曽和 利光(そわ・としみつ)
2019/02/20
イントロダクション
こんにちは。組織人事コンサルタントの曽和利光です。いよいよ採用活動解禁ということで、ご担当者の皆様は採用活動の準備に勤しんでおられることと思います。新卒採用は大勢の人が動くビッグプロジェクトですから、現場の社員の方も巻き込んで面接担当者向けのトレーニングなどもしているのではないでしょうか。私も面接トレーナーとして、様々な会社のサポートをさせていただいております。今回は面接の直前チェックをしてみましょう。
面接の基本「事実を聞く」
面接の基本中の基本は、「事実」にフォーカスすることです。候補者が面接で話す言葉は大きく分けると「事実」(候補者がやってきたこと≒過去のエピソード)と「意見」(候補者が思っていること≒就職志向や自己認知)に分かれますが、ややもすると後者に寄りがちなところを(人は「意見」を言いたがるものですので)、ちゃんと「事実」に集中して情報収拾を行うということです。そうすることで、類似性効果(自分に似ている人を高く評価する)や確証バイアス(ステレオタイプ、先入観で人を評価する)等々の心理バイアスを避けることで評価精度を高めようとするわけです。
「事実」:「意見」=8:2
もちろん、就職志向や自己認知なども聞いてはいけないということではありません。準備もしているでしょうから、ぜひ聞いてあげてください。ただし、あくまで「事実」を聞くことを阻害しない範囲でということで、ボリューム的には2割程度に抑えなくてはいけません。また、アイスブレーク代わりに面接の冒頭に「あなたの強みと弱みを教えてください」「あなたの会社選びの基準を教えてください」といきなり聞くよりも、事実、すなわち過去のエピソードをきちんと聞いて、候補者に対する「人物仮説」(この人はこんな人ではないか、という仮説)ができてから聞くことをお勧めします。
様々な面接手法はほぼ同じ思想
このような事実にフォーカスして候補者を評価しようとする面接手法は、BEI(=Behavioral Event Interview)/行動面接手法などと呼ばれ、国連など世界中で用いられている基本手法です。そろそろ常識になってきました。コンピテンシー面接、エビデンスベーストインタビュー、なども定義次第ではありますが、ほぼ同じ思想です。コンサルティング会社のケース面接(それも効果を否定する超有名グローバル企業もありましたが)などを除けば、多くの会社で同じ手法を取ろうとしているということです(ただし、実際にできている会社は多くありません)。
「事実」にフォーカスした面接の基本
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どの時期のエピソードを聞くのか
多くの面接担当者は、いわゆる「ガクチカ」(学生時代に力を入れたこと)を聞くと思います。直近の行動が一番今の候補者を表していると思うので問題はもちろんありません。ただし、新卒採用の場合、中途採用と比べて直近の実績はたいしたものではないことが多く、人となりをそれだけで推定するのは少々情報不足です。このため、お勧めは、中高生時代のことまで情報収拾の範囲を広げることです。アイデンティティは思春期(中高生時代)の発達課題です。学生自身に「あなたの人格を形成した時期はいつですか」と聞いても中高生時代がよく出てきます。「中高時代にこんな経験をしたので、こんな能力や性格になり、それが大学時代にこんな場面で発揮されこんな成果が出た」というのが、最終的に聞きたい話の骨子です。
どんなエピソードがわかりやすいか
面接で話す内容を学生にフリーハンドで任せていると、面接担当者側にとってわかりにくい、もしくは情報の足りないエピソードが出てくることが多いため、面接担当者が「こんな話はない?」とある程度方向を特定してエピソードを選んでもらうことをお勧めします。ポイントは、以下の4つです。
①「短期より長期」(短すぎる期間で発揮できた能力は再現性があるかわからない)
②「好きなことより義務」(好きなことを頑張るのは当たり前、与えられたミッションをいかに意味付けして楽しむ力があるかが重要)
③「結果より苦労」(何々を何倍にした話を学生はよくしますが、そんな結果の微差よりも、その結果を出すのにどんな苦労、障壁、想定外のトラブルがあり、それをどう乗り越えたかが重要です。人はピンチの時にこそ、全力を出します)
④「一人よりチーム」(仕事はほとんどチームプレイです。それに必要な能力があるかどうかはチームプレイの話を聞くしかありません)
しつこく具体化することが重要
面接担当者としてアサインされている人は、日頃コミュニケーション能力が高いとされている人が多いことでしょう。しかし、日本でコミュニケーション能力が高い人は、面接が下手なことが多い。それは、日本人は「あうんの呼吸」「打てば響く」「一を聞いて十を知る」「空気を読む」と相手が言っていないことを察することを好むからです。面接ではそれはご法度です。面接では日頃のモードを変えて、相手が言うまでしつこく情報を引き出すことが必要です。学生は基本ぼかします。曖昧に話します。それを「具体的には?」と何度か繰り返して、事実が固定化されて相手の話がイメージできるまで突っ込んで質問をすることがとても重要です。そうしなければ難易度がわからず評価もできなくなるからです。
最後に評価をどうするか
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違うのは「そういう人を採るのか」という採用基準
BEIをきちんと行えば、人をアセスメント(見立て)する材料は揃います。「こんな場面でこういう思考や行動をしてきたのであれば、こんな人なのだろう」と、候補者の性格や能力、思考といった「人となり」を想像するのがアセスメントです。この段階では、まだ価値判断は必要なく、アセスメントは「評価」ではありません。単に「どういう人か」ということだけです。面接もここまでは会社によって極端に言えばほとんど変わりません。しかし、そういう風に「見立てた」人が自社の採用基準に合っているのかどうか、つまりこれが「評価」になるのですが、ここからが会社毎にいろいろ違ってきます。
採用基準は所与のものではあるが…
採用基準は基本的には会社毎に決まっているものであり、個々の面接担当者が勝手に決めてよいものではありません。しかしながら、結局は個々人でいろいろ考えて、確認したり判断したりしなくてはならないことは実はたくさんあります。
言葉の定義の確認
まずは採用基準で使われている言葉の定義です。残念な話ではあるのですが、多くの会社の採用基準は”Big Word”、すなわち多義的で曖昧な言葉が使われています。「コミュニケーション能力」「地頭」「ストレス耐性」「主体性」「意欲」などが代表的なものです。これらの言葉は人によって第一想起の意味が違います。そのままでは、会社が望む人材を的確に評価できない可能性がありますので、そのような言葉があれば、定義を確認したり、関係者に質問したりしましょう。
MUSTとWANT
次に確認すべきは、採用基準の中で、必ず持っていなければならない要素(MUST)と、できればあった方がいい要素(WANT)の確認です。この「売り手市場」においては、MUST要件は少なければ少ない方が対象が広がり、良い人材が結局は採用できます。入社後に育成などで獲得しにくい先天的でベーシックな能力や性格はMUSTにして、そうでないものはWANTにするのが基本です。例えば、行動パターンはある程度入社後修正できますが、情緒的な傾向はなかなか変わりません。また、数学的な能力はなかなか大人になると飛躍的な改善ができないとも言われています。
一人にすべて求めるのか
また、すべての採用基準が一人の人の中になくてはいけないのかどうかということもチェックすべきポイントです。例えば、当社の採用基準は、「継続力」「挑戦心」「正確性」「好奇心」です、というような場合、どうでしょうか。「継続力」と「正確性」、「挑戦心」と「好奇心」は両立しやすい組み合わせでしょうが、一つのことを継続しようとする姿勢と、新しいことにどんどん突き進んでいこうとする「好奇心」はなかなか両立しにくそうです。つまり、この4つの基準は「一人」に求めるものではなく、実は2つの種類の人材イメージが交ざっていることがわかります。なんでもかんでも一人に求めると、「そんな人間はほとんどいない」といういわゆる「神様スペック」を追い求めることになります。いつまで探しても見つからない人を探すはめになってしまいますのでご注意ください。
以上、面接直前の振り返りをしてみました。ご参考になりましたら幸いです。
- 曽和 利光(そわ・としみつ)
- 1995年(株)リクルートに新卒入社
、人事部配属。
以降、一貫して人事関連業務に従事。採用・教育・組織開発などの人事実務や、クライアント企業への組織人事コンサルティングを担当。リクルート退社後、インターネット生保、不動産デベロッパーの2社の人事部門責任者を経て、2011年10月、(株)人材研究所を設立。現在は、人事や採用に関するコンサルティングとアウトソーシングの事業を展開中。
「採用活動の教科書・応用編」
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