辻 太一朗(つじ・たいちろう)
2012/12/04
イントロダクション
こんにちは。採用ナビゲーター・辻太一朗です。
人事の皆さんと議論した際に、意外にも、社内の話題が多いことに気が付きました。例えば、「部長がちゃんと見ていてくれているのか不安だ」「社員が採用活動になかなか動いてくれない」といった、社内での問題についてです。
もちろん、その業界独特の問題、企業の社風もあるでしょうし、課題解決策を一概に論じることは難しいと思います。
「社内だし、身内だからやってくれるだろう」とか「採用活動には協力してくれるだろう」と思っていたにもかかわらず、なかなか自分の思うようにいかない、人を巻き込むことの難しさに、悩むことも多いのではないでしょうか。
今回は、社内で採用活動を行いやすくするための考え方をお話ししましょう。
まずは、社内で生じている問題について、分類してみることから始めてみましょう。
採用に関する社内の問題は4つに分けられる
皆さんの「社内で困っていること」をよく聞いてみると、大きく、以下の4つの課題に分けられるのではないかと思います。
- (1)面接評価基準の問題
- (2)予算の問題
- (3)社内での協力体制の問題
- (4)配属・受け入れ後の教育体制の問題
これは、求める人材像の明確化や、面接での判断基準の問題、選考フローの策定、役員面接での選考基準のすりあわせなど、多岐にわたる課題です。
採用は、企業にとって非常に重要な位置付けであるのに、予算がつかないとか、毎年環境が変化しているにもかかわらず、予算は増えにくいといった問題です。
例えば、現場社員の面接セッティングがなかなか進まないとか、学生との面接で得た情報をうまく共有できなかったり、自社にとって望ましい学生へのフォローアップがうまく機能しなかったりなど、社内の採用に対する協力体制が整わないといった問題です。
せっかく入社した人材を、社内でうまく受け入れできないとか、配属後の部署でのフォローがしっかりと機能しないために、育成に結び付かないといった問題です。
これらをどのように考えれば、解決へと導けるのでしょうか。実は、採用担当者が「自分の顧客は学生だけである」と思っていることが、ひとつの原因ではないかとも思うのです。採用担当者が相手にするのは、学生だけではありません。自社の社員を、採用活動へ巻き込むことも重要です。
つまり、「学生だけではなく、社内の人々も顧客である」と考えた方が、問題を整理しやすいのではないでしょうか。
そもそも、採用を含めた人事部署の業務内容は、社内へのサービスですよね。社員のために人事評価制度を策定したり、研修制度を設けたり、異動や配属で、その社員がベストパフォーマンスを出せるように環境を整えたりするのも、人事の仕事です。
つまり、人事とは、「『顧客』である『社内』の環境を整え、企業の業績を向上させるためのサービスを提供する部署である」と考えるのはいかがでしょうか。採用についても、「社内も顧客」ととらえる方が、上記のような問題も考えやすくなりませんか?
では、「社内も顧客」ととらえる場合、採用活動においては、具体的にどうイメージし、どう考えていけばよいのでしょうか?
次は、その考え方について、お話ししましょう。
優秀な営業職は、目の前の顧客の「その先」までを考える
企業のどのような部署・職種でも、その先には、「顧客」がいます。例えば、社長が接する顧客は誰でしょうか? 「顧客企業」はもちろんですが、「株主」も顧客になります。経営者として、「顧客企業からどのように見られるか」「株主からどう評価されているのか」を常に念頭に置きながら、仕事をしていることでしょう。
経営者の視点で考えると、採用活動については、「なるべく有能な人材を、コストを抑えて採用したい!」とも思っているかもしれません。
では、部長ではどうでしょう。部長にも「決裁先」があります。それは経営層です。経営層に対して、納得させられる説明・プレゼンテーションができる部長なら、経営層からの評価は高くなることでしょう。
こういう考え方、視野に変えてみることが、とても重要なのだと思います。例えば、優秀な営業職の社員は、顧客企業の窓口になる担当者だけでなく、その先にいる上司までもイメージして、プレゼンテーション資料を作成したり、見積もりを提示したりするものです。
人事についても、同じような視点で考えてみるといいのではないでしょうか。採用担当者が人事部長に、採用活動の状況を報告するとします。採用担当者は現場の状況を熟知していても、人事部長は理解できていないかもしれません。人事部長が社長に報告する場合も、採用活動のすべての現場に社長がいたり、直接見ていたりすることは少ないでしょう。
そう考えると、採用担当者は、「人事部長が、社長に明快に説明ができて、決裁しやすくなる」ような環境をつくることが大切だと思います。そうでなければ、人事部長が納得していても、社長に情報を上げにくいでしょうし、決裁も通りにくくなることでしょう。
「社内も顧客」という視点で、その「顧客」のメリットとは何かを考え、「顧客」がメリットを得やすい環境を整えた上で、こちらの要望や希望を伝え、協力してもらうことが大切ではないでしょうか。
次ページでは、具体的な事例を紹介しながら、話を進めていくことにしましょう。
採用成功へのカギとなる!社内での「認識のレベル合わせ」
採用について、人材の質に対する考え方のズレが、社内で生じているというケースもあるかと思います。例えば、自社に来ている学生の質はどのくらいで、来ていない学生とどれだけの差があるのかが、社内で問題視されていない。例えば、育成担当の現場社員の「学生の質に対する理解」が漠然としているため、育成自体がうまくいかない。
採用担当者が、これを口頭で説明するだけでは、理解してもらうのは難しいかもしれません。
仮に、皆さんが営業職で、自社の製品やアイデアを顧客に評価してもらいたいのであれば、データを加工してプレゼンテーション資料を作成したり、具体的な事例を紹介したりするなど、分かりやすく、相手が理解しやすいような工夫を一生懸命考えるのではないでしょうか?
以下の図を見てください。
仮に、皆さんが営業職だった場合、自社の製品を売るためには、まず、現状の課題認識を共有すると思います。「お客様の現状には、他社と比較して、こういう課題がありますね。当社の製品なら、費用対効果の面でも、ここまで改善できます」と。採用においても、同じように考えてみましょう。
まずは現状の課題に対する認識を具体的に共有し、レベルを合わせるようにします。この「レベル合わせ」の作業こそが、社内を巻き込む上で、大きなカギとなるはずです。
例えば、「採用活動の早期には、自社にとって望ましい学生を集めきれていなかったが、採用コンテンツでの広報や説明会などでの工夫を続けたために、質がここまで高まってきた」という実数値や、「自社にとって望ましい学生を採用できている」といった事例を、実際に見せていくことが必要だと思います。
採用がうまくいっていない状態であれば、「本来求めている学生の資質」や「採用担当者として、こうしたいと思っている採用活動と、現状との間に、どのくらいの差があるのか」を理解してもらうことです。そして、「その原因となっているものは何か」を一緒に考えてもらえるように、うながしてみるのはどうでしょうか。
例えば、説明会に問題がある場合は、「参加した学生からの声」を集めてみるのもよいでしょう。面接に問題があるのであれば、実際の面接シーンを見てもらうこともできるかもしれません。具体的に見せることで理解が共有され、問題の解決へと動き出す可能性もありますよね。
一方、データで見せる方法もあります。
例えば、同業他社と比較して、どのような特徴の学生が採用できているのかとか、もしくは、SPI3など適性検査の結果を分析してみるのも方法のひとつですね。多くのデータを集めることが可能であれば、他社と比較した場合の学生の特徴がわかり、「どのくらい採用成功しているのか」を、客観的に説明できる資料になります。
予算面の問題がある場合には、「この予算でどれくらいの学生が採用できたのか」「複数の施策の中でなぜ、この施策を選択したのか」など、事実の積み重ねやデータを見せていくのです。これによって、人材採用における予算イメージを社内で共有し、認識を合わせることができるでしょう。
今後の採用活動の提案については、施策の効果に対する期待値を共有していくことです。もちろん、実行したことがない施策について効果を説明するのは難しいですが、複数の施策を紹介した上で、「この方法はなぜ必要なのか」「ほかにはどのような方法が考えられ、なぜそれを選択するのか」を、他社での過去事例や実績、費用対効果も含めて紹介することで、納得感のある説明となります。
現状の認識を、具体的な事例やデータで示し、「レベル合わせ」を行い、今後の施策における期待値を共有することで、「顧客」である社内も納得できる採用活動が生み出せるのではないでしょうか。
「社内も学生と同様に顧客である」という気持ちで、来年の採用活動を成功に導いていただきたいと思います。
これからも皆さんの採用活動に役立つコラムをお届けしていきたいと思います。
- 辻 太一朗(つじ・たいちろう)
- (株)リクルート人事部を経て、1999年(株)アイジャストを設立。
2006年(株)リンクアンドモチベーションと資本統合、同社取締役に就任。
2010年(株)グロウス アイ設立、大学教育と企業の人材採用の連携支援を手掛ける。
また同年に(株)大学成績センター、翌11年にはNPO法人DSS (大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる会) を設立。
採用に関わる多くのステークホルダーを理解しつつ、採用・就職の"次の一手"を具体的に示すことに強みを持つ。
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