辻 太一朗(つじ・たいちろう)
2019/04/03
イントロダクション
皆さんこんにちは。採用ナビゲーターの辻太一朗です。
いよいよ採用も本格化、皆さん面接の準備で大忙しといった状況かもしれませんね。
さて、今回お届けするコラムは、前回のコラムの続編にあたります。
と言いますのも、「目標設定が高すぎたので学生を落とした話」「小さな目標で自己肯定ができることの大切さ」といった内容についてお話しさせていただきましたが、「なんとなくイメージがつかないです」「なかなか納得できない」という意見を頂いたからです。
今回は、私の体験談も踏まえてより深く、このテーマについてお話しできればと思います。
少しでも皆さんのヒントになりましたら幸いです。
「幸せレベルの低い人材」とは?小さな喜びを多く見出す人
私自身が30年ほど前にリクルートで採用活動をしていたときのことです。
前回も触れましたが、私が採用した人材がことごとく次の面接で不採用になっていました。
それは、あまりにも学生への目標設定が高すぎたためです。
では、どのような人材がよいのか、上司に問いました。
上司から返ってきた答えは、「幸せレベルの低い人材」がよいということ。
誤解しないでいただきたいのですが、幸せレベルが低いことは、「目標がない」とか、「自分に甘い」といった意味ではありません。
正確に言えば、「小さなことでも、自分の成果を出すために、工夫・努力をして、その中でうまくいった成果や身に付いたスキルを自分なりに分析でき、それを恥ずかしがることなく喜べる」人材のことを指します。
小さな成長でも、小さな成功でもいいのです。
その原因を振り返り、喜びを噛みしめ、恥ずかしがることなく喜ぶことのできる人材が、求められていたのです。
それがあまりに高い目標であっては、達成に時間がかかるため、高速で喜びのサイクルを回転させることが出来ません。
ですから、「幸せレベルの低い人材」こそ長く働く喜びを持続させることが出来たのです。
これには当時のリクルートの社風がありまして、当時は営業会社の色味が強く、入社してやることと言えばひたすら営業電話(テレアポ)というものでした。
毎週毎週同じことの繰り返しと感じていました(笑)。
ですから、変わらない業務の中で、自分なりに少しずつ工夫し、変化や喜びを感じられる人材が、当時のリクルートに適した人材であったといえるかもしれません。
そのような業務の中で活躍できるのは、目先の「ちょっとした成果」を追うことができ、目の前の成果のために工夫や努力を惜しまず、「ちょっとした成功」を喜べる人材だったのです。
重要なのは、自分なりに工夫すること、それを分析すること
重要なことの1つ目は、自分なりに成果を出すために工夫すること、そして、その工夫をとにかくがむしゃらに実行できることだと思います。
単に言われたことをやるのではなく、自分なりに考え、がむしゃらに取り組んでみるということでしょうか。
当時のリクルートでは、電話をテープで手に巻き付けて固定して、電話機を置けないようにしていた同僚もいました。
今だと問題視されてしまうかもしれませんが(笑)、彼にとっては、電話をすぐに受け取るために自分なりに考えた工夫だったと思います。
リクルートで働いていた当時、一つひとつの行動についても上司から「なんでそうするの?」「何のためにそれをしているの?」としばしば聞かれていました。
また、同じように「何件電話をかけたの?」「それでかけてみて、何が分かったの?」とも聞かれていました。
つまり「まーた電話かけなきゃ…」という気持ちではなく、「電話をかけていくことで見えてくるものがある。そこからどのように工夫すれば、効率的に成果につながるんだろう」と考えて、ちょっとした工夫をすることで、それが成功すればすごく嬉しい経験となるわけです。
上司の質問も、「ひたすらに自分の頭で考えろ」というメッセージだったのかもしれません。
そのことは、自分の中で問題を内省し、工夫をするきっかけになりましたし、自分の頭で考える習慣づくりにも役立ったと思います。
また、同時に複数の問題を並列処理することも求められていました。
普通の会社ですと、まずは一つのことをしっかり処理するというのが当たり前かもしれませんが、リクルートでは、まさに走りながら考える、複数の同時処理が必要でした。
特に昔はパソコンがなかったこともあり、周りからはよく自分の行動が見られていました。
だから、周りの人からいろいろと突っ込まれる機会も多かったです(笑)。
2つ目に重要なことは、工夫を凝らしたその先、つまり「成果」の部分です。
うまくいった成果や身に付いたスキルが、自分の中で分析できているかどうかが重要ですよね。
人から言われたから嬉しい、褒められたから嬉しいだけでは、なんとなくやりきった感じがしないので、分析まで至らないことも多いかもしれません。
私の経験から考えると、他人の評価ではなく、きちんと自分なりに分析ができたときこそ、「自分の何が素晴らしかったのか」「自分だからできたことはなんだったのか」といった上司からの問いに対しても、自信をもって答えることができました。
これもやはり組織風土が重要で、「達成しました」に対しては、「おめでとう、だけど、なんで達成できたの?」、「できるようになりました」に対しては、「よかったね、でも何を工夫したの?」などとよく聞かれていました。
時代こそ変わりましたが、こうした経験を地道に積んできたおかげで、「達成できた」「スキルが身に付いた」で慢心することなく、自分の行動を振り返り、分析することができたと今になって感じています。
恥ずかしがらずに喜べる人こそ、成長の回転が速い
そして、最後に言えることは(これがなかなか難しいのですが)、恥ずかしがらずに自分が工夫したこと、力を出し切ったことを喜べるかどうかだと思います。
もちろん、そのためには努力が必要ですし、その成果に対する分析も必要ですよね。
それらを通して、初めて喜ぶことの土壌ができあがると思います。
中には、1つ目と2つ目(自分なりの工夫と、その分析)を行わずに、
ただ自分の達成を喜ぶだけの人もいらっしゃるでしょう。
しかし、そのような人は長続きしないかもしれません。
特に自分が先輩になったときやリーダーになった際に、マネジメント面で困ってしまうと思います。
実は私自身、余力を残しておいて、できなかったとしても、「真剣じゃなかったから」「まだ本気出してないから」と言い訳をするタイプでした。
自分が本気を出して成果を出せないのが怖かったのかもしれません。
一方で、周りで働いている同期たちは、常に本気を出し切り、真剣に仕事に向き合っていました。
そんな同期たちが羨ましかったのを覚えています。
しかし、人生を重ねていくうちに、真剣に取り組み、うまくいったらその分本気で喜び、うまくいかなかったら本気で悔しがるというのも悪くないと感じるように、私自身変化してきました。
なによりも、「真剣に努力せず、言い訳をすること」は、最もかっこ悪いことだと考えるようになりましたね。
徐々に自分の人生の中で成果が重要になってきたことで、余力云々を言っている場合ではなくなってきたことで、価値観も変わってきたのかもしれません。
今回のコラムは、私が人生を歩んできた中で、特にリクルートで学んだことを語らせていただきました。
少しでも皆さんのヒントや気づきになれば幸いです。
今月もお付き合いいただきありがとうございました。
- 辻 太一朗(つじ・たいちろう)
- (株)リクルート人事部を経て、1999年(株)アイジャストを設立。
2006年(株)リンクアンドモチベーションと資本統合、同社取締役に就任。
2010年(株)グロウス アイ設立、大学教育と企業の人材採用の連携支援を手掛ける。
また同年に(株)大学成績センター、翌11年にはNPO法人DSS (大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる会) を設立。
採用に関わる多くのステークホルダーを理解しつつ、採用・就職の"次の一手"を具体的に示すことに強みを持つ。
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