曽和 利光(そわ・としみつ)
2013/01/22
イントロダクション
こんにちは。組織人事コンサルタントの曽和利光です。
今回から「採用活動の教科書・応用編」と題して、採用活動におけるさまざまな問題に対する、具体的なヒントとなるようなコラムを連載していきます。初回は、「採用担当者の時間の使い方」についてです。
ナビもオープンして、エントリーが集まって来るこの時期、いよいよ新卒採用活動本番到来という感じで、採用担当者の皆さんはかなり忙しい日々を送られているのではないかと思います。しかし、さまざまな企業で採用担当者の皆さんの時間の使い方を聞いてみると、限られた時間を有効に使っていない方が多いようです。
採用担当者の時間の使い方、何に多く時間を使うべきかという優先順位を決める最も重要な軸は、「実際の採用(内定受諾)にどこまで寄与する活動か」です。「その行為をすることで、何人分の採用につながるか」ということです。常に、このことを念頭において、どの程度注力すべき業務なのかを判断しなくてはなりません。
例えば、「説明会を1回実施することで、そこから一体何人の内定者を見込んでいるのか」「もし同じ時間を使うとすれば、これ以上に内定に寄与する行為はないのか」ということを考えて、自分の時間を配分していくのです。
その際、意識していなければならないのは、採用選考のプロセスごとの歩留りです。
「歩留り」で優先順位は明確に。優先順位の低い業務は「減らす」
説明会からの内定率が頭に入っていれば、例えばそれが1%だったとき、100名の聴衆を前にしても「これは1名の内定者を獲得する活動である」と認識できます。もし、同じ時間を、3次選考合格者10名の質問会(内定率30%)に使えたとすれば、3倍の生産性ということになります。実際には、ことはそう単純ではないとは思いますが、この場合、説明会に時間を費やすよりも、選考を進んでいる3次選考合格者フォローにこそ、時間を使うべきということです。
内定者のフォローは、最も内定受諾者を生み出す行動です。自社からの合格は出ているわけですから、辞退率が2割だとすれば、10人のうちの辞退しそうな2人をフォローをすれば、1名以上の内定受諾(辞退阻止)が見込めるわけです。ですから、採用担当者が最も注力すべき仕事は、内定者のフォローです。
しかし、実際にはそうなっていないことが多いようです。大規模説明会のように、何百人の聴衆を目の前にすれば、その仕事が重要であると思ってしまうのは致し方ないかもしれません。しかし、「相対的」にはもっと重要な仕事、より採用に寄与する仕事はあるのです。「説明会や初期選考をこなすのにバタバタしていて、内定前後の学生フォローを十分にする時間がない」とこぼす採用担当者をよく見かけますが、それでは本末転倒です。
優先順位が決まれば、優先順位の低い仕事=採用寄与率の低い仕事なわけですから、その業務量をなんとか減らせないかを、まず検討してみることです。個々のプロセスに個別最適で「できる限りのことをしよう」とすると、優先順位の低い仕事を過剰なクオリティでやっているということにもなりかねません。全体最適の視野で見ると「そこまでやるのは明らかにtoo much」という場合が多いのです。
優先順位の低い仕事で、100点を取る必要はありません。それが90点になっても、80点になっても、寄与率に大きな影響を与えないと判断できるなら、最低限のクオリティに落として実行し、もっと優先順位の高い業務にパワーを注ぐべきです。
説明会であれば、「2時間かけているのを、1時間〜1時間半に短縮できないか」「小さな会場で小分けにたくさんやっているのを、大規模会場で一気にまとめてできないか」「WEB説明会などに置き換えて、労力が発生しないようにできないか」「3人の担当でやっているのを、1人でできないか」「コンテンツをもう少し簡素なものにして、企画に割く時間を減らせないか」などの検討ポイントがあります。
初期面接であれば、「1対3でやっているのを、1対4〜5でできないか」「1時間でやっているのを45分にできないか」「面接前に適性検査を導入したり、負荷のかかるエントリーシートを導入したりして、できる限り人数を絞った上で選考できないか」などの検討ポイントがあります。
減らせなければ、他の人がやれないのかを考える
もし、業務を減らせないのであれば、次に考えることは「採用担当者以外」に仕事を任せることです。人事以外のスタッフ社員や現場のマネジャーなどに協力を依頼して、初期選考などの業務を任せることができないのかということです。
人事以外の方に採用業務をお願いする重要なポイントは、「できるだけ人事が人選して、お願いしたい人に集中的にお願いする」ということです。人選を現場に任せていると、ただ時間に余裕があるだけの人をアサインされてしまう場合があります。その人が採用に適しているかどうかはわかりません。現場が、採用業務に適した人のリソースを渡すことに躊躇するのは当然です。ですから、経営のオーソライズを取って、採用業務を、“評価の対象になる正式ミッション”とできるような配慮があるとよいでしょう。
事前に、採用協力者への十分なレクチャーと動機づけを行うことも肝心です。採用の方針や戦略はいうまでもなく、求める人物像や最近の学生の傾向を伝えたり、面接スキルトレーニングなどを施したりすることも必要です。採用プロジェクトキックオフなどを開いて、社長や人事部長、事業部長などから採用業務の重要性を説いてもらったり、激励をしてもらったりすることも、よいかもしれません。
もし、社内で人員の確保ができないのであれば、採用アウトソーシング会社を利用するというのもひとつの手です。
例えば、初期選考で見ることは、ほとんどの場合、基本的な知的能力やコミュニケーション力がどうかということです。そうであれば、外注化が可能ですし、自社応募者のみでなく、マーケット全体の相場観を知っているアウトソーサーの方が、むしろ初期スクリーニングには適しているともいえます。中途採用ではエージェントを利用した採用が一般化していますが、新卒でも、エージェントやアウトソーサーが入ることで、採用マッチングを効率化する動きが出てきています。
現場の人やアウトソーサーかを問わず、人事以外の方に採用業務をお願いする際には、業務自体をシンプル化、効率化するなどして、担当してもらう人の負荷を減らし、一定のクオリティを確保できるようにしなくてはなりません。ただ、アウトソーサーについては、他社事例をたくさん知っており、選考プロセスや手法のベストプラクティスを持っている場合がありますので、自社の業務をそのまま代行してもらうのではなく、むしろ、彼らの持っているベストな方法の導入を検討するという姿勢も重要です。
以上のようなさまざまな方法を用いて、採用担当者は、内定者フォローのような最も重要な業務に自分の時間を多く割けるようにしなくてはなりません。採用担当者の仕事は膨大な採用業務をこなすことではなく、いうまでもなく「内定受諾者」を目標人数まで確保することです。目的を考えれば当たり前なこのようなことも、つい、日々の忙しさにかまけて失念してしまうことも多いでしょう。そのようなことのないように、人事採用担当者の皆さんは今一度、自分の業務量の配分を検討してみてはいかがでしょうか。
- 曽和 利光(そわ・としみつ)
- 1995年(株)リクルートに新卒入社
、人事部配属。
以降、一貫して人事関連業務に従事。採用・教育・組織開発などの人事実務や、クライアント企業への組織人事コンサルティングを担当。リクルート退社後、インターネット生保、不動産デベロッパーの2社の人事部門責任者を経て、2011年10月、(株)人材研究所を設立。現在は、人事や採用に関するコンサルティングとアウトソーシングの事業を展開中。
「歩留り改善」
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