「私が学生のときはね…」が通用しない理由~学びの環境の変化を知ることが採用の大きな足掛かり~
辻 太一朗(つじ・たいちろう)
2019/07/31
イントロダクション
こんにちは。
採用ナビゲーターの辻太一朗です。
8月に入り、選考も進む中、夏季インターンシップも正念場に差し掛かっている頃かと思います。採用担当の皆様は、忙しい夏をお過ごしかと思います。
インターンシップは、学生にとっては企業を知るため、非常に重要なイベントであるのは周知の事実かと思いますが、採用担当にとっても「今」の学生たちの傾向を知るためにとても重要な機会につながっていくかと思います。
私はここ数カ月、各地の私立大学様からご依頼をいただいて、学生向けの授業を行わせていただいていました。
このコラムでも現代の学生たちの授業環境について何度か紹介しておりますが、改めて今回の授業を通して感じた大学の変化についてお話させていただきたいと思います。
少しでも皆様の参考になれば幸いです。
昔とは全く違う、大学の授業システム!
以前にもお話しさせていただいていますが、今の学生たちはとにかく授業に出席することが単位取得の絶対条件とされています。
つまり、一昔前のような、友人に協力してもらう「代返」や「最後のレポートで巻き返す」といった方法はもはや不可能ということですね(笑)。
そのため出席に評価の重きを置いているところが多く、出席システムについても効率的なものが導入されています。
例えば、ある大学ではその日の授業ごとに、出席者しか分からない授業番号を発番し、学生は自分たちの端末からその番号で授業にログインして出席確認をします。また、このシステムは、なんとGPSと連動しており、ログインした学生が教室内にいるかいないかも確認することができるそうです。途中退室した生徒も分かってしまうため、安易にさぼることはできないということですね(笑)。
システムに大きな変化が出たのは出欠確認だけではありません。
講義内容も非常に双方向性が高く、講師の持つ端末にチャット形式で、生徒からの質問がオンタイムで流れてくるようになっている大学もあります。ニコニコ動画のようなイメージですね。
こうすることで「あ、ここを理解してない生徒が多い」「この質問は非常に面白い。今すぐ共有しよう」など、講師も学生もお互いの分からない部分をよりフラットに質問し、解決できるようになります。
また、学生としては匿名で講義中に質問できるので、授業後に講師を捕まえて質問する手間や、講義中に目立ってしまうということもないのでより気軽に積極的に授業に参加することができるわけです。
その他には、紙媒体の教科書を使わずにwebに上がっている電子データを見ながら授業を進めていくところもあります。
講師側の端末には、授業に参加している生徒たちがどれぐらい予習をしているのか、また授業中のどのページを見ているのかがログで残り、学生たちの理解度を図ることができます。
例えば、今進めているページよりも手前のページを見ている生徒が多ければ戻って説明をしたり、もっと先のページを見ている生徒が多ければ、その先まで飛ばして授業を進めたりすることが可能になります。
これまでのように、講師が教壇に立ち板書で説明しながら一方的に進めていく授業ではなく、学生の自主性や進捗に沿った進め方をする授業が多くなっているようです。
学生自身も授業に参加するハードルが下がり、受けなければならない授業に対して自主的に参加する意欲が湧くような雰囲気がありました。
モチベーションやポテンシャルをどのように上げていくか
このように、授業に参加しないとならない仕組みができた環境の中でも、前列に座ってメモを取りながら参加する学生もいれば、後列に座って眠っている生徒もいます。
昔は授業に出たくなければ出ないでも問題なく単位は取れましたが、今は全員が授業に参加しなくてはなりません。そうした中で、意欲的な学生とそうでない学生にそれぞれのカラーが出てくるのは当たり前のことですよね。
1コマおよそ90分の授業を1日3~4コマ、多い生徒では5~6コマ受けている、つまり時間にして6~8時間は大学にいる必要のある学生ですので、どの授業もすべて集中しなければなりません。
ですが、一般的な労働時間と同じだけ勉強に集中するので、途中でぼーっとしてくる学生が出てくるのも無理はありません(笑)。
しかし大切な学生の90分を預かっている手前、一人でもぼーっと過ごす学生が少なくなるように、いろいろ試行錯誤しながら講義を進めます。
講義の中には、その日のメインになる項目がいくつかあります。そのポイントを少し大きな声で話すと、学生は「おや?」と思って体や目線をこちらに向けます。
また、「これは面白い話でして」「ここが重要なんですけどね」「この話は皆さんに大きく関係することですが」など、重要ポイントに引き付けるためのフックを用意します。そんな言葉だけで…とお思いの方もいると思いますが、これらの言葉に反応する学生って、多いんですよ。
ぼんやりしている生徒や、机に突っ伏している生徒がこのフックを投げることで起き上がったり、目線をこちらに持ってきたりするのは非常に面白い反応だと思います。
「自分にプラス?」「面白いの?」という、分からないけどその先を聞いてみたいという学生の気持ちがここで行動に変化を起こします。
そこから先の講義内容をメモし始める学生もいれば、「意外と関係ないな」「言うほど面白くなさそうだな」と再びぼーっとする学生もいます。
どんなことが学生の琴線に触れるのかは、話してみないと分からないので、私も色々試してみます。
例えば、授業の最後にレポートを書かせたりするとその日の授業の理解度を図ることができたり、学生一人ひとりが持っている疑問や興味関心がどこにあるのかも顕著に分かります。
そして、私が思っていた以上に学生たちの価値観や思考、能力の違いが一つの授業で大きく浮き彫りになることも分かりました。
学業における思考や行動の違いを知ることでより学生が自主的に参加しようと思える内容にブラッシュアップすることができます。
それは仕事になっても同じことではないかと考えました。
一人ひとりのモチベーションやポテンシャルをしっかり見極め、その人に合った業務であったり、全体の平均を底上げするための業務はどれかなどを振り分けることができるのではないでしょうか。
今は履修履歴を導入している企業が増えましたが、この履修履歴は個人のポテンシャルを見極める判断材料として活用することで本人のモチベーションを最大限まで引き上げることができるのではないと思います。
学ぶ環境の変化を、企業はどうやって理解していくかが問われるかも
履修履歴が導入されるようになってから面接で学業について質問してくる企業が増えてきた、という話を私の授業でもよく行います。
授業終了後に、学生にアンケートを書いてもらっているのですが、以下のようなコメントがありました。
「履修履歴は相対的に比較できる事実データなので、面接時に自分の学業の話を作り話ではないと信じてもらえるのではないかと感じた」「親世代の人から『勉強を頑張っても就職には関係ないよ』と言われて残念に思っていたけど、今は全く異なるので頑張り甲斐があり、将来につながるんだと思えた」
その一方で、実際に面接を経験している学生からは、「履修履歴を使って話すチャンスがなく、体育会との両立の大変さを分かってもらえなかった」「そもそも面接官が学業についての興味を示してくれなかった」などの返答もあり、企業がまだ学生のことを本当に理解しようとする姿勢を持ち合わせていないという現状も見えてきました。
前項でもお話ししたように、今の学生たちの環境は私たちが学生だった頃と劇的に変化しています。
授業に出ることが必要不可欠であり、それをきちんとこなしてはじめて単位取得やその先の目標に到達できるという環境を知るだけでも、これから出会う学生たちがこれまで積み重ねてきた努力を理解することにつながると思います。
そしてそれが事実であることを裏付けるために、履修履歴が存在し、学生たちもそれを基に自己PRができるのではないでしょうか。
学生たちの学びの環境を知ること。これが今後の採用活動に非常に有効であると私は考えています。
今月もお読みいただきありがとうございました。
- 辻 太一朗(つじ・たいちろう)
- (株)リクルート人事部を経て、1999年(株)アイジャストを設立。
2006年(株)リンクアンドモチベーションと資本統合、同社取締役に就任。
2010年(株)グロウス アイ設立、大学教育と企業の人材採用の連携支援を手掛ける。
また同年に(株)大学成績センター、翌11年にはNPO法人DSS (大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる会) を設立。
採用に関わる多くのステークホルダーを理解しつつ、採用・就職の"次の一手"を具体的に示すことに強みを持つ。
「心構え」
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