小宮 健実(こみや・たけみ)
2013/02/12
イントロダクション
皆さん、こんにちは。採用・育成コンサルタントの小宮健実です。
採用活動では、いよいよ応募者個人との接触が始まるころでしょうか。
私は今年、リクルーターの使い方に注目しています。
リクルーターとは、以前は「出身大学の後輩学生に声をかけ面談を行い、次の選考プロセスへ推薦するか否かを判断する現場の協力社員」のことを指していましたが、昨今では、企業説明会で仕事の説明をしたり質疑応答を行ったりする役割も含め、現場の社員が応募者と接触する役割を担った場合には、広くリクルーターという呼称が使われています。
今回は、その広義の意味におけるリクルーターの話をしようと思います。実は昨年来、リクルーター、つまり応募者と接触する現場社員の役割の重要性が強く増したと感じています。実際に、最近はリクルーターのトレーニングを依頼されることも多くなっています。
皆さんご存じの通り、採用選考に関する指針の変更を受けて、応募者の就職活動の開始時期が10月から12月になりました。選考の時期は変わっていないので、学生は以前より短期間に集中し、錯綜する情報の中で企業を見極め、志望先を選定しています。
逆に企業サイドから見た場合、そのように競合する中で、選考へのエントリーにつながる強い惹き付け施策を打たなければなりません。数多くある惹き付け施策の中でも、実際に現場で働いている社員と直接接触させて関係構築を図ることは、強い影響力があり効果的だといえます。それゆえ、リクルーターと学生との接触の質の差は、今まで以上に採用活動の成否に大きな影響を与えているのです。
特に、この時期以降は、応募者と社員のリアルなコミュニケーションが増え、応募者が話す内容も、自分がその企業で働くことを具体的に意識した、深い内容のものになります。その対応いかんによっては、意図せず応募者の動機づけを損なってしまうこともあり、注意が必要なのです。
今後、2月3月にかけて、現場社員にさまざまな形で、採用活動への協力を要請している企業が多いと思います。リクルーターに対し人事から何をガイドしておかなくてはいけないか、リクルーターの役割を整理しながら、ポイントを説明したいと思います。
リクルーターが持つ4つの役割
まず、リクルーターが持つ4つの役割と目的を紹介しましょう。
これらの役割のうち、自社の場合は、どれを該当させているのか、もしくは、どれは該当していないのかについて確認し、社内のリクルーターに対する共通理解と目的整理に生かしていただければと思います。
4つの役割と目的は、以下の通りです。
・エバンジェリストとして魅力を伝える
・アセッサーとして評価する
・アドバイザーとして動機づける
・メンターとして不安を解消する
では、順番に説明をしていきましょう。
情報発信者としてのリクルーター
・エバンジェリストとして魅力を伝える
リクルーターの第一の役割は、エバンジェリスト(伝道師)として応募者を惹きつける情報を発信することです。ここであえてエバンジェリストという言葉を使う理由として、「伝える内容」以上に「伝える活動をしている人」に焦点があたっていることがあげられます。応募者には、リクルーターとして目の前にいるその人が、その企業のすべてを表現しているように見えているからです。
エバンジェリストの役割は、どの企業のリクルーターでもまず間違いなく担っているでしょう。エバンジェリストとして大切なことについて、すべてをここに書くのは無理なのですが、リクルーターに魅力を感じてもらうために伝えるべき事柄について、意義(Significance)、情熱(Passion)、経験(Good Experience)という3つの観点からお話ししたいと思います。
意義(Significance)とは、仕事がどのような価値をもたらしているのか、最終的に社会にどのように役立っているのかを伝えることです。たいがいの場合において、仕事の説明に実際の手順やプロセスを話す必要はありませんし、ましてや専門用語を出す必要はありません。しかしながら、慣れていないリクルーターは、自分の仕事について、応募者にとって価値のない説明に長く時間を費やしてしまいがちです。例えば、パソコンの説明をするときに、CPUやハードディスクのスペックを説明するのではなく、「これを使うことで、自分で編集した家族の動画をいつでも共有することができるようになります」と、それがもたらす価値について説明することが、意義(Significance)を伝えることです。
情熱(Passion)は、その仕事を気に入っている、もしくは、惹かれている理由を説明することです。仕事がもたらす価値と、自分の思いや気持ちをつなげて述べます。注意点は、この部分について「借りてきた表現」を使うと、まったく伝わらないということです。自分の言葉で伝えることが大切です。
経験(Good Experience)は、 今までで最も充実感を感じたり、成長したと感じたりした仕事の体験談を、ストーリーとして伝えることです。 人が人に共感するには、ストーリー形式が効果的です。「いつごろ」「どのような目的で」「どのような役割、責任で」「何が難しかったのか」「どのように乗り切ったか」「どのような思いだったか」「どのような仲間の支援があったか」「結果はどうなり、どのようなことを感じたか」「得たものは何か」といったことを事前に整理しておくことが大切です。
エバンジェリストは、応募者に、何をどのように伝えるかによって、とてもイキイキとした存在にも映りますし、逆に同じ事実を伝えているのに、まったく魅力的に映らない場合もあります。志望理由について、多くの学生が「その企業で働いている人が魅力的だった」と答えることからも、活躍している社員を指名するのはもちろん、リクルーターに人事からあらかじめ、成功につながる伝え方についてガイドを行っておくことが重要です。
情報受信者としてのリクルーター
・アセッサーとして評価する
・アドバイザーとして動機づける
・メンターとして不安を解消する
エバンジェリストが応募者への情報発信なのに対して、上記の3つは応募者からの情報をどのように受信するか、ということになります。
1.(就職活動の一環としての)自己PRの意味を持つ情報発信
2.(質問、助言など)明確な解答を期待した情報発信
3.(個人的な問題や不安など)聞いてもらいたい情報発信
1に対してはアセッサーの立場で、2に対してはアドバイザーの立場で(解がリクルーターの側にあるので)、3に対してはメンターの立場で(解が応募者の側にあるので)、話を聞きます。
まずアセッサー、すなわち評価者についてですが、リクルーターに評価者の役割を持たせる場合には、どのような学生を望ましい人材層と評価するのか、リクルーター間で共通の認識が必要となります。特に、リクルーターに若手社員を指名しているような場合には、応募者の評価について主観的な判断が入りがちですので、注意が必要です。応募者を評価するときに、主観がもたらす評価のブレが採用活動の致命傷になることもあります。
次にアドバイザーですが、応募者の問いかけに対し、募集要項や採用スケジュールのような公式な事実、もしくは、リクルーターの持っている知見や経験から解が明確で、解決策を提供できる場合は、アドバイザーの立場として確実に情報提供を行います。
ひるがえって、個人の価値観が起点となるような問題、正しさが一様ではない問題などについて応募者から問いかけられた場合には、社員個人の考えを伝えることは時にリスクとなり、思いがけない事態につながることがあります。あくまで個人の見解として対応することも可能ですが、応募者は常に冷静であるとは限らず、個人の見解であっても企業の見解としてその情報が独り歩きすることもあります。
そのような時の対応を、解をはっきりと伝えるアドバイザーの役割と区別し、メンターとしての役割と位置付けています。メンターの立場で応募者と接するときには、適切な対応により応募者に解の決定をゆだねることが大切です。
では、大きな問題に発展したケースではありませんが、実際に私が聞いたエピソードをご紹介しましょう。
解のない問いかけへの対応
3月後半、うちの会社でもいよいよ選考が始まる。うちの会社の最初のプロセスは、企業説明会だ。まず、人事と現場社員がそれぞれ30分ずつ、自社について話す。休憩後に、本当に志望する人だけ会場に残ってもらい、筆記試験を実施する。
今日1回目、午前中のセッションを終えた昼休みに、僕は現場社員のTさんから話しかけられた。
「いやー、なんだか難しい質問されちゃってさ、どう答えるか困っちゃったよ」
「筆記試験に入る前にTさんと立ち話していた学生ですね。どんな質問だったんですか?」
「さっきの説明で聞きたいことがあるっていうんで、私でよければ聞きますよ、って言ったんだ。そうしたら、今、お母さんと2人暮らしらしくてね。さっきセミナーでAが、『うちは新入社員の最初の勤務地はみんな東京になる』って説明しただろ? それを聞いて、母親を1人家に残していくことになるから少し悩んでしまったって。必ず全員東京配属ですか? って聞かれたんだよ」
「なるほど。お母さんを1人残して家を出るのが心配なんですね」
「そういうことだね」
「で、Tさん、どんな風に答えたんですか?」
「うん。実は俺も就職するとき同じ状況だったんだよ。それで結局、自分は東京でひとり暮らしを始めたからさ、その話をしたよ。親のことも確かに心配だったけど、やっぱり親も自分を応援してくれたし、君の親もきっと応援してくれるんじゃないかって」
「そうしたら、どうでした?」
「うーん、それがさ、あまり晴れやかとはいえない顔をしていたな。彼、結局テスト受けなかったよね。どうすればよかったのかな?」
「そうですね……。個人個人で考え方も違うし、難しいですね。自分で考えてくださいって言いたいですよね」
「まあそうだけどさ、一応、こういう類の質問に対する会社の考え方、つまり対応の仕方は共通にしておいたほうがいいんじゃないかな? みんなが好きなこと言うとまずくないか?」
「そうですね……」
確かに、期せずしていろいろな質問が出る。会社で回答が明確なものもあれば、個人的な価値観や考え方に左右されそうな質問もある。合格者にせよ不合格者にせよ、その辺りの対応は慎重にやらなければいけないのも事実だ。現場の社員は、人事の社員ほどその手の対応に慣れていない。明日からも説明会は続くし、今から急いで注意点をまとめよう。
このように、正解が一様ではないと思われる問いかけに対しては、リクルーターはメンターとして対応する必要があります。解を与えるのではなく、応募者が自分でその解を見つけられるように支援する姿勢を示します。仮に、リクルーターが解を与えても、それが応募者にとって納得感が高いかどうかは分かりません。それよりも、自分の話をよく聞いてもらえたかどうかということが、応募者との関係構築には重要な意味を持ちます。
その際に用いる基本スキルは、「傾聴」です。傾聴とは、「こちらの聞きたいこと」を「聞く」のではなく、「相手の言いたいこと、伝えたいこと」を受容し、共感を示しながら「聴く」ことです。傾聴は、さまざまな場面で必要になるコミュニケーションスキルですが、あらかじめ、そのような場面があることを意識しておかないと、スムースに発揮することが難しいといえます。前もって、人事から適切なガイドを行っておくとよいでしょう。
今回はここまでリクルーターについて、お話ししてきました。
昨年や今年のようなスケジュールにおいて、手厚い人対人のコミュニケーションを生じさせるリクルーター施策は、うまく機能すれば強い惹き付け施策になりますが、的確にコントロールしなければ、期せずしてマイナス効果になるリスクもあります。要点を押さえ、ぜひ採用活動を成功に導いてください。
- 小宮 健実(こみや・たけみ)
- 1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
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