曽和 利光(そわ・としみつ)
2016/01/26
イントロダクション
こんにちは。組織人事コンサルタントの曽和利光です。
時事的なコラムが続いたこともあり、今回は少し一息つきまして、採用活動の本格化を直前に控えた今、採用担当者として成長するために、日々どんな勉強をすればよいのかについて、あらためて考えてみたいと思います。
どんな仕事であっても、多量の経験を積む「だけ」では、なかなか一流にはなれません。
得た経験をきちんと整理しなおすための「フレームワーク」(考え方の枠組み≒知識)を持つことによって、経験は自らの血肉になっていくのだと思います。
今回は、そのフレームワークを確立するためには、どのような勉強をすればよいのかについて、考えを記してみます。
私はこれまで大勢の採用担当者の育成をサポートしてきました。そして、たどり着いた結論は、採用担当者には以下のような領域の知識が必要だということです。
労働法制を中心としたいわゆる“人事っぽい知識”を最も重視する向きもよくあります(上でいう4です)。
もちろんそれは重要です。しかし、それらは基礎的過ぎて、採用担当者としてのレベルというより「ないと困る」ものだと思います。
異論はあるかもしれませんが、私は、採用担当者に必要なコアスキルとは「見立て」の力だと思います。
事業戦略立案や商品開発など、選択肢が無限ともいえるほどある領域の仕事と比べて、人事施策の選択肢は、例えば「職能」or「職務」のように、選択肢がある程度決まっていることも多く、相対的に少ないといえます。
人や組織が「どういう状態なのか」を認識する(見立てる)ことさえできれば、極論すれば、後はどうすべきか「自動的に」決まってくるのです。
この「見立て」に関係してくるのが1の心理学・組織論と、2のデータ分析能力です。
まずは、これらについて記してみたいと思います。
「見立て」に必要な
「心理学」と「データ分析」
先進的な人事をおこなっているグローバル企業の話としてよく聞くのは、それら企業の人事担当者の多くは、「心理学者」「データサイエンティスト」で構成されているということです。その事実は、さもありなん、と私は思います。
まず、人事の仕事は「人」を扱うものであり、人は「心」で動きます。つまり、社員に企業や事業が望むような組織行動をさせたいと思うのであれば、心理学を学ぶ必要があります。
では、心理学をどう学べばよいのでしょうか。
一般書としての心理学本は世の中にあまたありますが、私はあまりおすすめしません。これらの本は、心理学の世界では「しろうと理論」などと呼ばれるもので、実際にはそのように人は動かないからです。このような俗流心理学に毒された採用担当者は、現場では困った存在にもなってしまいかねません。
一方で、いきなり専門書を読むこともおすすめしません。なぜなら、基本的に専門書は細分化された領域について書かれているものですが、心理学は他の科学分野と比べて、始まって100年ほどの新しい分野で未開拓な学問領域であり、さまざまな「派閥」があるからです。研究が進めば、心理学の世界にも統一理論が生まれるのではないかと思いますが、現在はまだ、さまざまな立場の人がさまざまな主張をしています。
採用担当者はこうした学問上の論争に付き合う必要はなく、「確認された法則」を折衷して取り入れていけばよいのです。
私のおすすめは「大学の心理学の教科書」です。
エンタテイメント性は少なく正直とっつきにくいかもしれませんが、心理学のさまざまな領域を網羅的に、あまり偏りなく紹介しています。これでまずは全体を俯瞰してみてから、業務に役立つ知識を取り入れていけばよいのではないかと思います。
次にデータ分析ですが、これはこれで深い領域ですし、採用担当者が理論まで極めるのは難しいと思います。したがってその「使い方」だけ分かればよいと思いますので、こちらは「心理統計」をおすすめします。
これによって、一般的な統計学ではなくあくまで心理学の研究をするための(つまり採用担当者が分析したいことにも使いやすい)統計学を勉強するとよいでしょう。
特に、適性検査のつくり方についてはきちんと学ぶべきだと思います。
例えば、適性検査の結果を分析してハイパフォーマーの特徴を知りたいと思った時に、「非階層クラスター分析をしてください」と適性検査会社の担当者に依頼できるくらいにはなるべきでしょう(あえて具体的な説明は控えさせていただきます)。ハイパフォーマーの各尺度の平均値を出して、求める人物像のプロフィールだとしているようではまだまだです(ハイパフォーマーにもさまざまなタイプがあります)。
「実現」に必要な
「言語スキル」「制度・法律」
「見立て」をおこなって適切に人や組織を認識できたのであれば、「何をすべきか」については、先ほど記したように、ある程度知識があればそこまでは難しいことではありません。
もちろん難しい側面もあるのですが、人事領域においては、すべきことが決まってから、それを「どうするか」という運用の部分にその難しさがあると思います。
つまり、「実現すること」こそが重要です。例えば、採用においてどんなに素晴らしい採用戦略や戦術を立てたとしても、実際に学生と対峙した時、事前に考えた方針やコンセプトをうまく伝えることができなければ、意味がありません。
そこで採用担当者が勉強すべきもう一つのことが、「言語スキル」です。
採用担当者には、学生に対して伝えるべきことが数多くあります。その内容についてはもちろん練りに練っているはずですが、問題はどう伝えるか、です。伝える方法は、採用パンフレットやホームページやSNSなどではテキスト、会社説明会ではスピーチでしょう。
言語スキルについては、たくさんの文章を読むしかありません。我々は先人の紡ぎだしてきた言葉を使って生きています。それを踏まえずに勝手な言葉を生み出したとしても誰にも理解されません。ですから、まず読書量を増やすしかありません。
それを前提として、特に採用担当者が読むべき本を私見として挙げるならば、まずは経営者の思想や考え方に関する本です。
採用担当者は経営者ではないのですが、経営者の言葉を代弁しなくてはなりません。読書によって経営者の人生を疑似体験しなければ、代弁もできないと思います。
また学生にとっても、特に一般論にもつながる内容を述べる場合には、採用担当者が私見として自らの言葉のみで述べるよりも、「○○氏が……のようにいっている」などと誰もが知っている著名人の言葉を適宜引用して述べた方が、より心に刺さりやすい場合もあるものです。
また、コピーライティングの本や、名言集もおすすめです。
「力のある言葉」を知ることで、人の心を動かす言葉を身に付ける素地ができます。実際、私が以前に採用責任者をしていた際には、メンバーにさまざまな名言集をすすめていました。
古すぎない偉人のノンフィクション本もよいでしょう。
生身の人物を相手にしなくてはならない採用担当者は、生々しい人間を見つめなくてはなりません。ですから、昭和を生きた経済界の偉人の(提灯本でない)伝記などを読んで、白黒はっきりしないリアルな「人間」というものを理解するのがよいと思います。
最後に、制度・法律ですが、拍子抜けするかもしれませんが、ここではあまり言及しません。なぜなら制度・法律はその本質上、比較的に唯一解が存在する領域ですので、どこから山を登ろうとたどり着くところは一緒だからです。労働法や人事制度に関する「教科書的なもの」をしっかり読むということが大事だと思います。
以上、採用担当者が自身の能力を高めていく際に必要な勉強領域について述べてみました。
人生を左右する立場である採用担当者の皆さんにおかれましては、日々勉強をして精進されることを期待します(もちろん、私も頑張ります!)。
- 曽和 利光(そわ・としみつ)
- 1995年(株)リクルートに新卒入社
、人事部配属。
以降、一貫して人事関連業務に従事。採用・教育・組織開発などの人事実務や、クライアント企業への組織人事コンサルティングを担当。リクルート退社後、インターネット生保、不動産デベロッパーの2社の人事部門責任者を経て、2011年10月、(株)人材研究所を設立。現在は、人事や採用に関するコンサルティングとアウトソーシングの事業を展開中。
「採用活動の教科書・応用編」
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