小宮 健実(こみや・たけみ)
2019/02/12
イントロダクション
皆さん、こんにちは。 採用・育成コンサルタントの小宮健実です。
私のお客様のある企業では、毎年、内定辞退者にヒアリングを行っています。 特に力を入れているのが、同業界の似たポジションの競合他社へ入社することにした内定辞退者へのヒアリングです。
そこで毎年上位に上がる回答がいくつかあるのですが、その一つが「御社で働くイメージがあまりわかなかった(競合他社のほうが働くイメージが具体的に持てた)」というものです。
相談を受けた私は、その会社の採用活動の設計に合わせ、リクルーター活動を導入することを提案しました。内定(候補)者に担当リクルーターを付けて個別に情報提供を行い、自社で働くイメージを想起させようというものです。
そしてリクルーター・トレーニングを実施し、十分な時間を割いて一人ひとりに「自分が学生に伝えるべきこと」を準備してもらいました。
もちろんリクルーターという役割を置かなくても、自社で働くイメージを持たせることは可能です。 大事なことは、社員が意識して伝えるべきことを適切に準備し、実行することです。
今日はその時のことをお話ししようと思います。 ではその伝えるべきことについて、説明していきたいと思います。
働くイメージをもたらすもの
「自社で働くイメージ」をもたらすものは何でしょうか?
例えば自社説明会における、「職種説明」はその一つにあたるでしょう。
おそらく、企業としてどのような課題に取り組み、顧客にどのような価値をもたらしているか説明した上で、社内のそれぞれの職種が創出している成果物や、職種間の連携について説明していることでしょう。
場合によっては、社員の一日の過ごし方として、朝から時間を追って一日の時間の使い方を説明していたりするかもしれません。
多くの企業では、そうした説明とともに、現場の社員から直接話を聞ける機会も設けていると思います。
現場の社員は、自分の過去の社歴とともに今の自分の普段の仕事、つまり顧客や受け持っている作業について説明し、質問を受けながら仕事のやりがいや、苦労していることなどについて話をしていると思います。
これは、非常によくある光景です。
私のお客様企業でも、このようなスタイルの説明会を開いています。社員と学生が直接会話できる時間を十分に取り、自社で働く上で学生に不安な点や疑問点が残らないように、とても丁寧に対応しています。
では、それでもまだ自社で働くイメージが持てなかった、競合他社のほうが働くイメージが具体的に持てたと言われてしまうことがあるのはなぜでしょうか?
不足しているものの正体
なぜまだ働くイメージが持てないと言われてしまうのでしょう。 こちらの説明がわかりづらかったのか、もしくは学生の理解度が低いのでしょうか。
それは、どちらも違うと思います。
もしも内定者に、自社の社員についてどんな仕事をしているのか確認テストをしたら、多くの内定者はこちらが説明した意図をきちんと汲み取った回答をすると思います。
では不足しているものの正体は何でしょうか。
それは、社員が仕事をしている時(最中)の感情や意志だと私は考えています。
もちろん、「仕事のやりがい」などの説明によっても、学生はそうしたことをある程度理解していると思います。ただしその場合私たちは、最終的に価値を創出できた時の達成感や、顧客の感謝の言葉から醸成される満足感などについて説明していることが多いと思います。
私が不足していると感じるのは、そのような最終的に、キラーフレーズ的にまとめられたものではなく、仕事を進める具体的な過程で生じている、日常的でリアルな「感情」や「意志」です。
職種の説明で、仕事の手続きを言葉として理解しても、実際にその仕事をする時の状況や環境がもたらす雰囲気や空気感、仕事をしている時の感情や気持ちは中々伝わるものではありません。
それを学生に伝えるとはどのようなことなのか、次項でお話ししていきたいと思います。
働いている場面を
想起させる伝え方
では、以下の2つの文章を読んでください。
2年目の秋に、あるお客様の新システムへの移行プロジェクトに入りました。
私はまだまだ現場経験が少ないのですが、新システムの要件定義の担当者を任されました。
すごく不安でしたが、5つ年上の仲の良い先輩も一緒でしたし、他の先輩はデータベースのスペシャリストだったので、きっと良い勉強ができると思って、とても張り切っていました。
最初にお客様と顔合わせがあって、その時自分が一番年下だってわかって、それで、自分が一番手足を動かして頑張るぞって思いました。毎日ちょっと早起きしたりして、とても新鮮な気持ちでした。
その頃の日課は、まず出社したら、お客様とミーティングがありました。
お客様は情報システム課のベテランの3人で、最初はもう恐くてしょうがありませんでした。
挨拶をするのも小声になっちゃって、自分の知識の無さを知られるのが嫌で、自分が知らないような話題にならないように、コミュニケーションを避けているところがありました。
午前中の仕事は、ミーティングで上がっているお客様からのリクエストを整理し、要件定義書として文書化することでした。その文書から、日々の社員の担当業務が検討されるので、とても重要な仕事です。
それがある日、こんなことが起こりました。
主な仕事はお客様からのリクエストを整理し、要件定義書として文書化することです。
その文書から、日々の社員の担当業務が検討されるので、とても重要な仕事です。
わからないことがあっても、チームの先輩社員がサポートしてくれるので心配ありません。
この仕事で大切なことは、最初わからないことがあっても粘り強く解決策を探すことです。
この仕事のやりがいは、今まで世の中に無かった新しいサービスを作りだす達成感です。
サービスインを迎えた時に、お客さまに「ありがとう」と言われた時は、きっとやりがいを感じることができると思います。
この2つの文章は、表現方法が違います。
1つ目の文章は、ある社員のリアルなストーリーとして話されています。 主人公の目線で、事象の起きた流れに沿い、その時の雰囲気や、生じた思いや気持ちをそのまま直接的に伝えています。
2つ目の文章は、構造がシンプルで説明的です。1つ目の文章が冗長だったのに対して、大事な要点が明確でわかりやすいと言えます。 私たちは通常、2つ目の文章のようなスタイルで広報活動をしています。シンプルな分、細かい雰囲気や気持ちなどは行間を読む必要があります。つまりそうした部分は読み手の理解度や共感力に依存しています。
どうでしょうか。もうおわかりいただけると思いますが、社員があえて自分の仕事の説明をストーリーとして伝えていくことで、その時の感情や意志も、ストレートに伝えることができます。
学生も、仕事の説明をストーリーの形式で聞くことで、具体的な仕事の進み方に加え、それをする時に生じる感情や思いも体感でき、あたかも自分が働いた時の感覚を疑似体験しているように思えるのです。
ストーリーを準備し、
ストックする
リクルーターや説明会に参加する社員には、学生に話すための「自分のストーリー」を事前に準備してもらうことになります。
実は、自分のことだからいつでも話せるだろうと思っていると、これはとても難しいことなのです。 むしろ説明的に自分の仕事を話すほうが、常日頃業務で求められている形式と同じなので、易しく感じる社員が多いと思います。
それゆえ私がリクルーターのトレーニングをする際にも、この準備に多くの時間を使っています。
大事なことは、現場社員に今までの仕事歴の中で最も魅力的なエピソードを選んでもらい、ストーリーの形で意気揚々と語ってもらうことです。
話上手な社員を人選しただけでは、学生に具体的な働くイメージを想起させることにはつながりません。 依頼の仕方には、十分気をつける必要があります。
自社で働いた今までの仕事歴の中で、最も魅力的なエピソードのことを、ハイ・ポイント・ストーリーと言います。
質の高いハイ・ポイント・ストーリーを揃えることは、採用広報活動において、大きな武器となります。 特にこの時期から始まる、他社との人材獲得競争には個人の話を聞かせることがとても効果的です。
「〇〇さんの話を聞いて憧れて、御社に入社したいと思いました」というのは、代表的な入社先決定理由の一つですが、そのように名前が挙がる社員は間違いなく、魅力的なハイ・ポイント・ストーリーを語ってくれています。
毎年少しずつ、魅力的なハイ・ポイント・ストーリーを語れる社員を増やしていけば、採用活動を確実に助けることになるでしょう。
今回は、学生に「自社で働くイメージ」を持たせる方法についてお話ししました。
ではまた1カ月後にお会いしましょう。 次回もよろしくお願いいたします。
- 小宮 健実(こみや・たけみ)
- 1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
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