企業活動と学生の課題解決力-学生の課題解決力はいつどのように獲得されるのか-

今回も前回のコラム同様に、学生の能力事情について、お話をしたいと思います。今回取り上げる能力は、「課題解決力」です。数年前、私たちは学生の能力事情について調査をしたことがあるのですが、実は課題解決力は、とても興味深い能力の一つです。課題解決力と学生をめぐる関係性について、説明をしていきたいと思います。

イントロダクション

皆さん、こんにちは。
採用・育成コンサルタントの小宮健実です。

季節が移り替わり、一気に秋景色に囲まれつつあります。
10月1日には内定式を行った企業も多いことと思いますが、皆さんはいかがでしょうか。

以前は、10月は採用活動の対象が切り替わるタイミングだというイメージがありましたが、今では企業ごとにその感覚は異なっているように思います。

今年は経団連の宣言もあり、今まで以上に自社の最適な採用活動を自分たちで考えることが求められていると思います。

では、自社に最適な採用活動を考えるときに、まず何から始めたら良いでしょうか。

それは「活動完了時の状態を想定すること」です。
具体的に言うと、「どのような特性を持った人材が何人入社するか想定すること」です。

その想定が、質か数かの議論や、評価の観点、育成の考え方などに対するポリシーを明確にします。
そして、ふさわしい採用活動の輪郭を表出させます。

今年の10月は、多くの企業にとって、自社の採用活動を見直すのに良いタイミングだと思います。

さて、私の前回のコラムでは、「主体性」と「リーダーシップ」の狭間というタイトルで、低学年の学生と高学年の学生の能力の違いや、成長のきっかけについてお話ししました。

今回も同様に、学生の能力事情について、お話をしたいと思います。
今回取り上げる能力は、「課題解決力」です。

数年前、私たちは学生の能力事情について調査をしたことがあるのですが、実は課題解決力は、とても興味深い能力の一つです。

次項から、課題解決力と学生をめぐる関係性について、説明をしていきたいと思います。
では、さっそく始めていきましょう。

 

「課題解決力」について

まず初めに、「課題解決力」とは何かについて、改めて説明をしておきましょう。

課題解決力は、「生じている問題に対して適切に対処する力」のことですが、正確に言うと以下のようなプロセスに分けることができます。

  • 1. 問題の把握と要因の整理:何か問題が発生しているときに、状況を把握して問題の要因を整理する
    2. 課題の設定:その要因を満たすための課題を設定する
    3. 解決施策の検討:課題を達成するための施策を検討する
    4. 解決施策の実行:検討した施策の実行計画を立てて最後まで実行する

 

ちなみに、課題解決力と同様に、課題発見力という言葉も求める人材像の表現としてよく使われます。

そうした企業は、上記の前半のプロセスを課題発見力として定義し、後半のプロセスは計画力、実行力等といった別の能力として表現しているケースが多いと言えます。

いずれにせよ、学生に問題を解決する力を求めたい企業は少なくないでしょう。
そうした企業は、面接でも学生生活で問題を克服したときのエピソードなどを聞き出しているのではないでしょうか。

 

学生生活と「課題解決力」

では次に、学生視点で課題解決力を見てみましょう。

学生生活にも、当然問題は多々発生します。
よって、そうした問題にどうにか対処していく間に、課題解決力も高まっていくことが期待されます。

ところが、私たちが学生に行った調査では、高学年になるにつれて段々と課題解決力が高まるかというと、そうではありませんでした。

実は、主体性やコミュニケーション力、他者への働きかけ力など、ほとんどの能力は学年が上がるにつれて能力も高まるのですが、課題解決力はそれらとは異なり、学年との間には何ら相関が得られなかったのです。

では、課題解決力が学生生活で自然に身に付かない原因はどこにあるのでしょうか。

その原因については、学生向けに課題解決型のプログラムを行っていると感じるところがあります。

課題解決型のプログラムとは、例えば「駅前の放置自転車の問題」といったようなケースを示し、グループで問題の原因を整理させて、解決策を考えさせるようなプログラムです。

学生は、こうした課題解決のプログラムへの対応がとても「下手」です(もっとも社会人向けの講座でも同じ様なのですが)。

今の学生は、グループでディスカッションを行って発表をするようなアクションには、一昔前に比べてとても慣れているように思います。

したがって、ディスカッション自体が停滞するということは、ほとんどありません。

つまり、課題解決型のプログラムへの対応が下手なのは、積極的に発言する姿勢やコミュニケーション力の問題ではなく、課題解決の手続き、作法に触れたことがないからだということがわかります。

課題解決型のプログラムへの対応が下手であり、それは自然に身に付けるのが難しいという現状には、いつも残念な気持ちになります。

なぜなら、企業活動とは、誰かの問題を解決することによって対価を得る活動に他ならないからです。

もう少し学生が、課題解決の手続きや作法に触れる機会があったら、企業活動の根本的な意味を理解し、就職に対して(今の就活とは異なる)意義を感じるのではないか、また、何のために勉強(知識)が必要なのかという疑問について、もっと理解が深まるのではないかと思います。

 

課題解決の手続きと作法

さて、もう少し「課題解決型のプログラムへの対応が下手」ということについて詳しく説明し、学生の現状について理解を深めていきたいと思います。

先ほど、課題解決力のプロセスは、以下のように分けることができると書きました。

  • 1. 問題の把握と要因の整理:何か問題が発生しているときに、状況を把握して問題の要因を整理する
    2. 課題の設定:その要因を満たすための課題を設定する
    3. 解決施策の検討:課題を達成するための施策を検討する
    4. 解決施策の実行:検討した施策の実行計画を立てて最後まで実行する

 

まず、こうした手続き自体を知らないので、課題解決が下手ということが言えます。

また、実際に体験させると、学生が滞ってしまうポイントがあります。
それは1.の後半である「問題の要因の整理」と2.の「課題の設定」です。

まず「問題の要因の整理」ですが、例えば駅前の放置自転車の問題を考えさせた場合、自転車を放置してしまう理由については様々挙げられるのに、その理由をグルーピングして整理するのが苦手です。

これは、イメージ的には、KJ法のように付箋に様々な理由を書き出した後、同じ意味合いの付箋をグルーピングするような作業です。

これは、言うならば「具体的な事象を抽象化して整理する」アクションです。

こうしたアクションはひと昔前に暗記特化型学習の弊害とされてきたところだと思いますが、まだまだ自律的な学習スタイルへ変えていく必要があるのだと思います。

もうひとつ、学生は「課題の設定」が下手です。
典型的なのは、問題を整理し始めた時点で、(課題を立てずに)安易に解決策について話題が展開してしまい、表層的な思い付きのアイデア談議に花を咲かせてしまうというパターンです。

解決策が「ひらめく」というのは、確かにキラキラして、楽しい瞬間だと言えます。
そこに一足飛びに行ってしまうという流れは、傍から見ていても理解できなくはないのですが……。

 

課題解決力の欠如→企業活動の憂患にならないように

企業活動において、ビジネスの失敗の原因は真の問題解決になっていない(真の価値提供になっていない)ことに尽きると思います。

真の問題解決には、問題を俯瞰して要因を客観的に整理したのち、適切な課題を立てることが求められます。
それは、いったん問題から離れ、解決に対し遠回りをするように感じられるプロセスでもあります。

学生は(私たち社会人も)、日常生活で問題が生じても、適切なアプローチを取らずに、早計に思い付きの解決策に飛びついてしまいがちなのだと思います。

私が大学に勤務していたときも、ある教授がよく学生に、「問題があったとき、すぐに解こうとするのではなく、そもそもその問題は本当に問題なのかということから考えなさい」と言っていました。

私たちも時々耳にする言い回しですが、体現することは社会人でもなかなか難しいと思います。

ただし学生と接していて、毎回感じる希望もあります。

それは、プログラムで接した学生が皆著しく成長するということです。

「知らないからできない」という壁を壊し、プログラムで体感するという経験をしただけでも、学生は見違えるような表情を見せてくれます。

その姿を見ていると、今後の学生生活の充実や、就職して企業活動を支える立場になったときの活躍も、十分に期待することができると感じます。

さて、ここまで学生の課題解決力についてお話ししてきました。

特に、求める人材像に課題解決系の能力を含めている企業には、課題解決力は自然には獲得されない、誰かが教えて伸ばす必要がある力だということを、採用活動のヒントにしていただければと思います。

ではまた1カ月後にお会いしましょう。
次回もよろしくお願いいたします。

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小宮 健実(こみや・たけみ)
小宮 健実(こみや・たけみ)
1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。

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