2013/09/10

「採用広報が、採用広報であるために」―あなたの会社は“要件と違う人材”ばかり受けにきていませんか?―

小宮 健実(こみや・たけみ)
1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。

イントロダクション

皆さん、こんにちは。採用・育成コンサルタントの小宮健実です。

秋の音が、採用活動の始まりを予感させます。これから始まる自社の採用活動のベースは、まさしく採用担当者の知見によって固められます。秋は私も皆さんも、最も学びに向かわなくてはいけない季節ですね。

さて今回は、採用広報の話をしようと思います。

 

一緒に、大切な採用広報の意味について、確認、もしくは再確認をしていきましょう。

今回はまず、恥ずかしながら私が以前採用担当者だったときに、どのようにパンフレットを作成していたかについて、お話しすることから始めたいと思います。

私の採用担当者時代の話

始めにいっておきますが、これはダメな例で、真似をしないでくださいね、というお話です。

作業はまず、昨年のパンフレットを見直すことから始めていました。見直しは主に、ビジネスのトレンドになっていることをどう掲載するかという観点で行っていました。

例えば、私がいたのはIT企業で、ある年は「eビジネス」という言葉を積極的に使っていたので、「eビジネス」を分かりやすく解説する記事や、その分野で活躍している社員の仕事を紹介したりしました。

また、当時は「ダイバーシティ」という言葉が使われ始めた時期でした。積極的に女性社員のインタビュー記事を掲載して、女性を活用しているイメージを強調しました。

そして、採用支援会社のクリエイターの方が考えてくれたキャッチーなコピーやデザインを眺め、どっちがいいかなどと、あれこれ一生懸命考えていました。それで実際手いっぱいだったと思います。

それが間違い? いえいえ、ひとつひとつの作業が間違っていたわけではないと思っています。今思うに、私はただ、「採用広報」の意味が本当は分かっていなかったのだと思います。そのために、その先にある大事なものを見ていなかった。今振り返ると、そういう気持ちにならざるを得ないのです。


採用広報の意味、再認識

広報ではなく、採用広報と呼ぶその意味は、皆さんそれなりにお分かりだと思うのですが、ここで改めて説明をしたいと思います。

採用広報がただの広報ではない、その最大の理由は、リクルーティング・デザインの視点から見たときの「求める人材像」との接続にあります。

自分たちの行う広報、すなわち採用広報は、すべて「求める人材」を獲得するために寄与しなくてはいけません。採用広報は、ただ単に学生のファンを増やすために行っているのではありません。いろいろな人に響いて母集団の増加、つまりエントリーが増えれば意味があるように思うかもしれませんが、求める人材像に当てはまらない人がいくらたくさんエントリーしてきても、そこに採用活動としての意味を見つけることはできません。

私の採用広報の仕事ぶりはどうだったでしょう。私には正直、ただこのパンフレットを見た人が、自社を好きになってほしい、そういう思いしかなかったのです。結果的には、いろいろな意味で欠点は補完されていたのですが、やはり今思うと、反省の弁しか思いつきません。

では、採用広報が採用広報たる理由、リクルーティング・デザインの視点から見た時の「求める人材像」との接続とは、どのようなものでしょうか?





このチャートは、採用担当者の方が、採用広報のコンテンツを作成もしくは作成依頼するときに、それがなぜ求める人材像につながっているのかを確認するために使用するものです。

使用方法は、まず、左上の欄に求める人材像を記入します。もちろん頭の中で行っていただいてもかまいません。自社では求める人材がリアルに活躍しているはずです。右のボックスに移り、その人材が実際にその能力を発揮している姿を思い浮かべます。それはどのような行動をとることなのか、どのような思いが背景にあるのか、どのようなプロジェクトで、どのような仕事を担当しているのか、具体的に設定をしてみます。

次に右上です。そのような人材が、その能力を存分に発揮できるのは、企業やそのチームの環境がよいからです。その環境の利点を洗い出します。企業環境のあらゆる強みは、求める人材が、その能力をいかんなく発揮するためにあるのです。

下の段、真ん中は、上段で設定した仕事、プロジェクトが挙げた成果・結果を記入する欄です。それ自体、求める人材が、企業の強みを生かして挙げたものですから素晴らしいものですが、そのままでは分かりづらいかもしれません。それらの成果・結果は、下の段右の「お客さまや社会にどのような価値をもたらしているか」、その価値や意義とつながっていきます。

一方で、下の段左のように、仕事、プロジェクトの成果・結果は、個人のやりがい、思いや熱意にもつながっています。

このチャートの観点に沿って、採用広報のコンテンツをつくることができます。つまり、人やプロジェクトを紹介したり、企業の強みや、社会への貢献を紹介したりすることなどが、それぞれ採用広報で取り上げるテーマ対象になります。ただ、それらは、さかのぼると求める人材像まで繋がっていることが重要なのです。

ところが、上記に挙げたそれぞれの観点は個別の存在になりがちです。例えば、企業の強み(右上)や、お客さまや社会にもたらされる価値(右下)は、会社を認知してもらう、好きになってもらうためのコンテンツとして独立して扱いがちです。それらもすべて、左上の求める人材像に接続していることを伝えるべきです。そうすることで、採用広報としての意味を持つのです。

また、採用広報のコンテンツは、単体で存在しているのではなく、複数の機会やメディアを組み合わせて効果を持たせることが可能なので、設計時にはそれらも考慮することが重要です。

例えば、説明会がシリーズになっていれば、その全体の結果としてチャートを完成させることができますし、ひとつのプログラムの中でも、人事の社員と現場の社員、パンフレットと現場の社員、ウェブサイトとメール、といったように、組み合わせによってチャートを網羅するように設計することができます。

採用広報のコンテンツは組み合わされ、その結果チャートにあるいくつかの観点を経由し、必ず求める人材像の理解へとつなげます。それがリクルーティング・デザインの視点から見た時の「求める人材像」との接続なのです。

求める人材像と採用広報戦略

冒頭にも述べましたが、ここ1、2年、急速に学生から好評を得るようになった採用広報のコンテンツに「企業が社会にもたらしている価値」があります。チャートでいうと、右下に位置している観点です。

私は、もちろん、最初から「社会貢献」という言葉にすり寄ってくる学生を毛嫌いするのではなく、彼らが育った社会的背景も鑑み、あくまで自社が設定した能力判定の結果で評価をしていくべきだと思います。

そして採用広報のコンテンツでは、ある意味、意図的に社会貢献のコンテンツを増やして、注目を集めるというアプローチがむしろ戦略的に合理性が高いと思います。

ただその際に、それらのコンテンツと求める人材をどのように接続して採用広報に表すか、それが重要なのです。それには適切な設計(リクルーティング・デザイン)をもって、チャートの右下(社会貢献の観点)から、左上(求める人材像)まで伝え繋げ、企業理解を促さなくてはいけません。

採用広報の設計が脆弱でそれが伝わらなければ、それこそ要件と合致しない人材がたくさん面接に来ることになるのです。

私の採用担当者時代、結果的に、いろいろな意味で欠点が補完されたのは、幸いなことに当時は自社の人気が高く、私の実力の無さを応募者の数が隠してくれたことと、周りのスタッフに恵まれていたからだと思います。もちろん今、担当者になることがあれば、抜かりなく設計します。

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