小宮 健実(こみや・たけみ)
2015/07/14
イントロダクション
皆さん、こんにちは。採用・育成コンサルタントの小宮健実です。
いよいよ4カ月後ろ倒しとなった採用スケジュールでの、初めての8月を迎えます。
今年は多くの企業がこれまでと異なるプロセスやスケジュールで採用活動を行っていると思います。
うまくいっているのか、それともうまくいっていないのか、モヤモヤした気持ちを引きずりながらの仕事が続いていたと思いますが、それは皆さんだけではなく、学生も暗中模索だったはずです。
そして8月の終わりにはようやく霧が晴れ、皆が立っている地面が姿を現すでしょう。
とはいえ8月以降も、採用市場について予測することはとても難しいといえます。
それゆえ採用活動を長引かせたいとお考えの方は少ないはずで、8月に最善を尽くし、霧が晴れてきた時に必要なアクションがあれば迅速に対応したいと願っていらっしゃることでしょう。
それはつまり、どの企業も 「8月の過ごし方」 に何らかの意図を持っていなくてはならないことを示しています。
そこで今回は8月にとるべき3つの戦略について、これから内定を出す企業と既に内定を出している企業に分けて、述べてみたいと思います。
これから内定を出す企業の3つの戦略
まずは、これから内定を出す企業の8月の乗り越え方について、述べていきたいと思います。
皆さん既に実感を伴っていらっしゃることと思いますが 「4カ月繰り下げ」 が全体として招いたことは、選考時期の繰り下げではなく、4カ月間の延長、間延びでした。
8月以前に内定出しを終えている企業も決して少なくない中、これから内定を出すという立場は、従前の考え方を踏襲するならば、極めて不利ということになったと思います。
もちろんそういった考え方が180度変わったわけではありません。
しかしながら 「学生は (ある時期までなら) 好きなだけ企業を選んでいいとするべきだ」 という方向に、全体の考え方が進んでいるようにも感じます。
内定を持っていない学生のみならず、内定を持っている学生でも、8月以降も引き続き就職活動を続ける学生は少なくないでしょう。 まだ選考が開始されておらず応募できなかった企業がたくさんあることを、学生も知っているからです。
最近 「おわハラ」 が新聞などで話題となっていますが、今年のように企業の選考スケジュールが極めて不揃いとなった中では、 「拘束」 「承諾書」 というもので内定者をつなぎ止めておこうとする考え方は、 「学生に十分に企業を選んでもらっていない」 というネガティブな反応で捉えられると思います。
ですから、これから内定を出すという企業はそのようにつなぎ止めようとするのではなく、 「最後まで自分に合う企業をよく選ぶべき」 という正論を折に触れて語っていくとよいでしょう。
学生にそのような考え方が浸透すればするほど、状況もよくなることでしょう。
婚約者がいるのに新たな人にときめいてしまうのは恋愛ドラマの典型的なパターンですが、どうしてそのようなことが起きてしまうかといえば、新たな恋人候補は、今まさに自分の目の前にいてハートを高揚させる新鮮な存在だからです。
ハートの高揚したその瞬間に胸に手を当てて考えさせれば、十分に有利な立場にも立てるでしょう。
つまり、これから内定出しをする企業は、数カ月前に別企業からプロポーズをされた時を超えるフレッシュな高揚感を学生に与えることができるのか否か、そこが勝負だと思います。
それを踏まえ、私が考える、これから内定出しをする企業が8月にとるべき戦略は以下の通りです。
● これから内定を出す企業 が8月にとるべき3つの戦略
- 1. 選考・内定出し・面談・フォローの一体化
- 2. 全体のプロセスを考える
- 3. 進路決定について応募者任せにしない
では、それぞれについて説明していきましょう。
1. 選考・内定出し・面談・フォローの一体化
選考からフォローの開始までは、間を空けることなく接触し続けることが大切です。
通常では、全体の選考プロセスが終了したら全員に面談を実施するといったように、プロセスを分断して設計することが多いと思いますが、それでは接触のタイミングにムラが発生してしまいます。
8月の短期決戦に際しては、応募者一人ひとりに向けたスケジュールを作成し、つねに目の前に立ち続け、絶え間なく新しい刺激を与え続けることが重要です。
既に内定を出し終えている企業は、恐らく8月早々に拘束のためのイベントを行うでしょう。
イベントの内容は知る由もありませんが、自由を奪うだけの本質的ではない拘束には、心が冷め易いものです。
それに対して、後から内定出しとなるこちらは選考プロセスを通じて潤沢な接触時間を設けることができるのですから、それこそ合格の通知などによって、新鮮な刺激や高揚感を与えることができます。それをぜひ、有効に利用しましょう。
2. 全体のプロセスを考える
後から登場して先に登場していたライバルに勝つには、ライバルを上回るインパクトが必要です。
「あの会社に内定をもらった時はもうここでいいと思ったけど、こっちの会社の内定のほうが嬉しい」 といった感情を抱いてもらうことが目標です。
しかしその演出は、合格通知を派手に行うとか、そういうことではありません。
学生にとって、就職活動は人生を左右するドラマティックなイベントです。
だからこそ、皆さんは傍観者や上から目線のスタンスであってはいけません。
応募から内定、内定受諾から内定者同士の絆の構築まで、応募者一人ひとりのストーリーを一緒に体験し、ドラマの共演者になることを心掛け、感情を共有することが大切です。
結局のところ、1で述べたことを実践すると、個々人としっかりと向き合って仕事をすることになるので、応募者一人ひとりに対する思い入れが強くなることと思います。
採用活動を単なるオペレーションと思わず、一人の学生のキャリアに関わっているのだという責任や想いをしっかりと持ち、表現していけばよいと思います。
3. 進路決定について応募者任せにしない
8月のこのタイミングでは、進路選択を応募者任せにせず、こちらから進んで学生の意思決定を支援することが、接触密度を高めることにもなり効果的だと思います。
普段はあまりおすすめしていませんが、選考中に、 「迷っている企業があれば教えてください。どのような観点で迷っていますか?」 と聞いてしまうのも、ありだと思います。
ただしこの質問の目的は、学生が迷っている観点について自社をPRすることではなく、あくまで同じ立場で共感し、相談に乗ることです。
それができずに自社のPRばかりをしてしまうと逆効果 (旧態依然とした他社を断らせるためのプレッシャー) になりかねないので、注意が必要です。
既に内定を出し終えている企業の3つの戦略
では、既に内定を出し終えている企業は、どのように8月以降を乗り越えればよいでしょうか。
もし 「2016年採用は内定者数も揃ってとっくに終息している。うちは安泰だ」 と思っているならば、よほど採用ブランドの高い企業でない限り、8月前に一度気を引き締めておいた方がよいでしょう。
まだ競合が出揃っていない状態で、勝利の余韻に浸ってはいけません。
多くの企業は8月早々に、内定者向けアクションを予定していることでしょう。
ただ、進路を決めてくれたと思っていた内定者の一部が気づかぬうちに辞退するということが、どの企業においても起こり得ると思います。
先ほどの、これから内定出しをする企業にあてた戦略の中で、私は 「拘束」 「承諾書」 というもので内定者をつなぎ止めておく考え方は通用しづらい、と述べました。
仮に契約的な意味付けを重くし、法的な議論を持ち出しても、今は社会的に共感を得られないでしょう。
そのようにプレッシャーをかけてつなぎ止める方法ではなく、内定者と信頼関係を個別に構築し、一緒に歩を進めることでつなぎ止める事が基本になるというのは、私がこれまでのコラムで述べてきたことと同じです。
それらを8月というタイミングにどう活かすかが、大事なポイントになってくると思います。
そこで、私が考える、既に内定出しを終えている企業が8月にとるべき戦略をご紹介したいと思います。
● 既に内定出しを終えている企業 が8月にとるべき3つの戦略
- 1. 内定者を未来に向かって歩き出させる
- 2. イベントに頼らない
- 3. 情報ソースを多方面に開いておく
1. 内定者を未来に向かって歩き出させる
内定者への話題の振り方や与える課題を活用して、学生というポジションから一歩前進させ、 「来年4月 (から始まる新社会人生活) に向かってスタートを切った」 と認識をさせることが大切です。
「他の友達はどう?まだ就職活動してる?」 というような 「過去から今」 の視点でコミュニケーションをとるのではなく、 「 (就職活動から切り替えて) 将来のためにすべきことがたくさんあるよね!」 という未来視点で接することで、結果的に内定者を就職活動から遠ざけることができます。
おすすめは、面談の中の 「将来の成長・活躍イメージ」 の延長線上の話として 「では今何をすべきか」 という課題を設定し、そのフォローをする事です。
考えさせるだけではなく、実際に行動をとらせることが大切です。
2. イベントに頼らない
例えば8月に内定者懇親会を実施予定だったとします。
その実施目的に 「拘束のため」 という本音があるなら、落とし穴にはまってしまう可能性があります。
内定者懇親会などのイベントを実施することで、 「自分達は内定者を守れる」 という誤解が生まれやすいということです。
実際のところ、1カ月間すべて拘束でもしない限り、その作戦は功を奏しません。
もしも8月に自社の内定者が他社の選考に参加してしまっていたら、接触頻度も密度も、他社の方が充実したものになるからです。
ですからイベントで拘束し、内定者の物理的な行動を妨げて守るという考え方は、それほど有効ではないのです。
ただ、私はイベントを否定しているわけではありません。
イベント本体だけを内定者の拘束や惹き付け施策として頼りにするのではなく、イベント前後の日常生活も含めて、コミュニケーションを意図的に設計すれば効果が期待できます。
例えば出席連絡、グループ分け、課題の連絡、当日の希望の聞き取り、感想のやり取りなども、すべてちょっとした工夫で、頻度も質も望ましいコミュニケーションにすることができるでしょう。
3. 情報ソースを多方面に開いておく
8月は情報戦でもあります。必要なアクションを迅速に取るためには適切な情報が必要です。
例えば以下のような観点で、情報の入手に努めるとよいでしょう。
・内定者本人からの情報
内定者との関係構築は、内定者をよく理解して共感することから始まります。
一方で、内定者が後から辞退を申し出てくるようなケースでは、内定者がその予兆となる情報を発信していることが少なくありません。
面談は最も有効な情報入手の場ですが、それ以外にも折に触れプロファイリングをする事が、予兆の認識につながります。
・本人の周辺からの情報
本人の周辺にいる人から情報を得ることも可能です。
友達 (内定者グループ)、親、教授などがその候補です。
内定者でグループを組ませ情報交換させると、辞退をしてくる学生は消極的なことが多いです。
また、保護者と面談を行うと、それまでこちらが知らなかった、本人が気にしている意外な情報を得られることがあります。
・採用プロセスの再開に向けた情報
内定をこれから出す、つまり選考プロセスを走らせている企業に比べ、内定出しを終えている企業の方が、辞退者が出た際のインパクトが大きいことも考えておかなくていけません。
大げさにいうと、もう一度選考プロセスを再開させる必要が生じるかもしれません。
その際に、上司から指示がなかったからと何も情報収集していないということではいけないと思います。
そのような状況が明日にでも発生することを想定し、どのようなアクションを取るべきか、普段からつねに情報収集を欠かさないことが大切だと思います。
例えば、8月は留学生の一時帰国や公務員試験が行われている時期でもあります。
自社独自の企画を立てることも可能だと思いますが、それぞれにデッドラインは存在しています。
採用広報の支援企業を利用するのであればあらかじめ情報を入手し、構想を持っておくことが重要でしょう。
以上、今回は来る8月にとるべき3つの戦略について、これから内定を出す企業と、既に内定を出し終えている企業に分けて述べてきました。
競合他社も私のコラムを読んでいたら似たような戦略になるかもしれませんが (笑)、手を尽くして最善を待つことに変わりはありません。よい成果が出るように、皆さんを応援しています!
- 小宮 健実(こみや・たけみ)
- 1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
「内定者フォロー」
でよく読まれている記事
-
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます
おすすめの記事
お電話でのお問合わせ
0120-98-3454
受付時間 9:00〜18:00(土日祝祭日を除く)
※電話内容については、正確を期すため録音しております。