辻 太一朗(つじ・たいちろう)
2012/08/07
これからの時期は懇親会やイベントなどで内定者と接する機会が増えてくることでしょう。内定者とのコミュニケーションの中で「面接時と印象が違う」と思ったことはありませんか? 今回はその理由とコミュニケーション能力についてお話しします。
イントロダクション
こんにちは。採用ナビゲーター・辻太一朗です。
新卒採用も終盤に近づいてきました。これからの時期は懇親会やイベントなどで内定者と接する機会が増えてくるでしょう。ぜひ「身内化」の促進を試みていただきたいと思います。
一方で、内定者との接点の中で「面接時と印象が違うなあ」と思ったこと、ありませんか?例えば、「もっとコツコツと努力するタイプだと思っていたのに、そうではないようだ」とか「誠実でしっかりしていると判断していたけど、やや時間にルーズな性格だった」など、なんとなく違和感が生じているといった声を聞くこともあります。
面接に向けて、学生も準備を重ねてきていますから、事実よりも少し大げさに話していたり、面接者の印象に残るような表現方法で面接に臨んでいたりするケースも考えられます。
「面接で判断する際に、一番重要視する部分は?」と聞くと、多くの方々から「コミュニケーション能力ですね」という答えが返ってきます。たしかに、面接するときには、会話のしやすさや、柔軟性、印象などは、分かりやすく判断しやすい一面があるかもしれません。しかしその反面、最終的な内定出しの際に、面接者が誤った判断に陥りやすいのもコミュニケーション能力なのです。
この点について、まずはお話ししましょう。
コミュニケーション能力で面接者が惑わされている?
実は以前、自主的に、面接トレーニングを行っていたことがあります。人間の記憶は時がたてば変化します。内定者に抱いていた印象も、時期によって変わる可能性があります。そこで私は、面接での様子や、そのときの学生の印象を日記のようにメモ書きしていたのです。その上で、ちょうど今のような時期と入社後に再度、メモに記されている内定者の言葉や印象を見返しながら、「本当にあの面接内容でよかったのか」「きちんと人物を見極める面接ができていたかどうか」をチェックしていました。
このようなチェックの中で、同じ内定者に対して時系列に見ていくと、面接の場では分からなかった側面が見えてくる場合があります。
例えば、面接で話を聞いていくうちに、「彼は入社後も頑張ってくれそうだ」とか「彼女は臨機応変に対応できる力がある」といった印象を受けたとします。
しかし「コツコツと地道に頑張る努力家だ」と思っていたけれど、実は「コツコツ頑張っているような」話し方をしていただけかもしれません。話し方や表情が印象的で、具体的なエピソードや数字を織り交ぜて話す学生であれば、多少おぼつかない部分があったとしても、「大丈夫だ」と思ってしまうこともあるでしょう。
こうした面接でのコミュニケーションでは、ときに、判断が難しい場合があるのです。そもそも「コミュニケーション能力」とは何でしょうか?次は「コミュニケーション能力」について詳しく定義付けをしてみます。
コミュニケーション能力の定義を試みる
「コミュニケーション能力」という言葉はよく聞くのですが、なにか漠然としていますよね。まずはしっかりと、定義付けをするために分解して考えてみましょう。例えば「世の中の状況を理解する」のもコミュニケーション能力といえるかもしれませんし、「多くの人々に対して、自分の存在をアピールできる力こそ、コミュニケーション能力である」という人もいるでしょう。
しかし面接の場でいわれる「コミュニケーション能力」というのは、初対面の人に対して1対1で、相手の話していることを理解し、またそれ以上に、自分自身についてしっかりと相手に伝えられる能力のことです。コミュニケーション能力は、さらに以下の2つに分けられます。
(1)言語でのコミュニケーション能力
これは言葉を通じて、相手に自分を伝える能力のことです。それも、論述ではなく口頭で、自分自身の過去や考え方を伝える能力です。面接者からの質問に対して、「今、何を聞かれているのか」を正しく理解し、分かりやすく伝える。これが言語でのコミュニケーション能力です。
(2)言語外でのコミュニケーション能力
話す際の身振り手振りや、顔の表情から受ける印象が、話しやすさにも影響を与えている場合があります。メラビアンという心理学者の実験では、話の内容などの言葉からの情報は7%、口調や話し方の速さなどの聴覚情報が38%、見た目などの視覚情報が55%の割合であったという話を聞いたことがある人もいるでしょう。同じ内容を話している場合でも、その人の表情が明るいかどうか、人懐こい印象があるかどうかで、そうではない人の話よりも心に入ってくるといった経験がある方もいるのではないでしょうか。
さらに、相槌を打ったり、感想を述べたりなど、「あなたの話をしっかり聞いていますよ」という素振りがあれば、相手も話しやすいですよね。こうした言語外での動作ができる能力を、言語外でのコミュニケーション能力と定義します。
それでは、それぞれのコミュニケーション能力を、さらに分解してみましょう。下の図を参照ください。
まず、どのような特性を持つ人が言語でのコミュニケーションにたけているのかを考えてみることにします。これは、以下のような特性に分けられるかと思います。
<言語でのコミュニケーション特性>
- 1.相手の話を理解できる
- 2.言葉(単語)を正確に理解している
- 3.言葉の順番が正しい
- 4.説明の範囲が適切
- 5.話のポイントが分かりやすい
- 6.表現方法が上手
1は相手の話をしっかり理解できており、どんな答えを求められているかを把握できる人です。例えば「最近、どう?」と聞かれてどのように返答すればよいのか困ってしまう人ではなく、前後の文脈やシチュエーションを踏まえて、どのような回答が適切なのかを理解できる人です。
2と3は、自分の考えを正しく、言語を用いて伝えることができる人。こういう人は言葉の意味を正確にとらえているので、正しい言葉、正しい順番で相手に伝えることができます。この2、3があまりうまくない人の話は大変分かりにくいものです。
4は、「誰」に話すのかを意識しているということです。初対面の人に自分の過去を話すときに、どこから話をすれば相手が理解しやすいかを考えながら話せる人ですね。例えば、面接で「あなたの強みは?」と聞かれたとします。そのときに、「リーダーシップです。高校からずっとラグビーをやっていましてキャプテンも務めました」というよりも、「リーダーシップです。高校のときにラグビーをやっていまして、県下ベスト8まで入りました。部員数も200名いまして、そこのキャプテンを務めました。その1年間は本当に大変で……」と話すほうが、相手にイメージが正しく伝わりますよね。
5は、「何」を話すのかを意識している人です。自分が話したい内容を状況に応じて、臨機応変に話せる人です。例えば面接で「短めにお願いします」と言われたときに、話の優先順位をつけて、ポイントをかいつまんで伝えられる人。たまに、「短めに」というと早口で話しはじめる人もいますが(笑)。一般的に5がうまい人は論理的思考力も高い傾向があります。
6は、「どのよう」に話すかを意識している人です。このような人は、自分の感じている「すごさ」「大変さ」「面白さ」などをうまく相手に伝えることができる人です。相手の知らない状況をどうすればちゃんと伝えられるか、表現方法を考えられる人です。具体的な状況や、必要に応じて数字やたとえ話などを用いて話せる人は、これに当てはまるでしょう。
4〜6までの3つの特性を持つ人は、言語のコミュニケーション能力にたけている人といえます。こうした話し方は、真面目さや頭の回転の速さを相手に印象付けるものですが、一方で、自分を演出できる方法でもあるのです。
言語外でのコミュニケーションは、以下の2つのパターンになります。
<非言語でのコミュニケーション特性>
- 1.相手の感情が読み取れる
- 2.自分の感情表現ができる
1は相手の感情を察知して対応できる人です。「今この人は機嫌が悪いな」と思えば、「もう少し短めに話しましょうか?」といった気配りもできますよね。逆に感情が読み取れない人は、面接でも自分のペースで滔々と話し続けるかもしれません(笑)。
2については、例えば身を乗り出してじっと相手の眼を見ながら話すとか、相手の状況を見ながら自分の伝えたい感情を表現できる人です。この2つを実行できる人は非常に話しやすい印象を与え、聞き上手であったりします。
コミュニケーション能力は、このように言語と言語外、それぞれを分解してとらえることが大切になります。
一度、ご自身の周囲にいる上司や同僚、ご家族に当てはめて考えてみてください。面接に及ぼす影響を想定できるようになっていきます。
冷静な眼で、学生の本当の姿を見極めよう
ここまでお話ししたように、コミュニケーション能力は、面接に大きな影響を及ぼすことが考えられます。「柔軟性があると思っていた学生が、グループワークをさせてみると意志の弱さが目立っている」「愛想がいいと思っていたのが、実はいい加減でアバウトな性格だった」「意志が強いと思っていたのが、実は周囲の状況に鈍感だった」といったこともあるかもしれません。そこで内定者の本質を見極めるための3つのポイントをお伝えしましょう。1.「なにか違和感を覚える」と感じたら、なぜ違和感を覚えるのかを追求していくこと。
これは内定後に「なんとなく面接時の印象と違うな」というような違和感を感じたときには、何が面接時と違うのかと、感じた違和感を明確にすることです。
2.内定者の行動を冷静に見ること。
これは内定者の今の行動を冷静に見て「遅刻が多い」「周りのメンバーに興味が薄い」「強引に自分の意見を主張する」などを感じることです。その上で、それは面接のときには分かっていたことか、分かっていなかったことなのかを思い起こしてください。もし分かっていないことなら「どうして分からなかったのか?」と振り返ってください。
3.面接を振り返ってみて、今とどう異なり、どんな違和感を覚えるのかを考える。
これは単純に面接時を思い返して、今の印象と何が違うのか? どうしてそのような違いがあったのかを振り返ります。
こうした振り返りの作業を行うことで、内定者の本当の姿も理解できてきますし、来年度の面接のステップアップも可能になってきます。
採用活動は振り返りをしますが、面接はなかなか振り返りませんよね。しかし、メモに残すなど、面接をチェックする機会を設けることで、さらに「見極める」ことができる面接になっていくでしょう。
- 辻 太一朗(つじ・たいちろう)
- (株)リクルート人事部を経て、1999年(株)アイジャストを設立。
2006年(株)リンクアンドモチベーションと資本統合、同社取締役に就任。
2010年(株)グロウス アイ設立、大学教育と企業の人材採用の連携支援を手掛ける。
また同年に(株)大学成績センター、翌11年にはNPO法人DSS (大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる会) を設立。
採用に関わる多くのステークホルダーを理解しつつ、採用・就職の"次の一手"を具体的に示すことに強みを持つ。
「見極め」
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