い人」とか「知的好奇心が旺盛な人」「素直な人」などと書いてあります。そして、それらを面接や提出書類でのジャッジポイントに使っています。
もちろん、このような基準を設定していくことはもちろんよいことなのですが、実は、学生に掲げている「求める人物像」と、実際に採用時に評価している基準や、実際に活躍している人の持つ要素と、ギャップがあるところが結構あります。それを自覚されていて、採用基準の見直しをサポートする依頼を受けることも多々あり、調べてみるとやはり「本当の基準」とは違うというケースはざらにあります。
さて、今回は、このような「求める人物像のブレ」がなぜ生じるのか、そして、どうやって改善していけばよいのかについて述べてみたいと思います。
まず、ブレには上述のように2つのブレがあります。一つは、「表明した通りの基準で採用していない」(影のジャッジ基準の存在、と便宜的に呼ぶことにします)というブレです。もう一つは、「表明した基準が本当に活躍する人の特徴と合致していない」(真のジャッジ基準の存在、と便宜的に呼ぶことにします)というブレです。それぞれ生じる原因と対策が異なりますので、1つずつ説明していきます。
「影のジャッジ基準」に抑え込むには
「影のジャッジ基準」が生じてしまう理由
前者の「影のジャッジ基準の存在」は、面接を担当する人達の頭の中に存在している様々な心理的バイアス(≒偏見、固定観念、価値観、好悪)から生じます。例えば、「体育会はガッツがある」「文化系は繊細だ」などという属性などに対して先入観を持ってしまうバイアス(確証バイアスなどと呼ばれます)などは典型例です。
このようなものは他にもいろいろあります。第一印象を引きずって評価してしまう「初頭効果」、一つの突出して秀でた(劣った)側面に全体の評価が引きずられてしまう「ハロー(後光)効果」、自分と似ている人を高く評価し、似ていない人を低く評価してしまう「類似性効果」など、公に表明している採用基準を歪めて、別の基準で実際には選考をしてしまうような心理的バイアスがあります。これが「影のジャッジ基準」が生まれる理由です。
光を当てると影は消える
この「影のジャッジ基準」を消すには、これらの無意識に生じている心理的バイアスに意識の光を当てることです。つまり、自分がどんな「人に対する偏見」「好き嫌い」を持っているのかを、きちんと認識することです。「無くて七癖」と言うように、知らず知らずのうちにやっていること、無意識にやっていることは、人はなかなか変えることができません。逆に、自分の偏見を見据えることで、ある程度はコントロールして解消することができます。
ただし、それは簡単なことではありません。意識していない心理バイアスとは、意識したくない心理バイアスである場合が多い。つまり、見たくないから見ないようにしている、「嫌な自分」の部分であることが多いということです。「臭いものにはフタ」ではありませんが、自分が人に対して何らかの偏見を持っているということを認めるのは、気持ちのいいことではありません。できることなら見たくない。その見たくないものに光を当ててみなくてはならないのです。
方法は、面接をする際に、同じ人をどう見立てたのか、アセスメントしたのかを、他者とすり合わせることが一番です。同じ事実を聞いて、そこからどういう解釈をしたかが、もし他者と違っていれば、そこに偏見、修正すべき心理バイアスが潜んでいる可能性があります。ですから、同一人物に対してジャッジが異なった時がチャンスです。そのギャップは何から生まれたのかを、異なるジャッジを下した面接担当者とすり合わせてみてください。
もう一つの有効な方法は、自分を知ることです。他者からフィードバックを受けることで、自分の気づいていない自分に触れることができます。上司や同僚などからフィードバックをもらうために、360度サーベイを実施したり、パーソナリティテストを受検して、そこに評されている自分のプロフィールをじっくり読み込んだりすることで、自分がどんな人間かについての理解を深めれば、自分の判断の傾向について徐々に意識できるようになり、コントロールできるようになっていきます。
「真のジャッジ基準」を見つけるには
「真のジャッジ基準」を把握できない理由
もう一つのブレである、「真のジャッジ基準」が隠れてしまい、なかなか把握できない理由は、採用基準の作り方に問題がある場合が多いです。研修やコンサルティングなどをさせていただいている際に、いつも様々なところで「御社はどのように採用基準を作成していますか」と伺うのですが、たいていの場合は、「偉い人に話を聞いて整理する」ということです。経営者や事業リーダー、トッププレイヤーなどに、「どのような人がハイパフォーマーになりうるのか」「どんな人が当社には必要なのか」と質問をして意見を聞いて、それを整理することで、「求める人物像」を作ります。しかし、ここに落とし穴があります。
それは、「プロは自分がなぜプロであるのかを説明する能力が低い」ということです。人間は自分ができていることをうまく説明できないことがあります。例えば、日本語ネイティブの我々は、文法を間違うことなく無意識に正しい日本語を話すことができます。助詞の「は」と「が」を使い分けたりするのも容易です。が、なぜこれは「は」で、あれは「が」であるのかというのは説明できる人は少ない。プロというのは、これと似ていて、「あることが意識せずに、自動的にスラスラとできてしまう人」のことを言います。ですから、プロに「どういう人がプロなのでしょうか」と聞くのは酷というものです。聞かれれば意見は言ってくれるでしょうが、それが正しいかどうかはわかりません。
特に、人を表現する言葉というものには「社会的望ましさ」というものが必ず付いて回ります。「生意気」よりも「素直」がいい、「暗い」よりも「明るい」がいい、というように、社会一般的に見て、多くの人がより望ましいと思うかというのはある程度決まっています。プロに「求める人物像」を聞くときにも、この「社会的望ましさ」が深く関わってきます。意識できていないのに、無理やりひねり出した意見の多くは「社会的望ましさ」の高いものになるのでしょうが、仕事によっては「生意気」で「暗い」方が適しているものもあるはずです。これもブレが生じる原因の一つです。
意見ではなく、事実を把握する
「真のジャッジ基準」を知るには、このように信用できない「意見」のみで採用基準を作らないということです。プロから情報を仕入れるのはよいのですが、曖昧な意見を聞くのではなく、確実な事実を把握するのです。その確実な事実とは、そのプロが「思っていること」ではなく「やっていること」です。最もよいのは行動観察です。トップ営業マンになるためにはどんな資質が必要かという意見を聞くよりも、トップ営業マンに同行して、実際にクライアントに対してどのような営業活動をしているのかを見るべきです。やっていることから、必要なコンピテンシーやパーソナリティを抽出することで信ぴょう性の高い「求める人物像」を作ることができます。
ただ、忙しい人事の皆さんは、たくさんの職種全員に同行している時間はないかもしれません。そうであれば、次善の策としてお勧めなのが、パーソナリティテスト、適性検査を実施して、ハイパフォーマーのプロフィールを分析することです。パーソナリティテストは、「自分がやっていると思っていること」なので、完全なる事実とは言えないかもしれませんが、それでも研究によって、ふつうのフリーインタビューなどよりも、妥当性が高いことが示されています。このように、できるだけ事実に近い情報から、「求める人物像」を作ることで、真実に近い基準となることでしょう。
- 曽和 利光(そわ・としみつ)
- 1995年(株)リクルートに新卒入社
、人事部配属。
以降、一貫して人事関連業務に従事。採用・教育・組織開発などの人事実務や、クライアント企業への組織人事コンサルティングを担当。リクルート退社後、インターネット生保、不動産デベロッパーの2社の人事部門責任者を経て、2011年10月、(株)人材研究所を設立。現在は、人事や採用に関するコンサルティングとアウトソーシングの事業を展開中。
「採用活動の教科書・応用編」
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