
辻 太一朗(つじ・たいちろう)
2015/01/06

イントロダクション
採用ナビゲーターの辻太一朗です。
2015年が幕を開け、2016年採用の準備を本格的に始められた企業も多いのではないでしょうか。
学生も心機一転、本腰を入れて活動を見据える時期でもあると思います。
さて、2016年卒の採用活動が間近に迫り、皆さんが面接者となる機会も増えてくると思いますが、「人を見極める」 ということについて、どのようにお考えでしょうか?
いうまでもないことですが、「好きか嫌いか」 と、 「会社にとって優秀かそうでないか」 は、イコールではありません。
新人時代の私を思い返してみると、面接で気に入った学生を見つけた際、上司に「その学生のどの部分がいいのか?」と問われて 「……いや、好きだからです」 としか答えられず、上司に呆れられたことがありました。
今でこそ“採用ナビゲーター”として本コラムを連載してはいますが、新人のころの私は 「自分の目線で好きか嫌いか」 という基準しか持ちあわせていなかったのです。
このように振り返ってみると、社会人として経験を積んだベテラン社員ならまだしも、わずか数カ月前まで学生だった新人社員が学生を正しく見極めるというのは、不可能に近い話かもしれません。
そこで新年最初のコラムは、採用の基本に立ち返り、採用担当者にとって最も重要かつ難しい 「見極め」 について、私の経験をもとに考えてみたいと思います。
目線が合わずに
苦悩した新人時代
新卒採用における見極めが難しい原因は、応募者である学生が実務経験を一切持ちあわせていないことが大きいのではないかと思います。
そのように明確な判断基準が無い中、つい、「会社に貢献してくれそうな学生」 ではなく、 「(自分が)好きな学生」 つまり 「採用担当者の価値観に合った学生」 を選んでしまうケースも少なくないことでしょう。
前述のように主観的な見極めを行っていた当時の私も、ある時 「さすがに好き嫌いだけで判断してはいけないな」 という当たり前のことをようやく理解し、それから、徐々に客観的な視点で学生をみようと試みるようになりました。
ところが、「元気がよくて営業向きだな」 と思った学生を上司に推薦すると 「うーん、でも元気がよいだけだな」 と返され、今度は 「賢くて論理的なプレゼンテーションができそうだな」 と思った学生を推薦すると 「賢いかもしれないが、仕事に対するエネルギーが足りなさそうだな」 といわれてしまう始末でした。 「ではどうすればいいのか?」 と、当時の私は途方に暮れてしまいました。
これは極端な事例かも知れませんが、このような、人事部内および上司との 「目線の違い」 は、担当者の皆さまの多くがお感じになられたことがあると思います。
そんな悩みを抱えていたころに、先輩からあるアドバイスをいただきました。
それは、 「会社にとって必要な人材を見極めたかったら、とにかく多くの社員と話してみろ」 というものでした。
優秀な社員と話して、
見えてきたこと
早速私は自分自身が優秀だと思っている社員、また多くの人から優秀だといわれている社員から話を聞く機会をつくるようにしました。
聞いていたことは 「○○さんはどんな学生だったのですか?」 「学生当時はどんな活動をされていたのですか?」 「今の新人で優秀だと思う人は誰ですか?」 といった一般的な質問です。そしてその際に注意したことは、できるだけ細かく、具体的な行動やその時の状況が想像できるように聞いていくということでした。
どの先輩社員の話を聞いても参考になり、納得のできる内容でした。 しかしながら、聞いた話を自らの見極めにどう活かせばいいのかについては、まだ理解することができませんでした。
とはいえ、この聞き取り活動を続けているうちに、少しずつではありましたが “ある思考” が身についていったのです。
「この学生はあの先輩の考え方に似ているな」 「この学生はあの先輩と同じ活動をしていたのに、少し考え方が浅いな」
「この学生はあの先輩と同じような行動だけどレベルが若干先輩には及ばないように思う」
といった具合に、学生と優秀な社員を 「比較」 して判断するようになっていきました。
このように比較対象を据えての思考ができるようになったことで、将来活躍する社員候補である学生をさらに深く見極めるためにはどんな質問を追加すればよいのかについても、自然に気が付くようになりました。
勿論、当時このような比較による見極めが正しいという確信があったわけではありません。 しかし、それ以前のように目の前の学生だけをみて絶対評価をしていたころと比較すると、明らかにノウハウが蓄積しやすくなり、客観性に富んだ正しい判断にも近づけているという確信はありました。
優秀な社員は
「共通の物差し」になる
学生と優秀な社員を比較して評価するメリットは他にもありました。
私が望ましい人材層だと感じた学生を上司に推薦し 「どこを評価したのか?」 と問われた際に、 「以前、先輩の○○さんとお話しした際、先輩は●●●な考え方を持っているように感じたのですが、彼も同じ考え方をしていると思いました」 「彼女は先輩の○○さんと同じ境遇で苦しんでいたようですが、○○さん以上に前向きに生きていることが伝わってきました」 といった具体的な説明ができるようになり、上司に納得感を持ってもらえるようになったのです。
これは私と上司にとって 「自社にとって望ましい人材層である○○さん」 という共通の物差しができたことによって、それまでずれていた目線が一致し始めた結果だと思います。
従業員数が少ない企業の採用担当者様の中には 「そんな飛びぬけて優秀な社員なんてウチの会社にはいないから」 とご謙遜なさる方もいらっしゃるかもしれませんが、どんな企業であっても優秀な社員というのは存在すると思います。そうでなければ、企業は存続することができませんよね。
判断基準の無い中で学生を見極めるという作業は、例えるならば 「海図」 を持たずに大海原へ飛び出し、未知の大陸を目指すようなものです。 勿論、海図が無くてもどこかの大陸にたどり着ける可能性はゼロではないでしょうが、企業である以上、無謀な冒険をすべきではありません。
優秀な社員を知ろうとする行為は、海図をつくる作業です。 目指すべき自社の優秀人材にたどり着くための判断軸を補完する海図を、自分自身が見聞きした体験をもとにつくり上げていく作業です。
採用担当者として経験を積めば、生身の人間を用いなくても海図をつくることはできるかもしれません。 しかし、経験が浅いうちは特に、身近に居る優秀な社員から様々な観点での話を聞いてみるというのは、誤差の少ない海図を着実につくっていくために有効な手段だと思います。
多くの企業で頻繁に耳にする、「コミュニケーション力の高い人」 や 「前向きに物事を考えられる人」 といった漠然とした要件をもとにつくる海図よりずっと、目的地 (「自社の」優秀人材像) を捉えた正確な海図になるはずです。
時間も手間も掛かるかも知れませんが、ご自身の採用担当者としてのキャリアや会社の将来を含め長い目でみれば、それ以上の価値は必ずやある活動でしょう。
- 辻 太一朗(つじ・たいちろう)
- (株)リクルート人事部を経て、1999年(株)アイジャストを設立。
2006年(株)リンクアンドモチベーションと資本統合、同社取締役に就任。
2010年(株)グロウス アイ設立、大学教育と企業の人材採用の連携支援を手掛ける。
また同年に(株)大学成績センター、翌11年にはNPO法人DSS (大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる会) を設立。
採用に関わる多くのステークホルダーを理解しつつ、採用・就職の"次の一手"を具体的に示すことに強みを持つ。

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