
辻 太一朗(つじ・たいちろう)
2018/12/05
イントロダクション
皆さんこんにちは。採用ナビゲーターの辻太一朗です。
年末が近づいてきましたね。各社とも19年卒採用に一区切りがつき、今年一年を振り返る機会も増えているかもしれません。
今年も本コラムにて、採用に関するさまざまなお話をしてきましたが、その中で何度かJリーグのチェアマンを務めている村井満さんにご登場いただきました。
現在はチェアマンとして活躍されている村井さんですが、もともとはリクルート出身で、私の元上司でもあります。
先日、とある雑誌の企画でその村井さんと対談をさせていただいたのですが、その際にとても印象的なことをお伺いできました。私自身勉強になりましたし、社会人誰しもが関わる話題だと思いましたので、今回のテーマとさせていただきます。
以前のコラム『「オン」と「オフ」のつながり、意識していますか? -海外で活躍しているサッカー選手の意外な共通点とは!?-』では、海外で長く活躍できた日本人選手とそうでなかった選手の違いを村井さん自身が調べていく中で、その差は技術やフィジカルではなく「『楽しく食事ができる力』を持っていたかどうかではないか」という考えに至った、ということをお伝えしました。
結果が最も問われるプロスポーツの世界でありながら、試合や練習という“オン”の場面の差ではなく、食事という“オフ”ともいえる場面での差が大きな決め手になっているという点が非常に興味深かったと思っています。
今回の対談では、海外で選手が活躍するための「傾聴力」の重要性がキーワードとなりました。実際の対談現場では、もう一つのキーワードが浮かび上がったのですが、それについては記事の中で大きく取り上げられることがなかったため、本コラムにてお伝えしていきたいと思います。
プロであっても「技術」より「学ぶ姿勢」が重要?
「傾聴力」と並び、選手が海外で活躍するために必要とされる力、それは「主張力」だというのです。
「傾聴力」や「主張力」と聞くと「それってコミュニケーション能力のことでは?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。ですが、ここでいう「傾聴力」や「主張力」は、能力的なものを指しているわけではありません。
新しい環境の中で、少しでも早くその場に馴染めるよう、他者の意見に耳を傾けたり、自らの意見を何としてでも伝えなければいけないという意思であったり、つまりは「学ぶ姿勢」が最も重要であるということです。
例えば、とあるサッカーチームにそのチームのレベルからすると不釣り合いなスター選手が加入したとします。もちろんチームとしては、その選手が活躍できるような配慮や環境づくりはするでしょうが、だからといって、その選手のすべての意見を聞きいれて、チームを根本から変えることはしませんよね。チームに加入した以上、誰しもが尊重しなければならない規律や風土が存在します。
新たに加わった選手からすると、環境の変化によって分からないことが数多く出てきた状況で、まずはその現状を正しく認識し、「どうすれば分かりあえるのか」を考え、時に相手の意見を受け入れ、時には自らの主張もしながら、擦り合わせをしなければいけないわけです。
真の一流選手は、単に聞くのが上手い、話が上手いということではなく、少しでも早く環境に順応しようという「意思」が強いのでしょう。時間の経過によって、誰しもがある程度環境に順応できる中で、その意思の強さが真の一流か、そうでないかの差のような気がします。
後輩に嫉妬してしまった、苦い思い出
ここまで、サッカー選手を例にしてきたので、なかなか皆さんの日常に落とし込みづらかったかもしれませんね。
そもそも、新しい環境下で学ぶ姿勢を鮮明にし、いち早く組織に溶けこむというのは、言葉にすると簡単ですが、実際はそう易しいものでもありません。
そこで、ここからは私の少し恥ずかしい話をしたいと思います(笑)。
私がリクルートに所属していた時のことです。
37歳で大阪から東京に異動となりました。
その時の上司は、私のような典型的な関西人のノリは好みではなかったようで「お前は○○○だよな」というように、固定概念にはめられているように思えて「正直この人とは合わないな…」と感じていました。
とはいえ、今後のキャリアのことを考えれば、例え性格的に合わない上司にも「認められたい」という気持ちはあるわけです。
それもあって、その上司から「これについてはどう思う?」と尋ねられた際に「分かりません」と言いたくなく、他の人の意見を引用して答えることもありました。
大阪で15年近く人事の仕事をしてきて、それなりにキャリアを積んできたこともあり「とにかく上司に否定されたくない」という気持ちが強かったのです。
当時の同僚には、この採用専門家コラムでもおなじみの曽和がいました。
彼は私より12歳も年下なのですが、若さもあってか、その上司に「それ分からないんですけど、どういうことですか?」「僕はこう思うんですけど」と積極的に接していました。
「お前は甘いんだよ」と言われながらも、その上司と曽和の会話は、私と上司の会話と比較するとはるかに生産的なものでした。
今思うと、私は曽和に嫉妬していたのだと思います(苦笑)。
当時は課長職となり、キャリアを積んできたからこそ、あらゆる面で「分かっていなければいけない」と悪い意味でのプライドとなって、素直さを忘れ、自分の意見を抑えてしまっていたのだと思います。
誰もがぶち当たる「壁」を乗り超えるために
「自分は認められていない」「新しい環境に馴染めていない」。そう感じてしまった時、人は弱くなるものですよね。
では、そんな時にはどう乗り切ればいいのでしょうか。
このコラムをお読みのあなたがもし若いのであれば、臆することなく「傾聴する」「主張する」「擦り合わせる」ことをしていただきたいと思います。そこに積極的になることが成長への近道であることは言うまでもありません。
若いからこそ許されるということは数多くあります。その権利をみすみす逃してしまうのはもったいないことです。
では、もしあなたが当時の私のように、ある程度のキャリアを積んだことで「素直さ」を忘れかけているのだとしたら、そうすべきなのでしょうか。
私がその上司とどう付き合っていったのかいうと「この人とは無理だ」と決めて、他の上司から認められる道を選んだのです。要するに「逃げ」ですね(笑)。
とはいえ、東京に異動してきて、いち早く組織に馴染む重要性は理解していましたので、他の上司や同僚に対して「傾聴する」「主張する」ようにしました。
その中で特に自身の至らなさをさらけ出せる人や、親身に話を聞いてくれる人を見つられるようにしました。
もし私がひとりの上司がきっかけとなり、他の上司や同僚に対しても「傾聴する」「主張する」ということを止めてしまっていたら、今の自分は存在していないと思います。確かに私は一度逃げたわけですが「逃げ続ける」ことはしませんでした。
今回は皆さんの採用活動に直接役立つような話題ではありませんが、きっとこうした壁は誰もが乗り越えなければいけないものだと思っています。
皆さんがその壁を前にしたとき、今回のコラムを思い出していただけたら、私自身、恥ずかしい過去を告白した意味があったということでしょう(笑)。
今年も1年間、お付き合いいただきありがとうございました。
それではまた来年お会いしましょう。
- 辻 太一朗(つじ・たいちろう)
- (株)リクルート人事部を経て、1999年(株)アイジャストを設立。
2006年(株)リンクアンドモチベーションと資本統合、同社取締役に就任。
2010年(株)グロウス アイ設立、大学教育と企業の人材採用の連携支援を手掛ける。
また同年に(株)大学成績センター、翌11年にはNPO法人DSS (大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる会) を設立。
採用に関わる多くのステークホルダーを理解しつつ、採用・就職の"次の一手"を具体的に示すことに強みを持つ。

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