「内定辞退を防ぐ、7つのコミュニケーション」―競合に勝つために行うコミュニケーション施策とは―

いよいよ内定を出し始めるようになると、辞退者がどのくらい出るのかという不安が生じてくるもの。積み上げてきた成果が、最後の最後で崩れることは誰でも避けたいことだと思います。今回は、辞退防止の効果があるコミュニケーション施策についてお話しようと思います。

イントロダクション

皆さん、こんにちは。採用・育成コンサルタントの小宮健実です。

 

この時期、いよいよ内定を出し始めると、今度は辞退者がどのくらい出るのかという不安が生じてきます。採用担当者の方が心身を休めるには、まだいくつかの山を越えなければいけないですね。

 

こつこつと積み上げてきた成果の塔が最後の最後で崩れることは喪失感も大きく、採用担当者ならば誰でも避けたいことだと思います。少数厳選型の採用活動を展開している場合には、一人の辞退がもたらす現実的なインパクトも小さくないことでしょう。

 

そこで今回は、内定辞退防止の効果があるコミュニケーション施策についてお話しようと思います。

 

内定者一人ひとりに、これから特に10月までの約半年間、どの企業よりも自社こそが自分の入社すべき会社だという気持ちを維持してもらうための施策です。

 

辞退の話は、「相手の方が、人気があるからしょうがない」 といった、知名度や企業規模など、採用担当者にはどうしようもない理由が多いようにも思えます。
しかし、知名度が高い企業でも辞退者がゼロなところは稀有だと思いますし、知名度が高い企業に内定者が引き抜かれない企業があるのも確かです。
また、内定者の辞退防止施策については、大規模採用よりも少人数採用のほうが手厚い施策ができることもまた事実です。

 

つまり、知名度の高い企業もそうでない企業も、採用人数が多いところもそうでないところも、すべての企業にできることがあると思います。
では、さっそく始めていきましょう。

内定者に行うべき
7つのコミュニケーション施策

内定者とのコミュニケーションを考えた時、 「頻度」 と 「質」 のふたつの観点から考えることができます。
施策のひとつ目では、内定者と会う機会を増やすことを挙げています。
物理的な距離は心の距離感につながるといってもよく、たくさん会うことそれ自体が辞退の抑止になるのです。

そして施策2以降は、コミュニケーションの質を高める施策です。

 

施策1: 接触頻度を最大にする

内定者と頻繁に会うということを、積極的に行っている企業は多くありません。内定期間に一度か二度、といった企業がほとんどです。会うということ自体が手間ですし、多く呼び出すことは学業を妨げるという遠慮もあるのだと思います。

 

ですが私はそれらの理由と、内定を辞退されることの重大さが、釣り合っていないように感じます。 そして、そこにはまだかなり工夫の余地があるように思っています。私は週に一度会話するくらいでも、多いとはまったく感じません。

 

一般的に、内定者に対して社内施設の見学などはよく行われていますが、内定者のためだけの企画では、接触頻度を高めることは難しいでしょう。
そこで、全社の社員向けに企画されているイベントや企画、飲み会なども含め、内定者が参加しても差し支えないものをピックアップし、物理的な接触頻度を可能な限り増やしましょう。呼び出しではなく、よかったら来ませんか? といったフランクな機会をどんどん増やすことが大切です。

 

人事だけでなく、現場の部門からコミュニケーションをとってもらうことも検討できるかと思います。 もちろん、アルバイト契約やインターンシップが可能であれば、それはとても効果的な施策です。

 

実際の接触が難しければ、ネットやメールを最大限活用しましょう。 内定者SNSなどが用意されていても運用は内定者にお任せというケースが多いようですが、ツールは意図を持って使って初めて効果が得られるもの。用意しただけで目的が果たされるということはありません。

 

 

施策2以降は、コミュニケーションの質を高めるための施策を紹介します。
まずは、期待を示すためにトップに会ってもらうことです。

 

施策2: 期待を示す (トップに会う機会をつくる)

予算がない企業でも実現可能で、時間もかからず、かつ効果が高いのがトップに会ってもらうことです。

 

「君が○○君だね、人事から聞いているよ。ぜひ、うちに入社してほしいと思っているのでよろしく頼むよ」 と名前を口にし、握手をしてもらえば、内定者にとって間違いなく大きなインパクトになります。 自分のまわりの学生で、内定後に社長から期待の言葉とともに握手をされた人はまず珍しいからです。

 

大切なことは、内定者に対する漠然とした期待ではなく、個人に対しての期待をきちんと言葉にして、本人に認識してもらうようにすることです。
自分というより、全員に対する単なる儀式だと感じれば感じるほど、期待した効果は得られなくなります。
多人数で一度に会うよりも、1回2,3分でよいので個別か、限りなく少ない人数でセットすることをお薦めします。

 

施策3: 情報を増やす (プロファイリング)

どういう背景で今に至っているのか、どういう希望を持っているのかについてあらためて聞くなど、さらに一人ひとりの内定者について理解を深めることは、関係構築を強固にすることに役立ちます。

 

また、硬軟にかかわらず、いろいろな場で、なぜこの会社を選んだのかについて多くの関係者に繰り返し話すことが、実は内心で自分の意思がしっかり固まっていくということにつながっています。

 

それに対して社員が、自分の場合もこうだったよと、内定者の話に根拠を加えることも、この会社に入社するのは間違っていないという思いを強めることに効果があります。

 

施策4: フィードバックをする

内定者の何かのアウトプットを見る機会があったならば、必ずフィードバックをしてください。

 

内定者は誰もが 「今のままでは仕事は上手にできない。だから成長することが必要だ」 という思いを持っています。 それゆえ社会人からのフィードバックに対して、素直に耳を傾けます。何かとフィードバックを求めてくるのもそういった気持ちの表れです。

自分にとって納得感の高いフィードバックをくれる場所は、自分が成長できる場所、つまり自分にとって適切な進路であるという理解につながります

 

施策5: アドバイスをする

アドバイスは、フィードバックで話したことを実生活の中でどのように達成していくかについてアドバイスする、すなわち大学生活に意識付けをするというのが王道です。

 

社員が自分の体験に照らして話すアドバイスは、内定者の記憶にも強く残ることが多く、入社後に覚えていたりすることも少なくありません。 そしてもちろん内定者に一様に行うのではなく、個別のアドバイスであればあるほど、大きなインパクトを持ちます。

 

施策6: 相談に乗る (メンターになる)

他の施策と絡めて、個別アドバイスができるくらいの関係が構築できていると、逆に内定者からも心を開いた、いろいろな相談をされることがあります。 極端なことをいえば、他社と進路を迷っているという告白すらあるかもしれません。それらに真摯に応えることによって、さらに関係性が強くなります。

 

相談に乗るスタンスで大事なことは、個人の意見と、企業人の意見を適切に使い分けることです。 個人の意見は個人の意見だとしっかりと前置きすることはコンプライアンス上も大切です。
学生はこちらが思っている以上に、仕事上の発言と個人としての発言の区別がついていないため、発言が独り歩きしないように配慮することが必要です。

 

そうしてリスクを抑えるとともに、この人は仕事の域を超えて自分のことを考えてくれているという理解を促すことで、内定者との関係をさらに強めることができます。

 

施策7: 将来の会社像を共有する

内定者には、積極的に会社の将来像を話してください。その際、採用広報で使ってきたような抽象的な言葉ではなく、話している社員がどのように思っているか、個人の視点で語るほうが内定者にとって分かりやすく、心に響くものになるでしょう。

 

明るく希望があり、活気に満ちた将来像を共有することは、 「社会人になったら大変だぞ」 という心構えを伝えるよりも何倍も大切で、高い効果があります。 学生の甘えを指摘するのは、未来を共有し、前をしっかりと向かせてあげてからでも遅くありません。

関係構築のために
心に留めておくこと

関係構築のために心に留めておくこととして、「受容」 「承認」 「共感」があります。

これまでに説明した、7つのどのコミュニケーション施策を実施するときにも、「受容」 「承認」 「共感」を意識するとよいでしょう。

 

おさらいすると、「受容」 とは、内定者の発言がどのようなものであっても、いったん受け止めてあげることをいいます。 そして「承認」 は、その内容を認めてあげること、「共感」 は共感の気持ちを示すことをいいます。自分の意見はその後に。

大事なことは、これらを常にきちんと表に出すことです。

 

  • 「うん、うん、そうですか」+頷き (受容)
  • 「……のようなことをされたんですね」+頷き (承認)
  • 「なるほど」「それは大変でしたね」+頷き+表情 (共感)
  • +その後に自分の意見 「私は個人的に……と思いますよ。頑張ってください」

 

さて、今回は、内定者の辞退防止に役立つ、7つのコミュニケーション施策を紹介してきました。
それぞれの施策を具体的に実現できるような場をたくさん仕掛けて、内定者との距離を常に最小に保ってください。

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小宮 健実(こみや・たけみ)
小宮 健実(こみや・たけみ)
1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。

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