
小宮 健実(こみや・たけみ)
2019/07/10

イントロダクション
皆さん、こんにちは。 採用・育成コンサルタントの小宮健実です。
7月を迎え、21年採用活動も話題に上がるようになりました。
特に最近では、インターンシップではどのようなコンテンツがよいかという質問をよく受けます。
例えば、インターンシップでは、「就労体験」を含むことが奨励されています。 百聞は一見に如かず、実際にやってみれば仕事への理解は間違いなく高まるでしょう。
ただ、就労体験は、学生から「面白くない」という評価も少なくありません。
実は「面白くない」問題は、表面化することなく、多くのインターンシップで普通に起きています。
なぜ表面化しないかは、想像に容易いと思います。 学生は、企業の人に向かって、「面白くない」という感想は言わないからです。
「そもそも仕事なのだから面白いわけはない」、「面白さを言葉で説明しても、それを本当に体感するのは難しい」というのが事実でしょう。むしろ面白おかしく演出することは、何かを歪めているようで抵抗のある人も少なくないと思います。
学生も、別に面白さを期待して就労体験に参加したわけではないでしょう。
しかしながら、いずれ実施される採用活動を考えれば、本質も伝えつつ、面白かったという記憶も残してもらいたいところです。
そこで今回は、インターンシップのようなプログラムに「面白さ」を実装するためのアイデアをお話ししたいと思います。
具体的に言うと、ゲーミフィケーション(ゲーム化)の基礎知識をお話しします。 参加者を楽しませるメカニズムを、ゲームから拝借してくるという考え方です。
では、さっそく始めていきましょう。
参加者を楽しませるメカニズム
ゲーミフィケーションとは、参加者を楽しませるメカニズムを、ゲームから拝借してくるという考え方であり、必ずしもゲームそのものを作ったり、導入したりすることではありません。
つまり、何か課題があった時に、それをゲームとして見立てることで、楽しみながらそれをこなせるようにする工夫です。
ゲーミフィケーションは数年前から様々な研究や試みがなされています。例えば実際にコールセンターで行われている営業活動をRPGゲームに見立て、働く人のモチベーションを上げた事例などもあるそうです。
そしてもちろん、インターンシップなどのプログラム作りに応用することも可能です。
では、具体的にインターンシップのようなプログラムをゲーム化するにはどうしたらよいのか、ゲーム化のメカニズム、必要な要素について説明していきたいと思います。
インターンシップのゲーム化
では、わかりやすいように、架空の会社A社のインターンシップ・プログラムに見立てて説明してきましょう。
A社では、学生向けに毎年インターンシップ・プログラムを開催しています。 プログラムは3日間で、受け入れている学生は20名です。
現在のA社のプログラムの内容は以下の通りです。
1日目 | 午前:A社の部門紹介(営業、技術、研究、企画の各部門から部長職の社員が話をする)。その後、本社の施設見学。 午後:営業部門の課長がプロジェクト事例などを説明。その後グループに分かれ、順番に数人の営業職の若手社員から日々の仕事やキャリアについて説明や質疑応答を行う。 |
2日目 | 午前:技術部門と企画部門の課長がプロジェクト事例などを説明。 午後:グループに分かれ、技術職、企画職、総務職の若手社員から順番に日々の仕事やキャリアについて説明や質疑応答を行う。 その後、自社の製品を企画するグループディスカッションを実施。発表と講評を行う。 |
3日目 | 工場に集合。 工場長が自社の技術の強みを説明。その後、グループに分かれ、順番に工作機械やロボットの見学、操作体験を行う。その後、工場に併設されている研究所を訪問。研究所長の話を聞き、研究所内を見学。 |
A社では、3日目の終了時に、学生にアンケートをとっています。
昨年の満足度は、5点満点で4.2点でした。決して低くはなく、「良い体験ができた」など、コメントも好意的です。
ただ、インターンシップ経験者から選考に参加した学生は20名中5人で、担当者はインターンシップで自社の魅力が伝わっていないのではないかと考えています。
特に、部長職、課長職の話を聞いている時や、工場、研究所を見学している時は、正直参加者が退屈そうにしているような気がしています。部長職、課長職の社員とはいえ、必ずしも学生が面白がるように説明するわけではありません。
決して、居眠りをしたりする参加者がいるわけではないですが、若手社員と話をしている時の様子と比べると、明らかに盛り上がりに欠けているようです。かといって、そのパートをなくすこともできません。
そこで、ゲーミフィケーションを一つの打ち手として、次回の改善点を検討することにしました。
ゲーミフィケーションを実現する要素
では、以下にプログラムをゲーム化する要素を、A社のプログラムにおいて改善を検討できそうなポイントとともに説明していきます。
要素1:チャレンジ
チャレンジとは、(解決するために努力が求められる)課題のことです。
これは、こちらから参加者に与えるもので、プログラム全体のミッションとストーリーを明らかにし、世界観を表すものです。
例えばA社の場合では、プログラムの冒頭で、この3日間に参加者に求めるミッションを伝えることが考えられます。「3日間でA社の世界営業戦略を解き明かせ」とか、「5年後のA社の姿を予言せよ」といった具合です。
ちなみに、「自分は3日間で何を学びたいか」と質問を投げかけて目標を個人に作らせることは、(キャリア教育上の効果を期待するアクションであり、)ゲーミフィケーションの要素とは異なります。
要素2:チーム行動
共通の目的を達成するために、プレイヤーが協力して行動することです。
例えばA社のプログラムでは現状、参加者は席に座っていれば、代わる代わる社員が目の前に来て情報を提供してくれます。
これを、グループ内で役割を決めて、それぞれが分かれて自分から社員のもとに情報を聞きに行き、その後グループに戻って情報を共有するようにできないか検討します。
自分が得た情報を後にグループのメンバーに共有しなくてはいけないので、説明の聴き方も意識が変わってきます。
要素3:リソースの獲得
RPGゲームで最初に渡される武器のようなもので、その後の活動に有用で、収集可能なアイテムをいくつか用意します。こうしたものをリソースと言います。
例えば、社員の話を聞くにはその社員の弟子になる必要がある、という設定を作ります。 そして、例えば営業職の社員に弟子入りを表明した参加者には、理解を助けるリソースとして「新弟子向け5分でわかる営業の仕事」という手作りの小冊子を渡してあげます。
こうした設定をすることで、参加者は基礎知識を頭に入れることを楽しみながら行うことができます。
こうしたリソース欲しさに「自分も改めて営業に弟子入りしよう」というようなアクションを誘発するような工夫も考えられます。
要素4:リワード
何らかの行動や達成に影響を与えられる恩恵のことです。
こうしたものをゲーミフィケーションの世界ではリワードと呼びます。
典型的なのはバッジと呼ばれるもので、ひとつの領域を制覇したらその領域のバッジがもらえたり、バッジの種類をそろえると格が上がったりする仕組みがこれにあたります。
例えば、営業職の社員に話を聞いた参加者には、それを認定する何か渡すもの(バッジ)を検討します。 また同様に、営業職の社員が「現場でよく使う専門用語チャレンジ」のような小クイズを行い、成功したら何かを渡すような検討もできるでしょう。
ある課題の達成に対するリワードを、次の課題を達成するためのリソースと絡めるような設計もよくあります。
例えば、グループのメンバーの獲得したバッジがたまったら、A社の世界戦略のヒントになる情報がもらえたりするような工夫も検討できると思います。
要素5:チーム間競争と勝利
あるグループが勝利し、他は負けるという設定です。
競争は、最もシンプルでわかりやすい要素です。
ゲーミフィケーションの効果を高めるためには、本気になれるような設定をすべきです。 つまり、本当に欲しいと思うようなものを勝利者に与え、(煽るのではなく)自発的な競争を促したいところです。
A社のプログラムでも、個人やグループで獲得したリワードの結果で、最終的な表彰や賞品を検討することができるでしょう。
いかがでしょうか。 今回はあくまで基本的な要素を説明していますが、すぐに導入が検討できる要素もあるかと思います。
ゲーミフィケーションを導入すると、座学から動きのあるプログラムになると考えられます。
最近では様々なテーマでゲーミフィケーションを用いて学びを楽しくしたり、社会問題を解決したりする試みが行われています。
就活がゲームになるのは困りますが、楽しむという観点は良いものだと思います。
ではまた1カ月後にお会いしましょう。 次回もよろしくお願いいたします。
- 小宮 健実(こみや・たけみ)
- 1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。

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