
曽和 利光(そわ・としみつ)
2013/09/24

イントロダクション
こんにちは。組織人事コンサルタントの曽和利光です。
今回は、「どんな人を採用担当者としてアサインすべきか」と悩んでおられる経営者、人事責任者の皆さんや、実際に採用担当者になることが決まり、どうすればよいのか迷っている皆さん向けに、今回は採用担当者の適性について私見を述べたいと思います。
そもそも、私自身、向いているのかどうかいささか不安ですが–正直に申し上げますと、配属当初は向いていなかったかもしれません–、だからこそ、昔から「スーパー採用パーソンと自分との違いはどこなのだろう」と考えてきました。採用責任者というよりは「プレイヤーとしての採用担当者」の適性に絞ってお話しします。
まず、採用担当者には大きく分けてふたつの業務があります。いうまでもありませんが、「ジャッジ」(自社の仕事や文化への応募者の適性を判断する業務)と、「フォロー」(応募者に自社の魅力を伝えて志望度を高める業務)です。そして、このふたつの業務のどちらが得意かによって、よい採用担当者にもふたつのタイプがあると考えます。皆さんの会社の採用課題の特性に応じて、この「ジャッジがうまいタイプ」(以下、ジャッジタイプ)と、「フォローがうまいタイプ」(以下、フォロータイプ)のどちらが、より必要なのかが決まってきます。
もし、自社の採用課題が、多数の応募者の中から適性の高い人材を厳選するということにあるような企業であれば、ジャッジタイプの採用担当者の必要度が高くなります。応募者が多い企業や、ポテンシャル採用重視企業などが当てはまります。
一方、自社の採用課題が、見つけ出した適性の高い人材を、自社に入社してもらえるように動機づけることにあるような企業であれば、フォロータイプの採用担当者の必要度が高くなります。自社の採用ブランドで来る人材以上の採用をしようとしている企業や、辞退率の高さに悩んでいる企業などが当てはまります。
難しいのは、このふたつの特性が、なかなか同一人物の中には存在し得ないところにあります。もちろん両方の側面を併せ持つ、まさに「スーパー採用パーソン」もいると思います。しかし、実際にはどちらかが強く、どちらかが弱いのが通常です。ですから、必要な特性をあれもこれもと欲張るのではなく、自社の採用における課題の優先順位を見極めた上で、どちらかのタイプの能力が突出した人材を採用担当者として配置することをお勧めします。
ジャッジタイプと
フォロータイプの違い
まず、ジャッジタイプについて説明します。
人を評価するという難しい業務に長けるためには、冷静沈着に、客観的に物事を見ることができなくてはなりません。
どんな人でも、いろいろな先入観や思い込みを持っています。人を見るとき、これまでの人生で出会った人々のイメージから生じる「偏見」がどうしてもつきまとうものです。「こういうタイプの人は、これまでこうだったから、きっとこんな人だろう」と考えるのが普通です。しかし、このように目の前の人を過去のタイプに「すぐ」当てはめて、「こんな人だろう」と決めつけてかかる人は、ジャッジ業務にあまり向いていません。
というのも、「分かりやすい人」を見抜くことは、当然ながら誰にでもできることであり、企業の採用における競争優位性を高めることにはつながりません。採用力を高めるジャッジ者とは、「分かりにくい人」を見抜ける人です。普通の人であれば、「こういう人だろう」という偏見で判断するところを、冷静に客観的に事実のみから判断して、よいところを見いだす力があれば、他の会社では採用できないような人を探し出すことができるのです。
また、面接などを通して得た応募者の情報をきちんと分類整理して、最終選考者などの上位選考者にきちんと伝える説明能力(アカウンタビリティ)も重要な特性です。見いだした「分かりにくい人」は、分かりにくいがゆえに、上位選考者に「どんな人なのか」を的確に伝えなくてはなりません。そうでなければ、せっかく見いだした人が次回選考以降であっさりと落とされてしまうからです。
説明能力は、さまざまな能力に分解されます。「人を表現する語彙(特性や能力や志向などの分類フレームや言葉)をたくさん知っていること」や「人という曖昧なノイズだらけの存在から取捨選択を行って、その本質となる特性を抜き出せる構造把握能力」、「その人の持つ特性の間の関係性などを論理的につなぐことができる力」などです。ジャッジタイプとは、「クールでロジカル」な人といえるかもしれません。
次に、フォロータイプについて説明します。
「人を動機づける」という、これまた難しい業務に長けるためには、人から信頼される力や、人の心を動かすことのできる情熱を持っていなければなりません。
私は、「人はされたことを返そうとする特性を強く持った生き物である」と思います。信頼されたり、期待されたり、愛されたりすれば、自分も相手に対して、信頼して、期待して、愛そうとするものです。
ここで言う「信頼」とは、先の「評価」とは全く異なる概念です。面接でのジャッジのように「これこれこういう事実があるから、彼/彼女はこうするだろう」と評価するということは、信頼よりも計算や予測に近い行為です。評価をしようとする姿勢は、信頼を打ち消すことがあります。
例え話で説明すると、子どもは保護者の愛や信頼を試すことがあるそうです。何か問題を起こしてみて、保護者の様子をうかがうのです。問題を起こした際に「信頼していたのに」と怒る保護者に対しては、子どもは「信頼されていなかった」と感じます。計算や予測ではない「本当の」信頼をしていたのであれば、最初に出てくる反応は「あの子がそんなことをするはずはない」というようなものでしょう。
このような「保護者が子どもに対して持つ信頼」にも似たような信頼や期待を、応募者に対して抱くことができるかどうか。それが、応募者から信頼され、期待されるための採用担当者の必要条件です。
加えて、「人の人生に対して、影響を与えてしまうことに対する覚悟を持てること」も大事な特性です。人を動機づけることは、とても責任の重い業務です。もし、あのとき、応募者に影響を与えることがなければ、彼/彼女はきっと違う人生を歩んでいただろう。そういう重い仕事を引き受けて、極端に言えば、「一生背負っていく覚悟があるかどうか」です。長く採用担当者をやっている方は皆、同じだと思いますが、私も20年近くたっても、自分が採用に関わった方々との関係は切れません。たとえ長い間離れていても、それぞれの人生の節目でひょっこりと出会ったり、連絡があったりして、ずっと関係は続くのです。
ところが、実は、前段のような「人を信頼しようとする心持ちの優しい誠実な人」であればあるほど、相手のことを気遣うあまり、この「覚悟」が持てないことも多い。就職という人生の選択の重さを分かっているからこそ、恐れ多くて、相手の人生に責任など持てない。だから、「動機づけることなんてできない」というわけです。そういう担当者は、自分に責任が及ばないように、客観的な事実ばかりを提供し、「選ぶのはあなたです」と応募者を突き放すことがあります。それが誠実な行為であると考えているからです。
しかし、私はそれに対して、少し違う意見を持っています。人と人とが出会った際に、どんなに気を付けたとしても、影響を与えずにいることなど不可能ではないかと思うのです。むしろ、そのように多少なりとも影響を与えているのに、「私は影響を与えていない。だから、相手の人生には何の責任も取りません」という態度の方が、やや不誠実ではないかと思うのです。もちろん、手練手管、口八丁手八丁で、だますように誤った道に誘い込もうとしているのであれば、論外です。しかし、自社の将来に「本当に」希望を抱いていて、応募者にも「本当に」適性を感じているのであれば、「動機づける勇気」を持ってもよいのではないでしょうか。
これが私の思うフォロータイプの特性ですが、ジャッジタイプと対比するなら、「ホットでエモーショナル」な人といってよいかもしれません。
採用チームは
会社の雛型であるべき
さて、前章までで、採用担当者のふたつのタイプについて説明してきました。最後に、「採用チーム全体として見た場合に、どのようなチームにすべきか」についてお話ししたいと思います。
結論から申し上げると、「採用チームは、会社全体の雛型であるべき」と考えます。ここで言う「雛型」というのは「縮小型」の意味で、「会社全体が必要とすべき人材ポートフォリオの多様性と似たような多様性を持つチームにするべき」ということです。もし、会社を、参謀タイプや根性タイプ、人気者タイプなどを集めた構成にしたければ、採用チームもそのような人材タイプで構成しなければなりません。
前提となる考え方は、「人は自分と似た者を高く評価し、好意を抱く」ということです。このため、応募者と採用担当者が「似た者同士」であるかどうかに、採用活動はとても大きな影響を受けることになります。
ジャッジにおいては、「似た者同士」であれば、高く評価し合うことになります。もし、採用チームが特定の人材タイプに同質化していれば、自分たちと同じような人材タイプばかりを高く評価することになり、会社はさらに同質化していくことでしょう。
同質化と多様化の程度は、会社のステージや業界によって異なると思います。スタートしたばかりの企業は同質である方がマネジメントしやすいかもしれませんし、歴史ある企業は変化に対応するために、多少のマネジメントコストを払ってでも、人材は多様である方がよいかもしれません。ですので、一概には言えませんが、昨今の変化がどんどん激しくなる一方の世の中を考えれば、一般的には、企業組織は同質化よりも多様化の方を志向しているのではないかと思います。そうであれば、採用チームが同質化していることはとても危険です。
よくある例としては、「受容性」の問題があります。人事を志望する人は、あらゆるものを受け止め、受け入れる受容性の高い人が多いようです。このために、あまり意識しなければ、自分たちと同じ受容性の高い人材を高く評価し、多く採用していく傾向が見られます。そういう傾向が続くと、組織の受容性が必要以上に高まってしまいます。もちろん多様性を受け入れるためには、受容性は大切な要素ですが、過剰になりすぎると「なんでもあり」の組織になり「こうでなくてはならない」という「執着心」の欠如につながります。目標に対する執着心が低くなれば、組織の足腰が弱くなり、業績の低迷にもつながります。
フォローにおいての影響は、「似た者同士は好意を持ち合う」ということは、裏を返せば「異なるタイプには比較的好意を持ちにくい」ということです。いろいろなタイプを採りたいのに、同質な人材を採用チームに揃えてしまうと、そのチーム(≒会社)に好意を抱く人が偏ってくるということです。
昔、ある会社で試したことを例にお話しします。その会社には、内定者が毎年どうしても同じようなタイプばかりになるという課題がありました。本当は会社の成長に合わせて、さまざまなタイプが必要であるにもかかわらず、です。なぜ、そのようなことになるのかを調べたところ、「面接担当者のタイプがそもそも偏っていることが問題ではないか」ということになりました。応募者が、自分と異なるタイプの面接者と当たったときの辞退率が特に高かったからです。しかし、それまでは同質化を志向して、一枚岩の組織をつくってきたことで成長した会社でしたので、面接担当者のタイプが同じなのは、ある意味、当たり前のことでした。
そこで、全社を見渡して、少ないけれども存在している「これから採用したい異質人材タイプ」を面接担当者に抜擢し、人材タイプごとに選考コースを分けて、応募者が自分と同じタイプの面接担当者と当たるような仕組みにしました。すると、各コースにおける辞退率が減り、最終的に理想としていた人材ポートフォリオに近い人たちを採用することができたのです。
このように、「会社をこのような人材ポートフォリオに変えていきたい」と思うときには、きちんと意識して、採用担当者や面接担当者を多様な人材で揃えなくてはなりません。
以上、今回は、「自社に最適な採用担当者や採用チームを置くには、どう考えればよいか」についてお話ししました。大事なことは、それぞれの会社の置かれた状況によって、必要とされる担当者やチームは違うし、また状況が変化すれば変わっていくということです。
事業戦略を実現するために必要な人材にとって、採用チームや担当者は会社の「窓口」です。ぜひ、事業戦略の変化に応じて、会社のステージの変化に応じて、臨機応変に見直し、最適化していくことをお勧めします。
- 曽和 利光(そわ・としみつ)
- 1995年(株)リクルートに新卒入社
、人事部配属。
以降、一貫して人事関連業務に従事。採用・教育・組織開発などの人事実務や、クライアント企業への組織人事コンサルティングを担当。リクルート退社後、インターネット生保、不動産デベロッパーの2社の人事部門責任者を経て、2011年10月、(株)人材研究所を設立。現在は、人事や採用に関するコンサルティングとアウトソーシングの事業を展開中。

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