「内定出し直後に行うコミュニケーション」-本当に惹きつけ効果のあるコミュニケーションとは-

今、まさに多くの企業が内定を出すタイミングを迎えています。このタイミングで内定者に対してできることは、どのようなことでしょうか。今回は、内定出し直後のタイミングに絞って、内定辞退防止につながるコミュニケーションについて説明していきたいと思います。

イントロダクション

皆さん、こんにちは。 採用・育成コンサルタントの小宮健実です。

 

今月は、先月に続き、内定者のマネジメントに役立つ話をしていきたいと思います。

 

内定を出した後に内定承諾を求めたら、「他社の選考が終わるまで待ってほしい」と伝えられた。慌てて面談を設定したものの、効果がなく辞退された、という話をよく耳にします。

 

「待ってほしい」と伝えられた時には、勝負を決める剣が峰は、すでに過ぎてしまっていたのだと思います。その時にはもう自社とライバル企業の序列が決まっていたのです。

 

自社とライバル企業の序列を内定者がまだ検討していた時に、あなたが内定者の横に(他社よりも近い位置で)寄り添っていたら、違う結果を導けたかもしれません。

 

もはや、懇親会や会社見学会=辞退防止、の時代ではありません。 内定辞退を防止する施策は内定者個々人に、個別に行うしかありません。

 

内定者個々人の意思決定状況を把握し、感情に寄り添い、機会を見て適切に介入するイメージができているかどうかが成否を分けるのです。

 

今、まさに多くの企業が内定を出すタイミングを迎えています。 もちろん、こちらが何をしようと、手の届かないところで最初から勝敗が決している場合も少なくありませんが、このタイミングで内定者に対してできることは、どのようなことでしょうか。

 

今回は、内定出し直後のタイミングに絞って、内定辞退防止につながるコミュニケーションについて説明していきたいと思います。

コミュニケーションのポイント

このタイミングで内定者に対してできることは、どのようなことでしょうか。 では、特に内定を出した直後に実践すべき、コミュニケーションのポイントを挙げていきたいと思います。

 

他社よりも多く会うこと

内定者と1人ずつ会って関係構築をすることは、辞退を防ぐ最重要のアクションです。

 

個人的な関係構築無くして、意思決定状況を把握し、感情に寄り添い、機会を見て適切に介入することは不可能です。

 

気軽にコンタクトを取り、とにかく会いましょう。

 

多くの企業は「内定者と会う」ことを大げさに考えすぎているように思います。 企画を考え、告知を作り、コンテンツを運用しなければいけないと思い込んでいるように思います。

 

「近くに来たので寄った」と、最寄りのカフェで15分話をするだけでも、結果的に大きな違いとなると思います。

 

もちろん、企業の所在地と内定者が生活している場所が遠く離れていれば、そうした接触が簡単に叶わないこともあると思います。

 

それでも、ネット社会において、顔を見せたり、声を聴いたりする方法はいくらでもあるはずです。

 

内定を辞退する応募者には、「だんだん自分の存在を消していく」という明確な傾向があります。 内定者と接触しなければ、それだけ内定者が辞退に向かうことを自由に許すことになります。

 

入社後の仕事について話すこと

他社と差別化し、戦略的に使うこともできるのが、「入社後の仕事の話」です。

 

入社先を選ぶ行為は、「就社」ですが、具体的な仕事の提示をすることで、「就職」に意識を向けさせることができます。

 

つまり、ライバル企業に「就社」としての条件では負けていたとしても、提示する「仕事」の魅力で勝つという戦略です。

 

「うちに入社したら、あなたにはこの仕事(当然内定者が希望している仕事)をしてもらいたい。できると思うし、期待している」ということをきちんと伝えます。

 

配属の確約は、大きな惹きつけ効果があります。 大手企業では、採用と配属が密接ではないことも多く、中小企業のほうが優位に立てる戦略の一つでもあります。

 

本当に惹きつけたい人材に対して取るべき、攻めの打ち手だと言えるでしょう。

 

もちろん、入社後は約束を守り、最大限のサポートをする必要があります。 フタを開けたら話が違った、というのは、早期離職の大きな要因となってしまうからです。

 

トップから声をかけること

これは内定式で、社長から内定証を受け取る式典について言っているのではありません。

 

イメージは、「君が○○君だね、人事から聞いているよ。学校では、……をしてるんだってね」というように、名前を呼び、個人的に認識していることを示すように声をかけることです。

 

その際、「うちを選んでほしい」などと、へりくだる必要はありません。 「人事から聞いている通り、うちに間違いなく合っている人だね」というように、肯定するように声をかけてもらうことが効果的です。

 

学生が皆持っている、「認められたい」という欲求、つまり承認欲求を、トップという最上級の武器で刺激することができるからです。

 

また、これは先ほどの、入社後の仕事の話と抱き合わせで実践すれば、さらに強度の強いアプローチになります。

 

そういう意味では、内定者全員に対して行うことは難しいかもしれません。 しかし、私はそれでも良いと思います。

 

企業ごとに考え方は異なると思いますが、近いうちに、新卒であっても入社者を全員横一線、一律に扱う時代は終わりを迎えると思います。

 

今後、新卒採用にとって「数合わせ」は意味を持たなくなります。 「誰を採用しなくてはいけない」のか、その根拠を明確にし、その絶対的な対象者の惹きつけが最重要視されるようになります。

 

そうした対象者であれば、トップを動かしてでも、採りにいくべきでしょう。

最も成長できる場だと
感じさせる

内定者=学生は、少しでも良い会社で働きたいという思いを持ちつつ、自分にできるのだろうかという不安も抱えています。

 

つまり、就職に対して良い環境や条件を手にすればそれだけ、その半面、プレッシャーも感じています。

 

そのような内定者に、「うちだから、ちゃんと成長できる」ときちんと伝える行為は、選ばれる可能性を高めると言えます。

 

「うちならば成長できる」と確信させるにはまず、「あなたのことを一番理解している」と認めさせることが必要です。それに効果的なのは、フィードバックです。

 

「あなたはこうだから、こうするともっと良くなる」というフィードバックのスキームは、肯定され、承認される感覚と、成長を確信させる感覚の両方を併せ持ちます。

 

内定を出した直後ならば、以下のような観点を意識することで、フィードバックが辞退防止として効果的に機能します。

 

選考プロセスの能力評価に対するフィードバック

これは今では行っている企業も多いかと思います。 選考プロセスにおける面接やグループワークの評価結果を、内定者にフィードバックするものです。

 

選考プロセスの能力評価を惹きつけのアクションにつなげるコツは、「評価した能力は、自社の活躍している人材がまさに持っている能力である」ということをきちんと説明することです。

 

選考設計が正しく行われている企業であれば、伝えられる情報も多いと思います。

 

現場で働いたことはないけれども、この会社で活躍している社員に求められている能力が自分にもあるという話は、内定者の気持ちを落ち着かせ、この会社に入ることは正しいという気持ちを醸成します。

 

やりたいと考えている仕事に対するフィードバック

就職活動では、自分が何をやりたいのかについて話す機会が多くあります。 少なくとも面接の場面では、はっきりと確かな言葉で伝えることが求められます。

 

内定者は、本当に自分が伝えてきたことが正しいのか、他にも何かないのか、漠然とした不安を抱えています。内定獲得に不利にならないように、やりたいことや志望動機を作文していた内定者も少なくありません。

 

そこで内定後にこの不安を解消することで、合格のためではなく、入社のために必要な、本当の仕事への想いを固めることができます。

 

このフィードバックの役割は、現場の社員と連携して行うと質が高まります。

 

現場の社員のエピソードは人事の社員の言葉よりもリアリティがあります。 ただし、「自分は新入社員の時、何も考えていなかったけど大丈夫」といったように、気づかいが悩みの軽視のように聞こえてしまうことがあります。

 

そのような場合に、人事の社員が自己成長・キャリア形成の立場からコメントし、フォローするとよいと思います。

 

直近で何が必要かという考えに対するフィードバック

内定者の関心事のひとつに、入社までに何をしておけばよいかというものがあります。

 

こうした質問に対し、「何もしなくてよい、学生のうちにしかできないことをしなさい」と話すのも一案だと思いますが、そうした回答は、もはやそれほど満足度の高いものではなくなっているとも感じています。

 

「学生のうちにしかできないことをする」という回答は、ひと昔前であれば新鮮でしたが、もはや学生にとって嬉しく聞こえるフレーズではありません。

 

学生のうちにしかできないことはするとして、その上で何かしておいたほうがよいことについてアドバイスを求めていると思ったほうが賢明だと思います。

 

つまり、誰にでも通じる抽象的な回答ではなく、「もしもあなたが……であれば、自分の経験から言うと、……などが役に立つと思うよ」というように、内定者個人に向き合ったフィードバックが効果的だと思います。

 

このようなフィードバックは、内定者から見て、「自分が成長するために必要なことを良く考えてくれている。自分を知ってくれているからこそできるアドバイスだ」という信頼につながるのです。

フィードバックを
成立させる大前提

ここまでフィードバックの観点について説明してきましたが、フィードバックを実施する前には必ず内定者の現状をよく見たり、考えを聴いたりする行為が求められます。

 

前回のコラムでは介入を可能にする条件について書きましたが、フィードバックについても同じことが言えると思います。

 

見たり聴いたりしてから話すというフィードバックのプロセスが、いつの間にか、ただこちらが一方的に話すという行為になっていないように、気を付けなければいけません。

 

まず、「聴く」ことに最大限努めましょう。

 

聴くために、聴きやすい雰囲気を作るために、とにかくまず気軽に会うことを重視したらよいと思います。

 

さて今回は、内定を出した直後に実践すべき、コミュニケーションのポイントについてお話ししてきました。

 

ではまた1カ月後にお会いしましょう。 次回もよろしくお願いいたします。

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小宮 健実(こみや・たけみ)
小宮 健実(こみや・たけみ)
1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。

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