採用活動に影響を与える「HRテクノロジー」のインパクト―AIの時代に備えて何を準備すべきか―

昨今、人工知能(AI)はさまざまな場面で話題となっています。採用業務においても、例外ではないでしょう。
これから進化・普及が進んでいくであろうAIを活用した採用環境を見据えて「今」準備しておくべきことを、小宮健実が提案します。

イントロダクション


皆さん、こんにちは。採用・育成コンサルタントの小宮健実です。

最近、HR (Human Resource) 領域におけるITテクノロジーの活用が、世界的に注目を集めているのをご存知でしょうか。それらはHRテクノロジー (通称HRテック) と呼ばれ、もちろん採用活動も主たる対象になっています。

その流れを受けてここ数年、主に米国を中心に、応募者を特定したり管理したりする新しいサービスが発表されています。いくつか例を挙げると、 『Entelo』 『Talent Bin』 『Interviewed』 などがあります。

もちろん、米国と日本では (特に新卒採用の) 文化やスタイルが異なるので、こうしたサービスをそのまま応用して活用することはできないでしょう。ただ、テクノロジーを導入することは、オペレーションの正確性や結果の共有、客観性の向上に貢献することも事実です。したがって、採用活動にテクノロジーをどう利用していくのかといったテーマは、今後日本国内でも重要な検討課題となっていくでしょう。

では現実的に、テクノロジーと採用活動をどのように融合させていけばよいのでしょうか。

今回はHRテクノロジーについて、ポイントを絞ってお話ししていきたいと思います。

 

採用テックの向かう先は


採用活動の領域でテクノロジーを利用する、いうならば 「採用テック」 について、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか?

リクナビのように自社情報を掲載・発信して母集団を形成するシステムや、FacebookのようなSNSを思い浮かべる方が多いかもしれません。もしくは、応募者の状況を管理するシステムや自社で構築したスプレッドシートなどを思い浮かべる方もいるでしょう。

現在では母集団形成や応募者管理はITを絡めて成立しているのが主流なので、それらの拡張機能やその延長線上にあるサービスを思い浮かべる方が多いのではないかと思います。

実際のところ、米国で発表されているようなサービスの多くは、多様な求職者との出会いやそれに伴う応募プロセスを容易にするものであり、採用活動のオペレーションの質が向上する、いわゆる 「オペレーショナル・エクセレンス」 の向上につながるものが多いといえます。

オペレーショナル・エクセレンスとは、システムを導入することにより現場の業務遂行力が上がり、品質・コスト・スピードにおいて高い優位性を保つことで組織能力そのものが向上し、結果として競合企業に打ち勝つことを目指す概念をいいます。

オペレーショナル・エクセレンスもとても重要ですが、採用テック検討の目的としては、私はそれ以上に、自社の応募者データ (特に評価結果) の蓄積と活用が重要なポイントだと考えています。

採用活動の目的はあくまで、入社後に活躍する人材を獲得することです。ですから、テクノロジーを利用することでオペレーションの質を上げるだけではなく、 「入社後活躍が期待できる人材の見極めの質を向上させる」 ことこそが、採用テックの核となる目的だと思うのです。

また、採用テックを必ずしも新たなITサービスの購入と関連づけて考える必要はありません。どんな実現方法でもよいので、とにかく応募者データの蓄積とその活用を実現するための体制を整えることが重要だと思います。

昨年、ソーシャル・ネットワーク 『LinkedIn』 がおこなった 『日本の採用担当者に対する意識調査』 によると、74%の採用担当者が「採用活動によって得たデータを活用できていない」と回答しています。この回答は私の見立てとも合致するものですが、こうした現状も受け、採用テックの向かう先はやはり 「適切な応募者データの蓄積と活用」 にあると思っています。

そして、 「適切なデータの蓄積」 という観点では、 「採用テック」 に思いを馳せる以前にやらなくてはならないことがあります。

それは、評価項目や評価基準を整えて、採用プロセスから残されるデータの信頼性を高めることです。

採用活動では一般的に、適性テストの結果などは客観性が高くデジタル処理が可能なデータ、面接の評価結果などは主観も多く入り混じったアナログ情報、と分類することが多いと思います。

その際、適性テストの結果は一見整然としたデータに見えますが、そもそもの信頼性には注意が必要です。オペレーションを整えてデータが豊富に蓄積されても、データ自体の信頼性が低いものであったら意味がなくなってしまいますよね。

「確立された自社の評価基準」 で 「正確に評価した」 結果がデータとして蓄積されるという前提があってこそ、オペレーショナル・エクセレンスが語れるのだということを忘れてはいけません。

だからこそ採用テックを実行するには、まず自社の採用設計を整えることが重要なのです。

応募者データの活用、そしてAI


次に、 「適切な応募者データの活用」 についてご説明しましょう。

データの活用といえば、これまでは統計学をベースとした合格者の分析などを指していましたが、採用テックが整い膨大なデータが蓄積された場合、その活用を実現するアルゴリズムは、もはや人的に処理できる領域ではなく、
人工知能 (Artificial Intelligence, AI) に頼ることになります。

AIといえば、以前IBM社が開発した 「ディープ・ブルー」 の話題をご存知の方も多いと思います。1997年、ディープ・ブルーが当時チェスの世界チャンピオンだったガルリ・カスパロフと対戦し、勝利したニュースは世界中を駆け巡りました。

その後も同様にコンピューターが人間に勝利を重ねると、それらの話題はあまり注目を集めなくなりましたが、実はこの話には続きがあります。

カスパロフは、もし自分がディープ・ブルーと同じように過去の膨大な試合を記憶した巨大なデータベースをその場で使えていたら、もっと有利に戦えていただろうと考えたのです。

そこでカスパロフは、人間の知性を拡張する形でAIを利用して勝負を行う 「フリースタイル・チェス」 を発想しました。AIを利用して勝負を行うプレーヤーは 「ケンタウロス型プレーヤー」 と呼ばれ、AIの判断を参考にしたり自分の判断を優先したりしながらチェスを戦うのです。

結果、興味深いのは、フリースタイル・チェスで最も強いのは完全なAIのみのプレーヤーではなく、ケンタウロス型プレーヤーであったという事実です。

昨今は機械学習や人工知能といった技術のHR領域での応用が注目を浴びています。当然、採用領域におけるAIの活用も近いうちに耳に入ってくることでしょう。採用とAIがどのように結びつくのか、私もまだまだイメージがわかない部分がありますが、今後採用領域におけるAIは、皆さんがサービスを購入する際の一つの重要な観点になってくると思います。

採用活動においてAIを利用する理想的なイメージは、AIがさまざまなデータを分析した上で独自に評価方法を学習し、人間には思いつかない方法で合否評価をおこなうというようなことだと思います。ただ、各社がその次元にたどり着く前に、カスパロフが考えたようにおそらく採用活動でも 「ケンタウロス型プレーヤー」 として、AIの判断と自分 (採用担当者) の判断の両方をうまく活用しながら戦っていく時期が続くであろうと思っています。

そして、それらのAI利用サービスは、近いうちにさまざまな具体的な形で私たちの前に登場すると思います。例えば、 「採用広報プラットフォーム」 「評価フィードバックテスト」 「内定者リテンションプログラム」 などのようなものかもしれません。そして、場合によっては、こうしたサービスにまるでエコマークのように 「AIマーク」 というものがつき、担当者の購買の意思決定を悩ませるようなこともあるかもしれません(笑)。

いずれにせよAI利用の前提としては、先ほど述べたように、信頼性の高い有効な自社データが十分蓄積されていることが重要だと思います。それこそが、 「ケンタウロス型」 で採用活動に取り組んでいく私たちの正しい判断を支えることになるからです。

これをふまえて私たちが今すぐにでも取り組むべきことは、現在は仮にスプレッドシートによる管理だとしても、評価項目や評価基準をふくむ採用設計を整え、信頼性の高いデータを着実に蓄積し始めることだと思います (採用設計については、よろしければ過去コラムも参考になさってください)。

 

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小宮 健実(こみや・たけみ)
小宮 健実(こみや・たけみ)
1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。

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