「この会社に決めよう」と思ってもらうための、3つの話題―応募者が腹落ちするために効果的な話題とは―

自社にとって望ましい応募者を合格にしても、入社につながるとは限りません。応募者自身の中でその会社への「想い」(志望理由)が高まっていなければ、「この会社に決めた」とはならないのです。採用したい人材の入社をより確実なものとするために、応募者の「想い」を高める「3つの話題」をご紹介します。

イントロダクション


皆さん、こんにちは。採用・育成コンサルタントの小宮健実です。

望ましい応募者は、合格を出しても入社してくれない可能性があります。
その会社への 「想い」 が応募者の中でしっかりと固まっていなくては、「よし、この会社に決めよう」 とは考えてはくれないためです。

そこで今回は、応募者の中で自社への 「想い」 を高める方法についてお話したいと思います。


一般的に採用活動では、応募者に志望理由を問う形で、自社への 「想い」 を確認していることが多いと思います。

それに対し、「御社の社員の方とお会いしたら、皆さん素晴らしい人でした。だから御社で働きたいです」 「子どものころから○○に興味があったので、御社で働きたいです」 「自分が経験してきたことを○○の仕事に活かせると思います。だから御社で働きたいです」 というような返答をよく聞きます。

志望動機を重要な評価要素として考えている企業も多いかもしれませんが、以前から申し上げている通り、これらの返答を第三者が (発言の論理性や会話力などではなく、質に対して) 評価を行うのは、とても難易度が高い作業だといえます。

それゆえ、私は志望理由を評価に使うのではなく、応募者と一緒に志望理由を作成し、いわゆる 「動機づけ」 に利用することをお薦めしています。

志望理由、すなわち 「自社に入社する理由」 が強固なものになれば、辞退を防ぎ、自社に対するコミットメントも強化されます。

応募者の志望理由を強固なものにする、つまり応募者の自社への 「想い」 を高めてもらうには、採用担当者や面接者が 「3つの観点」 について話すことが効果的です。

ではその3つの観点について、次章から説明をしてきたいと思います。

「想い」 の正体とは

応募者の志望理由が、最初から十分に整っていることは多くありません。

だからこそ、採用担当者や面接者が質問を通じて志望理由を整理し、応募者と一緒に志望理由をつくりあげることが可能なのです。

ただ、そのためには志望理由 (会社や仕事への想い) がどのようにつくられるべきか、理解しておく必要があります。
以下に、そのパターンをご紹介します。


1. 応募者の 「興味や欲求」
応募者の興味や欲求が、直接、想いにつながっているパターンです。
例えば 「私は鉄道が子どものころから好きで、いつか鉄道乗務員として働きたいと思っていました」 というように表現されます。
「……がしたい」 の……部分に、具体的な仕事の名前や職種の名前が入ってくることも多く、率直で具体的です。

2. 応募者が考えた 「仕事の意味や価値」
仕事に自分なりの意味や価値を見つけ、それが想いにつながっているパターンです。
「人々の生活を支えるインフラとして、多くの人に安く安全に価値を届けたい」 といったような表現がそうです。
「……がしたい」 の……部分に、自らが大切にしている価値観や概念が入ってくることが多く、表現は概念的・抽象的になります。

3. 応募者の 「自己の成長・活躍イメージ」
自らが成長して活躍できるイメージが、その仕事への想いにつながっているパターンです。
「私が学んできた……の経験を活かして、ITエンジニアとして活躍したい」 といった表現になります。
「……の経験を活かして」 という表現になることが多く、1、2と異なり、自分の持っている事実体験ベースの説明になります。


実は上記の3つは、キャリア理論上、キャリア選択の理由となる重要な観点を示しています。
会社や仕事への想いは、上記の3つ (どれかではなくすべて) の観点から、しっかりと腑に落ちるようにつくられることが大切なのです。

ただ実際には、上記の3つの観点のどれかが抜けていたり、これ以外のケースで志望理由が語られたりすることが少なからずあります。

例えば、冒頭に示した 「御社の社員の方とお会いしたら、皆さん素晴らしい人でした。だから御社で働きたいです」 というようなパターンは3つの観点のどれでもありません。

そのような場合には、その志望理由はそれとして受容するとして、上記の3つの観点を質問し、応募者に整理を促すことで 「志望理由=会社や仕事への想い」 を強化することができるのです。


3つのそれぞれについて、強化のポイントを示すと以下のようになります。

一つ目の 「興味や欲求」 の観点は、直接的・具体的に対象を示すことが、想いの強化につながります。

人は不明確な対象に興味や欲求を向けづらく、積極的になることができません。
そこで、応募者の志望理由において、希望する仕事や職種がぼんやりとしているようであれば、それを明確化する支援が重要です。

例えば、 「○○さんは、まだ希望職種を決めかねているといっていたけど、私は、○○さんは企画営業が合っていると思いました。そう思ったのは先ほど、○○さんの話の中で、……からです」 というような感じです。

二つ目の 「仕事の意味や価値」 の観点は、まさしく、応募者の代わりに仕事の価値を伝え、意味づけしてあげることが想いの強化につながります。

具体的には、その仕事がお客様や、社会に提供している価値について説明をします。
会社が公開しているミッションステートメントなどに触れてもよいかもしれません。

例えば、 「△△という職種は、直接的な知識やスキルだけではなく、社会が抱える課題について幅広い知識を持っていなければいけない仕事です。なぜならお客様の希望を叶えるだけではなく、社会のインフラを構築する仕事だからです。例えば、……といった感じです」 というような話をします。

「意味や価値」 は抽象的な表現になることも多いのですが、しっかりと腑に落ちると本人に長く影響をもたらします。
入社後、仕事の作業自体に興味が薄れることがあっても、その仕事の意味や価値に対する理解がしっかりできていると、仕事を続けることができるのです。

三つ目の 「自己の成長・活躍イメージ」 の観点は、応募者の学生時代における取り組みが、自社の業務 (業種) のどのような場面で活きてくるのか、論理的に説明してあげることがコツです。

これは求める人材像に沿って、適切に面接が設計されていれば説明は難しくないはずです。
応募者の学生時代の取り組みの話を聞いて、面接の評価項目をどのように評価したかについて話をします。
一方で、自社の業務と面接の評価項目がどのように関連しているかを、例を挙げて具体的に説明してください。

例えば、 「○○さんは先ほど、……をされたとおっしゃっていましたね。私どもの△△△職は……なときに……しなくてはいけないことがよくあるのですが、実は○○さんがされたことに非常によく似ているところがあります。私達はそういう力を××力と呼んでいて、△△△職で活躍するためにとても重視しているので、面接でもまさしくそういう力が発揮されたエピソードをお聞きしているんですよ」 といった具合です。

応募者が自己の成長・活躍のイメージが掴めると、 「きっとこの会社で活躍できる」 といういわゆる自己効力感が醸成され、応募者が自社の業務に興味・欲求を強める意味でもよい影響があります。


繰り返しになりますが、これらの観点はどれかができていればよいのではなく、3つともすべて整備されるべきものです。

では次章で、これら3つの観点を踏まえた、面接の場で会社や仕事への 「想い」 を高めてもらう会話の例を見てみましょう。

「想い」 に必要な情報を与える

志望理由(想い) をつくる3要素
「興味や欲求」 「仕事の意味や価値」 「自己の成長・活躍のイメージ」  を意識した会話例

(面接者)○○さんは、なぜうちの会社を志望しているのですか?
(応募者)お会いした人がどなたも素晴らしく、一緒に働きたいと思ったからです。
(面接者)そうですか。ありがとうございます。どんな点で一緒に働きたいと思ったのでしょう?
(応募者)仕事の話をお聞きしていて、お客様のことを第一に考えている姿勢が素晴らしいと思いました。
(面接者)どのような仕事の話だったのか、具体的に教えてもらっていいですか?
(応募者)はい。……でした。
(面接者)ちなみに、○○さんは希望する職種は決まっていますか?
(応募者)はい。もう少し自分がどの職種に向いているか、考えなくてはいけないと思っています。
(面接者)そうですか。 少し私見を述べさせてもらってよければ、○○さんには△△△職が合っていると思いますよ。 <観点1: 「興味や欲求」 を強化する話題>
(応募者)ありがとうございます。参考にさせていただきます。
(面接者)△△△職という職種については、説明会でお話していると思いますが理解されていますか?
(応募者)はい。でもまだ細かいところまでは……。
(面接者)△△△職は、直接的な知識やスキルだけではなく、社会が抱える課題について幅広い知識を持っていなければいけない仕事です。なぜならお客様の希望を叶えるだけではなく、社会のインフラを構築する仕事だからです。例えば、……といった感じです。
<観点2: 「仕事の意味や価値」 の理解を強化する話題>
(応募者)私もお客様の希望を叶えつつ、社会そのものに貢献できたりすることについては、とても共感しています。
(面接者)先ほど、○○さんは大学生活で、……をされていたとおっしゃっていましたね。
(応募者)はい。
(面接者)その体験では、……なことが必要だったとおっしゃっていましたが、まさに△△△職の仕事では、……な状況がよくあります。例えば……という感じです。そういうときには、まさしく……しなくてはいけません。○○さんの体験は、そのような時に必ず活かすことができると思います。
そういう理由で、○○さんは将来△△△職で活躍できると思ったのです。
<観点3: 「自己の成長・活躍イメージ」 を強化する話題>
(応募者)そうですか。どうもありがとうございます。
(面接者)もちろん、今のまますぐに活躍できるわけではなく、入社後に成長してもらうことが必要です。
ですが、弊社は……が整っていいますから、しっかりと経験を積んでいけば、十分に活躍できると感じています。
(応募者)どうもありがとうございます。

どうでしょう。参考になりましたでしょうか。

もちろん応募者全員に上記のような会話をしてもよいのですが、能力や適性において高評価の応募者に対し、面接の場でこのように積極的に働きかけ、会社や仕事への想いを強化することが効果的だと思います。

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小宮 健実(こみや・たけみ)
小宮 健実(こみや・たけみ)
1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。

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