新卒採用を「初めて」行う企業の方にお伝えしたいこと

昨今「初めて新卒採用をしたいのですが……」というご相談が増えてきました。今回はそんな悩みを持つ企業の方にお伝えしたいことを記しました。これまで新卒採用を行ってきた企業の方には「なぜ新卒採用が必要なのか」という根源的な問いについて今一度考える機会となるコラムです。

イントロダクション

こんにちは。組織人事コンサルタントの曽和利光です。

 

社会情勢によって今後どうなるかわかりませんが、少なくとも私の知る限りにおいては、様々な企業が成長軌道にのっており、採用目標人数を増加しています。加えて、新卒採用を初めて実施するのでどうしたらよいか、というお問い合わせをいただくことも増えています。

 

そこで今回は、これまで中途採用しか行ったことがない、初めて新卒採用を行う企業の方にお伝えしたいことを、以下の2つの観点から述べてみたいと思います。

 

 

 

1. 何のために新卒採用を行うのか

まず自問していただきたいのが、新卒採用を行う目的です。 これによって、新卒採用活動の方向性や力を入れるべきポイントが違ってきます。
大きく分けると以下の3点になると思いますが、皆さまの会社ではいかがでしょうか。

 

(1) 戦力の安定確保のため

数十万人の学生が一度に就職をする (少なくとも目指す) という新卒採用市場は、新卒採用 「力」 さえ身につければ、企業が安定的に人員を確保するのに大変適した市場です。 一方、中途採用市場は景気により流動性があるため、人員を供給するチャネルとしては相対的に不安定です。

 

事業の景況感により致し方なく新卒採用者数を増減させたり、そのギャップを中途採用で埋めたりすることもあるでしょうが、それを繰り返していると様々な面で問題が発生します。

 

そこでお勧めしたいことは、一度新卒採用を始めると決めたのであれば、できる限り一定の人数を安定的に採用すべきということです。

 

新卒採用は中途採用と異なり、採用を準備し始めてから実際の入社まで長い期間があります。 下手をすると1人の学生が入社するまでに、出会ってから2年近くたつこともあります。

 

しかし景況感は 「今」 です。 今の景況感が、学生たちが入社する1〜2年後にもそのままであるとは限りません。

 

自戒を込めて申し上げるのですが、これまで私が実際に接してきた企業様における採用計画人数が、後に振り返って適切だった例は正直あまり多くはありません。たいていは採り過ぎたり、不足したりしていました。 しかも、たいがい他社も似たような採用数増減の意思決定をすることが多く、自社がたくさん採りたい時には 「売り手市場」 、自社が採用を絞る時には 「買い手市場」 であることが多いのです。

 

ですから、世の中の採用数の増減に惑わされずに一定の新卒採用人数を維持しておけば、採用しにくい売り手市場で本来は基準に満たない人を採用することもありませんし、採用しやすい買い手市場でも自社にとって望ましい人材を採用することができるのです。

 

さらに、新卒採用という社員の人口ピラミッドの入り口で安定的に人員を確保しておけば、退職率の増減があまりに激しいということがない限り、自然と美しいピラミッド型の組織が生まれます。 完全実力主義で年齢など全く関係ないという会社であれば別ですが、現実的には、年齢が上にいくほど人数の少ないピラミッド組織の方が、様々な面で運営しやすいという会社が多いのではないでしょうか (そうではないために苦労していらっしゃる企業様の話ばかりお聞きしますので……)。

新卒採用の残り2つの目的
「組織活性」 「文化・風土づくり」

(2) 組織を活性化させるため

新卒採用の目的の2つ目は 「組織の活性化」 です。 若い新人が入ってくることによって、組織はたくさんのメリットを享受し、活性化するのです。

 

新卒社員は初めて社会や仕事に触れることが多く、「何も知りません」。 したがって、新人に対して何かを教えたり伝えたりしようとする場合、「旧人」 同士でしか通じないような言葉やあうんの呼吸、以心伝心のような 「背中で教える」「わかってくれよ」 は通用しません。

 

昔はそれでも新人は我慢したのでしょうが、今では逃げていくことでしょう。 そして何より、人材育成のスピードは企業の競争力の根幹ですから、 「わかってくれよ」 でわからなければ、別の方法で理解してもらうしかありません。

 

そこで、自分の仕事や事業の戦略などを誰でもわかるような言葉で表現する、言い換えれば 「形式知化する」 ことが、旧人たちに要請されます。

 

何年も競争環境が変化せず、一度身につけた知識やスキルが長年通用したような時代であれば、 「形式知化」 の価値はそれほどなかったかもしれません。 ところが、現在のような変化の激しい環境において、これまでのやり方を随時振り返りつつ改善や変革を行っていかなければならない場合には、こうした「形式知化」 の価値は計り知れないものです。

 

なぜなら、企業内で最も変えにくいものは 「不文律」 だからです。 誰もが無意識のうちに陥っている行動や思考のパターンは、無意識であるがゆえに変えにくいものです。
しかし一度形式知化を経ることで、変える必要に気がついたり変えるべきところがわかったりします。

 

このように、新人にも分かる言葉で教える努力をすることが、結果的に組織変革のベースとなる、今持っている知識の形式知化を促進することになるのです。

 

 

(3) 文化・風土づくりのため

組織マネジメントの方法にはいくつかの段階や考え方があります。 また、業種や成長ステージにおいてもそれぞれ、適しているものは異なってきます。

 

例えば、マニュアルなどを整備して1から10まで行動を指示するマネジメント (「行動によるマネジメント」) が適している企業もあれば、ゴールと達成時のインセンティブだけ示して、後は個人の創意工夫に任せ 「自由と自己責任」 によってマネジメントする手法 (「結果によるマネジメント」) が適している企業もあると思います。

 

ただ、企業において 「創造性」 が重視されてきている現在においては、例示したマネジメントよりも、個人が創造性を十二分に発揮できるような別の方法を求める企業が増えてきています。それが、 「文化によるマネジメント」 です。

 

厳密なルールで縛るのではなく、結果だけ見て後は自由にさせるのでもなく、企業が目指す方向性や理念および価値観 (よく、ビジョン、ミッション、バリューなどと呼ばれているようなものです) を提示することで、社員個々人が自由に振る舞いながらも大枠は踏み外さず、創造性を発揮しながらも組織の全体最適も失わない、そんなマネジメントが 「文化によるマネジメント」 です。

 

しかし、このような 「強い文化」 を作り出すにはいくつかの要件があり、それには日本の場合、新卒採用が大きく関与しています。

 

まず、「強い文化」 に必要なのは、文化を流通し増幅させるためのインフラとなる、社員の間のインフォーマルネットワーク (表面的な組織図上等のつながりではなく、心情や信頼面なども含めた本質的な人と人とのつながり) です。

 

厳密なルールで縛らない以上、個々の社員の考えや行動に影響を与えるのは、周囲の社員の考えや行動です。 スタートアップベンチャーなど志ある人が集結してできた会社の場合には、中途採用ばかりでも当然強いインフォーマルネットワークが存在しますが、一定以上の会社になれば、新卒採用の 「同期」「先輩・後輩」 というつながりが、このインフォーマルネットワークのベースになります (ただし、そのためには、意図的に新卒同期を仲良くさせたり、最初の配属を集中配属にしたりするなど工夫が必要です)。

 

また、新人で構成されているインフォーマルネットワークは、中途採用人材よりも 「真っ白なキャンバス」 であることが多いため、会社側が醸成したい文化を (それが文化の 「維持」 であろうが 「改革」 であろうが) 流通させるには適しています

 

このように、採用を新卒にシフトすることで、「文化のマネジメント」 がしやすい素地をつくっていくことができるのです (他にも要件はありますが本題ではないので割愛します)。

担当者がすべきことはインタビュー、
アセスメントのスキルアップ

2.初めての新卒採用に立ちはだかる「壁」とは

前頁までに述べたように、私は新卒採用には企業に対する多大なメリットがあると考えています。 ではなぜ、新卒採用を始める企業が増えないのでしょうか。

 

そこには 「壁」 があるからです。 本稿の最後としていくつか述べてみます。

 

「学生を見る」のは難しい

一つは、学生を見て採用可否を判断するのは大変難しいということです。 学生は中途採用者のような分かりやすい実績を持っていません。

 

それにも関わらず、微差しかない実績で採用を行おうとすると当然、精度の低いジャッジになってしまうことでしょう。
ですから、実績ではなく潜在能力 (ポテンシャル) を見抜く採用面接をしなくてはならないのですが、それもまた難しいものです。

 

まだ社会に出たことがない学生が、「企業のことを十分に理解する」のは難しい

企業側の 「目」 も難しい一方で、学生側も就職活動の段階で企業のことを十分に理解することは難しいといえます。

 

どんなに優良企業でもBtoB系であれば学生は知りませんし、急成長中のベンチャーや、ニッチトップ的な世界企業も知りません。 学生の入社動機の大半は 「人が良かった」 で、言い換えれば 「勘」や「フィーリング」 です。
つまり、事業をまじめにきっちりやっていれば学生が集まる、ということが必ずしも通用しないということです。

 

親や周囲の理解

学生はまだまだ独り立ちできていない人も多く、保護者から見れば彼らの就職は一家の一大事であり、親御さんはじめ周囲から就職に関してのアドバイスをたくさん受けます。 大切な子どもの大切な将来を思うからこそ、つい、自分含め世間に既に良く知られ実績も高くあげている企業に信頼を寄せてしまうものです。 私にも子どもがおりますのでその心情はわかります。

 

保護者にとっては、初めて新卒採用をするような 「成長企業」 は 「未知の企業」 と映り、とかく不安を抱かれやすいものです。

 

ですから採用活動の際に、保護者たちへの配慮は必須です。 保護者向け説明会を開く企業もあるぐらいですから、例えば社長から親御さんへ手紙を送付するなど、保護者が安心するような情報提供を心がけなければなりません。

 

現場からの協力を得られない

新卒採用活動においては、社外からだけではなく、社内にも壁があります。それが現場の協力を得ることの難しさです。

 

もちろん、現場社員が採用に非常に積極的な企業もあります。また、現場からすれば、必死に 「今」 の業績を追いかけているわけですから、その思いを無下に否定するつもりはありません。 日々の仕事で忙しい中、採用活動に時間を割くことや、真っ白な人材を一から育成することは難しい、と感じる現場社員は少なくないのではないでしょうか。
そのため、現場の方々に対する丁寧な背景説明は必須です。

 

また、歓迎してくれる場合であっても、前に述べた 「形式知化」 は実は難易度が高いので、社内の人材育成スキルが壁になることがあります。 つまりは、旧人の育成能力をも高めるような施策も同時に打っていかなければ、せっかく苦労して始めた新卒採用も効果が出ないということがありえるということです。

 

 

最後に 「壁があって大変ですよ……」 という話で締めてしまい大変恐縮ですが、新卒採用はそんな壁を乗り越える苦労が吹き飛ぶくらい、素晴らしい活動だと私は思っています。

 

「新卒採用力」 をつけるコツについては、過去のコラムで様々述べてまいりましたので、是非そちらもご参考としていただき、初めての新卒採用を成功させていただければと思います。

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曽和 利光(そわ・としみつ)
曽和 利光(そわ・としみつ)
1995年(株)リクルートに新卒入社 、人事部配属。
以降、一貫して人事関連業務に従事。採用・教育・組織開発などの人事実務や、クライアント企業への組織人事コンサルティングを担当。リクルート退社後、インターネット生保、不動産デベロッパーの2社の人事部門責任者を経て、2011年10月、(株)人材研究所を設立。現在は、人事や採用に関するコンサルティングとアウトソーシングの事業を展開中。

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