小宮 健実(こみや・たけみ)
2020/02/17
イントロダクション
皆さん、こんにちは。
採用・育成コンサルタントの小宮健実です。
世の中は年初からコロナウイルスの話題で持ちきりになってしまいましたね。
これから採用活動も本格化し、企業説明会のようなイベントも増加していく中、大きな不安要因にならないように、少しでも早く収束してほしいですね。
採用担当者の皆さんは、これからインターンシップや企業説明会の運営をしながら、同時に選考の計画と準備をする大変忙しい時期に入っていくことと思います。
それを受けて私もこの時期、例年通りであれば選考の設計支援や、面接担当者トレーニングの講師の仕事が多くなるのですが、思い返してみると、選考の設計(実施方法)を毎年見直す企業というのは、それほど多くありません。
毎年見直す企業もありますし、もう何年も同じやり方で選考を行っている企業もあります。
では本来、どのくらいの期間で選考の設計を変えたほうがよいでしょうか?
私の考えでは、皆さんの会社がもう3年以上同じ方法で選考しているような場合は、設計を見直す時期に来ていると思います。
そこで今回は、設計を見直したほうがよいとする理由や、見直す際の考え方についてお話ししていきたいと思います。
では、さっそく説明に入っていきましょう。
同じ選考活動の繰り返しに潜んでいる問題
なぜ3年程度で選考設計を見直すべきなのでしょうか。
それにはいくつか理由があります。
皆さんが一番に思い浮かべるのは、選考内容が応募者に流出するということではないでしょうか。
今は選考を受けた途端に、その内容をネットに書き込める時代です。
応募者が選考内容を知っていることで選考に対してフェイク(うそ)やなりすまし(違う自分を装うこと)が横行すれば、選考の質が下がることになります。
また、悪意がなくても、「何をするか知っている」という安心感から落ち着いて力を出しやすいといったことが合否に影響することは、それなりにあるだろうと思います。
もちろん応募者がどのような状態であっても、こちらのオーダーに対して目の前で実際に(見抜けないほど)良いパフォーマンスを披露したのであれば、それはやはり「優秀」という判断でよいという考え方もできます。
しかしながら、条件がまったく同じ状態での一発勝負だったら、もしかしたら違う応募者が合格したのかもしれないと考えると、それを不公平だと感じる人もいるでしょう。
応募者の一生に関わることなので最大限公平公正な選考を行うよう努める、そうした姿勢はやはり企業に求められると思います。
ただ、そうした議論とは別に、私はもう少し採用設計の本質的な意味から、選考を変えていく意味を考える必要があると思っています。
知見を蓄積し選考に反映する
私は、質の高い選考を行うために、そもそも定期的、計画的にその内容を見直していくべきだと考えています。
学生に知られないようにすることもありますが、人材の見極めの精度を向上させるために、そもそも定期的なアクションが必須だと思っているからです。
そしてそれは、すべての企業ができることだと思っています。
なぜなら毎年選考を行い、応募者の能力の見極めを行ううちに、自社内にその知見が蓄積されるはずだからです。そうした知見を数年ごとに振り返って形式知化し、自社の設計に反映すればよいからです。
しかし、いざ行おうとすると実際には難しい場合も少なくありません。
例えば、記録が何も残っていないような場合です。
面接票に、面接担当者が何も情報を残さないことが普通になっていると、後で検証活動をする際に手がかりがなく、気づくことも限られます。
面接担当者にヒアリングを別途することも考えられますが、作業工数はずっと多くなり、記憶も曖昧になっています。
もっと本質的な問題を抱えている場合もあります。
そもそも「意図がない選考」を行っている場合です。
「意図がない選考」とはどのような選考かというと、「応募者が持っている能力を、このようなやり方で見極めよう」という意図がない選考のことです。
意図を持って選考を行っているからこそ、「…は予想と異なった」「次はもっとこうすれば良くなるだろう」といった振り返りや気づきが生まれます。
「意図のない選考」では、その年に応募してきた人を比べ、「主観的」かつ「相対的」に、単に必要な人数の合格者をその場で出すことになります。
当然、毎年のように合格者の質がブレることになります。また、合格者の質はどんな人が応募してくるか次第ということになり、翌年の改善点を考える際には採用広報の話しか出てきません。
もう何年にもわたって選考のやり方を変えていない企業は、いつのまにかこのような状況に陥っていることがあります。
ではもしも自社が選考活動を見直すべきタイミングにあったならば、どのようなアプローチをしていけばよいでしょうか。
次章で、意図のある選考をしている企業も、意図に不安のある選考をしている企業にも、参考にしてもらえるお話をしていきたいと思います。
内部から検証と、外部からの考察
ではもしも自社が選考のやり方を見直すべきタイミングにあり、質を高めたいと思ったならば、どのようにアプローチをしていけばよいでしょうか。
まず行うべきは内部からの検証です。
先程述べた通り、選考に用いた評価表などの記録には検証に用いる有益な情報がたくさん残っているはずです。
基本的には、選考時の評価と入社後の評価の相関を確認します。
視点として重要なことは、現場の評価と、選考活動の際の評価のミスマッチに注目することです。
選考時に少し不安だった人材は、入社後もやはりそのような評価から始まって、段々と成長していくものです。ところが、当初の予想を良い意味で裏切って、当初から現場では高い評価を得ている人材がいたとします。そのようなタイプの人材は、現行の選考では自分の能力を適切に表現できないのかもしれません。
逆も然りです。
入社後、選考時にまったく不安がなかったのに、入社後には予想を裏切って評価が低い人材がいたとします。それはやはり、現行の選考ではそうした点を見抜けない設計なのかもしれません。
こうした視点から改善点を考えて選考の設計に生かしていくわけですが、この作業を行う際の要点は、社内に実在する具体的な人物を想定した上で、どうすれば能力を見抜くことができたか考えてみることです。
もちろん、その人物について改めて当時の面接担当者や、現在の職場の上司にヒアリングをすることも有益です。
逆に注意点は、そもそもその人物の「人柄」や「性格」のようなものを見抜こうとして、迷路に入ってしまわないようにすることです。
すべての企業に当てはまるわけではありませんが、多くの企業で評価の対象にしている能力の高低とは、主体性、関係構築力、コミュニケーション力、課題発見力など、成果創出につながる「行動」の質の高低を指しています。
応募者が普段とっている「行動の質」をどのように確認するかという視点から外れ、「人柄」や「性格」のようなものを見抜こうと考え出すと、専門家でも難しい評価方法を追いかけてしまう可能性があります。
外部の知見を取り入れる
何らかの事情で、社内に振り返りのできる情報があまり存在しない場合があります。
初めて新卒採用を行う場合はそれに当たりますし、上述した通り、今までの選考活動の記録が残っていなかったり、前任者の情報を引き継げないような形で採用担当者になったりした場合もそうした状況になるかと思います。
そのような場合は、基本的にはゼロからのスタートと考えて、外部の知見を取り入れながら設計を考える(見直す)ことになります。
私たちのような専門家に依頼するのも一つの手ですが、まずは担当者自ら考えてみるのもよいと思います。
その際に重要なことは、前に述べた通り、応募者が普段とっている「行動の質」をどのように確認するかという点を重視し、応募者の「人柄」や「性格」のようなものと上手に切り離す(評価に影響を与え過ぎないようにする※)ことです。※一般的な話であり、人柄や性格を重要視する企業もあると思います。
応募者の行動の質を見る際には、「(学生生活の)どのような場面におけるどのような行動を確認するか?」という問いが生じます。
それを自社の仕事(職種)の特徴とつなげて考えていくことになります。
また、「その時、どのくらいのこと(行動)ができていればA評価にするの?」といった評価基準については、自社の人事評価制度の記述の中にヒントがあるはずです。
そして、そうした場面のエピソードを聞き出して評価するのが面接であり、類似した設定を与えて直接行動を観察するのがグループワークです。
こうしたことを考えていく過程では、経営系(例えばコンピテンシーに関する知識)、心理系(例えば性格に関する知識)、教育系(例えば能力の育成に関する知識)など、直接、採用活動向けとは示されていない知識が役に立ちます。
むしろ採用活動向けに書かれた書籍を参考にするより、自ら採用活動に使えそうな学問知識を探したり、自分が不足している知識ジャンルの書籍に目を通したりしたほうが、多くのことを得られると思います。
実は採用活動の設計は、そのような確かな客観的知識によらずに、「過去からそうしてきた」という理由で何年も塩漬けにされていることがよくあります。
外部の知識を積極的に取り込んでいく姿勢が、「自社内のみで通じる思い込み」を正すことになり、選考の質を向上させることにつながるのです。
そして今回もしも過去の記録が少なくて苦労したならば、今後は評価の記録がしっかりと残るように設計しましょう。それは次回選考の設計をブラッシュアップする際にとても重要な情報になるはずです。
いかがでしたでしょうか。
今回は、応募者を見極める精度を上げていくために、計画的に選考のやり方を改善していくという話をしてきました。
次回はまた1カ月後の掲載予定です。よろしくお願いいたします。
- 小宮 健実(こみや・たけみ)
- 1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
「振り返り」
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