「決めさせる」面接者になるためのスキル―入社先の決め方に起きている変化を捉えよう―

3月を迎え、就職活動がスタートしました。この時期には面接の設計と、面接者へのトレーニングを実施している企業が多いのではないでしょうか。そんな面接について、私が最近のニーズとして特に高まっていると感じるのは、面接者の「決めさせる」スキルのアップです。今回は、「決めさせる」面接者になるためのポイントについてお話ししていきたいと思います。

イントロダクション

皆さん、こんにちは。
採用・育成コンサルタントの小宮健実です。

3月を迎え、テレビのニュースなどでも就職活動のスタートが報じられました。

実際のところは、学生も企業もマスコミの捉え方とは異なり、活動「スタート」ではなく、活動「本番」という気持ちなのではないでしょうか。

採用活動は長期戦です。これから3月以降の活動の成功も、昨年から行ってきた地道な活動一つひとつを線で結んだ延長上に存在するのだと思います。

さて、この時期には面接の設計と、面接者へのトレーニングを実施している企業が多いのではないでしょうか。

面接について、私が最近のニーズとして特に高まっていると感じるのは、面接者の「決めさせる」スキルのアップです。

皆さんも、自社の面接者の中で、「あの人は応募者を惹きつけ、決めさせるのが上手だ」と感じている社員がいると思います。

そうした社員はもちろん人物的にも魅力的なのだと思いますが、他の社員も真似できる、獲得できるスキルという視点では、どのような特徴があるでしょうか。

今回は、「決めさせる」面接者になるためのポイントについてお話ししていきたいと思います。

 

「決めさせる」意味の変化

最近では面接者に、「決めさせる」役割に対するスキルアップが求められていると述べましたが、それ以前に、「決めさせる」というニュアンス自体が大きく変化していることからお話ししたいと思います。

以前の「決めさせる」から受け取るニュアンスは、どのようなものだったでしょうか。

数年前ならば、1週間以内に入社意志の返事をすることや、内定を受諾する旨を記した書類にサインを求めたりするというイメージが一般的でした。

そして「他社と迷っている」とした応募者に対しては、呼び出して競合企業よりも優位な情報を伝えるといったことが、一般的な「決めさせる」アクションだったのではないでしょうか。

もちろん、そうしたアクションは、今もあるかと思います。

しかしながら、「1週間以内に意思表明してください」といったような画一的なアプローチや、他社より優位だと思わせる情報の提供だけでは、もはや「決めさせる」戦術として機能しないと、皆さんも感じているのではないでしょうか。

その理由は何でしょうか。
一番の変化は、キャリアの概念の浸透により、学生が「決める」にあたって、昔よりも多くの作業を行っている、ということでしょう。

良く言えば、学生はそうした外からの情報だけではなく、生涯働いていくことについて、自分なりに内側からイメージを描き、心から納得して決めようとしているのです。それに対して私たちは、学生が確かに納得するまで、イメージを描くための支援を行わなくてはなりません。

言うまでもないですが、「終わハラ」に象徴されるように、世間でも、就職活動を終わらせる権利は100パーセント応募者側にあるという認識です。相手を評価し合格を出す立場は、そうした認識を薄れさせ、自分たちが主導権をもっているように誤解しがちだということを忘れてはいけません。

では、そうした状況に合わせ、私たちに「決めさせる」戦術はあるのでしょうか。

最近の学生に起きている就職活動の変化の中に、そのヒントを見つけていきましょう。

 

学生にも起きている変化

就職みらい研究所が2019年卒学生に対して「就職先を確定する際に決め手となった項目」を尋ねたところ、一番多かった回答は「自らの成長が期待できる」が47.1%で、約半数が回答する結果となったそうです。ちなみに2位は、福利厚生(住宅手当等)や手当が充実している、3位は希望する地域で働ける、4位は会社や業界の安定性がある、5位は会社・団体で働く人が自分に合っている、でした。

学生のコメント欄には、安定志向がうかがえる中、「将来が見通しづらい社会では自らの成長こそが安定につながる」という声が多く挙げられたそうです。

では、応募者に自社が「自らの成長が期待できる」と思ってもらえるための情報提供はどのタイミングで行っているかと言うと、まず思い出すのは、企業説明会の場だと思います。

もちろん、「自らの成長が期待できる」ことを説得力をもって伝えるには、企業説明会のように1対多の場ではなく、個々人の話を聞いて、それに対して一人ひとりにメッセージをしたほうがよいでしょう。

そうしたことがどのタイミングで実現しているかと言うと、企業説明会に付随して設けられた、個別に社員に対し質問ができるタイミングなどだと思います。しかしながら、それは応募者全員に対してではなく、その時にそうしたことに意識を向けていた、一部の応募者が対象になっていると思います。

これを戦略的に(自社に決めてほしい)応募者全員に行う、しかも最も効果の高いタイミングはどこかというと、それが面接の場だと言えます。

緊張感をもって応募者の個人評価をしたその流れで、フィードバックとして「成長が確信できる」旨を伝えることが、最も相手の印象に残るでしょう。

では、具体的に面接の場で、どのように行えばよいでしょうか。

*就職みらい研究所「【2019年卒】就活生、入社予定企業の決め手は?」より
http://shushokumirai.recruit.co.jp/wp-content/uploads/2019/01/20190131kimete_.pdf

 

成長できると確信させる面接者の話とは

具体的に面接の場で、どのように「自らの成長が期待できる」と思わせることが可能でしょうか。

ここで大切なことは、このアクションは、誰にでも同じ話をしていては駄目だということです。言い換えるならば、応募者一人ひとりの情報を把握し、それに合わせた話を伝えることが必要です。

では、面接者が戦略的に伝えるべき話のポイントを3つほど、以下に説明したいと思います。

●「成長できる」と確信させる話をするための3つのポイント

(1) あなたは活かせる

成長できるという話をする時、勘違いしがちなのは、「自社に教育体制が充実しているからあなたも成長できる」という理屈でアプローチをしてしまうことです。

こうしたメッセージは、実はそれほど応募者の確信や自信を引き出すことには効果がありません。言い方によっては、逆にゼロから始まる(リセット感への)不安を醸成してしまいます。

大切なことは、「今までやってきたことが活かせる」という確信をもたせることです。応募者は、過去と未来がつながっていないと感じた時に、「この先どうなるのだろう、大丈夫だろうか」という不安を抱くのです。過去と現在という点から、未来という点を線でつないであげることで、自分の未来に安心して向き合うことができるのです。

言うまでもないかもしれませんが、先に応募者の話をよく聞くことが必要です。面接の場なので、応募者がこれまで力を入れて取り組んだことなどの話を聞いていることと思いますが、過去の話を聞いてから、それが活きるという手順を踏まないと、なんら説得力がありません。

(2) あなたはこうなる

数年後にこうなっているという、未来の姿を話します。

もちろん、「3年目の社員は……をしているよ」という十把一絡げ的な言い方ではなく、「あなたはきっとこういう風に活躍しているよ」という、目の前の個人に向けたポジティブなメッセージでなくてはいけません。

これは、自社の幹部社員としてコミット(確約)するのではなく、経験のある先輩の個人的な予言のように話すことがポイントです。私が個人的にこう思っている、という言い方が、かえってリアリティを醸し出すからです。

(3) あなたはもたらす

最後は、自社で働いて自分の経験や能力を活かし、成長した暁には、(自社の顧客を通じて)社会にどのような価値をもたらすことができるかを話しましょう。

なるべく具体的に、あなたの仕事がお客様のお客様などを巡り巡って、最終的に誰かの問題が解決されて便利になったり、生活が楽しく幸せな気持ちになったり、安心で安全になったりする様子を、ストーリーとして話すとよいでしょう。

応募者はそうしたストーリーを聞くことで、自社に所属し、働くことの意味を感じることができるはずです。

また、こうした(仕事の結果が誰かの幸せになるという)ストーリーは、事前に準備しておくことも可能なので、相手の心に響くストーリーを、面接者同士で共有しておいたりすることも良いと思います。

 

さて、今回は「決めさせる」面接者になるためのポイントについてお話ししてきました。
面接者に求められる役割は、年々増えていますが、それだけ影響力の高い仕事であることも事実です。良い準備をして、本番に臨んでいただければと思います。

ではまた1カ月後にお会いしましょう。
次回もよろしくお願いいたします。

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小宮 健実(こみや・たけみ)
小宮 健実(こみや・たけみ)
1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。

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