2016/05/11

”説得”ではない内定承諾を目指すために―「納得」してもらう・「待つ」という選択肢を考える―

辻 太一朗(つじ・たいちろう)
(株)リクルート人事部を経て、1999年(株)アイジャストを設立。
2006年(株)リンクアンドモチベーションと資本統合、同社取締役に就任。
2010年(株)グロウス アイ設立、大学教育と企業の人材採用の連携支援を手掛ける。
また同年に(株)大学成績センター、翌11年にはNPO法人DSS (大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる会) を設立。
採用に関わる多くのステークホルダーを理解しつつ、採用・就職の"次の一手"を具体的に示すことに強みを持つ。

イントロダクション

こんにちは。採用ナビゲーターの辻太一朗です。

熊本地震により、採用活動に影響があった企業さまもいらっしゃるかと思います。

一日も早い復興を祈念いたします。

年度の変わり目、そして説明会シーズン真っただ中ということで、都内では新しいスーツを身にまとった新入社員や学生を多く見掛けるようになりました。

多くの企業が選考を開始する6月頃になると、皆さんは内定者に対して承諾してもらうため、学生に対し内定承諾してもらうために、内定者を 「説得」 する機会が多くなるかと思います。かくいう私自身もリクルート入社当初は、採用担当者として「内定承諾へ向けた説得」が大きな仕事の一つでした。

しかし当時を振り返ってみると、なんとか内定承諾を得ようと努力はしていたものの、なかなか思い通りにならずに苦戦した記憶があります。

当時はとにかくがむしゃらで、 「なぜ思い通りにならないのか」 については正直なところあまり深くは考えていませんでしたが、今回は少しでも皆さんの参考となるよう当時を振り返りつつ、 「説得」 という行動について、あらためて考えてみたいと思います。

「説得」が思い通りにならない理由は?

先ほど、採用担当者だった当時の私の記憶として、 「説得は思い通りにならないことが多かった」 とお伝えしました。これについては私個人の問題もさることながら、それ以前に、そもそも 「説得」 という行動自体になにかしらの問題があると考えてみることが必要だと思いました。

 

そこで私なりに、 「説得」 という行動が思い通りの結果を生みづらい理由について考えてみました。

まず、採用担当者に説得されて、学生はその場では入社意欲が高まっても、後で冷静になって冷めてしまうという可能性が挙げられます。説得の最中は採用担当者も熱くなっていますし、学生もある種日常にはない緊張感や高揚感を持つことでしょう。しかしその場は熱くなった分だけ、後々、 「本当にこれでよかったのかな」 と冷静になってしまいやすいのかもしれません。

また、他者に相談し異なる視点が入ることで考えが変わってしまうということもあるでしょう。例えばその相手が両親や友人など、採用担当者よりもずっと自分との関係性が深い存在であれば、どうしてもそちらの意見を受け入れてしまいがちになることも考えられます。

または、そもそも相手から熱く説得されることによって、いわば反射的に 「受け入れたくない」 という気持ちになってしまうということもあるのかもしれません。まだ自分の気持ちが固まりきっていない時に相手から積極的に来られてしまうと、戸惑ってしまうこともあるでしょう。

これらの理由から、その場ではしっかりと説得できたようにみえて採用担当者が満足感を得られたとしても、最終的には内定辞退など思い通りの結果とならない場合が多くなってしまうのではないでしょうか。

さらに、近年は説得をすることによって別の問題が発生する可能性も高まっています。

それは、説得されたことによって、学生がある企業に対して万が一悪印象を持った場合、インターネットを介してその情報が容易に広められてしまうということです。

インターネットの性質上、ネガティブな情報は特に拡散しやすいものです。採用担当者は目の前の学生に対してごく普通な範囲の言動をしたつもりでも、それがなんらかの理由で学生にとってはネガティブなものと捉えられてしまい (こうしたコミュニケーション上の誤解は少なくないものです)、学生がその感想を比較的軽い気持ちでSNSへ投稿するなどしてひとたびインターネット上の情報となり拡散してしまえば、企業イメージに大きな悪影響を及ぼしてしまう可能性があります。

このように、 「説得」 という行為は想像以上に、目に見えない部分でのリスクが大きいのかもしれません。

「説得」と「納得」の違いとは?

では内定承諾を得るために、採用担当者が説得以外でできることは、なにがあるのでしょうか。

一つは、オーソドックスなことですが説得ではなく 「納得」 してもらうことを目指すというものです。

学生が後々冷静になってしまうことを前提とすれば、その場で一方的に熱く説得するのではなく、学生にあくまで主体的な姿勢で 「納得」 してもらうことに注力すべきでしょう。

学生は、その企業が自らの価値観 (仕事内容を重視するのか、企業規模を重視するのか、社風を重視するのかなど) と合致しているかどうかを判断し、その上で他社と比較し、志望するかどうかを決めています。ですから採用担当者の一方的な思いだけで、学生の価値観には合っていないかもしれない観点から自社の強みをアピールしても、学生の胸には響かず、さほど影響は与えられないものです。

だからこそ、学生に納得してもらうための上手なトークが必要なわけです。

とはいえ、納得を生み出す会話をするには採用担当者としてのさまざまなスキルも重要になりますので、まだ経験の浅い方ですと、特に難しいと思われるかもしれませんね。

そこでもう一つの道として、逆をいく、積極的に 「待つ」 という選択があります。

「あえて説得しない」という選択肢も

もちろん、ただ待つのではありません。

「あなたに入社してほしいからこそ待っている」 という企業姿勢を明確に示す意味で  “積極的に待つ”  という表現を用いました。

そもそも、企業は内定を 「出す」 立場・学生は内定を 「もらう」 立場という、対等になりづらい関係性があります。こうした関係性の上では、スケジュール調整ひとつをとっても当然、企業の都合ありきで進めるのでは内定承諾につながりにくくなってしまう可能性があるでしょう。

そこで、自社にとって望ましい学生に対して 「当社としては、あなたの就職活動のスケジュールや考える時間を尊重したいと思っていますので、あなたからご返答をいただけるまでお待ちしています」 といった言葉を明確に伝えてから 「待ち」 の姿勢に入り、もしも学生から 「もっと会社や働き方について知りたい」 といった声が出てきた際には、随時親身に応えていくというスタンスを取ることをおすすめします。

なお、待ちの期間には単になにもせず待つのではなく、週に一度は電話などで連絡を取り合うことも重要です。

ここでも直球で内定承諾を迫るのではなく、まずは学生の心情や考え方にしっかりと共感し、不安や悩みについては相談に乗り応援するといったサポートに徹することで、学生に 「信頼できる採用担当者」 「自分のことをちゃんと見てくれる、分かってくれる、安心できる会社」 などと受け止めてもらえ、学生からの主体的な内定承諾も自ずと近づいてくると思います。 

さらに、こうした 「積極的に待つ」 というスタンスを企業の体質として根付かせることができれば、 「内定者に十分に考える時間をくれる会社」 「一人ひとりをちゃんと尊重してくれる会社」 といったよい印象も持ってもらえることでしょう。

内定承諾に関する問題は、大手・中堅中小企業に関わらず、どの企業にとっても常に尽きない悩みの種かもしれません。 

しかし今回ご紹介したように、学生に対して単に 「説得」 するのではなく 「納得」 してもらう、または「待つ」といった行動によって、結果が変わってくることも大いにあるものです。 

せっかく出会えた、自社にとって魅力的な人材との縁を保ち入社へ導くために、ぜひご参考にしてみていただければと思います。

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