小宮 健実(こみや・たけみ)
2018/09/12
「育成型採用」とは、採用活動が人材育成の観点から設計されていることを意味します。
イントロダクション
皆さん、こんにちは。
採用・育成コンサルタントの小宮健実です。
猛暑が去り、そこかしこに秋の気配を見つけられるようになりました。
この時期になると、次年度の採用活動の企画を考え始める企業が多いと思います。そこで、今回のコラムでは、次年度の採用設計に役立てていただきたい考え方として、「育成型採用」についてお話ししたいと思います。
「育成型採用」とは、採用活動が人材育成の観点から設計されていることを意味します。
(採用した人材に対して、新入社員研修が用意されているといったことを指すのではありません。)
採用された人材が必ず育成の対象であることは説明の余地がありません。
では採用活動が、どのくらい育成と一体化した設計になっているかというと、まだまだ精度が低い企業が多いと思います。
しかし実のところ、採用設計が人材育成の観点から設計されていることは当然のことであり、育成型採用が実現していると、入社後の理想人材への道筋がクリアになるだけでなく、採用広報活動や選考活動、内定者マネジメント(内定者フォロー)にも良い影響があります。
今の時期は次年度の採用活動の企画をする時期であるとともに、内定者のフォローをしている時期でもあると思います。そこで今回は育成型採用の視点から、内定者フォローを考えていこうと思います。
ではさっそく始めていきたいと思います。
「育成型採用」とは
では、育成型採用の視点から、内定者フォローを考えていきましょう。
内定者一人ひとりは、自社で活躍できる理想人材に至る成長の道筋を歩いています。
その現在の立ち位置は、もちろん一人ひとり異なります。
それは一人ひとりの個性の違い(多様性)であり、別の観点から見れば一人ひとりの能力の違いです。
人材育成には自明の原則があります。
育成を正しく効果的に行うには、十把一絡(じっぱひとからげ)ではなく、一人ひとりに合った支援を行うということです。
では、現在異なっている一人ひとりの立ち位置は、いつ、どうやって可視化されるでしょうか?
それは、既に選考活動における評価として記録されているはずです。
つまり、育成型採用とは、応募者の評価を合否のためだけでなく、育成に関する情報収集も目論んで行うことなのです。
重要になる選考設計の質
では選考活動の記録として一人ひとりの現在の立ち位置が記されているとは、具体的にどのようなことなのでしょうか?
これは、求める人材像を定義した際に設定した能力要素(例えば課題発見力、創造力、計画力、実践力など)について、「どの力がどの程度理想に到達しているか」という情報があることを指しています。
そしてこの時点で、選考時の評価記録が適切に残っている企業と、そうではない企業に分かれると思います。
また、情報がない企業でも、そもそも求める人材像が適切に設定されていない企業と、求める人材像は適切に設定されているけれども、選考できちんと記録を残していなかった企業に分かれるでしょう。
このように、育成型採用からの内定者フォローの実践は、まず求める人材像に対して、内定者個々人がどのような成長の途上にあるのか、その現在位置を示すことが第一歩になります。
選考時の情報が脆弱だけれども、今年の内定者に対して育成型のフォローを行いたければ、決して遅くありません。今からでも、(面接官にヒアリングをするなどして、)内定者個々人に対する情報を整えましょう。
それは少しも無駄にはなりません。
その情報は、まさに今行うべき、今年の採用活動の振り返りに役立つ情報であり、次年度の採用設計に生かすことができる情報だからです。
内定者フォローの実践ポイント
では、育成型採用における、内定者フォロー実践のポイントを以下に示します。
① フィードバック
育成型人材の第一歩は、理想的な人材像(求める人材像)に対して、内定者個々人がどのような成長の途上にあるのか、その現在位置を示すことです。
選考活動における評価結果について、むしろ一切伝えない意向の企業もあるかと思いますが、それは今日の採用活動においてはネガティブな結果につながりかねません。
応募者が、自分が評価された点を知ることは、「なぜ自分が採用されたのか」理由を理解することになり、「自分がこの企業に就職することは正しい」と判断する材料にもなります。
そして、フィードバックの最も大きな目的は、内定者一人ひとりに「自己の成長目標」を授けることにあります。
人は成長実感があると、「その場に自分がいる意味」を感じることができます。つまり、成長実感を与え続けることは、内定辞退を防ぐことに効果をもたらすことにつながるのです。
② 将来活躍する姿のイメージ
フィードバックの際に、現在の立ち位置に関する情報とともに、「理想的な立ち位置から見える世界感」を伝える必要があります。
つまり、成長した暁には、どのようなやりがいや喜びを得ることができるのか、そのようなポジティブな情報を伝える必要があるのです。
内定者はまだ学生で、誰でも働くことに不安を抱えています。また、働くことは楽ではない、つらいことが多いと考えている人がほとんどです。
もちろん働きがい、仕事のやりがいについて、社員の話を聞いているでしょう。しかしその情報を自分の情報、「自分ごと」として認識するには、やはり誰か(採用担当者)の支援が必要です。
こうした情報も、フィードバックと同時に行うことで、内定者一人ひとり、個別具体的なストーリーになるはずです。
そしてこうした情報が、自己成長を促す推進力となるのです。
③ PDCAサイクル
内定者フォローの一番の特徴は、その対象期間の長さにあります。
内定者が目的地にたどり着くまで数か月の間、効果的、効率的に伴走を続けなくてはいけません。
そこで、育成型採用における内定者フォローにおいては、PDCAサイクルを実践するイメージで伴走をすると良いでしょう。
PLANは、もちろんフィードバックを基にした、自己成長のPLANです。
これは、残りの学生生活をどのように過ごすのかという観点で作成させると良いでしょう。
例えば、いずれ理想的な人材になるために、「課題発見力」を伸ばしたいのであれば、残りの学生生活でどのように行動すればその力を伸ばせるのか、具体的に考えてみるといった感じです。
PLANに対してアドバイスを行い、ある期間後(学生生活での実践後)に、再びコミュニケーションを取り、CHECKとACTIONを実践すると良いでしょう。
内定者にとっては、最後の学生生活でやりたいことをやり切ることにつながり、企業にとっては求める人材像への育成につながります。
こうした運用が機能すれば、内定者の辞退防止にも良い影響があるので、多方面にメリットがある施策と言えると思います。
ここまで、育成型採用の観点から内定者フォローを見てきました。
今回のコラムを読んで理解を深めていただき、ぜひ次年度の採用活動の設計でも、さらに効果的に実施していただきたいと思います。
ではまた1か月後にお会いしましょう。
どうぞよろしくお願いいたします。
- 小宮 健実(こみや・たけみ)
- 1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
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