小宮 健実(こみや・たけみ)
2014/06/10
イントロダクション
皆さん、こんにちは。採用・育成コンサルタントの小宮健実です。
私が今日取り上げようと思うのは、新入社員です。新入社員が入社して3カ月、6月末をもって試用期間を終えるという企業も多いのではないでしょうか。
今の時期、まさに新入社員に対する評価の声が挙がってくるころだと思います。期待に応え想像以上に頑張っている社員がいる一方で、採用活動のときに高い評価をされていた応募者が、いざ社員になったらまったく評価が異なってしまった、などという話もよく耳にします。
入社前と入社後で評価が異なってしまう。よくある話ですが、重要視しなくてはいけないことだと思います。もう学生ではない、つまり自社にとってゲストではない一社員です。将来にわたるキャリアを預かっていくとともに、確かな会社の戦力になってもらわなくてはいけません。今はよくある些細な話でも、笑い話では済まない大きなロスにつながってしまうかもしれません。
なぜ、採用活動のときと大きく印象が異なるようなことが起こってしまうのでしょうか。
今回はいくつかの観点から、それが起こる構造を考えてみたいと思います。そしてその結果、自社の14年卒入社の新入社員が皆、元気になり、15年卒入社学生の内定者フォロー、16年卒入社学生の採用活動の設計によい影響がもたらせるように考えていければと思います。
採用時の評価は正しかったのか?
採用活動のときはすこぶる高い評価だったのに、入社後あらためて接したら、別人のようだった。そのとき、もしも採用時の評価に疑問を持ったとしたら、正しい評価が行えなかった理由は、おそらく以下のいずれかに求めることができます。
1.選考の設計が適切ではなかった
2.選考の設計は適切だったが、面接者がそれを遂行できなかった
3.選考の設計が適切ではなく、面接者もそれを遂行できなかった
人材の評価を行う際、それが適切に行われるにはふたつの大事な要因があります。
一つは、そもそもどういう人を採用したいのかという、求める人材像につながる選考の設計の話(1のケース)。もう一つは、その設計に基づいて実際に応募者を評価する面接者の力量の話です(2のケース)。このふたつがどちらも機能していない場合が、上記3のケースということになります。
前者は、具体的には評価の観点や基準の話です。
例えば、自社内ではコミュニケーション能力の高い人が活躍している傾向があるのに、採用活動ではひたすらリーダー経験のある人を評価していたらどうでしょうか。リーダーシップにはご存じの通り、いくつかのスタイルがあり、実際のところ、「リーダー経験」イコール「コミュニケーション能力が高い」とはいい難いところがあります。コミュニケーション能力が入社後の活躍の鍵であれば、そもそもコミュニケーション能力を測る選考プロセスを用意した方が適切だと考えられます。
後者は、面接者に適切に評価を行う力量がないと、結果的に主観的な判断で応募者を評価してしまうという話です。面接者の仕事を適切に行うには、第一に自社が求める人材像をしっかりと念頭に置いた上で、質問技法や評価技法を獲得している必要があります。
前者の改善に関しては、他コラムなど選考設計の話を、ぜひ参考にしていただければと思います。
後者の改善に関しては、面接者トレーニングの実施が基本になります。
面接者に毎年新しい方が加わるようであれば、そのフォローも行っていく必要があります。また逆に、過去に一度トレーニングを受けた面接者が、段々と慣れから主観的な面接を行ってしまうこともあります。面接者は、会社としての客観的なルールに基づいた評価を実践してもらう仕事であることを、よく浸透させておく必要があります。
では、そのように選考設計や面接者の評価のブレから、思いがけず入社してしまった社員が仮にいたとしたら、どうすればよいでしょうか。
答えはもちろん育成です。
基本的に成果創出につながる能力、いわゆるコンピテンシーは、行動の質や知識、スキルによって構成されています。いい方を変えれば、育成可能な要素で構成されており、成果創出人材に育成すると腹を括ることが大切です。
会社によって実施の仕方は異なるかもしれませんが、「採用にベストを尽くす」、しかしそれで完璧なことはないので(最初から成果創出人材ではないので)、「採用した人材は育成する」。この原理原則は変わらないのです。
さて、ここまでは設計もしくは面接者の力量により、採用時の評価が正しく行われなかった場合について話してきました。では、採用時の評価は適切であったのに、入社後の評価が変わってしまうことはあるのでしょうか。
次の章では、それが起こる場合について話していきます。
採用の評価が高い=活躍できる?
採用活動では評価が高かった、つまり、学生時代の取り組みではとても質の高いことをしていたのに、企業に入ってからはそれが再現されないという場合、その理由はどこにあるのでしょうか。
例えば、採用活動の評価項目に「主体性」があり、ある応募者は、面接で学生時代の取り組みに高い主体性が発揮されていたと評価されて入社したとします。しかし入社後、その主体性が発揮されないといったケースがあったとします。
理由はいくつか考えられますが、その一つに「場の難易度」の観点があります。
例えば、学生時代は学生どうしの集まりの中で「主体性」を発揮するのに、それほど難易度が伴わなかった。それが会社では、年齢も立場も異なる人の集まりの中で「主体性」を発揮しなくてはならない。つまり「場の難易度」が上がったために行動が起こせないわけです。
一般的なコンピテンシーの考え方では、過去にできた振る舞いは、場が変わっても再現できると仮定します。しかし、実際に「場の難易度」を乗り越えて行動を起こしていくには、小さくても一つ一つ、本人の成長が必要なのです。
そこで新たなポイントになってくるのが、職場が「新入社員が成長できる職場になっているかどうか」ということです。成長がもたらされないと4月以降、気を張って走り続けてきた新入社員も息切れを起こしかねません。その結果、まわりからの評価が下がったり、本人のモチベーションが下がったりしてしまいかねません。
育成のヒントは「足場かけ」
社員の育成で私が思い出すのは、教育心理学者のヴィゴツキーが「足場かけ」と呼んだ概念です。
「足場かけ」とは言葉の通り足場をつくることで、学習者が自分でできるところについては介入せず、一人ではできないことを手助けすることを指しています。足場かけがあれば遂行できるレベルの課題が与えられたとき、おのずと人は成長するとされています。
つまり、できることは一人でさせる。できないことはさせない。足場かけ(一人ではできないけれども少し支援すればできること)は、成長のために積極的に用意する。新入社員は、それぞれがどのようなこと(仕事)であるかしっかり把握できている。そのような職場であれば、新入社員は成長できるのだと思います。
新入社員が来て、3カ月が経ち、もう昔から一緒にいたような気持ちになると思います。「なんでも一人でできるだろうし、やってほしい」という気持ちになるのが普通です。ただ、足場かけは、甘やかすことではなく成長に必要な、合理的な支援です。採用のときに高評価だったその社員は、確かに学生時代にはできていたのです。でもスーパーマンではなく、成長が必要です。採用活動と同じように見極め、育てていきましょう。
- 小宮 健実(こみや・たけみ)
- 1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
「採用力向上」
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