「16年卒採用に向け、現場の声を上手にきく方法」―今後の大きな変化の波に備えるために、今、しておくべきこととは―

今回は、私がこのタイミングに行った方がよいのではないかと思っている「現場の声をきく」ことについて、書きたいと思います。「何」を「どのように」きくとうまくいくのか。きいてはいけないこととは何か。タイミングと内容、意見の取り入れ方に、ちょっとした「コツ」があるのです。

イントロダクション


皆さん、こんにちは。採用・育成コンサルタントの小宮健実です。

この時期、採用担当者の方たちとの話題は、選考の第2次、内定者フォロー、インターンシップなどが多いようです。

今回は私がこのタイミングに是非、行ったらよいのではないかと思っていることについて書きたいと思います。

それは、このタイミングで現場の声をきくことです。

面接者との会話という形で、今年の応募者について感想をきいているという方も多いと思います。しかし今後の採用活動に適切に取り入れるには、簡単に感想をきく程度では不十分だと思います。

実は採用活動において、多くの方が課題として挙げつつ、あまりスマートに解決されていないと感じることのひとつに「現場の声を適切に取り入れること」があります。

現場の声を上手にきくには、そのタイミングと内容、意見の取り入れ方にコツがあります。そのコツをうまく生かさないと、現場から反感を買ったり、苦言を呈されたり、思いがけずやっかいな宿題を負ってしまったりすることになります。

では次の章から、現場の声をきくとは、「何」を「どのように」きくとうまくいくのか。逆にきくべきではないこととは何か、説明をしていきたいと思います。

現場に「何」を「どのように」きくか?

なぜ、このタイミングで現場に意見をきくことが適切なのでしょうか。

人材のこと、特に採用に関することは経営の重要事項でもあるので、一年を通じて話題に上がります。しかしながら、実際に現場に採用活動に携わってもらった直後のこの時期が、最もホットで具体的な意見をきくことができるタイミングです。

また現場では4月から新入社員を迎え3カ月が経とうとしており、その面からも採用活動に意見がしやすい条件が整っています。

そして特に、面接者として実際に応募者に接触してもらった社員には、そのお礼などとともに意見をきくことが可能でしょう。

では現場の意見をきくとは、具体的に「何」を「どのように」きくべきでしょうか。

きくべき筆頭の情報は、「求める人材像」と「評価項目」に通じる情報です。

「求める人材像」は、マネジメントが考える理想から演繹的に考えるアプローチと、現場で実際に活躍している人材像から帰納的に考えるアプローチがあります。それらを人事が適切に統合することで、採用活動の質を向上させることができます。この場は後者の情報を収集するための機会だといえます。

具体的に、「求める人材像」と「評価項目」に通じる情報のきき出し方について紹介したいと思います。
例えば、下に示す(経済産業省が提唱した)社会人基礎力の表などを共通言語としてきき出す方法があります。




ここには「行動特性」という観点で、採用時の求める人材像や評価項目につながり得る能力要素が示されています。例えば話をきく際に、「この中で入社時の時点で社員に持っていてほしいものは何か?」という質問の仕方をします。

これらの項目については、入社後に育成すればよいものという見方をすることもできます。行動の質は入社後も向上させることができるものだからです。入社時に持っていてほしいものとは分けて、「入社後に獲得(育成)すべきものはどれか?」と併せてきくのもよいと思います。

社会人基礎力など、共通言語となり得るものをあらかじめ示して話をきくことで、得る情報が拡散し過ぎて手に負えなくなることを防ぐことができます。もちろん、ここにないもので伝えたいものがあれば、別途伝えてもらえばよいと思います。

また、社会人基礎力のような、入社時に持っていてほしい「行動特性」とは別の質問として、持っていてほしい「知識」や「スキル」、「特性」、「価値観」、「興味」についても同様にきくとよいでしょう(ただし特性、価値観、興味については意図的に変容させることは難しいので、入社後に育成……という観点での質問としては適切ではありません)。

なぜ別の質問としてきくかというと、その方が情報収集後の整理がしやすいからです。

上記の社会人基礎力にあるような「行動特性」を新たに追加することになれば、それは面接において「大学時代に取り組んだこと」などの質問の回答から追加的に評価することになりますが、「知識」や「スキル」で確認すべき情報が追加されれば、それはおそらく直接的なテストを実施して評価を考えていくことになります。

同じように「特性」や「価値観」、「興味」について新たに確認すべきことが増えるのであれば、これらは良し悪しや順位付けをすることが難しい性質であるため、ネガティブチェック(著しく基準から外れる場合にマイナス評価を行う)として実施することになると考えられるからです。

つまり、現場の声をきいた後の料理(現在の選考設計への反映)の仕方が違うため、あらかじめ分けてきくとよいと考えます。

これらの考え方については、他コラムも是非参考にしてみてください。

次に、現場にきくべきではないことについて説明します。

この点を押さえないと、現場の声を積極的にきいたことがかえって裏目に出て、面倒なことになったりするので注意が必要です。

現場にきいてはいけないこととは?

現場に対して、活躍している人材について情報提供を求めるのは、そこに、こちらが持っていない有意義な情報があるからです。

しかし、採用活動というのは誰もが意見を述べやすいため、きき方を上手に統制しないと必要としていない提言や場合によっては苦言も得ることになります。

例えば、求める人材像と評価項目が定まれば、それをテストや面接など数回のプロセスで見極めていくわけですが、その全体デザインは採用担当者が責任を持ってデザインすべきであり、そのためのスキルやナレッジは職責も伴い、社内で最もプロフェッショナルであるべきです。

現場は、「自社もグループディスカッションを取り入れるべきだ」「……に興味がある学生をとるべきだ」「体育会の学生は最近……だ」といった主観的な意見を述べてくることがあります。これらに不用意に耳を傾けてしまったがために、その対応について説明が必要になるということが発生することもあります。(表現が乱暴ですが)。

これらのノイズを防ぐためには、最初に協力を仰いだ際に、ききたいのは「活躍している人材がどのような人材か(であって採用手法に対する私見がききたいのではない)」であることを適切に示しておく必要があります。

私の経験では、適切に示したつもりでもノイズは入ってくるものです。ただそれらも、もちろん、回答者が自社を思って伝えてくる意見であり、無駄ではありません。その中に、実際に有意義な情報があるかもしれないことも事実です。最終的な情報整理が終わった際には、得た情報がどのように次回に生かされるのかを説明し、「また併せて……な情報も提供されたので今後の参考にさせていただきます」といった旨の報告と謝意を返すとよいでしょう。


すべては、より質の高い採用活動のために

今年は16年卒採用に向け、変則的なスケジュールが発生する年です。これからインターンシップや採用広報を通じた戦略について、今までにない新たな局面が発生してくることでしょう。

このような変化の年に最も大切なことは何でしょうか。それは採用の軸がしっかりしていることです。

採用活動の軸がぶれていたり、その軸としているものの質が低かったりすると、激しい変化に採用活動が揺さぶられ、小さくない打撃を受けることになります。

軸の中心には、自社の求める人材に関する適切な理解と、その理解が具現化される採用設計があります。特に、人材の見極めに使用する評価項目の設定などは、この時期にしっかりと整えておくことが今後の活動の安定につながるはずです。
今回のコラムも、そういったアクションのヒントに少しでもなれば幸いです。

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小宮 健実(こみや・たけみ)
小宮 健実(こみや・たけみ)
1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。

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