辻 太一朗(つじ・たいちろう)
2019/07/03
イントロダクション
皆さんこんにちは。採用ナビゲーターの辻太一朗です。
6月からの選考も進んでいる頃かと思います。
そんな中で気になるのは、やはり内定者へのフォローですよね。
最近よく、採用担当の方から「辻さんが採用をやっていた頃は、どんなことを気にして内定者フォローを行っていたんですか?」と聞かれることがあります。
今も昔も、学生は内定承諾の意思を固めるまでも大変悩むものですが、いったん内定を承諾した後も、様々な情報の中で「本当にここに決めていいのだろうか…」「無理だと思っていたような企業も目指せるのではないか…」など、心境の変化が生まれてくるものです。
特に今は私が採用をやっていた頃よりも情報が集めやすくなり、学生たちの考えもどんどん多様になってきています。
なので今回は、私が採用時代に経験した話を軸に、どういった内定者フォローをしていくのが企業にとっても学生にとってもいいのかを、一緒に考えていけたらと思います。
内定者と関わる時間をつくりだす
私が採用担当だった頃は、内定者に対して時間を取ることを一番大切にしてきました。
理想は対面で本人と話すことでしたが、学生もそんなに暇じゃありませんので、こまめにメールや電話でのフォローを行うようにしていました。
ただ、今の採用業務は私の頃に比べて非常に重層化している印象ですね。
内定者フォローはもちろんですが、インターンシップの準備や説明会やガイダンスなどの企画など、とにかく業務量が多いですよね。
こうしたことから、内定者フォロー以前に、採用フローで次に何をするかということに時間を割いている人が多いかと思います。
例えば、内定者フォローはイベントやガイダンスで行おうと考えたときはもちろん、それで問題ない学生もいるとは思いますが、学生一人ひとり違う悩み方をしていると思います。
なので私は週に1度、学生に連絡するときは話すテーマについても個別に考えていました。
学生のタイプを考えて、この学生にはこんな話をしよう、あの学生にはこうしたアプローチでいこう、と模索していたんです。
当時の私は、採用担当として一人でも多くの内定辞退者を減らす、という目標がありました。
その為に時間をつくり、内定者との距離を縮めていくことに注力していました。
学生から少しでも離れてしまうと、学生もこちらからどんどん気持ちが離れていってしまいますよね。
そこでどんどん乖離が生まれてしまい、最終的に入社してほしい人材が離れていってしまうのでは勿体ないと私は思っていました。
時間をつくろうと思えば、それはきちんと形になり、より内定者と距離を縮める機会の創出となると思います。
「内定辞退を引き留める=企業にも学生にも最善」ではない
前章でも少し話しましたが、採用担当時代、私は一人でも多くの学生を引き留めなければならない、と躍起になっていました。
少しでも多く内定者と顔を合わせる機会を設け、学生の心が企業から離れないようにするために必死でした。
その頃は超売り手市場だったこともあり、企業は内定辞退者に対して敏感だったのです。
そんな中、私の先輩は内定辞退者に対して「君が辞退したいならば、それでいいと思うよ」と内定辞退をそのまま受け入れていました。
当時の私からしてみれば、その先輩の判断はとても信じられないもので、なんで内定辞退を承諾したのか先輩に聞いてみました。
するとこんな答えが返ってきたのです。
「内定者は内側から会社を見ることができる。その時に何か気になるものが出てきてしまったら、それはずっと気になるし、変わらないものだよ。それに、内定辞退した彼の性格を考えたら、仕方のないことだったと思ったんだよ」
私と先輩が決定的に違った部分は、私は会社の人間として何とか内定辞退者を出さないように学生を説得していたので、学生の側に立って考えるということをしていませんでした。
ですが先輩は内定者を同じ社会で働く仲間だと考え、内定者に寄り添い本当にその選択が本人にとって最良なのかを一緒に悩んでいたのです。
そのため先輩の内定者フォローの考え方は「説得する」というよりも、一緒に考えて「併走していく」というものでした。
今にして思えば、学生が内定辞退をせずに入社してくれれば、一時的には採用担当者にとってはいいものですが、本人がわだかまりを持ったまま入社するのは、長い時間で見ると本人にとって本当にいい選択ではないですよね。
先輩はそれを学生の目線になり、一緒に悩み、決断をしていました。
そんな先輩でしたので、内定辞退をした学生ともその後連絡を取り、何年にもわたってお互いに良好な関係を保っていました。
大切なのは「どの結末が、両者にとって一番いいことなのか」
その先輩から言われた中で、ほかに印象に残っている言葉があります。
「なんであの子はうちの会社が気になったのか。なにかの経験や知識がその裏付けになったのか。そういったことを辞退者から聞けば、来年それを生かした内定者フォローができるようになる。気になるポイントがあればそれに対しての予防策だって考えられるだろう?」
先輩は内定者フォローをする際、どうしたら内定承諾者と辞退者を見極められたのか、どのようなフォローをすれば辞退者の抱いた疑問や不安を払拭できたのか、採用フローの中でフォローできることはなかったのか、を細かく検証していたのです。
内定辞退者を無理に引き留めるのではなく、辞退者が出た場合、それまでの自分たちのフローに問題はなかったか、その問題点を次年度に生かすためにはどうすべきかなど、目の前の内定辞退者の先にあるものを見ていたのですよね。
私も内定者に対して「気になることがあったらすぐに相談してね」と先に言うようになりました。
多くの内定者は、それに対して「いえいえ大丈夫ですよ(笑)」といったリアクションをしてきますが、やはり後から気になって「実は…こんなことで悩んでいまして…」と相談してくる人もいました。
採用は企業と人材のマッチングである以上、どのような企業でも内定辞退者が出るのは仕方のないことだと思います。ですが重要なのは辞退者の数をいかに減らすかではなく、辞退者が出た場合どう捉えていくかだと思います。
自社に向いている人材はどこにいるのか、これまでのターゲット設定にずれはなかっただろうか。
辞退者に対して、この子を引き留めることが本当にお互いにとって最善のものなのか、同じようなタイプの学生が来た場合はどう向き合っていくのがいいのかといった考え方です。
そうすることで、一人ひとりの行動パターンを見極め、お互いにとって最適な結論を導くことができるのではないかと思います。
内定辞退に対して一喜一憂しているよりも、辞退者に向き合って話をし、企業のファンを一人でも多くしていくことが内定者フォロー、ひいては今後の企業成長に直結していくのではないでしょうか。
今月もお読みいただきありがとうございました。
- 辻 太一朗(つじ・たいちろう)
- (株)リクルート人事部を経て、1999年(株)アイジャストを設立。
2006年(株)リンクアンドモチベーションと資本統合、同社取締役に就任。
2010年(株)グロウス アイ設立、大学教育と企業の人材採用の連携支援を手掛ける。
また同年に(株)大学成績センター、翌11年にはNPO法人DSS (大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる会) を設立。
採用に関わる多くのステークホルダーを理解しつつ、採用・就職の"次の一手"を具体的に示すことに強みを持つ。
「内定者フォロー」
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