辻 太一朗(つじ・たいちろう)
2016/09/14
イントロダクション
こんにちは。採用ナビゲーターの辻太一朗です。
11月9日、経団連より、17年卒採用の採用活動解禁を6月とする旨が公表されました。
それに伴い、皆さんもスケジュールや戦略の見直しに着手されていることでしょう。
履修履歴を活用した面接について何度かお伝えしてきましたが、読者の方から、 「選考中、学生に履修履歴の提出を求めた際、その企業に対する学生の志望度が高くない場合は、手間と手数料がネックとなるのではないか」 といった質問が寄せられました。
この点は多くの企業が履修履歴を活用される際に気にされるポイントですが、結論としては、私は心配ないと考えています。
そう考える理由は3点です。
一点目は、当社 (株式会社大学成績センター) 提供の 「大学成績データサービス」 (学生が無料で履修履歴を企業に送付できるサービス) を利用している企業の実績として、選考中における履修履歴の提出を要望したことによって応募数が減ったという意見はお聞きしていないという点です。このデータベースは大手企業だけでなく中小企業にも利用されています。
二点目は、 「学生を多面的に見たいので履修履歴を提出してほしい」 という貴社の姿勢を明確にすることで、学生は安心感を持つという点です。
実際に履修履歴を活用し始めた企業には学生から、 「しっかり自分自身を見てもらった印象がある」 というフィードバックがあり、16年卒採用での内定辞退率も低下したようです。説明会などで、履修履歴活用の意図をきっちりと学生にお伝えすることで、貴社の好感度は必ず上がるはずです。
三点目は、学生を対象とした調査でも、履修履歴活用には肯定的な結果が出ているという点です。
2年前に学生約200名を対象におこなった調査では、90%弱の学生が、学業についてもしっかり聞く企業には好感をもつと回答しました。具体的な声としては、 「アルバイトの採用ではないのだから、学業のことを質問するのは当然」 「そもそも大学が何のための場かを考えると、質問しないほうがおかしい」 等でした。
以上、ご質問にお答えいたしました。
ご質問をお寄せくださった方に、この場をお借りして感謝いたします。ありがとうございました。
さて、今回のテーマに戻らせていただきます。
皆さんは採用担当者として日々を過ごす中で、仕事が 「上手くいっているとき」 「上手くいっていないとき」 が当然あるかと思います。
できることならば 「上手くいっていないとき」 であっても、それを前向きにとらえ、次につなげていきたいものですが、なかなか難しいものですよね。
かくいう私自身も、物事を後ろ向きにとらえがちで、若い頃は特に、その傾向をなんとか改善したいと思っていました。
今回はその 「物事を前向きにとらえる工夫」 について、少し精神論のようになってしまうかも知れませんが、お話をしたいと思います。
“前向き”ってどういうこと?
採用担当者にとって 「上手くいかないこと」 はさまざまにあるかと思います。
例えば、
「入社してくれると思っていた学生が、内定式に来なかった」
「『どんな仕事でも頑張ります!』 といっていた内定者が、 『営業以外の仕事がいいです』 といい出した」
「他部署の社員から 『今年の新入社員はなんか物足りない』 といわれた」
……などです。
このようなことが続いてしまうと、 「自分は採用に向いていない」 「一生懸命やっても、どうせ認められない」 「そもそも採用の仕事がしたくて入社したのではない」 といったようについネガティブな気持ちになってしまうことはないですか?
私自身も、特に入社から数年はこうした思考に陥ってしまうことが多く、周りの先輩から、 「お前は後ろ向きだな」 なんてことをいわれてしまうこともありました。そして自覚がある分、反論もできませんでした。
このような気持ちになると自分に対して、また自社に対しても限界を決めつけ、諦めの気持ちが強くなってしまいがちですし、非建設的な考え方にも陥ってしまいがちですよね。
当時の私はこんな自分を少しでも変えようと 「とにかく前向きになろう」 と単純に考えていましたが、実際は、なかなか上手くいかなかったことを覚えています。
最近、まさにそんな若かりし頃の自分のような、 「どうしてこの人は物事を後ろ向きにとらえがちなのだろう」 と感じさせられる人に出会いました。
同時に、「そもそも “前向き” や “後ろ向き” って、どういうことだろう?」 と、疑問を持ちました。
そこで振り返ってみると、私自身が 「この人は後ろ向きだな」 と感じるような人は、
「頑張ったんですけど、思ったほどの成果が出ませんでした」
「自分なりの目標は達成したつもりなんですけど、周りからは評価されなくて……」
というような、芳しくなかった成果の報告に終始した発言が多いように感じます。
一方、 「この人は前向きだな」 と感じるような人は、
「今回はあまり力になれなかったんですけど、部として結果を出せたのでよかったです」
「次の機会で成果に貢献するために、○○な力をつけていきたいです」
といった、自らの反省をしつつもそれだけでは終わらない発言が多い人であったと感じます。
「自分はできていないけど、成果が出ていること」
これらを比較すると、前向き/後ろ向き を分かつものというのは、起こった事実そのものや特性的な問題というより、行動と成果に対する自身の 「とらえ方」 に大きな関係があるように思えます。
そもそも、起こってしまった事実や特性というものは、変えようと思って変えられるものではありませんよね。
さらに、自分の気持ちや感情をコントロールするというのも、案外難しいものです。
そこで、前向きさを身に付けるための方法として、「とらえ方」 を変えることが近道なのではないかと気が付いたのです。
まずは以下のように 「とらえ方」 を分解してみると、理解していただきやすいかと思います。
(以下、行動と成果、そしてそれに対するとらえ方を図にしてみました)
後ろ向きというと 「自分ができていないこと」 に対する感情だと思われるかもしれませんが、私自身が後ろ向きになっていたときのことを思い返すと、 「自分はできている (と感じる) のに、成果が伴っていないとき」 ではないかと思います。
一方で、前向きになっているときは 「自分はできているのに、成果が伴っていない」 の逆、つまり同じ事象の中でも 「自分はできていない (と感じる) けど、成果が伴っている」 という部分に目を向けているときだと思います。
この、 “とき” というのが重要です。
どんな特性の人であっても、どんなときでも常に後ろ向きというわけではないでしょう。
そこでまずは、 「自分ができていないこと」 を思いつくだけ挙げてみましょう。
次に、 「自分はできていないけど、成果が出ていること」 を挙げてみましょう。
たとえすべてが自分の力によるものではなかったとしても、事実として成果が出ていることを振り返れば、 「成果に貢献するために、自分はここにこれだけできたし、次回は(別の)ここをこういうふうに頑張っていこう」 等と、課題の発見や具体的な目標がニュートラルな目線でつくれるようになります。
「当たり前」 とお感じになる方もいらっしゃるかも知れませんが、まさに 「後ろ向き」 にはまっている渦中は意外と、自分に対してニュートラルな目線を持つことができていないものです。
ですからこのように当たり前とも思えることでも自ら順序立てて考え、意識して実践することで、私は少しすっきりしました。
こうした考え方は採用活動でも活かせると思いませんか?
例えば、 「前向きな学生」 を採用するために、どのように見極めればよいでしょうか。
次章で考えてみましょう。
「前向きな学生」を見極める視点として活かす!
採用活動においても、どちらかといえば、やはり 「前向きな学生」 に来てほしいと思うものですよね。
面接では、 「元気で声が大きく、はきはきと答えられる学生」 を前向きととらえがちですが、それはあくまで 「印象」 の話。
本当の前向きさは、そうした要素だけで計れるものではありません。
また前章でも記したとおり、同じ人の中にも、前向き (なとき) と、後ろ向き (なとき) という二面性があるものです。
私も実際に面接をしていて、同じ学生でも最初に面接をしたときと、数週間後に出会ったときで印象がまったく違ったことがありました。後日学生にそのことを尋ねてみると、初回の面接時は志望度の高かった企業に落とされたばかりで、実はすごく落ち込んでいたとのことでした。
いくら大切な面接の場であっても、本人がいくら気丈に振る舞っていても、深い悲しみや落ち込みというものは、滲み出てしまうものです。採用面接に長けた方であれば特に、それらに敏感に気付くことができるでしょう。
当然ながら、社会人になればどのような企業に就職しようがどのような仕事を任されようが、必ず何かしらの苦労を経験することになります。
そこで真に前向きな学生を見極める際に重要なのは、その学生が 「上手くいっていないときに、どれだけ素早く切り替える力を持っているか」 という視点です。
具体例を挙げてみましょう。
例えば 「学生時代に力をいれたことはどのようなことですか」 という質問をし、 「大学祭でイベントを企画したことです」 という回答があったとします。
そこで、前章でご紹介した流れと同じように、
「うまくいかなった点はどこにあり、その理由はなんですか?」
「振り返ってみて、もっとよい成果を出すためにすべきだったことはどのようなことですか?」
といった質問をしてみるとよいでしょう。
前向きな思考が身に付いている学生であれば、とっさに思い出しながらであっても、初対面である私たちでも 「なるほどね」 と納得できるような回答をするでしょう。前章にてご説明したようなニュートラルな目線で、自分の行動と成果の振り返りがきちんとできているからです。
以上、社会人の私たちだけではなくこれから貴社の戦力となるであろう人材にとっても大切な 「前向きさ」 の持ち方および見極め方について、ご紹介させていただきました。
この考え方はこれまでお伝えしてきたような自己分析や面接において活用できるだけではなく、複数名のメンバーをまとめていくマネジメント業務の際にも有効かもしれません。機会があればぜひお試しください。
- 辻 太一朗(つじ・たいちろう)
- (株)リクルート人事部を経て、1999年(株)アイジャストを設立。
2006年(株)リンクアンドモチベーションと資本統合、同社取締役に就任。
2010年(株)グロウス アイ設立、大学教育と企業の人材採用の連携支援を手掛ける。
また同年に(株)大学成績センター、翌11年にはNPO法人DSS (大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる会) を設立。
採用に関わる多くのステークホルダーを理解しつつ、採用・就職の"次の一手"を具体的に示すことに強みを持つ。
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