小宮 健実(こみや・たけみ)
2019/11/13
イントロダクション
皆さん、こんにちは。
採用・育成コンサルタントの小宮健実です。
皆さんは、新卒採用とキャリア採用は何が違うのかと聞かれたら、何と答えますか?
恐らく多くの方が、「新卒採用は働いたことがないからポテンシャルを見るけど、キャリア採用は働いた経験があるからその実績を見る」と答えるのではないでしょうか。
その回答は間違っていないのですが、私は「新卒採用の面接とキャリア採用の面接はまったく別物だ」という理解をされているようで、よく不安を覚えることがあります。
そうした理解は、新卒は育成して終身雇用前提だけれども、キャリア採用は即戦力で通用しなければアウト、などといった空気を生むことにつながりかねません。
同時に、そうした「別物感」は大概、新卒採用とキャリア採用のチームが連携しない理由になっています。
そして採用人材の一貫性のなさ、人材育成の断絶の原因になっています。
本来、新卒採用もキャリア採用も、人事の視点では「同じ目標に向け、採用して育成する」といった、一連のスキーム上にあるアクションです。
私はこの「一連のスキーム上に乗っている」というイメージに、リアリティがない企業がたくさんあるように感じています。
一連のスキーム上に乗っていないということは、(人材を効果的に採用し、成果創出人材に育てていく)タレントマネジメントは実現しないという言い方もできます。
そこで今回は、新卒採用とキャリア採用の全体像を俯瞰(ふかん)し、自社全体の採用と育成の質向上のきっかけとなるよう考察していきたいと思います。
では、さっそく始めていきましょう。
新卒はポテンシャル、の意味
成果創出人材には質の高い「スキル・ナレッジ」と同時に、質の高い「行動特性」が求められます。これは新卒、キャリアで分ける話ではありません。
そうした理解があれば、新卒はポテンシャル採用だから「行動特性」で合否を決め、キャリア採用は即戦力だから「スキル・ナレッジ」で合否を決めるといった、単純な考え方は適切ではないということがおわかりいただけると思います。
どちらも一貫性を持って「スキル・ナレッジ」と「行動特性」の両方の観点で評価を行えるならば、本来それが理想なのです。
下の図は、新卒採用とキャリア採用がどのように接続しているかを表したものです。
前提として、新卒とキャリア、どちらで採用した人材でも、やがて自社を支えるリーダー人材に成長してもらう(育成する)ことを目指しています。
キャリア採用では、これまでの応募者の仕事(a)(b)(c)の情報を基に、以下のような観点が評価の対象になります。
・評価観点1:応募者がどういう経験を持っているか(例:○○業界で○○を行うプロジェクトの経験者)
・評価観点2:獲得しているスキル・ナレッジ(例:○○の技術保持者、○○の資格保持者、○○の知識がある者)
・評価観点3:発揮した行動特性(例:主体性がある、コミュニケーション力が高い、計画的に行動している)
一方で新卒採用はというと、学生生活(x)の情報を基に評価をすることになります。
自社の仕事に必要なナレッジやスキルは入社後に教育するので、評価の観点は、 ・評価観点:発揮した行動特性(例:主体性がある、コミュニケーション力が高い、計画的に行動している)
になります。
ここで大事なポイントが2つあります。
まず1つ目は、新卒採用とキャリア採用は、応募人材の「行動特性」の評価と育成で接続しており、評価と育成の対象にすべき「行動特性」は、別物ではないということです。
評価と育成の対象とする「行動特性」は、どちらも自社の行動指針、コンピテンシー、昇格基準などから抽出するので、別物になるのは、むしろおかしなことだと言えます。
2つ目は、ポテンシャル採用という言葉が意味するものです。
新卒、キャリアいずれの面接でも、面接担当者が行うことは、応募者が持っている事実を収集することであり、その事実情報の質をそのまま評価することです。
仮に新卒採用がポテンシャル採用と言われていても、応募者から収集した行動事実情報から、未来を予測して評価をつけることではありません。
ポテンシャル採用とは、あくまで新卒の評価観点である「行動特性」の情報収集について、仕事の場面ではなく、学生生活の場面で代用して行うことを指しているのです。
よって、新卒の面接担当者に対し、「応募者の将来を見極めるのが役割だ」というような誤解を与えないようにすることも、面接を適切に運用する上で、とても大切です。
面接担当者が人材の未来の活躍について予測できれば素晴らしいことですが、そのような予測能力を人は持ち合わせていないのです(そのようなスペシャルな能力を持っている人がいることも否定しませんが)。
キャリア採用から考える
10年後の新卒採用
キャリア採用と新卒採用の設計の違いを考察すると、10年後の新卒採用の設計がどのように発展する可能性があるかについても見えてきます。
応募者のスキル・ナレッジ評価
まず1つ目は、仕事に対するスキル・ナレッジを、新卒採用にも求めていく方向性です。
これは現在でも一部の技術系職種や、法務、会計など専門性の高い職種において行われていると言えます。
これが今よりもずっと多くの仕事で、自分が就きたい仕事(職種)に対するナレッジ・スキルを持っている学生が高い評価を得る状況になる可能性は高いと思います。
今、JOB型採用という構想が打ち出されていますが、JOB型採用の実現には、そもそも学生が、技術、開発、営業、人事、経理などの仕事(職種)に関して知る機会が必要です。
現状のように、企業側だけにJOB型採用の構想を打ち出しても、学生が対応できるとは到底思えません。
よって、いずれ新しいJOBラーニングの場が必要になると思います。
ちなみに、多くの方がその機会としてインターンシップを思い浮かべるかもしれませんが、私はそれでは目的を果たせないように思います。
学生とってインターンシップは、JOBを学ぶ意欲以上に、どの会社でインターンシップをするかという気持ちが先に立つこと、コンテンツも教育型ではなく広報型であることがその理由です。
応募者の行動特性評価(ポテンシャル採用の精度向上)
2つ目は、ポテンシャル採用の精度を上げていくことです。
先ほど、ポテンシャル採用の意味について、本当は仕事の場における行動の質を評価したいところを、それができないので学生生活の場における行動の質を評価することだと言いました。
いずれにせよ面接担当者が行うことは同じで、応募者が持っている行動事実の質を評価することです。
この方法は、言ってみれば過去の行動の質が高ければ、未来の行動の質も高い、というシンプルな考え方に拠っています(もちろん研究者が報告している確証のある考え方ですが)。
この、過去の行動事実の収集、未来の行動の質との相関については、今後HRTechの新たな分析対象になり得ます。
いずれ、汎用的な研究報告を根拠に面接を行うのではなく、HRTechにより今よりも精度、確度ともに高い分析結果を自社内で作成することが可能になり、それに沿った独自の新しい選考方法を行えるようになるでしょう。
そのためには分析に必要なデータが必要ですが、例えば学生生活の行動事実は、大学のキャリアDBに蓄積される方向にありますし、企業内にもタレントマネジメントのDBが構築されつつあります。
そうして大量に信頼性の高い行動事実データが蓄積されれば、そのデータをAIによって分析することで、行動事実と成果創出の、新たな相関を発見することが可能になります。
ややトレンドワードとしての勢いを失っているAIですが、そのテクノロジーが後退することはありません。
自社の採用設計が脆弱(ぜいじゃく)な企業は、AIの恩恵を受ける量も少なくなってしまいます。
やがて来るであろう時のために、適切な準備をしておきましょう。
さてここまで、新卒採用とキャリア採用の違いを考察し、新卒採用の今後についてお話をしてきました。
自社の採用設計を改善するきっかけにしていただければ幸いです。
では次回もよろしくお願いいたします。
- 小宮 健実(こみや・たけみ)
- 1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
「採用設計」
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