採用担当者自身が大勢の学生をフォローする方法―採用活動の教科書・応用編―

学生の個別フォローは、人事担当者の悩みどころ。今回のコラムでは、採用担当者が大勢の学生をフォローする方法「ピア・フォロー」についてご紹介。学生同士が相互コミュニケーションを図る中で、自社への就職意向度を高められるアプローチ方法です。

イントロダクション

こんにちは。組織人事コンサルタントの曽和利光です。

今回は、採用担当者が大勢の学生をフォローする方法「ピア・フォロー」について、お話ししたいと思います。「ピア(peer)」とは「仲間」の意味で、学生どうしでお互いにフォローし合うやり方です。

せっかくエントリーをたくさん集めて、パワーをかけて選考を行い望ましい学生たちを発見しても、その後工程としてのフォローが適切でなければ、すべての努力は水の泡です。

望ましい人材を見つけても、入社してくれなければ何の意味もありません。しかし、一人の採用担当者が学生に向き合って、個別にフォローをしていくには限界があります。よほど「スーパー」な担当者でもない限り、2ケタ以上の学生を渾身の力でフォローしていくのは、かなり難易度が高いと思います。

そこで効果的な方法が、「学生どうしでお互いにフォローしてもらう」こと。採用担当者が直接フォローできる「ピア・フォロー」です。何らかのイベントで学生に一堂に会してもらい、相互コミュニケーションを図る中で、自社に対する就職意向度が高まってくれる。そんなアプローチです。

最初のうちは、企業採用側と応募学生側には、真の信頼関係はありません。採用担当者の言葉はときとして、学生からは「ポジション・トーク」(自分を動機づけるために、あることないこと、とってつけたように話している)と取られてしまうことがあります。

ところが、学生間でのコミュニケーションには、利害関係がない分、そういうことは少なく、変に疑心暗鬼を持つことなく、採用側が伝えたいことをスッと受け止めてもらえたりするのです。


ピア・フォローの具体的なやり方

次に、ピア・フォローの具体的なやり方について説明します。

まず大事なのは、いきなり大規模イベントからはじめるような「ぶっつけ本番」的なことをやらないということです。効率だけを考えると、大勢を一気にフォローするために、できるだけ大規模なイベントを実施したいのが心情だと思います。しかし、そこをこらえて、ピア・フォローは、小規模なものから徐々に大規模なものに進めていくことが重要です。

以前、私が関係した採用で、あまりよく考えずに一気に学生を集めてフォローイベントを行った際、一部の自社の人材要件に合致している層が意に反して辞退してしまったことがありました。彼ら曰く「同期の質があまり高くなかった」「あんな変な人がいるようなこの会社でうまくやっていける自信がありません」とのことでした。大規模イベントでは、なかなか「誰と誰が出会うか」をうまくコントロールすることができないため、相性の悪い人どうしが出会うことも多く、上記のような結果が起こるのです。

こういうことを避けるためには、小さな集団での知り合いづくりからはじめることです。まず、できるだけ似たような背景(属性・特性・志向など)を持った「似た」学生たち(内定者や選考途中のフォロー者)を数名ずつグルーピングします。そして、そのグループごとに懇親会などを行うのです。「質問会」とか「小規模説明会」とか、何でも構いません。

そこで、お互いの「自己紹介」をしてもらいます。もともと「似ている背景」でマッチングしているわけですので、彼らは「自分と似ている人がいる」と思うはずです。そのうえで、「志望動機」を共有してもらうと、「自分と似た人が、これこれこういう理由で、この会社に入ろうと思っている」「それならば、自分もやっぱりこの会社が合っているのかなぁ」と思ってくれるわけです。自社に対する入社意向度の高い「ファン」が、各グループにできるだけ存在するようにグルーピングすることも効果的です。自社のファンの学生は、放っておいても熱く自社への志望動機を語ってくれるからです。

このような小規模の会をたくさんこなすことで、学生の中で仲のよい集団がたくさんできてきます。そうしてから、ようやく大規模イベントを実施します。仲のよい小集団ができていれば、大規模イベントを行っても、まず学生は、既知の集団の仲間内で固まるため、採用担当者は場のマネジメントがしやすくなります。相性の悪い人どうしが、いきなり会ってしまう確率も低くなります。そのうえで、採用担当者は、各小集団どうしをつないでくれるネットワークの「ハブ」(つなぎ目)になってくれるようなバランス型の学生どうしを、イベントの場でリアルタイムにつないでいくのです。

大規模イベントでの採用担当者は、まるでお見合いの仲人のように、忙しく人と人をつないでいく役割を担います。そうすることで、それまではただの集団であった「内定者」「○次面接合格者」が、有機的にそれぞれつながります。しかも、「自分と似ている人も志望している」という安心感と、「自分とは違う面白い人もいる」という刺激の両方を感じることもできるのです。

そのようにしてできたネットワークを通じて、自社に対する情報が口コミで流通することで、採用担当者が直接、手をかけなくても、自社への入社意向が徐々に高まっていくような「体制」ができあがるのです。


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インターンシップやビジネスプランコンテストなどのグループワークをともなうイベントなどでも、この「ピア・フォロー」の考え方は常に適用することができます。

 

「同期ネットワーク」は入社後のセーフティネットなどになり得る

このように、「ピア・フォロー」は直接動機づけていたのでは素直に聞いてもらえないような情報をインプットすることに大変役立つ方法ですが、実は、それに加えて、その後の「定着」など、さまざまなことにも役立ちます。

企業が新卒採用を行う理由にはさまざまなものがありますが、その一つに「同期ネットワーク」の存在があります。新卒文化の強い会社の多くには、フォーマルな組織とは異なる「同期」を中心としたインフォーマルなネットワークが存在し、さまざまな機能を発揮します。

例えば、会社というものは放っておくとどうしても「縦割り」になり、組織間の情報流通が妨げられます。そのため、もし共有されていればシナジーが生じたような顧客・マーケットの情報や、技術革新などのネタがあっても、日の目をみることなく死蔵されてしまいます。

しかし、「同期」のネットワークが活性化している会社では、フォーマルな組織間横断組織をつくらなくても、自然と「うちの会社のどこそこでは、こんなことが行われている」という情報共有がなされ、結果、新商品開発や新規戦略などにつながることもあります。

また、事業上のみならず、組織上のメリットもあります。新人は、「五月病」のように、入社直後のリアリティショックによってダウンしてしまい、結果、退職につながるような危険性をはらんだ存在です。それに対して、現場マネジャーや人事担当は、もちろんフォローを行うと思うのですが、「同期」という存在も強いセーフティネットになります。評価などの利害関係がある上司や人事には話すことができないことでも、似たような立場に置かれており、利害関係のほとんどない同期の間では、比較的容易に相談できるわけです。

このように「同期ネットワーク」は、採用上の効果のみならず、長く自社の競争力を高めるためのサポート(インフォーマル)組織になってくれます。未来の強固な組織をつくる第一歩として、採用時の「ピア・フォロー」を積極的に活用されることをお勧めします。

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曽和 利光(そわ・としみつ)
曽和 利光(そわ・としみつ)
1995年(株)リクルートに新卒入社 、人事部配属。
以降、一貫して人事関連業務に従事。採用・教育・組織開発などの人事実務や、クライアント企業への組織人事コンサルティングを担当。リクルート退社後、インターネット生保、不動産デベロッパーの2社の人事部門責任者を経て、2011年10月、(株)人材研究所を設立。現在は、人事や採用に関するコンサルティングとアウトソーシングの事業を展開中。

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