「就職に疲れた若者たち」に対応するために―採用活動の教科書・応用編―

6月の本選考解禁を越えて20卒の採用活動も後半戦に突入してきたところです。まだ就職活動を続けている学生は、疲れている人が多いのではないかと思います。また、疲れているだけではなく、自信も失っているかもしれません。今回はそういった人たちは狙い目かも。といったことをお話します。

イントロダクション

こんにちは。組織人事コンサルタントの曽和利光です。6月の本選考解禁を越えて20卒の採用活動も後半戦に突入してきたところで、採用側もそうだと思うのですが、現在もまだ就職活動を続けている学生は、長期にわたる活動にいささか疲れている人が多いのではないかと思います。長い人になれば、3年生の夏のインターンシップぐらいから就職を考えて動いているわけですので、そろそろ1年です。疲れて当然でしょう。

また、疲れているだけではなく、自信も失っているかもしれません。倍率が100倍というのも珍しくない難関である大手企業や人気企業をたくさん受けてきた人は、結果、たくさん不合格となってしまうことにもなり、「自分は就職ができるのだろうか」「内定を得られるのだろうか」と自信喪失をしている人も多いでしょう。

この就職活動における自信は、心理学では「職業選択自己効力感」と言います。就職活動=職業選択で求められる行動、つまりエントリーシート提出や会社説明会への参加、適性検査、面接などの選考受験に対して、「自分はうまくやり通せる」という期待感のことを言います。

「職業選択自己効力感」は就職活動量と相関があることがわかっています。つまり、就職活動で自信を失ってしまうと、「まずい、頑張ろう」と思って頑張って行動するのではなく、「どうせ自分なんて無理なんだ」と行動量が減ってしまうということです。尻込みしてしまい、就職活動をしなくなってしまうのです。

そんな弱い人は不要だと思うかもしれませんが、私はそうは思いません。一般的に「自己効力感」は能力とは異なるものであり、優秀な人であっても「自己効力感」を失ってしまうことはいくらでもありうるからです。実際、多くの学生と会っていて、超優秀な学生が、第一志望に落ちてしまって、自信を失うというようなことはいくらでもありました。

むしろ、「職業選択自己効力感」を失ってしまった人などいらないと、もし多くの採用担当者が考えているのだとすれば、逆にそういう人たちに優しい採用をすることで、多く出会うことがでれば、あまり競争せずに優秀な人材が採用できるかもしれません。つまり、狙い目ではないかと思うのです。

 

自信を失った人はどうすれば自社を受けてくれるのか

それでは、「職業選択自己効力感」が低下してしまった人、就職活動に自信を失ってしまった人は、どうすれば自社を受けてくれるのでしょうか。これについて、一緒に考えてみましょう。

①採用プロセスの詳細な開示
まず、できることは、自社の採用プロセスや採用基準を明確に学生に伝えてみることです。

「まずは、エントリーシートをお送りください」とだけ書くのではなく、エントリーシートを送ったらどれぐらいの期間でどんな返信が来て、もし合格の場合、次にどんな選考手法があるのか、筆記試験なのか面接なのか、筆記試験はどのようなものか、面接は何時間でどのような質問を聞くのか、そして、それぞれの選考基準はどのようなものなのか。これらをすべて、できる限り具体的に開示していくのです。

不透明な採用プロセスや採用基準は自己効力感を低めて、応募行動を抑制します。逆に、「何をすればどうなるのか」「どのように評価されるのか」ということがわかれば、余計な不安は消えるため、「職業選択自己効力感」が高まることで、「では、一度応募してみようか」ということになります。

②結果期待の向上
次に、「自分でも受かるかもしれない」「次に進めるかもしれない」という結果に対する期待感を上げることです。

エントリーシートや筆記試験などで事前選抜をすることなく、「必ず面接します」という面接確約という手法はとても効果的です。応募者全員に会うのはパワーのかかることではありますが、自信を無くした学生にとってはうれしい対応でしょう。

パワーが不足するのであれば、「今まででも合格にしていた人」はこれまで通りの採用担当者が会い、それ以外の人には、外部の採用アウトソーサーに任せたり、社内で協力を募ったりすることでまかなうというやり方もあります。

 

理解し、背中を押してあげることが重要

③意思決定の支援
最後に重要なことは、意思決定の支援、つまり「この会社にしよう」と勇気を持って決める後押しをしてあげるということです。採用担当者の視点から言えば、「ちゃんと誠実に口説いて自社に導いてあげる」ということです。

自信を失った人は、意思決定が苦手になっています。自分がどんな人かわからなくなっており、どんな会社や仕事に合うのかも混乱している場合があります。そこを採用担当者がサポートしてあげるのです。

最初にすべきことは、いきなり口説くのではなく、自己「再」分析のお手伝いです。これまでにも既にいろいろな面接で自分を表現してきた学生も、それで結局不合格をもらっていると、「この分析で本当によいのだろうか」と思い悩みます。ですから、就職活動後半戦とはいえども、もう一度改めて自己分析を手伝ってあげるとよいのではないかと思います。

具体的には、フィードバックをしてあげることです。面談や面接などで話ができたら、そこから得た印象などをぜひ話してあげてください。「あなたは自分のことをこう言っていたけど、私はこんな部分もあるのではないかと思いましたよ」と、できるだけポジティブな部分に光を当ててフィードバックしてあげてください。ただでさえ自信を失った人にネガティブフィードバックは不要でしょう。

そして、「そういうあなたはこういう理由で自社に向いていると思うから、ぜひうちに入社してほしい」と口説くのです。相手が「この人は自分のことをきちんと理解してくれた」と思わないうちに口説いてはいけません。そんなことをすると、自信を無くした人は「自分のことをちゃんと知らないのに口説いてくるなんてどんな人でもいいんだ」と思うことでしょう。

最近では「オワハラ」(就職活動終われハラスメント)が問題視されており、口説くことに臆病になってしまっている採用担当の方が増えていますが、脅迫的に他社の辞退を迫ることと、誠実に自社に来てほしいと口説くことは全く違います。自信を無くして自分でなかなか決められない人でも、自分を理解してくれたと思う人から誠実に口説かれれば、自信が復活し、そして覚悟を決めてくれるかもしれません。

繰り返しますが、就職活動で自信を喪失したって、優秀な人はいくらでもいます。彼らを埋もれさせてはいけないと思います。是非、いろいろ工夫をしていただいて、皆様の会社にフィットする人材を見つけてみてください。

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曽和 利光(そわ・としみつ)
曽和 利光(そわ・としみつ)
1995年(株)リクルートに新卒入社 、人事部配属。
以降、一貫して人事関連業務に従事。採用・教育・組織開発などの人事実務や、クライアント企業への組織人事コンサルティングを担当。リクルート退社後、インターネット生保、不動産デベロッパーの2社の人事部門責任者を経て、2011年10月、(株)人材研究所を設立。現在は、人事や採用に関するコンサルティングとアウトソーシングの事業を展開中。

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