小宮 健実(こみや・たけみ)
2014/10/07
イントロダクション
皆さん、こんにちは。採用・育成コンサルタントの小宮健実です。
今回は、「面接で志望理由は聞くべきか、それとも聞かなくてよいか」 ということをテーマに、お話していこうと思います。
世間では一般的に、「志望理由は面接の質問の定番」という認識だと思います。
応募者も面接に臨む際に、必ず聞かれるであろう質問として、入念に回答の準備をしていると思います。
あらためてお聞きしますが、みなさんは現在、面接の場で応募者に志望理由を質問していますか?
「同じ会社でこれから働こうとする応募者に、なぜこの会社、この仕事を選んだのか、その想いを聞く事はとても重要だ」 という方も当然たくさんいらっしゃると思います。
一方で、 「学生が面接以前に得られる企業情報には限りがあり、志望理由は聞いてもあまり意味がない。」 という声も聞きます。
今回、なぜあらためて志望理由についてお話しようと思ったかといいますと、私は2016年卒採用では、志望理由に関する取扱いが、採用活動の成否に大きく影響すると考えているからです。
私自身、昨年と今年では、志望理由に関する考え方が変化しています。
先ほど紹介した志望理由に対する2つの捉え方はどちらも正しいと思いますが、どちらの考えを持つ方であっても知っていただきたいことを、次章からお話していきたいと思います。
志望理由で人材の評価は可能か?
まず、「志望理由」について整理するために、ひとつの客観的な考え方を示したいと思います。
それは、志望理由は人材評価に必ずしも適していない、という事実です。
言い方を変えるならば、志望理由が整っていれば、その人材に入社後の活躍を期待してもよいかというと、答えは、「分からない」 ということです。
つまり、面接における志望理由の回答は、本人の持つ能力と必ずしも相関していないのです。
よい志望理由と考えられる回答は、基本的に理屈が通っている、つまり論理的であることが求められますが、ある程度の論理性を備えてしまうと、どの志望理由が望ましいのかということを比較することは難しいといえます。
また、事前に回答が準備できるので、本当に本人の考えなのか、借りてきた言葉なのか判断することができません。
その結果、志望理由に重きを置きすぎると、自社にとって望ましい人材かどうかに関係なく、場合によっては、自社には合わない応募者が高い評価をとってしまう可能性があります。
逆に自社にとって望ましい応募者が、不合格になる可能性もあります。
「社員と会って話したら考え方に共感し、一緒に働きたいと思った」 という志望理由に対して、「では実際に何人の社員と会いましたか?」 と聞き返し、2人と答えた応募者に対して、「うちの社員は1000人もいるんだよ。それで本当に理解しているといえるのかな?」 と、やり込めてしまったという話を聞いたことがあります。
これは、「自社にとって望ましい人材かどうか」とは別の観点で応募者を評価してしまったケースだといえます。
志望理由を念入りに固めてこなかったのは、応募者にも落ち度があるかもしれません。
しかしながら、応募者からすれば、真正直に志望理由のお手本の回答を選択したに過ぎないかもしれません。
学生時代の取り組みなど、本来PRしたかった点を伝えきれず、まったく異なった落とし穴に落ちてしまったように感じると思います。
このように、「志望理由」 は人材評価の質を意図せず低下させてしまうことがあると考えています。
さらにいえば、志望理由は、一次面接など選考の初期段階で確認されることが多いために、二次面接に自社にとって望ましくない応募者が残ってしまう一方で、自社にとって望ましい応募者をすでに不合格扱いにしてしまっているといったような、致命的な現象が起こっていることもありました。
実際に、「評価に使わないので、志望理由は聞いていない」 という企業も、ここ数年増えた印象があります。
では本当に、志望理由は聞く意味がないのでしょうか?
それでも志望理由が必要な理由
もう 「志望理由」 は聞く意味がないのでしょうか?
その問いに対する私の意見は、 「16年卒採用こそ、志望理由を大切に扱いましょう」 というものです。
志望理由が整っていることの最大の効用は、「自分はこの会社に入社してよいのか」 という、気持ちの整理になることです。
売り手市場に戻っている今の採用市場において、自社にとって望ましい人材を確保する難易度は以前に増して高くなっています。
そういった環境下において、応募者が 「自分はこの会社に入社してよいのか」 という問いについてしっかりと考えを固めることは、自社への惹きつけとなり、とても重要な観点です。
問題は、現状における応募者の「志望理由」の作成レベルが、 「本当の志望理由」 ではなく、 「就職活動用の志望理由」 であることなのです。
「本当の志望理由」 の、「本当」 という言葉の意味は、受かるための志望理由ではなく、本当にこの企業でいいのだと自分を腹落ちさせられる志望理由になっているか ということです。
志望理由には論理性が必要だと先ほど述べましたが、自分の主張に対して妥当な根拠があるかといった観点だけでなく、根拠そのものの質の高さも大切になります。具体的な事例も必要になります。
正直なところ、それらを応募者が独力で完成させるのは簡単ではありません。
しかしながら、応募者がすべてを自力で考え出す必要はなく、面接者が、志望理由の作成を支援してもよいのです。大切なことは、最終的に応募者が、質が高くかつ強固な志望理由を手に入れることだからです。
もう少し具体的にいうと、その企業の社員である面接者が、自社にとって望ましい応募者に対しては、応募者のやりたい事や大切にしたい事に対してそれがどのように実現できるのか、具体的なエピソードを交えて話すことが効果的です。
応募者の志望理由はあっという間に質の高いものに変貌するかもしれません。
さて、今回は応募者の志望理由の取り扱いについて述べてきました。
16年卒採用では、ぜひ応募者の志望理由をうまく取り込んで、惹きつけ施策として実践していただければと思います。
このコラムが、その参考になれば幸いです。
- 小宮 健実(こみや・たけみ)
- 1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
「動機付ける」
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