2014/08/05

採用担当者としての学生との向き合い方―採用担当者が直面する悩みや葛藤について考える―

辻 太一朗(つじ・たいちろう)
(株)リクルート人事部を経て、1999年(株)アイジャストを設立。
2006年(株)リンクアンドモチベーションと資本統合、同社取締役に就任。
2010年(株)グロウス アイ設立、大学教育と企業の人材採用の連携支援を手掛ける。
また同年に(株)大学成績センター、翌11年にはNPO法人DSS (大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる会) を設立。
採用に関わる多くのステークホルダーを理解しつつ、採用・就職の"次の一手"を具体的に示すことに強みを持つ。

イントロダクション

こんにちは。採用ナビゲーター・辻太一朗です。

今回は、「内定辞退」について考えてみたいと思います。内定辞退を抑制するための施策も、もちろんあるのですが、コラムの趣旨から外れてしまいますので、今回は扱いません。

この時期は内定出しも落ち着きはじめ、辞退者への対応や、追加採用の業務に追われている企業も多いのではないでしょうか。人事担当者にとって、内定辞退はとてもつらい体験です。

その内定辞退に対して、担当者はどのように気持ちをコントロールして、日々の業務に向き合っていけばよいのでしょうか。今回も、私のこれまでの体験をお伝えすることによって、この問題を一緒に考えていければと思います。

内定辞退がつらい2つの理由とは

内定辞退がなぜつらいのかを考えてみると、理由は大きく2点あると思います。

1点目は業務に関係する理由です。辞退者の数が多くなれば、もう一度、イチから採用プロセスを踏んで学生を確保しなければいけません。そうなると、業務量も増え、採用担当者全員に、それなりの負担がかかりますし、自らの評価・成績にも響いてきます。

2点目は、感情的な理由です。これまで入社への高い意欲を示していた学生が、ある日突然、手のひらを返すように、内定辞退を申し入れてきたら、「今までの話は全部ウソだったのか!」と憤りを覚えても不思議ではありません。辞退した学生個人の問題だと分かってはいても、学生全体に不信感を抱いてしまうような場合もあるかもしれません。

さらにいえば、内定辞退という状況を招いてしまったことに対して、自分自身の至らなさを感じ、それが精神的なショックとして残ることもあるでしょう。

内定辞退を経験したばかりの当時の私にも、そうした憤りの気持ちがあったことは事実です。ただ、それと同時に、「内定辞退は、果たして学生だけが悪いのだろうか?」ということについても、真剣に悩みました。

学生にとっては、一定数の内定を確保したのちに、その内定先の中から企業を吟味することは当たり前です。企業の内定取り消しとは違い、学生には内定を辞退する権利がありますから、その点は、残念ながら責めることができません。

そして、冷静に考えてみると、企業側も本質的には内定辞退と変わらないことを行ってきたことに気付いたのです。


それでもなお残った「気持ち悪さ」の正体

私が人事を担当していたころ、本来は内定を伝えてもよい学生に対して、「あえて内定通知を遅らせる」ということをしていました。これには、まだ選考の途中だと思わせることで、学生に積極的に会社のことをもっと知る必要があると感じてもらって自社への理解をより深めてもらい、内定後の歩留まりを上げるという意図がありました。

人事コンサルタントとして仕事をするようになってからも、そうした施策を企業に提案したことがありました。

こうした企業側の行為と学生の内定辞退は、自らの利益を優先しているという点において、何ら変わらないといえるでしょう。

こうしたことに気づいたことで、学生に対するネガティブな気持ちはかなり薄れました。しかし、それでもなお、内定辞退者との「別れ方」によっては、自分の中に「納得がいかない、気持ち悪さ」が残るケースがありました。

もっとも「気持ち悪さ」が残ったのは、「辞退を申し入れてきた学生と、その後、一切の連絡が取れなくなってしまう」「学生と連絡が取れても、面談を断られてしまう」など、最後まで辞退の理由を知ることができずに別れることになってしまった場合でした。

「気持ち悪さ」「納得がいかない」という気持ちは、学生の内定辞退に対してではなく、内定辞退者の気持ちを知ることができなかったということから生じていたのです。

それからは、辞退者を減らす努力を継続しつつ、仮に辞退者が出ても自分の中で納得ができるよう、学生との関係構築を進めるようにしました。

内定者とは、「辞退するようなことがあるにしても、お互いになるべく納得できるまで、何度でも会い話し合うことをやめない」ことができるような関係をつくり上げていくことに注力したのです。学生に対して、「どんな結果になろうとも、最後まで話はしていこう」と、選考の途中でストレートに伝えたこともありました。

そして、「彼ら彼女らが、なぜ他社を選択したのか」といったことを、学生の立場に立って考えるように努めました。そうすることで、修正できる点は修正し、それ以降の採用活動に活かすことができるようになったと思っています。

入社に至らなかった学生は、未来のお客様

人事という仕事に携わっていれば、例えば、業務の中で、社員に退職勧奨をしなければならないというようなこともあり得ます。そうした場面でも、「話し合う」ことの重要性は変わらないでしょう。

人事の仕事とは、つねに人間対人間の仕事であり、お互いの意見の違いを認め合い、納得し合っていくことの繰り返しだと思っています。

例えば、このコラムを読んでいるあなたが、内気な性格で、交渉ごとが苦手であっても、真摯に取り組む姿勢は持てるはずですし、そうした姿勢こそが、話し合いの上で最も大切なことです。

単に“しゃべり”の上手い人より、口下手ながらも相手と真摯に向き合う人の方が、内定辞退に揺れる学生の気持ちを掴める可能性は、より大きいのではないでしょうか。

内定辞退した学生を含め、入社に至らなかった全学生は、企業からみれば未来のお客様です。採用プロセスの中で、どのような「別れ方」をしたかは、学生の記憶の中に末永く残るのです。お互いが気持ちよく別れられることは、単に人事担当者個人の納得感を生むだけではなく、企業にとっての利益でもあると思います。

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