最後の手段。採用担当者の「戦闘力」のつけ方―採用活動の教科書・応用編―

採用における戦略・戦術は真似されることも多く、差別化が難しいものです。よって私は「企業の採用力は戦略・戦術ではなく戦闘で決まる」と考えております。では「戦闘力」を身につけるために、採用担当者はどのような努力をするべきでしょうか?具体策をいくつかお教えいたします。

イントロダクション

こんにちは。組織人事コンサルタントの曽和利光です。


採用難の時代において、さまざまな採用戦略・戦術面での工夫をして、改善し、もうそろそろ 「打つ手もなくなった」 という状況の企業さまも多いのではないでしょうか。まさに 「人事を尽くして、天命を待つ」 といったところでしょうか。

しかしながら、私はつねづね 「採用は戦略よりも戦闘」 と申し上げてきました。

もちろん、求める人物像を設定し、どんな対象にターゲティングするのかという戦略面や、採用広報のクリエイティブや選考プロセス設計といった戦術面での工夫は重要です。

ただ、採用活動が公に向けてのものである以上、それらは容易に真似されるため差別化要因になりません。

しかも、オプションもたくさんあるわけではなく、黄金の勝ちパターンがいくつかあるだけです。
つまり、工夫の余地が実は少ないのです。

そのため、結果として採用力の高低が何によるものかというと、実は 「採用活動力」=「戦闘力」 であるというのが私の主張です。

「戦闘力」 とは、 「面接で見極めづらい原石を発見する力」 や 「志望度の低い学生に自社の魅力を伝える力」 などです。

 

今回のコラムでは、「戦闘力」 を高めるために採用担当者が日々精進すべきことについて述べてみたいと思います。
活動ピークの中、即効性のない話で恐縮ですが、今は 「決めたことをやりきるだけ」 の時期だと思い、あえて中長期的に挑むべきテーマを設定いたしました。


私が採用担当者の 「戦闘力」 を高めるためのベースと考えているのは以下の通りです。


これら4点をどのように身につけていけばよいかについて、述べてみたいと思います。

採用担当者の 「戦闘力」 を上げる知識・スキルとは

まず、「戦闘力」 のベースとなる知識やスキルについてお伝えします。


1. 語彙力

「戦闘力」 の基本中の基本は 「語彙力」 です。

採用担当者が目の前の学生をアセスメントすることから、ジャッジやフォロー (動機づけ) などの後工程の活動方針が決まりますが、その際、人や事業・組織を表現する言葉についての語彙力が低い人は適切な対処ができません。

人を表現する言葉が拙いと、応募者について詳しくヒアリングできたとしても 「コミュニケーション力OK」 「前向き」のような、かなり大雑把な分類しかできず、面接評定表には同じような言葉が並ぶことになります。
そのため他者が見ると 「誰が誰だか分からない」 「みんな一緒ってこと?」 となります。

たとえば、 「青」 という言葉しか知らない人は 「群青色」 「藍色」 「スカイブルー」 も全部 「青」 というしかなく、本来は違うものであっても、ごちゃまぜにしてしまいます。カメラでいえば 「解像度が粗い」 ということです。
これでは、アセスメント結果をベースにするジャッジやフォローの方針も当然、大雑把なものとなってしまいます。

また、事業や組織を表現する言葉の拙い人は、自社と他社の違いを明確に伝えることができません。

「風通しがよい」 「自由な社風」 「新しいことにチャレンジできる」 といった抽象的で曖昧な表現は、全国津々浦々のどんな企業でもいうことです。学生もそれを鵜呑みにするほどナイーブではありません。


人や事業・組織についての語彙力を高めるためにはいくつかの方法があります。

まず、人については性格心理学を学ぶのがおすすめです。
人のさまざまな能力・性格・志向にはフレームがありますが、具体的には、世の中に多々出ている適性検査などを受検し、それぞれの尺度の定義などについて研究するのです。

このように科学的に精査された概念を学ぶことのよさは、それらが 「一義的」 で明確であることです。
普段使われている言葉には手垢がついていて、方言も多く 「多義的」 で曖昧であるため、まずは標準語として科学的に精査された概念を学ぶことが基礎として重要です。

ただ、人はそのように最大公約数的な枠組みによってのみ表現されうる単純なものではありません。
ですから、精査された概念や言葉に加えて、そこからはみ出してくる、その人の味わいを語れるような「文学的表現」 を学ぶことも重要です。

おすすめは、できるだけ近い年代の 「人物」 についてのノンフィクションや伝記です。
歴史小説などもさまざまな人物描写があり参考になりますが、いかんせん美化されすぎな傾向があるため、白黒つけがたいグレーな存在である人間を理解するには、ややナイーブな気がします。
美化された提灯本ではない 「経営者の評伝」 などは、とてもよい題材ではないかと思います。


2. 豊富な人物データベース

芸術品でも人物でも 「目利き」 になるためには、「よいもの」 をたくさん見る必要があります。

よく、採るか採らないかのギリギリの線を見分ける練習をすることで、人物に対する 「目利き」 になれるという意見がありますが、私はそうではないと思います。

そもそもギリギリのボーダーラインなどというものは、企業の成長や市況、需給関係によって容易に変わるものです。
そのような普遍的ではない一時的、便宜的な線に目を向けても仕方がありません。

「目利き」 になるためには 「不動のライン」 に合わせて感覚を磨くべきで、それが 「自社の求める人材像」 です。
「自社が求める人材」とはどのような学生なのかを理解することができれば、そこからの距離 (不足感) によって、目の前の学生が自社にとって望ましいのかを見極めることが可能になります。

また、自社が採用ブランドではそれほど高くなかったり現場のニーズとしてもそれほどハイスペックな人材を欲していなかった場合にも、できる限りの機会をつくってたくさんの「望ましい人材」層に会い続けることで、頭の中の 「人物データベース」 をどんどん増やしていくことが必要です。人酔いするぐらいたくさんの学生に会うことは、採用担当者の基本中の基本です。

これは何も応募者だけに限りません。

面接はたくさんすべきですが、それだけではなく 「Before/After」 の感覚を身につけるためにも、老若男女問わずキャリアのロールモデルになるような人がいれば、どんどん会っていくべきでしょう。

どんな人が会社の役員になるのか、どんな人が起業家になるのか、どんな人が研究者として成功するのか、などは学生だけをみていても分かりません。

学生にとってキャリアのロールモデルになるような方々とも交流することは、(できればその方々の若いころのお話もお伺いできるとよいでしょう) 個々の学生の将来像を予測する力をつけることにもつながります。

採用担当者の 「戦闘力」 を上げるベースの能力とは

次に、「戦闘力」 のベースとなる能力についてお伝えします。


3. 自己認知

採用担当者にとって最も重要な基礎能力を一つ挙げるならば、私は即座に 「自己認知」 と答えます。

採用担当者は人の能力・志向や組織の文化・風土という 「目にみえないもの」 を扱う職業です。
人体やビル・職場はみえますが、それは本質ではありません。
目にみえない曖昧なものを見立てるスキルが採用担当者のコア能力だと思うのですが、そのベースが 「自己認知」 だと思います。

心理学における投影法検査(曖昧な刺激から何らかの回答をさせ、その人の心理状況等を想定する検査)ではありませんが、曖昧なものをみると人は無意識に自分自身を対象に投影します。
言い換えれば、相手 (現実) を客観的にみるのではなく、自身の偏見や思い込みを反映させた歪んだ形で捉えてしまうということです。これはなかなか避けられない心理的バイアスです。

しかし、自身が (特に他人に対する) どんな思い込みや好き嫌い等の偏見を持っているかを知っているか知っていないか (自己認知が高いか高くないか) で、客観的に現実をみられるかが変わってきます。

他人に対する思い込みや偏見に対する自己認知が低い人は、それを修正することがなかなかできません。
つまり、自分の好きな人ばかりよい評価をして採用してしまう可能性が高いということです。

また、類似性効果といって、自分に似ている人には好意を抱くため、結果的に自身と同じような学生ばかりを採ることになります。これでは採用担当者としては失格でしょう。

自己認知を高めることは、自分ではできません。
気づいていない自分に自力で気づくというのは自己矛盾で、気づくには、やはり他者の力が必要です。

その一つの機会は、面接後の 「すり合わせ」 です。
同席した面接者、もしくは前後の選考段階の面接者とできるかぎり詳細なすり合わせ (被面接者についての見立てや評価についての議論) をたくさん行うことで、そこで生じたギャップから自身がどんな学生を高く評価しがちで、どんな人だと低く評価しがちなのかを理解していきます。

もう一つの機会は、前述の 「人を表現する言葉」 の語彙力を高めるためにもおすすめしたように、さまざまな適性検査を受けていくということです。


4. 体力

最後は体力です。
ふざけているわけではありません。採用面接やフォロー面談は大変体力のいる仕事だと思います。
先に挙げた 「数をこなす」 ことを考えれば、採用担当者には一定以上の体力は必須です。
多くの人から話を聞き続ける、一人と何時間も人生について語る、何百何千ものエントリーシートの文章を一言も逃さずに読む。これらすべての活動は体力がなければできることではありません。

ただ、それは 「筋力」 的なものというよりは 「持久力」 的なものです。

膨大なルーチンワークをこなすためには、高い持久力が必要です。
一日にたった2〜3人会うだけで疲れてしまう (あるいは飽きてしまう) 人は、自身の体力がボトルネックとなり、書類選考や適性検査を厳しくして会う人数を制限してしまうかもしれません。
それは採用担当者最適 (採用担当者が楽になる) ではあっても、決して採用最適 (採用上最もよい方法) ではありません。

私はリクルート時代に最終面接を担当していた際、ピークの3カ月で1対1の1時間面接を600回近くおこなっていました (これは異常な数値だと思いますが……)。
40歳を超えた今ではもう自信がありませんが、その当時でもギリギリのボリュームでした。

そのために、オフシーズン (当時、夏はまだインターンなども少なくややオフシーズンでした) には野球選手の自主トレのように、走ったり泳いだりして、持久力を鍛えることにしていました。
それでようやく膨大な量の面接やフォローをこなす底力を維持したわけです。

内勤の人事は、外回りの営業などと違って体力なんて不要と考える方もいらっしゃいますが、私はまったく違うと思います。

移動時間など息の抜ける時間も少なくひっきりなしに業務のある人事・採用の仕事は、体力をつけなければなかなかこなせないため、日々の体力トレーニングが必要だと思います。



以上、今回は、「やるべきことはやった」 「万策尽き果てた」 際の、最後の手段である採用担当者自身の 「戦闘力」 強化方法について述べてみました。

ここで挙げたことはなかなか短期間では成し得ないことばかりだと思いますが、だからこそ身につけることができれば、他社が真似できない競争優位性となります。

繰り返しになりますが、採用における戦略や戦術は、比較的容易に真似することができます。
ですから、中長期的には採用担当者の 「戦闘力」 を高めることが、自社の採用力を飛躍的に高めることにつながりますので、一刻も早く 「戦闘力」 向上に励まれることをおすすめします。

 

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曽和 利光(そわ・としみつ)
曽和 利光(そわ・としみつ)
1995年(株)リクルートに新卒入社 、人事部配属。
以降、一貫して人事関連業務に従事。採用・教育・組織開発などの人事実務や、クライアント企業への組織人事コンサルティングを担当。リクルート退社後、インターネット生保、不動産デベロッパーの2社の人事部門責任者を経て、2011年10月、(株)人材研究所を設立。現在は、人事や採用に関するコンサルティングとアウトソーシングの事業を展開中。

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