
曽和 利光(そわ・としみつ)
2020/02/21
イントロダクション
こんにちは。組織人事コンサルタントの曽和利光です。今回は採用において企業が最も重視する選考基準であるとされている「コミュニケーション能力」ついて考えてみたいと思います。
16年連続トップの「コミュニケーション能力」
経団連が毎年行っている「新卒採用に関するアンケート調査」に「選考時に重視する要素」という項目があります。そこでは16年連続で「コミュニケーション能力」がトップとなっています(ちなみに、上位2位以降は「主体性」「挑戦心」「協調性」「誠実さ」と続きます)。実際、私はさまざまな企業で人事コンサルティングをさせていただいているのですが、求める人物像や採用基準を作る議論をする際に、「コミュニケーション能力」は頻出する言葉です。
重視されているのに曖昧な言葉
しかし、この「コミュニケーション能力」とはとても曖昧な言葉で、それが出てくる度に「それはどういう意味で使っているのか」を確かめると、経営者や人事担当者は、かなり多様な意味合いで「コミュニケーション能力」を使っています。
また、「コミュニケーション能力」は、特に初期選考において重視されることが多いようです。選考プロセスを初期・中期・最終と分けた際、初期においては相対的に面接スキルの低い社員が動員されて面接を担当することが多いため、最も評価しやすい(と思われる)「コミュニケーション能力」をチェックポイントにするのです。
※ちなみに、ある程度初期選考で絞られた人を対象とする中期選考では、人を評価することを日ごろから仕事にしている人事担当者や管理職が面接を担当することが多いようです。そこでは、ようやく候補者のパーソナリティの自社とのフィット感を評価します。
※そして、ある程度自社にフィットする人ばかりという粒揃いとなった最終面接では、候補者の中で優先順位を考えて誰を採用するかを決めるために、相対的なレベル感を検討する場とされることが多いです。
このように、面接選考で重視され、特に最初の入り口でチェックされることの多い「コミュニケーション能力」の定義が間違っていれば大問題です。貴社における「コミュニケーション能力」について今一度考えてみましょう。
「空気を読む力」の意味で使われることが多いが
曖昧だとはいうものの、大きく分けると以下の3つの意味で使われていることが多いようです。順に説明していきます。
1)感受性
圧倒的に多くの場合で使われている意味がこれです。ここで私が言う「感受性」とは「相手が言っていることや思っていることから、相手の本意を理解する力」というような意味です。日常的な言葉で言い換えるならば、「一を聞いて十を知る」「以心伝心」「あうんの呼吸」「空気を読む」のようなことです。
共通した文化的背景を多く持つ、いわゆるハイコンテクストな文化の日本においては、細かいことを明確に言わなくても、相手のことを理解して動いてくれる人は確かに便利です。ですから採用基準とされるのもわかります。
しかし、昨今の企業を取り囲む環境の変化を考えると、今までのようにこの「空気を読む力」を重視していると危ないかもしれません。なぜなら、「空気を読む力」を持つ人が増えると、組織にさまざまなデメリットが生じる可能性があるからです。
例えば、社員にあまりに「空気を読む力」ばかりを重視していると、言わないでも皆が従うような「不文律」が増えていきます。しかし、「不文律」は明確なルールである「明文律」と違って、オフィシャルに改変することがしにくいものです。もし、組織に問題ある「不文律」が根付いてしまったらなかなか厳しい状況です。
ほかにも、あうんの呼吸が通用するために似たような人ばかり集めてしまいダイバシティが減少したり、事実を突き詰めることなく集団の雰囲気で決めるような意思決定スタイルになったり、忖度(そんたく)が発生したりするようなことがあります。
このように、「感受性」≒「空気を読む力」は、コミュニケーションコストを下げるメリットはあるものの、ほかにもいろいろな問題を生じる可能性もあるので、もしこのような意味で「コミュニケーション能力」を使っている場合、本当にそれでいいのか、それだけでいいのかは考える必要があると思います。
残りの2つは「論理的思考能力」と「表現力」
感受性以外の残り2つを説明しますと「論理的思考能力」「表現力」です。
2)論理的思考能力
次に多く用いられる意味が、筋道を立ててわかりやすく話ができるような「論理的思考能力」に近いものです。「論理的思考能力」自体はあまり定義にブレのない明確な言葉なので、ここでは問題はないかと思います。
一つ注意すべきポイントがあるとすれば、前頁の「感受性」となかなか両立しにくい能力である可能性があるということです。「感受性」の高い人は、対象の細部に注目して、よく気がつく人です。ところが「論理的思考能力」が高い、もしくは発揮しやすい人とは、物事の細部にこだわる人ではなく、俯瞰(ふかん)的に見て、大きな構造や枠組みで対象を理解する人であることが多いように思います。
経営陣や現場は「コミュニケーション能力」を「感受性」の意味で使っているのに、「論理的思考能力」の意味で採用を行うと、逆とまでは言わないまでも、まったく違うタイプを採用してしまう可能性があります。
3)表現力
最後が、適切な言葉遣いや具体例を出すことによって、相手にきちんとイメージをさせることができるような「表現力」に近い意味です。
「意味を理解させる」ことと「イメージさせる」こととはまったく異なります。「飲食店でホールのアルバイトをしていました」と言えば、意味は完全に理解できると思いますが、具体的にどんな店で、どんなふうに仕事をしてきたのかについてイメージすることはできないでしょう(勝手に想像することはできますが)。「意味を理解させる」には論理的思考能力の出番でしょうが、「イメージさせる」には表現力の出番です。
以上、よく使われる選考基準である「コミュニケーション能力」について、代表的な3つの意味をご紹介しました。まったく異なる意味であることがわかっていただけたのではないでしょうか。これを誤解しながら面接や採用活動を続けていてはせっかくの努力が無駄になってしまいます。
ぜひ、選考直前に今一度、自社での使われ方を明確化してみることをお勧めします。
- 曽和 利光(そわ・としみつ)
- 1995年(株)リクルートに新卒入社
、人事部配属。
以降、一貫して人事関連業務に従事。採用・教育・組織開発などの人事実務や、クライアント企業への組織人事コンサルティングを担当。リクルート退社後、インターネット生保、不動産デベロッパーの2社の人事部門責任者を経て、2011年10月、(株)人材研究所を設立。現在は、人事や採用に関するコンサルティングとアウトソーシングの事業を展開中。

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