辻 太一朗(つじ・たいちろう)
2015/03/03
イントロダクション
こんにちは。採用ナビゲーターの辻太一朗です。
2016年卒の採用活動がついに幕を開けました。
学生も人生に一度きりの機会にドキドキしていると思いますが、採用担当者の皆さんも、期待と不安が入り混じっているのではないでしょうか。
さて、昨年末のことですが、今年度から採用部門へ異動となったメーカー勤務の方より、以下のようなメッセージをいただきました。
<前略>
「私は以前が現場に非常に近い部署だったこともあり、説明会等では製造業としての現場色を出すことを好意的に捉えています。 しかし、それをチームに提案すると、「学生が引いてしまう」「もっと学生が憧れるような色を出すべき」と、中々同意を得ることができません。 もちろん、私のプレゼン力を始めとした力量不足が最たる要因ではあるのですが、製造業だからこそ現場というものを肯定的に捉えられるのか否かを、しっかり見極めてあげることが、学生の将来を考えた際に良いのではないかと思えてならないのです。 採用担当として会社の利益、並びに学生の人生を考えた場合、どのような判断を下すのが最適なのか、ご意見を頂ければ幸いです。」
<後略>
私も採用担当をしていたころ、先輩から「そんなに現場をみせたら学生は夢を持てないだろ」といわれたことがありました。
また、今の立場となってこうした悩みを相談されることも少なくありません。
そこで今回は、このような悩みを読者の皆さんもお持ちなのではないかと思い、私自身の考えを記してみたいと思います。
現場社員や学生に突きつけられた「現実」
私はリクルートに新卒入社しすぐに採用担当となりましたので、ご相談をいただいた方とは少々経歴は異なります。
現場を一度も経験していなかったためか、現場の社員からの
「採用の人間は学生によいことばかりいって誤解させている」
という採用部門に対する批判が余計に身に染みたことを覚えています。
一方で学生からは
「就職活動の際にお会いしたような尊敬できる先輩って、意外と社内に少ないんですね」
という、あまりに悲しい言葉を突きつけられたこともありました。
学生は就職活動中、様々な会社を訪ねて優秀な社員ばかりと接するので、時にこうした本音が出てきてしまうのです。
私自身、リクルートの現場について入社前から詳しく知っていたかと問われれば、決してそんなことはありません。
とはいえ、採用の仕事に就き、その後現場も経験しましたが、後悔するようなこともありませんでした。
ただ、「もし学生の頃から現場を詳しく知っていたとしたら、それでも入社したいと思っただろうか?」と考えたことがあったのは確かです。
リクルートには、学生のうちからアルバイトで入社し、そのまま正社員となった人もいました。
逆に、そんな彼ら彼女らから現場の話を聞いたことで、内定を辞退した学生もいました。
入社2、3年目だった当時は現場を知っておくべきか否か、どちらともいい切れず、はっきりとした考えはありませんでした。
人材確保だけが採用の仕事ではない
私はその後他部門へ異動となり、10年目ぐらいで再び採用部門に戻ってきました。
その後再び同じ課題に直面することになりましたが、当時私なりに考えたことは、「採用という仕事の目的をどうとらえたらいいのか」ということでした。
そして最終的に、このようにとらえたのです。
「私たちの仕事は、会社にとって有益な人材を必要数確保すること」
さらに、
「私たちの伝え方のミスによって社員が活躍できなかった、すぐに退職してしまった場合には、マイナスの成果としてとらえるべき」
つまり、「人数確保」と「入社後の一定期間の活躍」という2つが、採用担当者の役割であるということです。
夢や希望を語って優秀な学生を大勢入社させることができたとしても、彼ら彼女らがすぐに退職してしまっては、採用担当者として仕事を果たしたことにはなりません。
また、現場の現実を伝えることしかせずに学生を思うように集めることができなかったとしたら、それも同様です。
「現実を伝える」事と「夢や希望を伝える」事は相反する場合もありますが、必ずしも相容れないものでもないと思います。
現場の社員が日々どのような業務に取り組んでいるか。そして現場からどんな夢や希望が醸成されているのか。
さらにいえば、夢や希望があるから現場での辛いことに耐えられる。現場での辛いできごとを乗り越えたからより希望が生まれる。
このような、「現場と希望のつながり」を学生にいかに伝えるかが、採用担当者にとって最も重要なのではないかと思います。
「現場」と「希望」はつながっている
「現場」「現実」と、「希望」「夢」。
それらを同時に語ることで、学生に期待感を与えて入社へと導く。
言葉にすると簡単ですが、実際に行うとなると、これは非常に難しいですよね。
採用の現場でご苦労されている皆さんからは、「理想論だろ」と思われるかもしれません。
正直に申し上げますと私自身も、これを実現するための明確な答えを持ち合わせているわけではありません。
ただ、「誰に」「どんなことを」「どのタイミングで」「どのように伝えるか」というように分けて考えていくことが重要なのではないかと考えています。
いくつか例えを挙げてみましょう。
まず、「誰に」を考えると、基本的には「説明会に参加してくれた学生」でしょう。
しかし説明会のような場で「現場」と「希望」について説いたところで、なかなか響かないものです。
学生は多様であるからこそ、個別の面談等で学生一人ひとりに伝えていくべきこともあるはずです。
次に、「どんなことを」についてです。
面談によって、「この学生はウチの会社に理想ばかり抱いていて、現実をあまりみていないな」と感じた学生に対しては、現場の厳しさを率直に伝えなければなりません。
同時に、「厳しい中でも現場のモチベーションが維持されているのは、あなたが弊社に対して感じてくれているような理想が現場にも根づいているからこそなのです」とも伝えるべきでしょう。
反対に、「この学生はネガティブすぎるぐらい現実的だな」と感じた学生には、自社が目指している理想を多少オーバーにでも語ることが必要でしょう。
同時に、「確かに現場というものは、あなたが感じているように厳しい面があるのも事実ですが、現場の人間は会社の歯車として働いているのでは決して無く、会社の理想や個人としての目標に近づくために働いているのです」と伝えたほうがよいかもしれません。
「どのタイミングで」については、内定前に伝える必要があるのか、内定してから入社までの間に伝えた方がよいのか、あるいは入社後に理解させる方がよいのかを、慎重に判断しましょう。
「どのように」については、誰から伝えるのか、研修で理解させる方がよいのか、など様々な伝え方があります。
結局のところ、学生に現場や仕事を適切に伝えるには、全方位的に「現場」「現実」と「希望」「夢」を語るのではなく、その学生に最も適した伝え方をしていくことが重要なのです。
そのためには、今挙げたように各項目を絞り込んで考え、伝えていくことが有効だと思います。
こうした取り組みは、個人の創意工夫だけで可能なことです。
会社や採用部門の方針に反旗を翻す行為でも無いと思いますので、ぜひ試していただきたいと思います。
- 辻 太一朗(つじ・たいちろう)
- (株)リクルート人事部を経て、1999年(株)アイジャストを設立。
2006年(株)リンクアンドモチベーションと資本統合、同社取締役に就任。
2010年(株)グロウス アイ設立、大学教育と企業の人材採用の連携支援を手掛ける。
また同年に(株)大学成績センター、翌11年にはNPO法人DSS (大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる会) を設立。
採用に関わる多くのステークホルダーを理解しつつ、採用・就職の"次の一手"を具体的に示すことに強みを持つ。
「内定者フォロー」
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