2015/08/05

学生とのコミュニケーション力は“理不尽な場”で向上した―上司との何気ない会話の中にも成長のカギはあった―

辻 太一朗(つじ・たいちろう)
(株)リクルート人事部を経て、1999年(株)アイジャストを設立。
2006年(株)リンクアンドモチベーションと資本統合、同社取締役に就任。
2010年(株)グロウス アイ設立、大学教育と企業の人材採用の連携支援を手掛ける。
また同年に(株)大学成績センター、翌11年にはNPO法人DSS (大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる会) を設立。
採用に関わる多くのステークホルダーを理解しつつ、採用・就職の"次の一手"を具体的に示すことに強みを持つ。

イントロダクション


こんにちは。採用ナビゲーターの辻太一朗です。

採用担当の皆様は、学生と会ってコミュニケーションを取る機会が多いと思います。

とはいえ、誰もが学生とのコミュニケーションを得意としている、というわけではないでしょう。

「学生との適切な距離感が分からない」  「必要事項以外に、どんな話をすればいいのか分からない」

といった悩みを抱えている方も実は多いのではないでしょうか。

また、学生とだけではなく、上司とのコミュニケーションに悩んでいる方もいらっしゃるかもしれません。

私もかつて、学生や上司相手のコミュニケーションで悩み、自らのコミュニケーション力の至らなさを痛感させられたことがありました。

今回は、新人時代の個人的な出来事の振り返りとなりますが、学生とのコミュニケーションも一段と活発になってくる今、少しでも皆さんへのヒントになればと思います。

“つまらないヤツ” と烙印を押された新人時代

私がリクルートに新卒入社した当時、 “コミュニケーションの天才” と思えるような先輩がいました。
彼は学生や同僚との距離感を絶妙に保ちつつ、誰に対してもフランクに会話をし、相手を楽しませているように見えました。

一方、当時入社1年目の私は、学生や上司と何を話していいのか分からず、誰に対しても、 「もう一歩が踏み込めない」 といった状況でした。

そんなある日、上司に食事に誘われたことがありました。

その席で突然、 「お前と話していても楽しそうじゃないからつまらないなあ」 と叱られたのです。

私自身としては、決して上司との会話がつまらなかったわけではないのですが、上司はそのように感じてしまったのでしょう。

釈然としない思いを抱えつつ引き続き食事をしながら上司の話を聞いていると、次は、「ちゃんと話を聞いているか?」といわれてしまいました。

そこで今度は、とにかく真剣に話を聞くことを心がけました。

すると、「俺のグラスが空いてるだろ? ぼけっとするな」 と、また叱られてしまったのです。

真剣に話を聞くあまり、グラスが空いていることに気が付かなかったのです。

あわててビールを注ぎ、再び真剣に話を聞いていると、今度は 「目の前に食事があるのに、なんで食べないんだ?」 と叱られ、食べ始めると今度は、「お前は食べるのに夢中で人の話を聞いてないだろ?」 と叱られるのです。

もう、こうなるとパニックです。

「じゃあ、どっちをやればいいんですか?」 と尋ねると 「どっちもだ!」 と小ばかにされたようにいわれてしまい、さすがに理不尽に感じて、「いったいどうすればいいんだ」 と怒りの気持ちが沸いたことがありました。

とはいえ当時の私は、「先輩の話は全肯定で、遮ってはいけない」 「よく話を聞き、いい質問をしなくてはいけない」 というような義務感に縛られてしまい、対面してあれこれと反応を返しているものの、「コミュニケーション」 と呼べるレベルには到底達していなかったようにも思います。

つまり、話をするにしろ話を聞くにしろ、注意をされるとそこにしか視野も意識も届かず、一人よがりで “余裕がない” という状態だったわけです。


“余裕のなさ” は相手に伝わる

「真剣に話を聞く」
「周囲に気を使う (グラスが空いていないか等)」
「食事を美味しく食べる」

上司との席を適切に楽しむためには、例えばこれらのような様々な事に柔軟に対応しなくてはならなかったわけですが、 “余裕のなさ” によって視野も意識も狭くなり、どうしても、どれか一つに集中してしまっていたのでした。

当時はそれに対する叱りに釈然としないものを感じていましたが、上司はそんな私を見かねて、あえて理不尽な注意をしたのかもしれません。

実際、そのように叱られながら多くの上司に食事に誘われ何度も場数を踏んでいくうちに、いつの間にか自然に、複数の事を同時に柔軟にこなせるようになっていました。

大切なのは結局、あれこれと理屈で考えて行動するというよりも、複数の事を同時に気にかけ対応することへの 「慣れ」 だったように思います。

また、そのような経験の中で得られたのは、「真剣に相手の話を聞きながらも、その場を楽しみ、気を使える」 ということだけではありません。

上司との食事というやや緊張を伴うシチュエーションの中でも 「場を俯瞰する力」 や 「場の空気を掴む力」 を得られたと感じています。

これは上司とだけではなく、学生とのコミュニケーションについても大変有益な能力だと感じています。

「場を俯瞰する力」 「場の空気を掴む力」 さえ得られれば、学生とのコミュニケーションも相当楽になるし、自信にもなることでしょう。 自信がつけばさらに、コミュニケーション上手になっていくものです。

分かりやすくサッカーに例えてみましょう。
通常、サッカーの練習では、ドリブル、パス、シュートなど一つの動作について個別に練習を繰り返すと思います。

もちろんそうした個別の技の力量も大切ですが、それ以上に大切なのは、試合中にパスを出すべきかシュートを打つべきかといった、素早く最適な判断を行うための広い視野や冷静さ、フレキシブルな対応力ではないでしょうか。

学生とのコミュニケーションにおいても同じことがいえると思います。

「今日この学生にはこの話と、この確認をしなければいけない」
「志望動機を問われたら、なんと答えれば学生は納得してくれるのだろう?」

といったように自身の行動をその都度個別具体的に意識し過ぎてしまうと、当時の私のように “余裕のなさ” が学生にも伝わり、かえって学生を委縮させてしまいますし、自分自身もかなり疲れてしまいます。

「考える」「悩む」より「慣れる」ことが大切

最近、私は当社にインターンシップに来ていた数人の学生に対して、上司が私におこなったことと同じことを試しています。

飲み会等で彼らに、 「話を聞く」 「周囲に気を使う」 「食事を楽しむ」 といった複数の動作を同時におこなうよう、折に触れて注意を促してみました。

もちろん最初は、彼らも当時の私と同じように上手くいかずアタフタしていました。
しかし何度か会ってコミュニケーションを重ねていくとやがて、皆しっかりと対応できるようになりました。

採用担当者も 「(仕事のために) 場を俯瞰する力を得る」 ことを目的化してはいけないと思います。

「場を俯瞰する力を得ないといけない!」 と意識すればするほど、さらに “余裕のなさ” を助長し、本当の目的である 「成長」 からは遠ざかってしまうためです。

まずはワンクッション置いて、食事会や懇親会など業務からは少々離れた場で 「話を聞く」 「周囲に気を使う」 「食事を美味しく食べる」 といった複数の事をバランスよくおこなうことができるようになることを目的として試してみてほしいと思います。
堅苦しく考えるのではなく、あくまで多くの経験の中で慣れ、体得していくつもりでいるとよいでしょう。

初めはぎこちなくても、繰り返し経験することで場を俯瞰する力を得ることができると、学生とのコミュニケーションもよりスムーズになり、 「楽しい」 と感じられるようになるはずです。

「楽しい」 と感じられることはとても重要なことです。
自分自身が楽しんでいると、それは相手にも伝わり、会話も自然と弾みますよね。

私自身がそうしたように、自社の内定者に対してこれを試してみるのもよいと思います。
時期的には内定式以降がよいと思いますが、何度かコミュニケーションを繰り返すことで内定者の 「場を俯瞰し柔軟に対応する力」 はかなり向上するのではないでしょうか。

入社前の時点でそのように俯瞰力・対応力を向上させておけば、入社後には社内の各部署から 「今年の新入社員はレベルが高いね」 という声があがり、皆さん自身の評価につながる可能性もあることでしょう。

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