2013/01/15

「無駄になった面接者トレーニング」―面接者の評価がブレる本当の原因とは―

小宮 健実(こみや・たけみ)
1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。

イントロダクション

皆さん、こんにちは。採用・育成コンサルタントの小宮健実です。

この時期、私のところによくくる仕事の依頼が、面接者トレーニングです。面接者の評価のブレ、これは多くの企業の共通した課題のようです。問題が表面化していなくても、面接者の評価の質やその均質性について、不安を持たれている採用担当者の方は少なくないでしょう。

もしも、面接者の評価に問題があると考えたらどうでしょう。母集団形成から始まり、今まで長い時間をかけて築き上げてきたものが、すべてそこで失われてしまいます。そのことによって、将来会社を支える人材が採用できないとしたら、その影響は計り知れません。

そこで、その問題を解消するべく、面接者トレーニングの導入が検討されます。そのアプローチ自体は、とても意味あるものといえます。しかし、私が面接者トレーニングを依頼された場合、必ず「あること」について確認をさせてもらっています。その結果によっては、面接者トレーニングを実施する前に、「その作業」を済ますことをお願いしています。

「それ」がしっかりしていないと、面接者トレーニングを行う意味が半減してしまうからです。そして、面接者の評価がブレる本当の理由は、そこにあると考えています。

「それ」がいったい何であるのか、今回はお話をしていきたいと思います。

では、残念ながら面接者トレーニングの効果を十分に生かせなかったB社の例を見ながら、面接者の評価がブレる本当の理由を見ていきましょう。

話はちょうど1年前、B社の採用担当者Cさんが、現場の社員にこんなことをいわれたことから始まります。

面接者によって評価がブレる!

「今年うちに配属された新入社員のT君だけどさ、うちでもそれなりに応募があって選抜したって聞いてるけど、それでどうして、彼が合格になっちゃったの?」

「なっちゃったって、どういうことですか。彼だって、ちゃんとしっかり面接通過してますよ」

「そうだよね。じゃあ面接者がおかしいのかも。いやね、どうにも覇気がないし、主体性なんて微塵もない。遅刻は多いし、そもそも社会人として、まったく自覚がない感じなんだよね」

「そうですか……」

僕はTの面接評価を見てみることにした。

うちの採用選考は、筆記試験の後に面接を2回行っている。1次面接と呼ばれる最初の面接は、人事と配属現場から課長以上の社員が1人ずつ面接者として入る。2次はすなわち最終面接で、取締役クラスが面接者だ。

最終ではほとんど落としていない。よって、応募者が内定を勝ち取るには、1次面接が肝になっている。

うーん、面接者は人事からはA課長で、現場からはH部長か……。Aさんはまだ30代で、今年課長になったばかり。給与制度の見直しを任されている人事の若手のホープだ。もう一人のHさんは、社歴30年の技術系ベテラン社員で、採用のシーズンには必ず面接者をお願いしている人だ。

とりあえず、Aさんに聞きにいくか……。

「Aさん、今年入社したTの、面接の時の評価について聞きたいんですけど」

「ああ、Tね。覚えてるよ」

「入社してからの評価があんまりよろしくないんですよ。それで……」

「ああ、そうだろうね」

「え? というと?」

「オレの評価はよくないよ。でもH部長がこういうタイプは現場で化けるからっていってさ、君には現場経験がないから分からないだろ? って話になって、それで何もいえなかったんだ」

「そうですか……」

「ぶっちゃけ、うちの会社も最近成長して、応募者が増えてるよね。ここらで、きちんと面接者トレーニングとか、やった方がいいんじゃないか?」

「なるほど、面接者トレーニングですか」

「面接者の目線を、人事からきちんと揃えるべきなんだよ」

「なるほど」

僕はさっそく、面接者トレーニングを実施することにした。外部の専門家に来てもらって研修をするのだ。時間は3時間。費用もそれなりにかかる。ここは慎重に、まずは自分が受けてみることにした。


面接者トレーニングで行っていること

「ふむ。なるほど、これは勉強になるな」

面接者トレーニングの内容はこんな感じだった。

『面接における質問技法』

面接にも種類がある。面接によって、確認型の質問と情報収集型の質問を使い分けるのだ。確認型の質問はイエス、ノーで答えられる質問形式でもいいけど、情報収集型はオープン・クエスチョンといって、「どうしてそうしたのか」「どんなふうにしたのか」というような、イエス、ノーでは答えられない質問の仕方を心がける。

『求められる態度と心構え』

面接者にはふさわしくない態度がある。足を組んだり、腕組みはしないこと。横柄に見られると、それだけでネットに書きこまれることもある。こちらも応募者を選んでいるが、応募者もまた会社を選んでいるのだ。

『心理的な注意事項』

人は最初の印象がよいと、その後の会話で得た情報はなんでも、その印象のよさを補強しがちである。これをハロー効果という。その他、評価が中心に寄る中心化傾向、自分と同じ経験をしていると評価が甘くなってしまう対比誤差、などなど。

その他、セクハラや個人情報の保護の話などもあって、3時間はあっという間に終わった。僕が特に大事だと思ったのは質問技法で、質問を上手に繰り返す「深掘り」と講師が呼んでいたスキルだ。隣の人と練習したりして、面接者としてのスキルが身に付いたような気がする。やっぱり、いくら現場経験があるとはいえ、面接者をお願いするなら面接者のスキルも身に付けてもらうべきなのだ。

僕は早速、面接者トレーニングを導入した。H部長にも参加してもらった。ベテラン社員に研修参加をお願いするのは勇気が必要だったけれども、初回だから全員に受けてもらっているということで乗り切った。

これできっとよくなるはずだ。


こうしてCさんは、B社に面接者トレーニングを導入しました。面接者の評価の質を上げたい。同じように思っている採用担当者の方は、少なくないでしょう。

しかし、結論からいってしまうと、こうしてB社に導入された面接者トレーニングは、Cさんの課題を解決することはできなかったのです。

どうしてでしょうか。こんな話が続きます。

面接者トレーニングは無駄だった?

今年の採用活動をもうすぐ終えようかというころ、再び、A課長と話をする機会があった。

「今年実施した面接者トレーニング、あれ、A課長のアドバイスから始めたんですよ。ありがとうございました」

「ああ、そうだったんだね」

「今年はよくなったと思うのですが、どうですか?」

「うーん……」

「確かに、面接者トレーニングの成果で、一緒に組んだ人たちも皆、応募者にうまく質問できるようになっていたと思うけど、どうかなあ……」

「というと?」

「実は今年、またH部長と一緒になったんだよ」

「ひょっとして、今年も自分の好きなようにやっていたと?」

「いや、そうでもないよ」

「……じゃあ、どうなんですか?」

「いやね、質問も、例の深掘りってやつも、H部長もやってたよ。さすがベテランだな、頭が固いと思いきや、なるほどと思わされる感じだったよ。でも……」

「でも?」

「応募者が回答を返すだろ? それに対する評価は同じだったよ。こういう奴は現場に行ったら伸びるんだよ、って同じこといって自分勝手な評価をしてた」

「はあ……」

「面接者トレーニング、あの人には無駄だったかもな」

A課長は、苦笑交じりで僕を見た。もちろん、本気で無駄といいたいわけではないだろう。しかし、今年もまた同じ結果だったかと思うと、重い気持ちにならざるを得なかった。


評価がブレる本当の原因とは?

「何がいけないのだろう……」

もしも、A課長とH部長が、また面接者で組んだとする。面接者トレーニングで身に付けた質問技法のスキルで、応募者に質問をしていく。応募者が回答する。その回答についてH部長がいう。「彼みたいな奴は、現場で伸びるんだよ」

だが、A課長はそう思っていない。でも、H部長の方が、ずっと現場でやってきたベテランだ。反論しづらいのも分かる。どうしたら、A課長の意見も聞き入れられるのだろう。

例えば、そこでA課長がいう。「H部長、でも彼の面接での発言、これはこのくらいの評価が適切ではないですか?」

そうだ。そのときにA課長を助けるように、「評価の考え方」のようなものを、あらかじめ示しておけばよいのだ。その考え方に基づいて、「ああ、確かにそうだね」とH部長にも納得してもらう。その考え方を示していないのが、いけないのだ。

僕は背中が、カーッと熱くなるのを感じていた。原因は、採用の設計担当者である自分が、その「考え方」を面接者に示していなかったから起こっていたのだ。

僕は改めて、面接者に渡している資料を眺めた。面接評価表と、面接の進め方のしおり。渡しているのはこのふたつだ。面接の進め方のしおりには、運用が書いてある。評価の考え方を示しているのは、面接評価表しかない。

僕は、面接評価表をじっくりと見た。面接評価表には、応募者のプロファイルを記入する欄と、評価項目と、その評価結果が書けるようになっている。あとは、備忘録用のメモ欄や、本人の希望を記す欄だ。

評価項目の結果を記す欄に問題があるのは、もう明らかだ。そこには、主体性、コミュニケーション力、責任感など5つの項目に対して、優、良、可、不可を記入するようになっている。つまり、ここに評価を記入するときの考え方にブレがあるのだ。

考えてみれば当たり前だ。優と良の違いについての認識は、面接者によってバラバラだ。しかも、それは外部の講習で習うものではない。実際、何がどの程度でよいかを決めるのは、その会社だ。つまり、その会社の中で、回答がどの程度だったら優なのか、どの程度だったら良なのか、選考する者が同じ考えを共有していなくてはいけないのだ。

原因は分かった。さっそく改善しなくては。


こうしてCさんは、面接の評価方法について改善を進めることにしました。その結果、B社の面接は、面接者の主観による評価のバラつきが減り、合格する応募者が均質化されました。

Cさんは、どのように改善したのでしょうか。面接者が正しく客観的に評価を進めるために、本当に必要だったものについて、次に説明をします。

ブレないために必要なもの「評価基準」

何(評価項目)が、どの程度だったら、どのような評価とするか、それを示したものを「評価基準」といいます。

評価基準がしっかりと構築されていないと、最終的に、面接者の主観が評価に大きく影響することになります。B社の場合も、まさしくその状況にあたります。

私が、面接者トレーニングを実施する前に必ず確認しているのも、その会社の評価基準です。今まで多くの企業で、選考の設計を依頼されてきましたが、最初から評価基準が適切に構築されていた企業は、多くありませんでした。

ぜひ一緒に、自社の評価基準を確認してください。もっとも心配なケースは、このように、実際には面接者の印象によって評価が決まってしまう評価基準です。B社の例もこのケースに該当します。

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もちろん、この場合でも、例えば「普通」と「やや望ましい」の違いはなんであるのか、別途、基準が明確に示されていれば問題はありません。

そして、評価基準で、もっとも構築が難しいのが、行動の質についての評価です。

一般的に、面接で評価できる人材要件は、知識、スキル、態度、興味、意欲、適性、価値観、特性そして行動特性などとされています。

特に最近では、面接において、行動特性を評価することの重要性が叫ばれています。行動特性とは、主体性、発信力、傾聴力、働きかけ力、課題発見力など、呼び方の通り、応募者が普段発揮している行動の特性のことで、応募者が普段とっている行動情報を面接で聞き出し、その質を評価しようというものです。

知識やスキルであれば、点数化が可能です。価値観や特性なども、面接よりもテストを用いた方が統計処理を踏まえ、正しい評価をすることが可能です。その場合は、結果がこうであれば(何点以上は)合格と決めてしまえば、面接者の主観が入る余地はありません。

しかしながら行動特性については、本人が発揮した過去の行動事実が唯一の評価根拠であるため、面接で応募者のエピソードを聞いたり、行動をグループワークなどで実際に観察したりして、評価をする必要があります。そのため、評価基準をつくることが他の要素と比べて難しいのです。


行動特性の評価基準の例

では、「発信力」という行動特性を例にとって、どのようであれば高い評価とするか、例を示したいと思います。行動特性の評価基準は、このようにレベルに応じた「行動表現」を用いて作成します。

例)発信力の向上レベル

表では、「発信する」という行動について、右に行くほど高い質の行動であることを表しています。断片的とはすなわち、できたりできなかったりするレベル、受動的とは、支援があればできるレベル、能動的とは、自分で考えてできているレベル、創造的とは、その行動に工夫があったり、周りにもよい影響をもたらすレベルであることを示しています。

このような行動表現でまとめられた評価基準を、評価したい要素ごとに用意します。面接者は応募者から引き出した情報を、なるべく主観ではなく、基準に照らして評価するように心がけます。

もうお分かりだと思いますが、面接者トレーニングでは、自社が評価する要素は「何」で、それが「どう」であれば合格とするのか、その共通の理解を深める場でもあるのです。質問技法や、理想的な態度は、すべてその評価をスムースに行うためのスキルなのです。

このように評価基準を整備することで、B社におけるA課長とH部長の評価にも、次のような変化がもたらされました。

今までH部長は、「将来……だろう」という独自の評価軸を持っていました。今回、評価基準が新たに人事から示されたことによって、応募者から得た情報を、評価基準に照らして評価するようになりました。

A課長も、評価結果が他の面接者と異なる場合でも、「私はこの応募者に×××を質問した時の、あの回答がレベル2だったと思うのです。なぜなら……」と、客観性を持って発言をすることが可能になりました。何より、面接者2人の間に共通の尺度ができたことで、会話が一方通行にならないで済むようになったのです。

評価基準は、選考に客観性をもたらします。面接者の主観それ自体が否定されるべきものではありませんが、主観だけで進められている選考設計は、質の担保、ナレッジの引き継ぎなど、いくつもの観点で問題が発生します。

また、評価基準は、毎年のブラッシュアップによって、その企業らしさが積み重なっていくものです。もしも、自社の評価基準が脆弱だと感じている場合は、先延ばしにせずに、すぐに改善に取り組むことが大切です。

今回は、面接者トレーニングの話題に攪乱され、本質が見えづらくなっている「評価基準」の問題についてお話ししてきました。採用活動において、その企業らしさをもたらしている重要なポイントですので、今日の話が少しでも参考になれば幸いです。

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