小宮 健実(こみや・たけみ)
2015/06/16
イントロダクション
皆さん、こんにちは。採用・育成コンサルタントの小宮健実です。
今の時期、面接など選考の設計、面接者トレーニングの依頼をいただく一方で、大学や学生からは、内定辞退に関する相談や質問を多くいただいています。
今年は採用活動のスケジュールが大きく変わったこともあり、企業ごとに採用活動の進捗が大きく異なっています。 採用担当者の立場で考えたならば、迫りくる8月が過ぎないと、現状の採用活動が本当に順調なのか、果たしてそうではないのか、判断が難しいところでしょう。
それゆえ活動を粛々と進めつつも、今年は例年にも増して内定辞退防止策についてしっかり考え、効果的な打ち手を用意しなくてはならないと思います。
ご存知の通り、今年は新聞などで「おわハラ」という単語も取り上げられています。 期限を設け内定受諾書を提出してもらったところで、効果的な辞退防止になるとは思えません。
実際にはもっと本質的なアプローチを検討すべきでしょう。
今回は少し具体的な実施イメージを絡めて「内定を出した後、すぐやるべき3つのアクション」について書いてみたいと思います。
では早速説明していきたいと思います。
鉄は熱いうちに打て!
内定を出したら、すぐにやるべき3つのアクションがあります。
1. 腹落ち面談
まず、内定を出した後になるべく早く行いたいこととして 「腹落ち面談」 があります。 この面談を行う一番の目的は、内定者に 「自分はこの会社でいいんだ」 という納得してもらうことです。
腹落ち面談は、内定を出したらとにかく間を置かずに実施することが重要です。
恋愛でもそうですが、告白のタイミングは、最も気持ちが盛り上がっている時です。 気持ちが盛り上がっているその間に一気に面談を実施し、 「自分はこの会社に入ってがんばっていくぞ」 という気持ちまで育ませてしまうことがポイントです。
就職活動は、恋愛でいえば相手(応募者) の申し出(エントリー) に対して、改めてこちら(企業) から正式に告白(内定) しなおすようなものです。 つまり、必ず相手の恋愛が成就する形になるわけで、本来、どの応募者にとっても大変嬉しいことなのです。
だからこそ内定を出した時が距離を一気に詰められる、つまり納得してもらう好機なのです。
逆に、恋愛が成就したというのに、2、3週間とメールで連絡が来るだけだったらどうでしょうか。 その間に、内定をもらった瞬間の高揚した気持ちは落ち着いてしまいます。
「自分から応募した企業ではあるけれど、これで終わりにしていいのだろうか? ここでうまくいったんだから、他でもうまくいくかもしれない」 というように、自らの就職活動について、冷静に振り返る時間がそこに生まれてしまうのです。
では、腹落ち面談では何を話せばよいのでしょうか?
以下の3つのことを話題するとよいでしょう。
(1) 自分(内定者) の興味・欲求について:
自社の仕事が自分の興味や欲求を満たせることを理解していて、それを自分の言葉で語ることができる
(2) 自社の仕事の意味と価値について:
自社で携わる仕事の意味や価値を理解していて、それを自分の言葉で語ることができる
(3) 自分の成長・活躍について:
入社後の成長・活躍イメージを持っていて、それを自分の言葉で語ることができる
面接の中で採用担当者や面接者が質問を通じて整理したことを、あらためて内定者自身がしっかりと自分の言葉で語れるような状態に持っていくことが、「自社に入社することを納得している状態 なのです。
具体的な会話のイメージは、以下のようなものです。
(面接者) | ○○さんに内定の連絡をさせてもらいましたが、いかがですか? |
(内定者) | はい。御社にお世話になろうと思っています。 |
(面接者) | そうですか。ありがとうございます。 うちに決めるにあたって、どんなことを考えたか教えてもらっていいでしょうか? |
(内定者) | はい。やはりお会いした人がどなたも素晴らしく、一緒に働きたいなと思いました。 |
(面接者) | そうですか。ありがとうございます。うちの社員がもっている気質や企業風土などが、 ○○さんにとても合っているように私も感じています。 ちなみに希望する職種については、その後どのようなことを考えていますか? |
(内定者) | はい。面接のときに教えていただいて、それから少し△△職に興味を持っています。 |
(面接者) | それはよかったです。どんな点で興味が出てきたのでしょう。 |
(内定者) | △△職は、直接的な知識やスキルだけではなく、社会が抱える課題についてアプローチできますよね。なので、幅広い知識に触れられるのが楽しみです。 |
(面接者) | そのとおりです。社内では、自分の仕事についてだけではなく、広く教養を学んでいる人が活躍していますね。どんな分野でも構わないので、○○さんのように知的好奇心が高い人には向いていると思います。
<(1) 自分の興味を満たせることが理解できているか確認 |
(面接者) | それを仕事でどんな風に実現していけるか、イメージは持てていますか? |
(内定者) | 具体的には……、まだ弱いです。 |
(面接者) | そうですね、魅力的な事例がたくさんあるんですけど、例えば、……な事例があります(事例の説明)。お客様の希望を叶えるだけではなく、社会のインフラを構築していて、……といったやりがいもとても感じられたプロジェクトです。 今度、よければそのプロジェクトでリーダーをした社員と会話してみませんか? <(2) 自社の仕事の意味や価値について理解できているか確認 |
(内定者) | ぜひお願いします。 私もお客様の希望を叶えつつ、社会そのものに貢献できたりすることについては、とても共感しています。 |
(面接者) | そうした仕事を通じて、○○さんはどのように成長していけるイメージがありますか? |
(内定者) | はい。以前、△△職の仕事では、……な状況がよくあるとお聞きしたので、私が学生時代に取り組んできた……の体験が、そのような時に必ず活かすことができると思うようになりました。 入社後は、△△職で、日本だけでなく世界のインフラを構築していけるようになりたいと思っています。 |
(面接者) | そうですか。先ほどお話しした社員も、3年目くらいの時に……を経験して、実はその後……なきっかけから、……を体験したことで、大きなプロジェクトを任されるようになったんですよ。
<(3) 自己の活躍や成長イメージについて理解できているか確認 |
(内定者) | そうなんですか。機会があればそうしたキャリアの話を直接お聞きしてみたいです。 |
(面接者) | ぜひ聞いてみてください。再来週に内定者懇親会を開くので、そこに呼びましょう。 その社員に○○さんのことを伝えておきますね。 |
(内定者) | ありがとうございます。 |
いかがでしょうか。
もしも貴社の内定者に他社の人事が先に上記の話題を持ち出し、その答えをこのように自ら語れるように働きかけていたらどうでしょう。
「彼はうちが第一希望といっていたから大丈夫」 などと楽観することなく、早い段階から、一人ひとりに丁寧なアプローチを心掛ける必要があると思います。
明確な居場所を設ける
アクションの2つ目と3つ目は、以下の通りです。
2. ネットワーキング
ネットワーキングとは人間関係を構築することですが、これは内定者同士という 「横」 の人間関係と、自社の先輩社員との 「縦」 の人間関係の2つを構築することを指しています。
人間関係を構築することにより、いわゆる親和的動機形成を促して辞退防止に役立てようというのがネットワーキングです。 さらにいうと、ネットワーキングの目的は、 内定者に 「はっきりとわかる居場所を提供すること」です。
内定をもらった瞬間は当然喜びの感情や高揚感を持ちますが、内定者はその後、一転して不安な感情に煽られます。 それは、体験したことのない状況でこれから何が起こるのだろうという未知への不安です。
内定者は不安を払しょくしようとして、いつまでも就職活動生として振る舞い、情報を得ようとします。
それらの行動自体に問題があるわけではありませんが、それが自社と他社との比較に繋がったり、さらなる就職活動の呼び水になったりすることがあります。
そこで内定者に 「もう行動を止めても大丈夫」 と感じてもらう必要があるのですが、それに最も効果があるのが、ネットワーキングにより新しい環境を与え、そこに居場所を持ってもらうことなのです。
ネットワーキングをどのように実施するかについては、毎年の懇親会など知見を持っている企業も多いことでしょう。 その中で今回ひとつだけお伝えするとしたら、「自分からつながりなさい」 というスタンスではなく、つながってあげる、もしくはつなげてあげる支援を惜しみなくすべきだということです。
相手を子ども扱いしろといっているのではありません。 実際のところ、管理職向けのリーダー研修でも、部下や組織内でのコミュニケーションにおいて自分(リーダー) から率先行動をとることを推奨しています。
それと同様に、大事なことは、場が最適な状態になるように進んで最善を尽くすことなのです。
そういったことを考慮したならば、懇親会の開催やSNSを提供することはネットワーキングのきっかけに過ぎず、本質ではないということがわかります。きっかけや機会を活かして、内定者がまとまることができるような工夫が必要です。
例えば、内定者が共同で何か作業をすることは、その工夫になります。
ハーバード・ビジネススクール教授のエイミー・C・エドモンドソンは、チーム化が進むプロセスについて、以下の5つを紹介しています。
(1) メンバーがチームワークの必要性を認識する
(2) 個人と個人がコミュニケーションを図る
(3) 自分がすべきこと、相手に任せるべきことを理解して調整する
(4) 仲間を尊重し協力して課題を遂行する
(5) 振り返り、相互にフィードバックする
題材は何でもいいと思うので例示しませんが、何かを共同でおこなうことを促し、そこで以上のようなプロセスを踏むように設計することで、ネットワーキングの高まりが期待できるでしょう。 また、社員も参加させることで横のみならず縦のネットワーキングが実現すれば、さらに強固な効果が期待できると思います。
3. 伴走の計画
最後に紹介するのは 「伴走する」 という考え方です。 これは1回のアクションを指しているのではなく、内定から入社までの数カ月間について、しっかりと伴走する計画と体制を確認しましょう、ということです。
伴走の計画とは、腹落ち面談やネットワーキングの施策、メールやSNSといった内定者との接触の機会をすべて把握し、会う頻度やこちらの工数を計算しながら、入社まで内定者と継続的にコミュニケーションをとることをどのように実現するか考えることです。
内定を出した最初の半月程度はそれこそほぼ毎日、何かしらの接触 (できれば双方向) を持っても過分ではないと思います。 逆にいえば、そのような工夫を実現することでこの8月を乗り切るような心づもりをする企業も多いでしょう。
ただしその後、卒業時までその接触密度で通すことはないでしょうから、メールなどを利用して間接的にコミュニケーションをとっていくことになると思います。 その際にも、つかず離れず、どのように伴走を実現するのか、しっかりと計画をしておくべきだと思います。
伴走のコツとしては、事前に適切なネットワーキングを実行し、自分をよく理解してくれている人が入社までそばにいてくれていると感じさせることです。担当者が仕事として連絡してくるというより、少し親しい人が折に触れて話しかけてくれる、という感覚で実現するとよいでしょう。メンターなどを施策として用意できれば、さらに効果が期待できるでしょう。
さてここまで、辞退を防止するために、内定を出したらすぐに実施すべきアクションについて説明してきました。
最後に。 辞退が出ないように努力する一方で、我々はどうしても辞退が出ることを想定して準備をしておかなくてはなりません。
辞退防止を100パーセント意のままにすることは不可能だからです。
- 小宮 健実(こみや・たけみ)
- 1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
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