2011/09/13

「人を見る目」に自信がありますか?―人事のプロとして人物理解をするためには―

辻 太一朗(つじ・たいちろう)
(株)リクルート人事部を経て、1999年(株)アイジャストを設立。
2006年(株)リンクアンドモチベーションと資本統合、同社取締役に就任。
2010年(株)グロウス アイ設立、大学教育と企業の人材採用の連携支援を手掛ける。
また同年に(株)大学成績センター、翌11年にはNPO法人DSS (大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる会) を設立。
採用に関わる多くのステークホルダーを理解しつつ、採用・就職の"次の一手"を具体的に示すことに強みを持つ。

イントロダクション


こんにちは、採用ナビゲーター・辻太一朗です。

今回は、新卒採用の話からは少々離れますが、人事・採用担当者として“踏み込んだ”人物理解についてお話しします。「個人の素質」(能力と動機・価値観)をさらに分解し、個々の人材特性をそれぞれの要素に当てはめてみる、そんな人物理解の仕方と、それにより「人事のプロ」として見えてくるものなどをお伝えします。

個人を理解するための5つの要素

“一歩踏み込んだ人物理解”をするためには、個人の素質をさらに5つの要素に分解する必要があると考えています。




私自身、これまでの人事の経験(コンサルタントという立場も含めて)において、あらゆる人材の特性を、この5つの要素で捉え、理解してきました。

本当に、この5つで全ての人材を語れるのか?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。そこでここからは、それぞれの内容を順に説明します。

●能力

(1)頭の力

 

賢いとか知識が豊富といった意味での「頭の力」と、考える力や応用力など、いわゆる“地頭がよい”と言われるような「頭の力」に分けられます。

この能力が高い人は、何かを整理してまとめたり、豊富な知識をもとに物事をじっくり考えるなど、官僚や学者などに多いタイプといえます。

(2)心の強さ

  能力には、「頭の力」だけでなく、自分の感情や行動をコントロールできるという心の強さも必要です。すべきではないと思うことはしない。逆に、分かってはいるけれど、ついやってしまう、口にしてしまうということもあるでしょう。そういう自分を律する力がどうなのかという視点です。

(3)(広義の)コミュニケーション力

  いかに外の世界とつながっていくことができるかという、広い意味でのコミュニケーション力です。自分の考えていることを言葉や表情などで伝えていくことができる。他人の感情を推し量り、場の空気を読むといった能力ともいえるでしょう。言語・非言語でのコミュニケーションともいえます。

例えば、技術的な情報を正しく伝える必要がある営業職の場合は「言葉」が重要になるでしょうし、アパレルの販売職などでは、感覚や感情といった「非言語」も交えて伝えていくことが求められる場合もあるでしょう。

いずれにしても、「広義のコミュニケーション力」にたけた人は、“世渡り上手”といわれるような人です。
●動機・価値観

(4)対象

 

どういうことが好きか、嫌いかといった、対象が何かということです。例えば、営業の仕事が好き、人と話すことが好き、取り扱う商品が好きなど、価値観の対象が「何」で「どれくらいの強さか」です。起業家や研究者などは、対象へのこだわりが強い傾向があります。

「好きこそ物の上手なれ」という言葉があるように、これが好きという思いが強いと、将来的に伸びていく可能性が高いといえます。

(5)関係性

  自分と周囲とどのような関係を持ちたいか。自分が周囲からどのように見られたいかといった価値観です。「負けず嫌い」や「信頼されていたい」「人から好かれたい」などがその具体的な例です。

例えば負けず嫌いで、じゃんけんでも何でも負けたくないという気持ちが強い人は、バイタリティーにあふれ、数字や結果を重視されるような営業に向くことが多いように思います。

また、人から好かれていたいといった気持ちの強い人の場合、多少人間関係が悪くなってでもやらなくてはいけないような仕事では、ストレスを感じる可能性が高いといえます。


実在の人物に当てはめてみると?

先ほども触れましたが「人物理解」の対象となる人たちを、これらの5つの要素の掛け合わせで言語化することができます。

例えば、こんな人が社内にいませんか?

例1:頭が良く、コミュニケーション能力も高いのに、伸びない人

  物事の理解力や応用力もあり、コミュニケーション能力が高いので、入社したてのころは非常に期待されていた。しかし意志が弱く、「これをやりたい」という強い動機を持っていない。そのため、年次が上がっていくにつれて目立たなくなり、評価が下がってしまった。

例2:心が強く、周囲の人望も厚い人

  感情や行動を状況によってコントロールでき、何をしたいのかが明確なタイプ。勝ち負けにこだわりすぎず、コミュニケーション能力が高いと、上司や部下などの信頼も得て大きく伸びていく。

例3:「頭の力」はそれほど高くないが、勝ち負けにこだわり、頑張り続け伸びる人

  知識量や“地頭の良さ”はそれほどではなくても、負けず嫌いで勝ち負けにこだわり、愚直に続けることで成功していく。相手の感情を受け止めるコミュニケーション能力が少し低く周囲の感情が分からないところがあるが、それだけに平気で相手に要望ができ、ぶれない判断につながり結果を残す。創業者に多い傾向。

例4:世渡り上手で、強い意志を持つので、周囲に人が集まる人

  コミュニケーション能力が非常に高く、他のメンバーとうまくチームを組んで力を発揮していける。しかも、強い意志を持っているので、周囲に流されない。また、周囲に信頼されたいという思いが強いので、自然と人が集まってきて、強い集団を形成していく。逆に、周囲をあまり信頼しないと孤立する恐れがある。

このように、さまざまなタイプの人物を、5つの要素の組み合わせによって言語化したり、人物理解をすることができます。

「人事のプロ」として幅を広げるキッカケに

実際に、皆さんの社内にいる以下のような人物を、この5つの要素に当てはめて考えていくことで、これらを使った人材要件の整理・把握を、よりご理解いただけるかと思います。

さらに、可能であれば人事部内でも、5つの要素を使って社内の人材について人物像や、人物理解の議論をしてみてください。それにより、以下のような効果も期待できます。

   ● 人事部内で、人材を理解・把握するときの一つの「見方の型」となります。人物に関する話題において「共通言語」となり、認識のズレや勘違いを避けることができます。

   ● 人事部内でスタッフの入れ替わりがあっても、「型」や「共通言語」に沿った人物評価が継承されていきます。そのため、個々人のデータも蓄積されていき、たとえ別の担当者が判断することになったたとしても、評価のブレが少なくなると考えられます。

このような議論よって、社内の人材に関する人物理解が深まり、自社の環境の中で活躍できる人、なかなか活躍できない人などの傾向も具体的になるのではないでしょうか。

これらはもちろん、採用の場面だけでなく、配属や育成、異動、昇格・昇進などの際の議論・判断にも役立てることができます。


今回紹介したような考え方や方法で人物理解を深めていくことで、「人事のプロ」としての「人を見る目」が養われ、人事領域での業務の幅を広げることにもつながるのではないかと思います。

それによって、「人」を扱う人事の仕事に対して、より深い興味や、面白さを感じていただけるとうれしいです。


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